好評連載・トミカ × リアルカー オールカタログ / No.3 動物運搬車

トミカ × リアルカー オールカタログ / No.3 動物運搬車

発売から50年以上、半世紀を超えて支持される国産ダイキャストミニカーのスタンダードである『トミカ』と、自動車メディアとして戦前からの長い歴史を持つ『モーターファン』とのコラボレーションでお届けするトミカと実車の連載オールカタログ。あの『トミカ』の実車はどんなクルマ?
トミカ No.3 動物運搬車(車体・動物取り外し可能/メーカー希望小売価格550円・税込)
日野プロフィア(2代目) セミトラクター 4×2

動物運搬車というクルマは、実は非常に珍しいものになります。一般に動物園などの動物を運搬する場合は、普通の運送トラックやトラクター&トレーラーが用いられ、専用車両が使われることは珍しいからです。むしろ動物たちを運ぶためのコンテナに特別なものが用意されます。

日本で動物を輸送する場合、基本的に環境省が定めた『動物取扱業者が遵守すべき動物の管理方法等の細目』の第五条四項に従う必要があります。これには「輸送設備は、それぞれの動物が自然な姿勢で日常的な動作を容易に行なえる十分な広さ、空間を持つこと」、「必要に応じて空調設備などを備えて動物が快適に過ごせるようにすること」など、細かな規則があります。また、輸送設備は安全に固定できなければならず、転倒事故などの際にも動物たちの安全が保証できなければならないため、周囲が壁で囲まれた輸送用コンテナを使うことが都合が良いのだそうです。

このコンテナの大きさを決めるのが難しく、中が広過ぎれば動物が走ったり飛んだりしてケガをする可能性がありますし、逆に狭過ぎれば換気が悪くなって熱がこもったり、動物がストレスを感じて弱ってしまうため、適切な大きさを決めるためにかなり時間をかけるのだそうです。また、基本的に動物は警戒心が強く、なかなかコンテナに入ってくれないことが多いため、まず自分からコンテナに入ることを練習させるそうです。無理に入れれば暴れてケガをしたり、恐怖心を抱いて二度とコンテナに近寄ってくれなくなるため、ここにもかなり時間がかかるとか。

インターナショナル・フォワーディング・アソシエーション加盟運送会社による、2頭のキリンを南アフリカで輸送中の様子。日本では道路交通法に違反してしまうため、このような輸送方法をとることは出来ない。(photo:International Forwarding Association)

さらに問題となるのが、キリンのような大型動物です。キリンの中には4mを超えるものがいますが、日本では道路交通法で自動車の高さは3.8mまで、一部道路では4,1mまでと定められているため、そのままでは運ぶことが出来ません。また、道路交通法を守ると『動物取扱業者が遵守すべき動物の管理方法等の細目』に反してしまうこともあります。このような場合、床がギリギリまで低められた低床式トレーラーを使用し、キリンが床に座るか、首を楽に少し前に倒す姿勢になるよう、要するに“枕”が付いている特殊な加工が施されたコンテナを使用するそうです。

つまりトミカNo.3『動物運搬車』のように、動物をむき出しで平台トレーラーに載せて輸送することはなく、残念ながらこれはまったくのファンタジーですが、動物の健康のためになるべく環境性能の高いトラックやトラクター&トレーラーを用いるのは事実のようです。トミカNo.3『動物運搬車』は、クルマとしては日野自動車の大型車、“グランドプロフィア”と通称された2代目の日野プロフィアの大型セミトラクター&トレーラーをモデルにしており、これは環境性能の高さで定評があったモデルです。なお、日野プロフィアの現行モデルは3代目になっています。

もともと日野プロフィアは“日野スーパードルフィン・プロフィア”を初代として歴代を重ね、今回のトミカになった2代目モデルは2003年に登場しており、2018年に3代目にバトンタッチしています。この2代目は全車、日野自動車が新世代ディーゼルエンジンとなるべく総力を挙げて開発したE13C型、直列6気筒インタークーラー付きターボ・ディーゼルエンジンを搭載したのが大きな特徴でした。このエンジンは電子制御パルスEGRと高効率クールEGRの組み合わせによりNOxの低減を一段と確かなものとするコンバインドEGRが世界初採用され、また、アイドリングレベルの低回転域から圧倒的な高トルクを発揮し、1100rpmで最大トルクを発生するエンジンに仕上げられています。これにより極めてスムーズな発進性が確保されるとともに、マニュアルトランスミッション車では900~1100rpmで早め早めにシフトアップしても粘り強い走りをするため、低燃費が実現されています。さらにプロシフトと組み合わせれば、常に最適な燃焼回転数(グリーンゾーン)での走行が可能となるため、群を抜く低燃費を実現しました。

ヨーロッパでよく見られるホーストラックは、専門のコーチビルダーによってハンドメイドで作られるため、たいへん高価な高級車。もちろん運ばれる馬たちにストレスを与えない工夫が随所に施されている。画像の車両はオランダのロエロフセン・ホーストラックス社の『RR3スポーツライン』。(photo:Roelofsen horse truck)

ちなみに動物運搬の専用車が無いわけではありません。動物運搬専門業者のトラックなどは、当然、専用車になります。また、有名なところではJRAの競走馬の運搬車も動物運搬専用車になりますし、乗馬文化が根付いているヨーロッパでは、乗馬馬や競走馬の運搬専用車であるホーストラックがあります。ホーストラックはキャンピングカーのように、トラックをベースに専門コーチビルダーの手によって仕上げられるもので、有名ビルダーのハンドメイドによるものはたいへんな高級車として知られています。

たしかにトミカNo.3『動物運搬車』はファンタジー的な部分が大きい車両ですが、実際の動物運搬のエッセンスを端的に表現していると言えるでしょう。また、実車としてこだわるのであれば、“動物園のようなテーマパークが製作した、動物の大きな造形物をトレーラーに積載した宣伝車両”と考えれば無理はないでしょう。実際、動物園のラッピングトラックや動物の造形物を積載した宣伝車は存在しています。

■日野自動車 日野プロフィア セミトラクター 4×2 主要諸元

全長×全幅×全高(mm):5550×2490×3470

ホイールベース(mm):3200

トレッド(前/後・mm) :2060/1840

車両重量(kg):16570

エンジン:E13C(ET-Ⅶ)型(直列6気筒OHCインタークーラーターボ・ディーゼル

排気量(cc):12913

最高出力: 331kW(450ps)/1800rpm

最大トルク:2157Nm(220kgm)/1100rpm

トランスミッション:7速MT

サスペンション(前/後):リーフ/エア

ブレーキ(前/後) :空気式

タイヤ:(前)295/80R22.5 (後)295/11R22.5

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