フィアット500の中身はサンバー!? エンジンはホンダ!? 軽自動車登録!?『さいたまイタフラミーティング』で見つけた魔改造チンクエチェント

埼玉県吉見町にて、2024年11月17日(日)に開催された『さいたまイタフラミーティング2024』には、関東を中心に新旧のイタリア車とフランス車が600台も集まった。さまざまなクルマが参加するこのイベントで、旧車の中でも同じ車種が複数エントリーしていたのがシトロエン2CV、ルノー4(キャトル)、フィアット500の3車種だ。その中でもフィアット500はエンジンや足回りのスワップなどの大胆な改造が施されたカスタムマシンの姿があった。今回はそんな魔改造チンクエチェントを紹介する。
REPORT&PHOTO:山崎 龍(YAMAZAKI Ryu)

参加台数600台!?『さいたまイタフラミーティング』はイタリア車&フランス車だけでなくイギリス車や国産車でもOKで希少車も多数エントリー!

2024年11月17日(日)に『さいたまイタフラミーティング』が埼玉県吉見町にある吉見総合運動公園で開催された。今回で11回目を数えるこのイベントには、関東一円を中心に新旧さまざまなイタリア車とフランス車が600台以上も集まった。昨年に引き続き、今回はミーティング当日の様子をリポートする。

シンプルな構造で初心者でも維持しやすい!フィアット500は旧車界のアイドル
そして、シンプルゆえにカスタムの素材としても人気が高い!

日本ではルパン三世の愛車としてクルマに興味のない人からも認知度の高いヌォーバ・チンクエチェントこと2代目フィアット500。同車は生産終了から半世紀が経過した現在でも世界的に人気が高く、イタリア車きってのアイドルとして多くのファンから愛され続けている。

『さいたまイタフラミーティング2024』にエントリーしていたフィアット500F。

そんなフィアット500の人気ぶりは、2024年11月17日(日)に埼玉県吉見町で開催された『さいたまイタフラミーティング2024』の会場を訪れてみてもわかる。新旧さまざまなイタリア車とフランス車、600台以上が参加することのイベントで台数が多いのは、やはり現行型のフィアット&アバルト500シリーズだ。1960年代や1970年代の珍しい車種の姿も散見されるが、旧車の中である程度まとまった数がエントリーしていたのは、シトロエン2CV、ルノー4(キャトル)、そしてヌォーバ・チンクエチェントの3車種だった。

イタリア製旧車の中でも人気車種のフィアット500は複数エントリーしていた。写真はフィアット500R (右)と500F(左)。

これらのクルマに共通しているのは、いずれも商業的に成功した小型大衆車ということだ。大衆車である以上、価格が安く、安く作るためには構造がシンプルでなければならない。さらに実用性が高く、燃費やメンテナンス性に優れていることも必須条件となる。そして、旧車になるとこれらのことが維持をする上で大きなメリットになるのだ。

これらの車種は生産期間が長く、大量生産された車種であるためパーツの入手は容易で、その価格は安価だ。メカニズムも単純なのでアマチュアでもDIYメンテにチャレンジしやすい。さらに、欧州製の旧車の中ではメジャーな車種ということもあって全国に専門店があるので、DIY派でなくとも保守管理も容易だ。

『さいたまイタフラミーティング2024』の会場に並ぶシトロエン2CV。珍しいフルゴネット(中央の車両)の参加もあった。

旧車の中でもマイナーな高級車やスポーツカーだと、そもそも部品の入手が絶望的で、仮に中古パーツが見つかっても価格は天井知らずになることも多い。その上、整備のノウハウもないためにプロの整備士でも手に負えないことがある。そうした心配がないことからこれらの小型大衆車は初心者の入門用からベテランまで楽しめる旧車だと思う。

