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能登半島地震の初動対処を困難とした交通の寸断
「南海レスキュー」は南海トラフ地震を想定した災害対処訓練であり、例年実施されている。南海トラフ地震は最大規模で発生した場合、東海から近畿、四国、九州の広い範囲に被害がおよび、自衛隊では東日本大震災を上回る11万人規模での救援活動も想定されている。こうした災害規模の大きさから、今回の訓練も119カ所で48の実働訓練を実施するという巨大なものとなっている。

また、2024年1月1日の能登半島地震では、道路の寸断による孤立地域が多数発生したことから、南海トラフ地震においても災害発生直後の輸送手段確保が重視されている。大和川で行なわれた訓練も、地震により倒壊した橋に替わって、陸上自衛隊が仮設の橋を設け、物資や人員の輸送、被災地の情報収集に活用しようというものだ。

50トンの90式戦車にも耐える浮橋
陸上自衛隊で、こうした土木・建築の能力を持っているが「施設科」部隊であり、今回の訓練では奈良県宇治市の大久保駐屯地より第102施設器材隊が参加し、「92式浮橋」を展開・設置した。92式浮橋は、名前のとおり1992年に採用されたもので、重量50トンを超える90式戦車の使用にも耐える(これ以前に配備されていた浮橋は90式戦車の重量に耐えられなかった)。

92式浮橋は、水に浮く「橋節」を複数連結して橋とする。橋節は円筒型に折り畳まれた状態でトラックに積載され、水面で展開して平面状となる。また、橋節そのものは航行能力が無いため、連結作業のため複数の「動力ボート」も部隊は保有している。

橋節ひとつで長さ7.5m・幅4mあり、橋端用の橋節とあわせて92式浮橋1セットでおおよそ100mの橋を構築できる。さらに橋節の数を増やせば、より長い橋を作ることも可能だ。また、橋節は艀(はしけ)として使うことも可能だ。この状態を「門橋(重門橋)」と呼ぶ。東日本大震災では、東松島市沖の宮戸島への重機輸送に門橋が使用されている。
平地が乏しく交通網が貧弱な近畿南部や四国太平洋岸は、南海トラフ地震において、道路の寸断による被災地の孤立化が心配されているが、南海レスキューを通して、陸海空自衛隊は各種の装備品を投入した訓練を実施することで、災害対処の初動における実働能力を着実に高めている。