目次
「遊牧民」がジムニーに乗って帰ってきた
4代目を数える現行ジムニー&ジムニーシエラが発売されたのは2018年7月のことだ。
1970(昭和45)年の初代ジムニーが当時の軽自動車規格360ccだった経緯から、日本で「ジムニー」といえば軽自動車版を指すが、世界的には日本の「ジムニーシエラ」が「ジムニー」と理解されている。
ご存じのとおり、日本のジムニーは日本独自の軽自動車枠で造られた660ccエンジン車。ジムニーシエラ(以下「シエラ」)が1500ccエンジンを載せ、トレッド拡大&オーバーフェンダーをつけて白ナンバーを掲げたところで、しょせんは軽自動車ボディに過ぎない。
まして現行4代めは先代に対して後席を40mm後退させたことで荷室にしわ寄せがいったが、どのみち後席はゆったりするわけじゃなし。3代めまではともかく、そろそろ後席や荷室の使用性を向上させたジムニーがあってもいいのではないか・・・いまの4代めが発売された当初から、市場も販売店もストレッチした5ドアボディを望んでいた。
あれから6年半が経過・・・いよいよジムニー5ドアが発進する。

もしジムニーに5ドアが追加されるなら、メカもネーミングも「シエラ」がベースとなるのは必至。筆者は、かつての「エスクードノマド」や「グランドエスクード」からサブネームを持ってきて、車名は「ジムニーシエラノマド」「グランドジムニーシエラ」になるのではないかと予測していた。いっそ全部まとめて「グランドジムニーシエラノマド」で長ったらしくし、バックドアに「GRAND Jimny SIERRA NOMADE」のバッジをつけたらおもしろいと無責任にひとと話したもの。
果たして出てきたクルマの正式名称は「ジムニーノマド」・・・本当に「ノマド」を掲げてくるとは思わなかった。ただし、カタログはシエラとノマドをまとめて1冊にしている。

その「ノマド」ネームの初出は初代エスクード。1988(昭和63)年5月に発売された。このときは3ドアでスタート。
G16A型1600ccのエンジンを搭載し、シティランナバウトを標榜した街乗り4駆・・・といえば、コンセプトはいまのFFベース4WDのライトSUVのようだが、その実体は副変速機付きの本格4駆メカを持ったオフロード志向のクルマだった。

ボディ寸は、全長×全幅×全高=3560×1635×1665mmで、ホイールベースは2200mm。37年前のエスクードと、ボディが軽自動車由来のシエラを比べるのは無理があるが、現行シエラ寸法は3550×1645×1730mmのホイールベース2250mm。全長や全幅は初代エスクードを超えているし、ホイールベースも50mm長い。
2年後の1990(平成2)年9月に、サブネーム「ノマド」を付与した5ドア版「エスクードノマド」を追加。全幅1635mmはそのままに、全長は415mm延ばした3975mmとなり、全高はほぼ同じ1700mm。ホイールベースは2480mmだから3ドアに対して280mmの延長だ。「ノマド」とは「遊牧民」の意味で、英語では「nomad」と表記するようだ。



と、ここまでいろいろと書いたが、エスクードノマドの解説が本意ではない。ジムニーノマドを機とするエスクードノマドの解説は他のメディアが行なうはず。
本記事では、過去ジムニーに与えられたボディバリエーションの数々について触れていく。
ただし、変更部位の少ないモデル、特別仕様車は除いていく。
1.初代ジムニー
ワイルドなクルマの割に、発表は1970年3月3日、ひな祭りの日。発売は4月10日だ。
当時の軽自動車規格360ccの空冷エンジンを搭載。
もともとはフルオープンボディのトラック・・・すなわち貨物車で、前席サイドは1本のパイプがドア代わり。荷室や前席サイドを覆う幌も標準だったが、サイドの幌は上に巻き上げてバンドで固定するものだった。
以後、ここに種々のボディタイプが追加されていくことになる。

1.キャンバスドア
1971(昭和46)年1月20日のマイナーチェンジ時に追加された。
いっけん、初期型の幌付状態と変わらないが、1本パイプだった前席サイドを、前ヒンジ、後ろ開きのパイプ枠にキャンバスを貼ったドア付車を追加。