シトロエン2CVの競合車だったルノー4(キャトル)。トーションバーサスペンションの採用により、車体の左右でホイールベースが異なるユニークな設計で知られている。

さて、構造がシンプルということはカスタム派にとっては改造ありきの素材として魅力を感じる人もいるようだ。先ほど挙げた3台の中では、ルノー4はノーマルで乗る人が圧倒的に多く、カスタムする場合でも内外装のドレスアップが中心となる。シトロエン2CVは海外では同じ空冷水平対向2気筒を積むBMW製バイクのエンジンを移植する例(イギリスでは載せ替えに必要なパーツをセットにしたスワップキットが販売されている)があるようだが、国内には心臓部を載せ替えるような猛者はまずいない。

参加車両のほとんどがノーマル車両であったが、中には激しいカスタムを施したカスタムカーの参加もあった。

その一方、フィアット500はオーナーに『カリオストロの城』におけるカーチェイスシーンの印象が強いのか、エンジンスワップなどの過激な改造に走る人が結構いる。「イタフラ」と一括りにされることが多いイタリア車とフランス車だが、同時代に活躍した小型大衆車でも車種によってファンの趣味趣向は大きく違うようなのだ。

『さいたまイタフラミーティング2024』の会場を散策していると、そのような魔改造されたフィアット500を見つけたので、今回はそれをリポートする。

サンバー×フィアットで快適&快速!魔改造チンクエチェント

最初、そのブルーグリーンでペイントされたチンクエチェントを見たとき筆者は強烈な違和感を覚えた。ボディこそノーマルの500Fなのだが、妙に腰高感が強く、おまけにトレッドが拡大されており、追加されたアバルト695用オーバーフェンダーにホイールをツライチで合わせているのだが、13インチの幅が細いタイヤが組み合わされている。よく見るとホイールは軽自動車用だ。

横浜の「データコミュニケート」が手掛けたサンバーのメカニズムをスワップした松尾篤則さんの1966年型フィアット500F。

気になって車内を覗き込む。するとステアリングはナルディ・ウッドに交換され、追加メーターなどの装備がいろいろと装着されてはいるが基本は500Fのノーマル……と見過ごしそうになったが、よくよく見ればステアリングコラムがまったく別物だ。

松尾さんのフィアット500Fのインテリア。メーターやダッシュボード はオリジナルのままだが、ステアリングコラムやエアコンなどはサンバーのものが流用している。もちろん公認車両だ。

しかも、足元を見ればクーラーユニットが備わる。「フィアット500にクーラー?」。思わず、そう独りごちる筆者。これまで暑い日本の夏に耐えかねてチンクェチェントにクーラーを装着しようと試みたオーナーは何人かいたが、そのいずれも成功していない。最高出力18psの499.5cc空冷2気筒OHVエンジンでクーラーを駆動させるにはパワーがまったく足りないのだ。無理に装着しても結局はクルマが満足に走らなくなるか、冷風が出ないかというのがオチである。ただし、ひとつだけ方法があるにはある。その方法とは……。

松尾さんのフィアット500Fのリヤビュー。アバルト595用の大きく張り出したオーバーフェンダーが目を引くが、さらに注目すべきはエンジンルームだ。

「スバル・サンバーのエンジンか!」
それに気づいた筆者は車両の後ろ側に回り込む。すると、これ見よがしにボンネットフードが開かれていた。中を覗き込むと、案の定そこには富士重工(現スバル)製EN07型658cc水冷4気筒OHCエンジンが鎮座していた。これですべて合点がいった。要するにこのフィアットはサンバーのパワーユニットに換装していたのだ。

松尾さんのフィアット500Fの心臓部は、ノーマルの499.5cc空冷2気筒OHVエンジンを降ろし、富士重工製EN07型658cc水冷 4気筒OHCエンジンに換装されていた。

「このクルマ面白いでしょ?」
そう言って声をかけてきたのはオーナーの松尾篤則さんだ。話を聞くと、このクルマはフィアット500Fのボディにサンバーの足回りをシャシーごと移植したカスタムカーとのことで、現代車と同じようにインジェクション、エアコン、パワステなどの装備を持つ快適仕様とのこと。製作したのは魔改造チンクェチェントで有名な横浜の「データコミュニケート」が製作したとのこと。

