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■セクレタリーカーとして誕生したサイノス
1991(平成3)年1月21日、トヨタのコンパクトなFFクーペ「サイノス」がデビューした。北米のセクレタリーカー、すなわち女性秘書などが通勤など日常的に使用するクルマをイメージして開発された、手頃な価格で手軽に運転できるコンパクトクーペである。

日本ではあまり馴染みのないセクレタリーカー
1980年代~1990年代の米国で、秘書に象徴される働く女性が通勤や日常的に好んで乗るようなクルマをセクレタリー(秘書)カーと呼んだ。

日本でも、1980年代にハイソカーやデートカーなる人気カテゴリーがあったが、メーカーが名付けたというより、メディアなどによって生まれた造語である。したがって、ブームが終われば自然消滅する。セクレタリーカーも2000年を迎える頃には消え去った。
そんなセクレタリーカーを代表するのが、コンパクトで気軽に楽しめるちょっとお洒落なクーペだった。手頃なライトウェイトクーペだが、軽快に走れれば十分で、本格的なクーペのように特に速い必要はなかった。
日本でセクレタリーカーとされたのは、サイノス以外にも日産「NXクーペ」や三菱自動車「エクリプス」があり、いずれもお手頃でお洒落なクーペとして人気を獲得した。ただ、日本ではこれらのクルマのターゲットは若者全般なので、あえてセクレタリーカーとはアピールしていなかった。
シャープなコンパクトクーペとして人気を獲得したサイノス


カローラレビン/スプリンタートレノよりひと回り小さな2ドアクーペであるサイノスが発売されたのは1991年1月のこの日。1991年は、ちょうどバブルが崩壊した年だが、市場はまだバブル好期の余韻が残っていた。

サイノスは、当時のターセル/コルサ/カローラIIをベースに、グリルレスのスッキリしたフロントマスクを持つシャープな2ドアクーペ。キャッチコピーは、“友達以上恋人未満”で、基本的には北米における前述のセクレタリーカー(海外名はパセロ)として開発された。

グレードはシンプルに2つだけ。“標準グレードα”には最高出力105psの1.5L直4 DOHCエンジンが搭載され、“スポーツグレードβ”には同じエンジンながら可変吸気システムやデュアル排気マニホールドを採用して最高出力115psに向上させたエンジンが搭載された。

またグレードβには、4輪ともにディスクブレーキが採用され、オプションとしてTEMS(電子制御サスペンション)も用意された。さらに、チルトアップ機構付きガラスルーフも設定されるなど、豪華な仕様も選べた。

車両価格は、グレードαが108.7万円(5速MT)/116.2万円(4速AT)、グレードβが123.8万円(5速MT)/133.1万円(4速AT)。当時の大卒初任給は17.5万円程度(現在は約23万円)だったので、単純計算では現在の価値でグレードαが約143万円/153万円、グレードβが約163万円/175万円に相当する。

初代サイノスはまずまずの人気は獲得したが、1995年に2代目へ移行してから徐々に人気は低迷し、1999年に生産を終えた。
バブル景気と崩壊の狭間に翻弄されたサイノス
サイノスが登場した1991年はちょうどバブル崩壊が始まった年である。だが、市場はまだスポーティな高級セダンや走りを楽しむクーペが人気を博していた。そのような中で、本格的なクーペではなかったサイノスは、それほど豪華なクルマや本格的なクーペでなくてもいいと考えた若者の受け皿になり、それなりに人気を獲得した。

しかし、バブル崩壊で市場の潮目が完全に代わると、RVやミニバン人気が盛り上がり、高級セダンも本格的なクーペも市場から淘汰され始めた。その結果、サイノスのような手頃でちょうど良いと選ばれていたクーペも存在感を失ってしまったのだ。

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セクレタリーカーとされたサイノスと日産NXクーペ、三菱エクリプスのスタイリングは全体的に似ている。スラントノーズで角が取れたソフトな面で構成され、リアもスッキリ切り取られている。言われてみればだが、男性より女性の方が似合いそうだ。
毎日が何かの記念日。今日がなにかの記念日になるかもしれない。