溝呂木 陽の水彩カースケッチ帳 連載・第7回 イオタを巡るストーリー

溝呂木 陽の水彩カースケッチ帳/連載・第7回 イオタを巡るストーリー

クルマ大好きイラストレーター・溝呂木 陽(みぞろぎ あきら)さんによる、水彩画をまじえた連載カー・コラムの第7回目は、数々の名車に彩られたイタリア・モデナでの展示会をめぐるアレやコレやのお話のランボルギーニ編、イオタを巡るあれこれをお届けします。
思わず描いてしまった、ガッティさんの工房に置かれていたミウラ イオタ。

前回はフェルッチョ・ランボルギーニ ミュージアムについてお届けしましたが、今回はさらなる出会いについてお話ししましょう。

きっかけはボクのエンツォ フェラーリ ミュージアムのエンジン ミュージアムでの水彩画展示レセプションでのこと。若いイタリア人青年がボクのところへやって来て、「僕も絵を描いているんだ。ぜひ工房へ来てほしい。クルマの整備をしているんだよ」と。そこで、フェルッチョ ランボルギーニ ミュージアム訪問の際にお世話していただいたクリスティーナさんとエリザベッタさんが、その若者、ガッティさんの工房へと連れて行ってくれることになったのです。

車を走らせ、変哲ない外観のファクトリーに到着。中へ入るとガッティさん父子が笑顔で出迎えてくれました。そこに佇んでいたのは、濃紺のフェラーリ デイトナやモンテヴェルディ ハイスピードの横に、整備の最終工程に入った、馬に載った状態の濃紺のランボルギーニ ミウラ イオタでした。

工房に置かれていたフェラーリ 365GTB デイトナ。

ここ、ガッティさんの工房は、スーパーカーの電装品を得意とするスペシャルショップで、棚の中にはさまざまなメーターや電気関係の部品がずらり。ハイクラスのクルマのレストアでは、このようなショップが大事にされているそうです。

ミウラ イオタは、ランボルギーニの本社の手によってミウラからイオタ風の外観へコンバートされた車両で、全身のリベットやエッジを強調されて張り出した、ややお尻がピンと尖ったリヤフェンダー、彫り込まれたライトシェル、フロントサイドのエアアウトレットなど、特徴的なディテールが散りばめられています。

工房の床はピカピカで、ゴミは一つも落ちていません。あるべきものはあるべき場所へきちっと整理され、折り目正しいガッティさんの人柄そのものを思わせます。

「お客様のクルマだから、このミウラ イオタの写真は、今はアップしないでね」と言われたため、帰国後に絵を描いてみることにしました。

当時は公開厳禁とされたミウラ イオタ。
スイスのモンテヴェルディが作ったハイスピード375/4。かなりのレア車。
ピニンファリーナによるフェラーリ330GTC。275に似るが、これも割とレア車。

工房ではガッティさんが描かれた絵も見せていただきましたが、美しい、きっちりと細部まで描かれたドローイングで、特にブガッティのホイールの繊細さには目を見張りました。

ガッティさんとその作品。繊細に描かれたブガッティのホイールは目を見張らせる。
日々、実車に触れている生活を感じさせるガッティさんの的確なドローイング。
工房で記念撮影。

同行された赤間さんは、イオタJのアルミ製の実物大オブジェを製作するプロジェクトを日本で進められていましたから、この時の出会いには、まさに運命のような驚きを感じました。

クリスティーナさんとエリザベッタさんは、アルミのイオタJの実物大オブジェをイオタ50周年となる2019年にイタリア、サンタアガタで披露し、その際に、この濃紺のミウラ イオタや、イギリスにあるイオタJのクローンも招聘して、大掛かりなイベントとして開催することを提案してくれました。

帰国後、感激冷めやらぬうちにミウラ イオタとガッティさんの工房を描いた絵をフェイスブックのメッセンジャーでガッティさんへ送るととても喜んでいただけ、ご自分のページのカバー写真に使ってもらえたのは、ボクとしても光栄でした。

伝説に彩られたイオタJ。

話が前後して恐縮ですが、イオタJとは、1969年に当時のランボルギーニのチーフテスターであり開発者だったボブ・ウォレス氏の個人的なプロジェクトとして、ミウラの改良を目指した試作車として生まれたものです。事故車のミウラをベースに手を入れ、チューンアップされたエンジンや特別な足まわりを備え、ツギハギでアウトレットが開けられて各部が軽量化され、リベットだらけとなった特異な外観を持つアイコニックなランボルギーニです。

このイオタJは完成からわずか2年後に事故で焼失してしまいましたが、その伝説は生き続け、日本ではスーパーカーブームの時にミウラからコンバートされたイオタSVRとともに紹介されて、当時の子どもたちの心をわしづかみにしたのです。

このイタリア訪問の際には、前回お話ししたように、日本におけるイオタJのアルミ製オブジェの製作ストーリーを『アヒルのジェイ』というタイトルでまとめた絵本をモデナで紹介させていただきましたが、続く2019年にその故郷であるイタリアで、アルミ製イオタと『アヒルのジェイ』が披露できることになったのは、ボクにとって一番の驚きであり喜びでした。そして、その際にわかったのですが、イタリアでは一部の車好きを除き、イオタというクルマの存在はほとんど知られていなかったのです。これはボクにとっては不思議なことであり、驚きでした。

次回はその、日本で叩かれたアルミのイオタについて、お話しすることにしましょう

著者プロフィール

溝呂木 陽 近影

溝呂木 陽

溝呂木 陽 (みぞろぎ あきら)
1967年生まれ。武蔵野美術大学卒。
中学生時代から毎月雑誌投稿、高校生の…