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“魅せる”カスタムも見どころの『東京オートサロン』
誰よりも速く走りたい。速く走るためにドラテクを学ぶ。愛車の性能向上のためにチューニングを施す……これはひと昔前のクルマ好きの通過儀礼のようなもので、この記事の読者も一度は通った道かもしれない。だが、必ずしも「スピード=クルマの魅力」ということではないだろう。速く走ることもクルマの楽しみ方のひとつではあるが、もちろんそれがすべてではない。

それに時代の変化からなのか、そもそも最近の若者は以前に比べてスピードに情熱を燃やす人は少なくなったようで、大多数の若いクルマ好きはイリーガルな領域に踏み込むことなく、一般的なトラフィックの流れの中でクルマ趣味を楽しんでいる人が多いようなのだ。

老若男女問わず、毎年多くの来場者で賑わう『東京オートサロン』であるが、そうした世相の変化とユーザーの趣向の変化に応じて、以前は走りを追求した国産チューニングカーが中心だったこのイベントも、近年ではSUVやミニバン、商用車、軽自動車、旧車などのスピードを目指すことなく、魅せることを重視したカスタムカーのエントリーも目立つように感じられた。

そんな『東京オートサロン』の会場で筆者が注目したのが、専用のボディキットでフェイスリフトし、ノーマル車のイメージをガラリと変えるフェイスコンバージョンカスタムだ。これらはけっして走りを楽しむようなクルマではないのかもしれないが、オシャレに、センス良く、かわいくカスタムされたクルマがガレージに収まっていれば、クルマ好きならそれだけで心が弾むし、その個性的なルックスは街行く人々を振り返らせるだけの魅力がある。

その多くは往年のクラシックカーがモチーフとなっている。このようなカスタムカーにはオリジナルの持つ楽しさは当然ないのだが、旧車を現代の交通環境の中でアシに使うには気苦労が多いし、それなりにお金も手間もかかるということで、エンスージアストではないフツーの人が維持するには荷が少々勝ちすぎているのもまた事実。

それならば快適で経済的な現代車をベースに、旧車のデザイン的なエッセンスだけを取り入れたフェイスコンバージョンカスタムで気軽にその雰囲気だけを楽しむという選択肢もありだと思う。
「レトロカーブーム」から派生したフェイスコンバージョンカスタム
これらのカスタムカーの源流を追い求めて行くと、1990年代の「レトロカーブーム」の嚆矢となったヴィヴィオ・ビストロやサンバー・クラシックに辿り着く。
その前身となるのは、バブル期に登場した日産のパイクカーだが、Be-1やフィガロが贅沢にも専用設計のボディを纏っていたのに対し、開発コストに大きな制約がある軽自動車ベースのレトロカーは、フェイスリフトという手法を用いることで、同じようなクラシカルでオシャレな雰囲気を演出していた。
ただ、そのブームは数年で沈静化してしまった。軽自動車の市場がオシャレや個性的なルックスよりも車内の広さや実用性、経済性にシフトした結果だった。しかし、メーカーがこのジャンルから撤退したあとも一部のファンの間で人気は根強く、彼らの声に応えるかたちで、ほどなくして5代目サンバーをベースにした初代VWバス仕様にカスタムする「ミニバス」へのフェイスコンバージョンキットをアフターパーツメーカーがリリースした。これがちょっとしたブームを巻き起こしたのだ。

けれども、このときすでにベース車となる5代目サンバーは生産終了から10年あまりが経過。良質な中古車は数を減らしており、また『モデストカーズ』(神奈川県相模原市)のような品質にこだわった真面目なショップがある一方、ブームに乗じた粗製濫造品やコピー商品も出回っており、市場は混沌とした様相を呈していた。当時、このジャンルのカスタムカーに可能性を感じて取材を行なっていた筆者だったが、「悪貨良貨を駆逐するの喩え通り、このままでは早晩このブームも終わるな……」と感じたのもまた事実であった。