2.メタルボディ
1972(昭和47)年5月2日、水冷エンジンを搭載するマイナーチェンジ時に、クローズドのメタルボディを持つ「ジムニーバン」を新設した。幌付きだったとはいえ、雨風をしのげる鋼板ボディがついたのは大きく、これで一気に通常のライトバンや乗用車に近づいた。販売面でも大きな後押しとなったことだろう。
いまでこそあたり前のボディ形態も(いまのジムニーは完全に乗用車だが)、もともとは追加ボディで始まったのだ。
とはいえ、あくまでもバン。発表資料では「完全パネル式なので雨に濡れたり、荷くずれする商品を安全に海岸地帯や山間地、工事現場へ運搬するのに最適である。」と、相変わらず仕事グルマの位置づけをしている。
水冷エンジンになって暖房の効きが向上したから、よりクローズドボディの存在意義は大きい。

3.新軽自動車規格対応(ジムニー55)
1975年2月に4人乗り幌タイプを追加した翌年、1976年発効の軽自動車の新規格対応。
当時のキャリイ、キャリイバンとともにエンジンを2ストローク2気筒360ccから2ストローク3気筒550ccに増量し、ネーミングも「キャリイ55」「キャリイ55バン」「ジムニー55」「ジムニー55バン」へ。いずれも1976(昭和51)年4月30日同時発表、5月1日同時発売。
といってもこの対応は暫定的なもので、ジムニー55もキャリイ55もボディそのものは360cc時代といっしょ。外観はバンパーの大型化にとどまるのと、ジムニー55バンはリヤにもバンパーがついた。スペアタイヤは荷室左窓部にあったのがバックドア背面、すなわち外に引っ越した。

4.トレッド拡大(Newジムニー55)
1977(昭和52)年6月17日発表・発売。
外観デザインの一部変更だからこれも追加ボディではないが、前後輪トレッドを100mm拡大、フード、リヤフェンダー、フロントパネルのデザイン変更、前バンパーの形状変更&板厚向上したほか、燃料タンク容量を26Lから40Lに変更している。
ここでは1977年型オーストラリア向けのトラックバージョンもお見せしよう。






5.普通車版追加(ジムニー8)
1977年9月22日発表、10月1日発売。
同じくボディそのものは前項Newジムニー55のまま、トレッドを前1190mm、後ろ1200mmとし、エンジンは4サイクル4気筒の797ccエンジンを載せた「ジムニー8」を追加した。


6.メタルドア(ジムニー55)
1978(昭和53)年10月16日発表・発売の改良時、メタルドアタイプを追加。
オープンモデルで鋼板ドアを持つジムニーは、1970年3月の誕生から8年半以上も経ってからなのだった。
ドアはたぶんバンのものを流用。荷室部を幌のまま、乗り降りのためのドア開閉やガラス昇降は一般的なものにして利便性向上を図ったわけだ。
ついでにいうと、このときの改良は居住性&安全性の向上を主眼としたもので、ヒーター放熱量のアップ、フロントシートの改良、フェンダーミラーの形状変更などを行なっている。

なお、初代ジムニーは1979(昭和54)年10月31日に最後の改良型の発表をしているが、大きな変更はないので割愛する。
2.2代目ジムニー
2代めジムニーは1981(昭和56)年4月27日発表、5月1日に発売された。
さすがに前席ドア部が1本パイプのジムニーはなく、「バン」と「キャンバスドア」、初代の「メタルドア」に相当する「フルメタルドア」の3つが初代から続投した。
逆に新ボディは前席と後席の間にロールバー風ピラーをつけた「ハーフメタルドア」。サイドドアには窓枠がないばかりか昇降ガラスもなく、ドア上半分はキャンバスをボタン留めする。
このハーフメタルドア車の赤いボディに白ナンバーを付けたジムニーが、東映の特撮ドラマ「宇宙刑事ギャバン」で主人公が乗る劇用車に使われた。劇中で何度か崖から落ちているのだが、翌週にはまた元に戻って走っているのが不思議なクルマだった。
2代めは、初代で順次追加されていったボディ型が発表時点でおおかた出尽くしているが、それでも変種ボディは少なくない。


