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50年に及ぶホンダの安全運転普及活動はこれからも続いていく
交通死亡事故をゼロにするには、クルマを安全にするだけでは十分でなく、すべての交通参加者の安全意識を高めることも欠かせない。こうした考えかたから、ホンダは教習所で使用するドライビング&ライディングシミュレータを開発製造しているが、自動車メーカーとしてはホンダが唯一。交通安全教育のブースでは、最新のドライビング&ライディングシミュレータと、スマートフォンを使った新たな安全教育への取り組みをうかがった。
降りて歩く行動にも対応した自転車シミュレーター
まずは自転車用のライディングシミュレータ。ペダルを漕ぐと、ディスプレイに投影した風景が動き出し、ハンドル操作をすると、風景もそちら方向に流れる。右後方にもモニターがあり、発進する際や進路変更する際には、後方のモニターを確認する習慣が身につくよう工夫されている。しかも、注視時間も計測されており、ただ見ただけなのか、きちんと確認したかどうかまで、チェックされるようになっている。
シミュレーションのコースは5パターンと豊富。一般的なシミュレータは、正しい走りかたをしていなくても事故には至らないようになっているものが多いが、「レベル3」のコースでは、不適切な運転時には事故が起きる設定としており、仮想空間で事故が体験できるのもユニークなところだ。
これは交通安全協会のイベントなどで使用されており、対象は主に、小学生や高齢者とのこと。小学生には、これまでの運転ではどこが危険なのか、高齢者には、振り向いての安全確認など、体の柔軟性が衰えてきていることなどを実感してもらう効果が好評だそうだ。
リアルな危険シーンを再現した二輪&四輪シミュレーター
二輪および四輪のシミュレータは、体験したことのある読者も多いかと思う。二輪については、1996年に大型二輪免許が教習所で取得できるようになった際に作られたものだ。これを使用することで、取得から1年未満の初心者ライダーの死亡事故確率が3分の1以下に低下することが確認されたため、従来は任意だった普通二輪免許のシミュレータ教習は、21年から必須となっている。
四輪用のシミュレータは、必要な機能に絞ってコストを半減させた新型を21年4月から販売。60以上の危険シーンが再現できるのに加え、自車視点だけでなく、他車視点や俯瞰映像まで知ることができ、終了時には、採点結果やアドバイスも得ることができる。ソフトウェアの完成度は、実走行データを豊富に持つ自動車メーカーならではで、他社に大きな差を付けている。
高機能化しているにも関わらず、低コスト化できた理由のひとつは、シートやステアリングホイールなどに量産車の部品を流用していること。価格については「収益事業ではなく、自動車製造者としての義務」と考えた設定とのことだ。
世界初! AIと通信技術を活用した人・状況に最適な安全教育
今後の技術として開発がすすめられているのが、“Honda Safety EdTech”。EdTech とは、Education(学習)と Technology(技術)からの造語で、スマートフォンやタブレット端末を使用し、個別のライダーやドライバーに最適な指導を行う。使用するデバイスがスマホやタブレット端末なので、ホンダの二輪・四輪ユーザー以外も使用することができる。
年齢や性別、家族構成など、運転に影響を与えそうなパーソナルデータに加え、過去の事故経験や、クルマから得られたプローブデータを元に、AIが安全教育コンテンツを作成。必要なタイミングでアドバイスが表示されるようにすることを目指し、開発が進められている。
たとえば、普段から二輪で通勤しているライダーが、ある日、寝坊した場合。いつもよりスピードを出し、渋滞する車列をすり抜けて走っているなどは、スマホの位置情報やG変化から把握できる。仮に安全に出社できたとしても、スマホに注意喚起するメッセージ(すり抜け中に起きやすい事故の事例など)を表示させれば、行動を改めるきっかけになる。高齢者に対しては、昼夜の運転操作に顕著な差が生じ始めた場合、夜間視力の低下などをそれとなく伝えるようなメッセージを出す。
リアルタイムに運転の診断とアドバイスを実施
さらにHonda SENSINGから得られた情報も利用すれば、より緻密なアドバイスをリアルタイムに行うこともできるようになる。各種センサーから得られる外界情報に加え、それに対してどう反応しているかがわかれば、普段の運転に対する変化や、漫然運転も把握することができ、適切なアドバイスを必要なタイミングで行うことができる。ドライバーの視線も検出すれば、交差点での安全確認に対するアドバイスもできるようになる。
これを聞いていて気付いたのは、「あおり運転の抑止に使えるのではないか」ということ。強引な割り込みや、制限速度を極端に下回る低速走行車など、後続の運転手をいらつかせる先行車がいるかどうかはHonda SENSINGのセンサーで把握できる。そうした状況に遭遇した直後、運転操作が荒くなったり、前後加速度が大きくなったりした場合、優しい声で「イライラしていませんか?」などと音声ガイダンスが流れれば、我に返るドライバーも少なくないのではないか。
現在は、どういうタイミングでどのようなアドバイスをすれば、鬱陶しくなく、プレッシャーにもならず、素直に受け入れられるかを詰めているところ。コーチング理論も取り入れており、使用者の好みに合わせて、タイプの異なる8人のコーチから選択できるようにしている。
問題は、こうした安全技術に興味を示さない層にどう訴求していくかということになりそうだが、アニメキャラやアイドル歌手の声を使用するなど、遊びの要素を取り入れることも考えたらどうか(すでにやっている気配は感じた)。