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日本はモータースポーツ天国なの、知ってる?

2025年もすでに2月に突入。モーターファン.jpでお届けしている古希(2025年2月11日で71歳)を超えても現役ラリーストとして活躍中の国際モータージャーナリスト・清水和夫氏と、元カーグラフィック副編集長/編集委員、NAVI編集長を務めたジャーナリスト・高平高輝氏のふたりによる、業界総突っ込み、切れ味鋭い実は実話なクロストークの今回は、日本で行なわれている世界選手権系のモータースポーツなどについてトークが繰り広げられた。2025年は4月のF1、5月のフォーミュラE、9月のWEC、11月のWRC。世界選手権が4種も行なわれている日本は、実はモータースポーツ天国!? そんなモータースポーツLOVEなふたりの会話その前編を聞いてみよう。

オレは2025年もヤリスHEVで全日本ラリー選手権!(清水)

清水:今年は「巳(ミ/ヘビ)」。2026年はオレ、年男!
高平:早いですね~。ついこの間、全日本ラリー選手権古希初優勝のパーティーをしたと思っていたら!(※2024年5月10~12日 YUHO RALLY TANGO supported by Nissin Mfg[京都]ヤリスHEV・清水和夫選手、JN-6クラス優勝♪)
清水:つい最近、赤いチャンチャンコ着た感じなんだけどねぇ。60歳超えたら早い!! 高輝は今いくつだ?
高平:64歳ですね。還暦(60歳)のときはコロナ禍の頃だったので、す~っとワープしたみたいな感じだったんです。
清水:さて、2025年2回目のクロストークは、モータースポーツの話をしたい!
高平:おっと!
日本系が世界選手権をけっこう総なめにした2024年

清水:2024年、F1でドライバーズタイトルはマックス・フェルスタッペン(レッドブル/ホンダエンジン)で、チームタイトルはマクラーレン(メルセデス)。WECはトヨタ(HYPERCAR マニュファクチャラーズランキング)。WRCもトヨタ(TOYOTA GAZOO Racing ワールドラリーチーム)。


※F1=FIA Formula One World Championship
WEC=FIA World Endurance Championship
WRC=FIA World Rally Championship
FE=FIA Formula E World Championship


高平:WRCのドライバーズタイトルはヒョンデ(ティエリー・ヌービル/Hyundai Shell Mobis World Rally Teams)が取りましたけど。
清水:最終戦のラリージャパンでヒョンデがクラッシュしなかったら…タイトル、ヒョンデが取っていたのかなぁ。
高平:今のWRCでは、トップドライバーの争いで1分の差がついたら、それは事実上もう決定ですよね。
WRCはサスペンションの動きを見ているだけで面白い!(清水)

清水:じゃ、まずWRCの話から行こうか。サスペンション、もの凄く動くよね。動画で見ると分かりやすい。
高平:自分で乗ったりエンジニアに詳しく聞いてみたいんですけど、今はF1と同じようにかなりセキュリティが厳しくて。昔のラリーだと我々メディアはサービステントの中に入っていって、暇そうなエンジニアやチーム監督にいつでもインタビューして、“アレはどーなってる?”、“いや、それは言えないよ!”とかできたんですけど、今はF1と同じ。よほどのチーム関係者以外、ピットの中には入れない。
清水:ネタバレしないように?
高平:ネタバレというか、非常にシステマチックなマーケティング優先なものになって、ちょっと昔のラリー屋としては残念。

清水:うん。でも本当にこんなに動くのか!っていうくらいサスペンションストロークが長くて、ビックリするくらい動くよね。
高平:あれね、全部に関わってきているんです。今のラリー1カーもラリー2カーも、いわゆる我々が普段お世話になっているセンターデフというものがないんです。
清水:直結4駆ね、昔のレオーネだな。
高平:だから曲げるのが大変なんですよ、ターマックなんか特に。
清水:だからサイド引いたり?
高平:サイド引くと切れるクラッチっていうか、油圧のシステム。
清水:クラッチ切るとどうなるの? FFになる?
高平:そうです。なんですけど、その時は駆動が急に抜けちゃったりするので、使い方というか荷重移動が逆に必要なんじゃないかと。
清水:リジット4駆だとブレーキング現象があるから、確かオレの記憶ではド・アンダーだよ。どうやって曲げてるの?
高平:過重移動とサイド引き。緩いコーナーであれば前と後ろのデフは付いているので。