1.ジムニー1000
追加ボディというよりは、普通車版「ジムニー1000」用ボディで、「ジムニー8」の後釜だ。1982(昭和57)年8月20日発表、翌21日発売。
「ハーフメタルドア」「フルメタルドア」「バン」は軽ジムニーと共通。
オリジナルなのは、ピックアップボディのジムニー1000だ。当時もいまも見たひとは少ないだろう。筆者も見たことがない。



2.ジムニー1300ワゴン
軽ジムニーが数度の改良を重ねた後の1984(昭和59)年11月6日に、普通車ジムニーの1300が発売された。ボディ種はジムニー1000と同じ4つだが、従来のピックアップに代わり、シリーズ初の乗用車版「ジムニーワゴン」が加わった。
3.パノラミックルーフ
屋根を深くしてハイルーフ化、その後部両サイドにパノラマウインドウを嵌めこんだ。開閉はできないし、面積もそれなりだが、これだけでも車内は明るくなるし、夜のビル街の灯りの下を走るのも楽しくなる。3代め以降のジムニーにこのような遊び心がないのは残念だ。
このパノラミックルーフはまずジムニー1300の1985(昭和60)年12月18日発表・発売のマイナーチェンジ時に「パノラミックルーフ・ワゴン」として追加され、約2年後の1987(昭和62)年11月16日にマイナーチェンジを受けた軽ジムニーにも追加された。


4.新軽自動車規格対応
1990年2月21日発表、3月1日発売。全長100mm延長、エンジン排気量550ccから660ccに拡大する1990年版軽自動車規格に対応した。このときは一部を除き、他メーカーも含めたほとんどがノーズorバンパー延長で対応した。
ジムニーもその例に漏れず、箱型ボディはそのままに、前後バンパーを樹脂化&延長し、フロントフェイスを一新するにとどまった。

5.1300シエラ
ワイドトレッド化を果たすと同時に、ワイドフェンダー、ワイドな205/70R15タイヤを装着。その後のどのジムニーにもない、乗降を助けるサイドステップを備えている。1993(平成5)年5月18日の発表・発売時は5MTのみだったが、半年後の11月15日に3速AT車も追加された(発売は11月30日)。
なお、「SIERRA(シエラ)」のサブネームをつけたのはこのときが最初。「連邦、山脈」を意味する英語だ。

6.大幅改良版ジムニー&シエラ
1995年11月13日発表・発売。
ジムニーが独占していた軽の本格オフロード4駆市場に、1994年にパジェロミニが参入したことを受け、こちらジムニー&ジムニー1300シエラがうかうかしちゃおれぬと大幅改良。
目玉はサスペンションの一新と、軽ジムニー史上初の乗用車版の投入だ。併せて顔も変えている。
それまで板ばねで進めてきたサスペンションは、いまに続く3リンクリジッドアクスルのコイルスプリングに刷新。車軸懸架には違いないが、乗り心地を向上させている。
ライバルが現れると競争で商品がよくなることの好例だ。




7.海外ジムニー
今回のジムニーノマドは従来シエラをストレッチして5枚ドアにしたものだが、ストレッチジムニーは何も今回が初めてではない。
2代めジムニーにはこんなのもあった。

インドのマルチ・スズキが造っていた「ジプシー」だ。
もともと存在していたロングホイールベースにしたフルメタルドアのトラック版にレジン製と思われるハードトップを前席ルーフも含めてかぶせるジプシーだ。
この角度から見るジプシーなんぞ、ラジオかテレビの中継車みたいな趣がある。

3.3代めジムニー
1998年1月、軽ジムニーよりひと足お先に普通車版「1300シエラ」がモデルチェンジ。ネーミングも「ジムニーワイド」に改めた。
内外にあふれていたオフロード感覚は薄まり、スタイリングの振り子を思いっきり乗用車志向に振った。






いっぽうの軽ジムニーは、同年10月発効の新軽自動車規格(=現行軽規格)に対応するモデルチェンジ。さきの「ジムニーワイド」のボディは、やはり歴代同様、前後バンパー短縮やワイドフェンダーを外してタイヤを引っ込めれば軽ジムニーになることを見据えていたのだ。




いまのジムニー&シエラは、2017年頃のリーク画像が発端でいきなり世に湧いたジムニー熱で期待値が高まった。発売後は計画台数が少ないこともあって、納車が年単位で先になるほどの品薄に・・・今回のジムニーノマド人気もその延長線上にある。
逆に3代めのジムニーシリーズは、1998年10月当時のスズキ主力軽がワゴンRに移り、新種Keiに注目が集まったこともあり、何となく「その他大勢」のエキストラ扱いになっていたのが気の毒だった。


