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ホンダ青山ビル、40年の歴史に幕──新本社ビルは2030年度完成へ

ホンダ青山ビルは、1985年の竣工以来、約40年にわたりホンダの本社として機能してきた。しかし、老朽化に伴い、2030年度の完成を目指して新ビルへの建て替えが決定されている。同ビル1階にある「Hondaウエルカムプラザ青山」は2025年3月31日で休館し、ホンダ青山ビル内での業務は2025年5月で終了となる。
ホンダでは一般向けに“Honda 青山本社ビル 建築ツアー”を2025年2月23日に開催する。このイベントは事前応募制となり、応募期間は2月9日23時59分まで、応募者の中から抽選で計75名が招待される。
その前段として、2月5日に報道関係者向けに特別な見学ツアーが開催された。筆者もこのツアーに参加し、歴史ある青山ビルの内部を、建築史家で大阪公立大学教授の倉方俊輔先生の解説とともにじっくりと見学する機会を得た。

「宗一郎の水」──地下3階の巨大な貯水槽

ツアーの最初に訪れたのは、地下3階にある「ヒバの大樽」だ。これは70トンもの水が貯えられている巨大な貯水槽で、本田宗一郎氏の「みんなに美味しい水を飲んでほしい」という想いから、コンクリートや金属製でなく、カナダ産のヒバを使用した木製の貯水槽となっている。ビル内で使用するすべての飲料水や、ホンダウエルカムプラザ青山で提供される「宗一郎の水」にも、この樽の水が使用されている。この水は非常時にも利用可能であり、社員や来訪者の安全を守るための備えとして機能するという。

また、当時としては珍しかった地下2階の災害備蓄庫や、ビルの外観にバルコニーを設置して災害時に窓ガラスが地上まで落下しない設計など、コストを掛けてでも万が一の時の安全を優先する、ホンダの安全思想を反映した建築となっているのも特徴だという。本田宗一郎氏の「社員や地域を大切にする」という考えが、こうした建築設計にも表れていると感じた。

16階応接室──ホンダの哲学を感じる空間

続いて訪れたのは最上階16階の応接室だ。ここは国内外の要人を迎え入れてきた特別な空間でありながら、意外にも華美な装飾はなく、シンプルかつ落ち着いた雰囲気が印象的だった。これは創業者・本田宗一郎の、権威主義的なものを嫌い「実質を重んじる」思想が反映されているのだろう。この応接室には、英国王室のチャールズ皇太子とダイアナ妃も訪れたという。大きな窓からは赤坂御所やファッションの街として知られる青山の街並みを一望でき、長年ホンダがこの地で歩んできた歴史を感じさせる。

青山ビルの歴史と今後
ホンダ青山ビルは、1985年の竣工当初から「環境との調和」や「省エネルギー性」を意識した設計がなされていた。その結果、1987年にはBCS賞(優れた建築物に贈られる賞)やインテリジェントアワード賞を受賞している。こうした歴史あるビルが解体されるのは寂しいが、ホンダは2030年度に完成を予定している新ビルにおいても「イノベーションを生み出す変革と発信の拠点」となるグローバル本社機能を有した、未来志向の環境配慮型建築を目指しているという。今回のツアーを通じて、ホンダの企業文化や創業者の理念が建築の細部にまで息づいていることを改めて実感した。

また、ビル1階のホンダウエルカムプラザ青山では、3月31日の閉館まで「ホンダ青山本社ビル クロージングイベント」を開催。本社ビルが建築された1985年から現在までのホンダの歴史やゆかりの製品を展示している。入場無料なので、ぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。