
カーオーディオについては右に出る者がいないほどとまで独自のノウハウを蓄積している尾林ファクトリー。東京オートサロンの常連ショップでもあり、何度もアワードを獲得してきた。それはオーディオだけでなくカスタムやチューニングについても長年続けてきたノウハウがあるからで、それらの技術を駆使して近年では旧車のレストアやカスタムにも余念がない。近年はサニートラックのカスタム車を展示するのが恒例になっていたが、2025年は一際目立つ位置にホワイトのハコスカを展示していた。

このハコスカも近年の東京オートサロンに常連的な存在として展示されてきた。ハコスカこと3代目スカイラインは国産旧車の人気を長年牽引してきたモデルであり、残存数も抜群に多い。ところが近年は中古車価格が暴騰したため、おいそれと手に入れることができる存在ではなくなった。だが、チューニングやカスタムの素材として根強い人気があるため、2025年の今もこうして新たな展示車両が製作されている。この坂本産業ZERO4と名付けられたハコスカは、名前からもわかるようにゼロヨンを楽しみつつ公道も走行できるように仕上げられている。

同じL型6気筒エンジンを搭載するS30フェアレディZより明らかに重いボディのため、ハコスカをレース用に選ぶことは少ない。どれだけチューニングしても軽さは何よりの武器になるからだ。では、ボディを軽くすればいいだろうと考えるものだが、それにも限界はある。しかも軽くするだけでなく補強も加えなければならないのだから、なおさら。ジレンマのような課題に尾林ファクトリーはドライカーボンを多用することで対処した。車両オーナーである坂本産業とともに考えたZERO4オリジナルドライカーボンによるエアロを随所に盛り込んだのだ。

もちろん軽量化と同時にチューニングも施されている。足回りでは福岡のクルーズが手がけるエアサスペンションキットを基本として強化&ローダウン。ホイールはZERO4オリジナルでワンオフされた16インチへ台形化された。さらにブレーキが新規製作された点もポイント。尾林ファクトリーは東京都青梅市にショップを構えるが、近隣には頼りになる工場が数多く存在する。その中にブレーキパーツをワンオフ製作してくれるティープロジェクトがある。別の取材でお邪魔したことがあり、工作機器の精度や技術には驚かされた。ベースになる部品をスキャンして複製することに始まり、独自の設計によりディスクローターやキャリパーを製作している。同社製ブレーキシステムが前後に装着されているのだ。

このハコスカのハイライトとも呼べるのがエンジン。こうして見るとL型6気筒で恒例の風景なのだが、その中身には最新技術が駆使されている。というのもこのエンジンのシリンダーヘッドはJMCが新たに作ったものなのだ。産業用CTを活用してシリンダーヘッドをマルチスキャンした結果、溶接痕の偏肉や強度が足りない部分が明らかになる。当時の工作技術による無駄な設計や精度不足も判明。そこでJMCは純正の設計を現代流に進化させることで、新たなシリンダーヘッドを製作・販売しているのだ。

燃焼室形状と容積、ウォータージャケットの形状、ポート軌道、アルミ材質などを変更しつつ、チューニングにより問題が発生する部分を補強・変更してある。このシリンダーヘッドを用いて尾林ファクトリーはL28型ブロックと組み合わせた3245cc化を果たした。吸気はど定番のソレックスキャブレターなものの、排気はオートサービスワタナベによる6-1タコ足とワンオフストレートマフラーに変更。ツインプレートクラッチや軽量クロモリフライホイールを経てR31やR32に使われた71Cミッションは改造したものを装着している。

内装は極限まで軽量化されていて、不要なものを剥ぎ取るだけでなくダッシュボードをドライカーボン製としたり、ロールケージをアルミ製にするなどしている。ダッシュボードに並ぶメーターは全てスタック製とされ、正確さを追求している。ここまで手が入ったハコスカは、ある種の理想でもあるだろう。しかも、この状態で公道を走行することが可能だというから驚き。全開走行する様を見てみたいと思わせるハコスカだった。