2代めジムニーは17年のライフサイクルの間、型式も含めてかなりの種類が存在したが、こちら3代めは2代目を超える20年ライフだった割に、型式は、普通車ジムニーは「JB33W」→「JB43W」、軽ジムニーは「JB23W」だけで貫き、ボディ変更も2代目ほど多くない。その多くないボディバリエーションを見ていこう。
1.ジムニー L
本格四駆メカを備えたチビの仲間に2WD仕様があった!
日本では本格4駆の威力を発揮するシーンは少ない。この種のクルマが下取りに出されたとき、トランスファーが使われた形跡がほとんどないというのはよく聞く話だ。
というわけで、見た目はオフロード四駆でも機能は2WDで充分、このクロカンスタイルをファッションで乗りたいというニーズを見据え、「ジムニーL」が表れた。
この頃、他のクロスカントリー4WDでも一部に2WD車を販売する動きがあり、ジムニーもそれに倣ったと思われるが、出したら出したで大して売れなかったようだ。

2.ジムニーJ2
同じく軽ジムニーの2WD仕様。
前回の「ジムニーL」は、ジムニーから4WDメカを取っ払っただけのものだった。今回の2WD化は少し狙いが異なり、乗降性向上のため、本家では16インチとなるタイヤを15インチに落とすなどして、地上高&車高を35mm低くした。専用のグリル&フードパネルを起こして不評の(?)「ガイコツ」顔から引き離したと同時に、車体色もカジュアルなものに仕立て上げた。
乗降性向上と併せ、ジムニーなのにまるでアルトの女性向け特別仕様車のような位置づけの「ジムニーJ2」だ。

3.フロントフェイス一新
2002年1月21日にシリーズ改良。普通車版「ジムニーワイド」の車名が「ジムニーシエラ」に戻された。
軽ジムニーのほうはフードとラジエターグリルを分断して「ガイコツ」顔をやめ、グリルは横3本バーのオーソドックスな姿に。フードはおそらく「J2」の型を使っている。
いずれにしても親しみやすい顔になったが、シエラはガイコツのままだ。


4.フロントフェイス再び一新
2004年10月、軽ジムニーは横桟だったグリルを「日」の字型に変更したいっぽう、シエラは相変わらず「ガイコツ」顔を継続する。
内装に触れると、ここで初めて計器盤を一新し、トランスファー切り換えはボタン式に変更、4ATのシフトがストレート式からゲート式に改められた。




5.フロントボディ構造変更
大がかりな変更を受け、歩行者保護対策としてフード高さや構造を変更した。ぱっと見ではわからないが、ヘッドライト上縁からフード上面までの距離(厚み)が増え、フードの傾斜がより水平に近くなった。併せてフェンダーも高くなっている。
シエラも同様の変更を受けることで、いよいよ「ガイコツ」顔と訣別。フードも軽ジムニーと共通化されたことから、ターボのインタークーラーの冷却風取り入れ口は、ターボのないシエラではふさがれている。
この2年後には、最後の改良で外装はそのままに、メーターやシート表皮の見てくれを変えたほか、シエラは横滑り防止装置とトラクションコントロールを標準化した。


6.海外ジムニー
3代めジムニーは、数度の外観変更はあったものの、過去と異なり、20年間クローズドボディで走りぬいた。
といってもそれは国内仕様の話で、海外にはレジントップを脱着するオープンモデルもあった。ここではそのオープン型も含めたイギリス仕様、ブラジル仕様をお見せしよう。








細かいことをいうと、2代めまではオープンモデルが存在したことからどの世代もグローブボックスにキーがついていた。盗難防止のためで、3代目の途中まではエンジンフードの解除ノブもボックス内に存在していた。国内仕様にオープンモデルが存在しないのに3代めもボックスがキー付きだったのは、海外にオープン型があったからで、国内仕様にとってはうれしい巻き添えだったわけだ。
以上、ジムニーに5ドアが追加されたことに伴って振り返ってみた、過去ジムニーボディバリエーションの博覧会でした。