
日産とホンダの経営統合に向けた協議が進むなか、慎重な姿勢を示した三菱自動車。つい先日、2024年4月から2024年12月までの決算発表があり営業利益は前年同期を下回り、それでも売上台数は国内・海外含めて69万4千台を記録している。確かに連結経常利益は前年同期比で50%以上もの下落ではあるが、SUVとミニバン、軽自動車だけしかラインナップしていない現状では健闘していると言っていいのではないか。それだけに経営統合に参加するかどうかの見極めには微妙な判断が求められることだろう。

このように三菱自動車は背の低い車種を削減して得意とする4輪駆動とハイブリッド技術に特化したメーカーとなっている。これは例の不祥事に端を発した経営規模縮小の結果だが、昭和・平成の時代には様々な車種をラインナップしていた。特に昭和40年代くらいだと軽自動車のミニカやそのクーペ版であるミニカスキッパー、小型セダンのランサー、さらには2リッターセダンのギャランとそのクーペ版であるスペシャリティモデルのギャランGTO、高級モデルのデボネア、4輪駆動のジープとひと通りの車種を揃えていた。SUVとミニバンばかりの現状からは想像もできないラインナップだった。

この時代は2ドアクーペやハードトップが人気で、老若男女問わず支持されたもの。そこで三菱は2ドアクーペのGTOやハードトップのギャラン、ランサーの2ドアを販売していたにも関わらず、小排気量の2ドアモデルとして1971年にギャランクーペFTOを発売している。これで軽自動車のミニカスキッパーとともに5車種もの2ドアモデルが揃うことになった。ギャランクーペFTOはギャラン系から多くの部品を共用していたものの、その全長は4メートルを切る3765mmでしかない。当然ホイールベースも短く2300mm。小さなボディに搭載されたエンジンは当初、OHVの1.4リッターである4G41型。小さく軽いボディを武器に非力なエンジンでもスポーティな走りを身上としていたのだ。

だが、さすがにOHVでは時流に乗れないと判断され、73年のマイナーチェンジでSOHCへと切り替えられる。サターンと名付けられた1.4リッター4気筒の4G33型エンジンはシングルキャブとツインキャブの2種類がラインナップされ、新たに1.6リッターの4G32型も加わることになった。1600シリーズでは最上級グレードであるGSRにオーバーフェンダーが装着されたこともあり、一気に人気車種となる。ただ、1400モデルが継続されたことは意義深い。今も昔も排気量が1500cc未満だと毎年の自動車税が低くなる。さらには任意保険の料率も低いため財布の軽い若者などにはうれしいことであり、維持しやすいスポーツモデルとして貴重な存在だった。

しかも1400SLにはツインキャブが標準なだけでなく5速ミッションとなるSL-5まで用意されていた。高速道路では回転数を抑えたクルージングができたうえ、ひとたびワインディングロードに向かえばシフトチェンジが楽しめたのだ。しかも軽量コンパクトでショートホイールベースな車体だから、コーナリングを楽しめるモデルでもあった。令和の今ではスポーツカーというと排気量・車体とも大きく本格的なハンドリングを有していないといけないような風潮がある。けれど、FTOのように排気量に頼らなくてもテクニックを磨けるようなモデルが今こそ欲しいと思える。

そんなFTOを久しぶりに見かけることができた。30年ほど前までは改造ベースとして人気があったものの、現在では滅多に見かけることのない希少車と言っていい部類になってしまった。ちなみに筆者はミニカスキッパーを所有しているので、なおさらFTOが元気に走っていることを嬉しく思い取材を申し出ることにした。

オーナーは53歳になる小池純さんで、東京都内にお住まいの方。この日のイベントは栃木県佐野市が開催地であるから、高速道路を不安なく走ることができなければ参加できない。それだけにメンテナンスはしっかりされているのだろうと聞けば「板金塗装以外は自分でやってます」と、DIY派であることを教えてもらえた。しかもFTOを手に入れたのは93年のことであり、すでに31年(イベント開催時)もの長きに渡り乗り続けている。それはしっかりしたメンテナンスの腕前であることの証であり、日頃から乗られていることを示している。

FTOというと一定の世代には暴走族や改造車としてのイメージが強いのだが、小池さんのクルマはノーマルに近い状態で維持されているのも好感が持てるところ。変更したのはショックアブソーバーとホイール、フロントシート程度であり、ショックアブソーバーについてはエナペタルで製作してもらったものを装着している。これは純正での走りをより良くしようと考えた結果であり、単に車高を下げたいといった理由からではない。さらに当時の純正オプションパーツにも関心が高く、ハイカムシャフトやフルトランジスターなどを揃えて装着している。

31年以上も乗り続けている理由の一つに「ショートホイールベースによるハンドリングの良さ」を挙げられている。確かにFTOはミズスマシのように軽快な動きが印象的だったもので、軽く小さな車体に1.4リッターエンジンが高次元でバランスされていた。その素性の良さは令和の今も変わらぬ魅力であるようだ。さらに92psと今も基準で見れば非力な部類のエンジンだが純正オプションのハイカムシャフトを組み込んだことで、標準以上に軽く高回転まで回ることも長く乗られている理由のようだ。

もちろん51年も前のクルマなのでトラブルは無数に経験されている。その都度、自力で復活させてきたため不具合個所からの症状の出始めにはセンサーを光らせていることだろう。この当時の三菱車らしく補修部品はそう簡単には見つからない。そこで頼りになるのは友人知人のネットワークになるのだが、困ったことにひと通りの整備ができるものだから、逆に知り合いから整備や修理を頼まれてしまうことも多いそうだ。

小池さんはこのFTOを手に入れたのは、当時乗っていた軽自動車と交換してとのこと。国産旧車が高騰している今では信じられないようなことだが、その当時だと個人でのやり取りでお金が動かない例は多かったもの。さらに現在ミニカ55バンという、これまたレアな三菱車を所有されている。これもFTOを所有し続けている縁から、無料で譲り受けることになったとか。まさに縁の賜物。さらにはスーパーカブ110やカワサキW650といった2輪も所有されていて、乗り物が大好きな人だった。