【後編】これが現代のクルマ!? 自動車黄金期の“名作”を復活、デザイナーは何を語るのか?【ランナバウトのデザイン探訪】

昨年10月にベルトーネが発表した「ランナバウト」は、55年前の名作ショーカー「アウトビアンキA112ランナバウト」をロードカーとして復活させるもの。異例のプロジェクトを手掛けたデザイナーはアンドレア・モチェリン氏だ。後編ではいよいよ第2作となるランナバウトについてにインタビューの話題を進めよう。

TEXT:千葉 匠(CHIBA Takumi) PHOTO:​Bertone

55年の歳月を超えて、生まれ変わったランナバウト

オリジナルと同様に完全オープンボディの「ランナバウト・バルケッタ」

新生ベルトーレのランナバウトをデザインしたのは、車椅子から航空機まで、モビリティのデザインを幅広く手掛ける異才、アンドレア・モチェリンだ。ベルトーネ・ブランドを再興したリッチ兄弟と共に、新生ベルトーネへの情熱に揺るぎはない。

ガンディーニがデザインして1969年のトリノショーでデビューした「アウトビアンキA112ランナバウト」をオマージュしたスポーツカーはどのような想いで誕生したのだろうか?

1969年の「アウトビアンキA112ランナバウト」

【前編】新生ベルトーネがカーデザイン黄金期の“名作”を復活させた理由とは?【ランナバウトのデザイン探訪】

昨年10月にベルトーネが発表した「ランナバウト」は、55年前の名作ショーカーをロードカーとして復活させるもの。異例のプロジェクトを手掛けたデザイナーはアンドレア・モチェリン氏だ。多彩なキャリアを持つ異才はインタビューで何を語ったのか? TEXT:千葉 匠(CHIBA Takumi) PHOTO:​Bertone/Lilium/Revolve Mobility/ AIRFRANCE

「私はA112ランナバウトのデザインに、いつも魅了されてきた。そのシンプルさ、タイムレスなプロポーションは、今日でも際立っている。だからリッチ兄弟からそれを復活させたいと提案されたとき、とても興奮した」とモチェリンは語る。

ランナバウトの初期スケッチ。55年前のランナバウトからフォルムのエッセンスだけを抽出しようとしている。

しかしA112ランナバウトは55年もの歳月の隔たりがあるし、ショーカーだったA112ランナバウトとは違って新型ランナバウトはロードカーだ。難しくはなかったのだろうか?

「ランナバウトのエッセンスを保ちながら、それをどう現代のエンジニアリングと法規に適合させるかが鍵だった。このバランスを追求するのは、もちろん簡単ではない。なにしろオリジナルのデザインは、たった2本のラインで定義されていたからね。しかしこのシンプルさが非常にやりがいのある経験をもたらし、革新的でありながら伝統に忠実なものを創造することができた」

2本のラインとは、ロールバーからL字を描いてノーズに至るウエッジラインと、その下でボディサイド中央をほぼ水平に貫く赤いライン。これをモチェリンは新型ランナバウトに忠実に再現した。

完成したランナバウト・タルガ。

ひとつ55年前のオリジナルとの違いを挙げれば、ロールバーの根元に折れ線を設けてボディサイドに豊かな張りを持たせたことだ。ガンディーニのA112ランナバウトはロールバーとボディサイドが折れ目なくつながっていたが・・。

「オリジナルのキャラクターを保ちながらも、モダンにしたい。今日的な美意識に沿ったスタンスと力強さを強調するために、その折れ線を入れた。そうすることで、サイドビューの歯切れがよくてイタリア車らしいエレガンスと、リヤの特徴的なコーダトロンカを両立させることもできた」

コーダトロンカとはリヤエンドをスパッと裁ち落とした処理。ドイツの空力エンジニア、カム博士が考案したものなのでカムテールとも呼ばれるが、それをザガートが60年代初期にいち早く取り入れて以来、イタリアではコーダトロンカの名で広まった。

ランナバウト・バルケッタ。ロールバーの下にV6を積む。

A112ランナバウトはエンジンを黒いカバーで覆い、その後ろに少し空間を設けたコーダトロンカにすることでリヤの軽快感を強調したのが特徴。モチェリンはそのイメージを新型ランナバウトに巧みに再現している。

自動車デザイン史を彩った黄金時代が蘇る

新型ランアバウトには、完全オープンボディの”バルケッタ”と、より実用的な着脱式ルーフの”タルガ”の2つのボディタイプが用意される。

ベルトーネは今回のランナバウトを「ベルトーネ・クラシック・ライン」を立ち上げるものと位置付けている。ベルトーネの過去の作品から最も伝説的な傑作を選んで、シリーズ化しようというのだ。

モチェリンは「これは本当にユニークな取り組みだ」とした上で、こう続ける。「60年代後半から70年代初期のデザインが、その美しさと自動車の歴史を彩った個性を保ちながら公道を走れるクルマに再現されるというのは、とても刺激的なことだと思う」

ランナバウト・バルケッタ

ガンディーニやジウジアーロが才能を競い合い、トリノがカーデザインの聖地として花開いたのがまさに60年代後半から70年代初期。それは世界のカーデザインにとっても黄金期だった。あの時代の傑作をモダンに蘇らせる「ベルトーネ・クラシック・ライン」は、たんなる懐古趣味を超える意義を持つはず。現代のカーデザインが忘れてしまったものを考える、その第一歩として新型ランナバウトを見つめたいものだ。

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著者プロフィール

千葉 匠 近影

千葉 匠

1954年東京生まれ。千葉大学工業意匠学科を卒業し、78〜83年は日産ディーゼル工業でトラック/バスのデザ…