
RSワタナベが20年以上前にリリースしたフォージングR。当時多かったFF車用としてリリースされた新デザインの8スポークホイールで、伝統の丸みを帯びたスポーク部を平らなデザインとしていた。また軽量さも特筆もので、15インチの6.5Jであれば1本4.7kgでしかない。その名の通りで鍛造製法による軽さなのだ。このフォージングRをFR用として2022年に復活させたのが、RSワタナベ専務である渡辺万三志さん。同時に万三志さんはレースサポートにも携わり、その中の一人に林渡さんがいる。D1ドライバーだったものの引退を決意。すると個人的に交流があった万三志さんは林さんを監督として迎え入れ新たなD1チームを結成する。

監督として迎え入れた林さんは自身のAE86を万三志さんにプレゼント。また、以前からサポートしてきたクリスタルボディ横浜、CBYの小田博朗さんとも付き合いがあった。そこでCBYへチューニングを依頼することになる。ちなみにCBYのAE86は筑波サーキットで58秒台を叩き出すほどの実力。ただし、万三志さんが目指したのはグリップ走法だけでなく同じクルマのままドリフトでも勝てる仕様。グリップとドリフトでは相反する足まわりになりそうだが、それを両立させたのだ。

AE86の4A-GEUエンジンは排気量アップさせることで4.5A-Gや5A-Gなどと呼ばれることがある。万三志さんのトレノはφ82mmのリアルスピードエンジニアリング製ピストンと、CBYが試作品として作った83mmクランクシャフトを組み合わせて1752cc仕様とした。さらにカムシャフトも東名自動車へ発注した296/296仕様を組み込み196psの最高出力を発生している。

CBYで試作されたクランクシャフトは製品化されており、ピストンやコンロッドなどとともにRSワタナベで取り扱われているため、同じ仕様のエンジンにすることも可能。さらにカムシャフトは296/296以外にも292や300仕様が用意されているので、異なる特性にすることも可能だ。

ロールケージが張り巡らされた室内はフルバケットシートとなっているため、乗降性が良いとはいえない。そこでステアリングを脱着式にしている。さらにステアリングの裏にパドルがあることにお気づきだろうか。実はこのAE86トレノはパドルシフトが可能とされているのだ。

しかもシフトノブを見れば前後にしか動かないシーケンシャルミッションとされている。AE86でシーケンシャルミッション&パドルシフトを装備したのは、おそらくこの個体だけではないだろうか。それもこれもグリップ&ドリフトで日本一を目指すためのこと。そのためクラッチ操作が必要なのはスタート時だけで済むのだ。

選ばれたシーケンシャルミッションはフランスのサデブ製。フォーミュラEやARC、WECなどモータースポーツの場で採用実績の多いミッションであり、許容トルクはサーキットで400N・m、ドリフトで450N・m、ラリーで350N・mとなっているFR用のもの。重量は純正ベルハウジング込みで約31キロとなっていて、純正T50ミッションと大差ない。それでいて6速シーケンシャルなのだから、速さを求めるなら欲しくなるミッションと言えるだろう。

TEAM 86MYハチForging R号はグリップで万三志さん、ドリフトで林さんがドライバーを務める。その結果、2024年の富士N2決勝で8位、ベストタイムは富士が2分1秒、岡山で1分47秒、筑波で1分3秒台を記録。さらにドリフトでは第4回AE86 Drift Chanpion Capで見事優勝を飾った。2025年にグリップで優勝を果たせば、悲願が達成されることになる。