松尾さんのフィアット500Fはサンバーの足回りをシャシーごと移植しており、軽自動車に使用されている13インチホイールと相まって車高はやや腰高な印象を受ける。

もともと小さなクルマが好きな松尾さんは、このフィアット に乗る前はダイハツ・コペンに乗っていたそうだ。しかし、ミニやフィアットなどの旧車にどうしても乗り換えたくなり、フィアット595を本気で検討したそうだが、古いクルマということでネックとなったのが、現在の交通環境で使用するのには性能面で我慢を強いられることと、エアコンなどの快適装備が皆無なことだった。そんなある日、たまたま「データコミュニケート」の存在を知り、実際に店を訪れて社長さんといろいろ話をしてみて、「これこそが自分の求めていた理想のフィアット500だ!」との思いから購入に踏み切ることにしたと言う。

サンバーの足廻りが流用されているのがわかるカット。ディスクブレーキもそのまま流用されており、乗り心地や走行性能だけでなく制動力も向上している。

松尾さんにこのクルマの走行性能や快適性について尋ねると、「高速道路を連続100km/hで走ってもまったく不安がなありません(最高速はもっと行くとのこと)。しかも暑い夏でも快適にドライブを楽しめるのでファミリーカーとして使っても問題がないですよ」と満足げに語る。

マフラーはホンダ製バイクのサイレンサーを流用した「データコミュニケート」オリジナルのものが装着されていた。

なお、「データコミュニケート」ではノーマルのフィアット500に準じたナローモデルも製作していたそうだが、トレッドを縮める作業が手間らしく、松尾さん曰く「最近は社長が面倒くさがってなかなか作ろうとしない」とのこと。どうやらこの店の社長はイタリア職人のような気質らしく、顧客の要望を聞いて良いクルマを作るには作るのだが、どんな仕様に仕上がるかは社長の気分次第で多少の“ゆらぎ”のようなものがあるようだ。

筆者はあいにく「データコミュニケート」を訪れたことはないのだが、どうやらユニークで個性的なクルマを製作する店というものは、相応の個性があるようだ。機会があれば一度訪ねてみたいものである。

オーナーの個性がキラリと光るカスタム!
『さいたまイタフラミーティング』に参加した魔改造フィアット500

松尾さんのクルマ以外にもユニークな改造チンクエチェントが数台エントリーしていたのだが、残念ながらオーナーに話を聞くことができなかったので、ここからは写真を中心に紹介して行くことにする。

ミーティング会場をあとにするフィアット500。詳細はわからないがメーターナセルは他車種のものが流用されているらしく、足回りはローダウンした上でインチアップされたホイールを履いていた。かなり手が入ったマシンである。取材できなかったことが悔やまれる。
一見するとノーマル然としたフィアット500F。しかし、トランクフードには「FIAT HONDA 1595」とのバッジが装着されている。
「なんのこっちゃ?」かとリヤに回るとその意味がわかり、驚愕させられた。
なんとパワーユニットはホンダ製直列4気筒エンジン(B16か?)に換装されていたのだ。どうやらエンジンルーム に入りきらなかったらしく後部座席を潰してミッドに搭載していた。オーナーに詳しい話を聞きたかったが、残念ながら見つけることができなかった。来年このイベントを訪れたらあらためて取材したい。
こちらはほぼノーマルのアバルト595(仕様?)。だが、ナンバープレートに注目してもらいたい。黄色のナンバーがついているということは軽自動車登録されているということになる。
現在の軽規格にすっぽりと収まるヌォーバ・チンクェチェントだが、新車時に当時のディーラーが小型乗用車で型式認定を採っているため軽自動車登録するのは困難なのだ。もしも軽自動車登録をするのならシートベルトやダッシュパッドなどの現在の安全基準を満たす必要があり、かなりの改造を施す必要がある。オーナー不在で取材ができなかったのだが、どのような方法で黄色いナンバーを取得したのだろうか?

キーワードで検索する

著者プロフィール

山崎 龍 近影

山崎 龍

フリーライター。1973年東京生まれ。自動車雑誌編集者を経てフリーに。クルマやバイクが一応の専門だが、…