快感のシフトフィール! 「高容量FR向けMT」はネオヒストリックFRスポーツカーの救世主となるか?【東京オートサロン2025】

トヨタGRパーツ・高容量FR向けマニュアルトランスミッションのカットモデル。
2025年1月10〜12日に幕張メッセで開催されたカスタムカーショー「東京オートサロン2025」の北ホール9-10にブースを構えたトヨタガズーレーシング。その「GRパーツ」コーナーに事前も事後も告知なく参考出品されていた「高容量FR向けマニュアルトランスミッション」、その正体は?
REPORT&PHOTO●遠藤正賢(ENDO Masakatsu) PHOTO●トヨタ(TOYOYA)

S耐参戦GR86に搭載して開発中。A80型スープラや他社製エンジンへの組み合わせも視野に!?

 オートサロンのトヨタガズーレーシングブースでは近年、「GR」ブランドを中心としたカスタムカーを出品するのみならず、モータースポーツの現場で得た知見を盛り込んで開発されるチューニングパーツ「GRパーツ」や、旧車向けの復刻部品「GRヘリテージパーツ」のコーナーも展開するのが恒例となっている。

廃番となってしまった補給部品を復刻し、純正部品として再販売する「GRヘリテージパーツ」。

 その「GRパーツ」コーナーで今回、単に展示するのみならず、シフトレバーを操作可能な状態で置かれていたのが、「高容量FR向けマニュアルトランスミッション」だ。

 トヨタ自動車で約30年間にわたりMT設計を続けているという、同社パワートレーンカンパニーの大澤英也主査に聞くと、このMTはスーパー耐久シリーズ(S耐)に参戦しているGR86に搭載され、実戦を通じて開発が続けられているもの。

カーボンニュートラル燃料を搭載したGR86がスーパー耐久シリーズに参戦中。

 プロのレーシングドライバーが長時間にわたり全開走行を続けた際の、加減速・旋回Gを含めた高負荷と大入力でも壊れない耐久性と、コンマ1秒を削るための素早い操作でもミスしない正確無比な操作感を重視して設計されているという逸品だ。

 実際に操作を試してみると、シフト(前後)・セレクト(左右)側ともショートストロークかつ、ずっしりと重めの手応えで、遊びも少ない剛性感に満ちた感触。それでいながらフリクションは感じられず、斜めシフトを試みても、途中で引っかかることや、2→5速などセレクト側へ2段またいだギヤへ誤って入れる形でのミスをする心配は無用と思えるほどだった。

 従来のトヨタ車のMTでは、軽く正確でスッキリした感触である一方、ストロークは長めで手応えも乏しいものが多く見られたが、それらと大きく異なるものであるのは間違いない。

オートサロンの会場では実際に操作することもでき、多くの来場者が楽しげにその精緻な感触を満喫していた。

 しかもこのMT、GR86だけのために開発されているのではない。トルク容量は「トヨタ市販車の品質基準において550Nm」(大澤主査)で設計されているため、GR86であれば過給器チューンでもしない限りオーバークオリティだとなるだろう

 つまり、GR86以外のFR車、JZ系直6(ターボ)やGR系V6、あるいはUZ系やUR系V8エンジンとの組み合わせも視野に入れたものとなっている。さらには他社製のエンジンに組み合わせることも想定し、フロント側取付部のみ容易に変更可能としているのだ。

 実際に、「A80系スープラ用ゲトラグ製6速MTの部品供給がすでにストップしており、再生産の予定もないので、困っているユーザーが多い」(大澤主査)ため、その代替品ニーズに応える狙いもあるのだとか。また、ATが搭載されたFRのスポーツカーやスポーツセダンを、MTに換装して楽しむといったニーズが根強いことなども考慮されている。

1993年デビューのA80型スープラ。
RZには280PSを発生する2JZ-GTE型エンジンを搭載し、ゲトラグ製6速MTが組み合わされた。

 そんな「高容量FR向けマニュアルトランスミッション」、開発はほぼ終わっており、事業性や量産性を検証中で、「豊田章男会長や佐藤恒治社長から市販化の承認を得る直前まで進んでいる」(大澤主査)とのこと。

「来年のオートサロンでは発売時期と価格を発表したい」としながら、その価格は「ドグミッションより安価な100万円を切ることを目指している」というから、MTの交換・載せ替えに困っているネオヒストリックFRスポーツカーのオーナーにとっての救世主的存在になり得るだろう。一日も早い発売を期待したい。

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著者プロフィール

遠藤正賢 近影

遠藤正賢

1977年生まれ。神奈川県横浜市出身。2001年早稲田大学商学部卒業後、自動車ディーラー営業、国産新車誌編…