住所:神奈川県相模原市南区当麻872-2
TEL::042-777-8955 / FAX: 042-777-8956
営業時間:10:00~19:00
定休日:毎週水曜日・第2・4木曜日定休
URL:https://www.modest.jp
だが、こうした危機感はこれらのカスタムカーを製造・販売していたショップにもあったようで、前述の『モデストカーズ』、そして同社から一部の製品開発を委託されていた『Blow』(神奈川県相模原市)では、ミニバスブームの終了を見越して二の矢三の矢を用意していたのだ。
それが奇しくも共にバモスをベースにした『モデストカーズ』の「ポケットバン」(モチーフはライフステップバン)であり、『Blow』の「キャルペッパーバモス」(ポップでアメリカンなスタイルを与得たカスタムカーでモチーフはとくにない)であった。
2000年代初頭に登場したこれらのカスタムカーは、「ミニバス」の人気と入れ替わるかたちで徐々にユーザーに受け入れられて行った。そして、創作意欲の旺盛な両社は、ユーザーを飽きせまいと次々にフェイスコンバージョンカスタムをリリースして行く。

『モデストカーズ』は6代目アルトベースの「パイク」(モチーフは日産パオ)、11代目エブリィをベースにした「ピコット」(クラシック・ミニのエッセンスを取り入れたレトロスタイルを採用)を登場させると、業界のもうひとつの雄である『Blow』も負けじとバモスベースの「イージーライダー」や「サーフライダー」「スローライダー」(いずれも1970~1980年代のアメ車のフルサイズバンがモチーフ)をリリースし、カスタム業界を大いに盛り上げたのである。
Blowの新作は軽ではなくフォードF-100モチーフのタウンエース

それから20年あまりが経過した現在でも両社はこのジャンルのリーディングカンパニーとして、変わらぬ人気を集めている。とくに『Blow』は自動車メーカーから試作車両や特殊車両の製作を委託されることもあるほど。GFRP(ガラス繊維強化プラスチック)整形や板金の技術に関してはカスタム業界でも評価が高く、アフターマーケットのボディキットにありがちなフィッティングの問題もなく、車体に取り付けた際のチリ(車体とボンネットやドアなどの部品同士のつなぎ目のこと)もメーカー純正に比して遜色がない。

さて、そんな『Blow』は東京オートサロン出展の常連でもある。これまでは日産クリッパーバンやスズキ・スーパーキャリー、ダイハツ・ハイゼットトラックなどの軽商用車をベースにしたカスタムカーを展示して来たが、今回は1950年代のフォードF-100パンプキンをモチーフにした小型商用車のトヨタ・タウンエースバンとなる。
「ジャックライダー」と名付けられたこのカスタムカーは、サイズはF-100に比べてふた回り以上小さく、ボンネットの長さやAピラーの角度などディティールはオリジナルとはだいぶ異なる。だが、特徴的な2灯ヘッドランプのファニーなマスクはパンプキンを完璧に縮小再現しており、商用車前とした洒落っ気のないタウンエースがミッドセンチュリー・モダンに生まれ変わっているのは見事としかいう他ない。
気になるカスタム費用だが、フロントフェイスキットが49万5000円、フェイス用灯火類一式のパーツ代が9万9000円~11万5500円(タウンエースの年式により異なる)、リヤゲートカバーが8万8000円。これに塗装費を加えると、エクステリアのみのカスタムで総額で140~150万円くらいになるようだ。展示車両のようにインテリアまでカスタムした場合は別途追加費用が必要になる。「ジャックライダー」は法規対応しているので、カスタムした状態で車検も問題なく通る。

住所:神奈川県相模原市中央区田名8531-3
TEL::042-777-0453 FAX 042-777-0456
営業時間:9:00~18:00
定休日:毎週金曜日
URL:https://www.blow-net.co.jp
まだまだあるゾ! フェイスコンバージョンカスタム
今回の東京オートサロンでは『Blow』以外にもフェイスコンバージョンカスタムによるユニークなカスタムカーが多数展示されていた。ここからは写真を中心にそれらの出展車両を紹介して行くことにする。