清水:なんでセンターデフ取って直結にしちゃっているんだろ? その方が速いってこと?
高平:いえ、コストです。
清水:コスト???
高平:今はパドルシフトも禁止だし、要は機械式でやらなくちゃいけなくて、電子制御のものをできるだけ付けるな!っていうこと。シーケンシャルの5速ですよラリー1カーも。今のレギュレーションが導入されたのは2022年だったかな?
清水:じゃあ、日本で勝田範彦選手とかが走っているのはセンターデフ有りなんだよね?
高平:ラリー2カーはないです。だから難しいんですよ。
清水:シュコダは?
高平:もちろんないです、レギュレーションで決まっているので。今、構造はレギュレーションで決められていて、ラリー1カーはセーフティセル(保護用骨格)も一緒だし、サスペンションの基本形式も一緒なんです。
清水:なるほど。
電動化されたWRC Rally1車両には近づけないんですよ!(高平)

高平:その中でいろいろやらなくてはいけないので、また違った重箱の隅をつつくようなシビアな争いがある。あと面倒なのがハイブリッド。これは2025年からはなくなるんです、めでたく!
清水:めでたく! 燃えちゃうから?
高平:いや、手間がかかるんです。我々が気軽にピットに入れず、クルマの近くは部外者立ち入り禁止!っていうのは、それもあるんです。700Vで作業中だから、グリーンランプが点いている時しか触っちゃダメとか。
清水:なるほど~。
高平:溝に落ちて誰かに押してもらえばすぐ出せるのに!っていう時も、グリーンランプが点いているとき以外、観客は絶対近くに寄るなと。

清水:2023年と2024年、オレはヤリスHEVで走っていたけど、ドラミでFIAから言われている。“電動車はゴム手袋を持て”とか、“クラッシュしてクルマから降りるときはいっぺんに足を着くな”とか、そんな講習会があるんだよね。
高平:現実的じゃない気もしますが、ワークスドライバーはみんなそういう講習を受けてちゃんとやっているんです。
清水:でもさ、日本車のバッテリーって燃えていないからね。安全性はすごい神経使っているよね。
高平:あれはワンメイクで、コンパクト・ダイナミックス(Compact Dynamics GmbH/拠点はドイツ・シュタルンベルク/シェフラーの子会社)というメーカーで、しかもユニットだけでラリー2カー1台分くらいするんですって。
清水:日本の方がハイブリッド技術があるのにね。スーパーGTもそうだけど、ワンメイクになると全部ヨーロッパのものがスタンダードになっちゃう。

高平:UAE(アラブ首長国連邦)のビン・スライエム(Mohammed Ahmad Sultan Ben Sulayem)というセリカに乗っていた元ラリードライバーのお金持ちがFIAの会長になったら、そういうものを全部廃止して、関わった連中が今どんどん首切られています。
清水:じゃあ、いい方向に向かっている?
高平:いや~、前に戻したからいい方向になるかどうかっていうのは、自動車メーカーの合併などと同じでわからないことが多すぎる。
清水:じゃあジャン・トッド(Jean Todt)じゃないんだね。彼はFIAの安全の方のアンバサダーだよね。
高平:なんかやっていますけど、もう表舞台には出てきていない。もうリタイアするということで。
全日本ラリー選手権、電動クラスはJN-6→JN-Xに名称変更
清水:2024年、たまたま全日本ラリー選手権のJN-6クラスでシリーズ2位になったんだけど、シリーズ最後の方でトップの天野智之選手(豊田自動織機Racing Team/トヨタ・アクア)とちょっと差が詰まっていたから、2025年はもうちょっと行けるかな?と思っているんだけどね。
高平:いや~面白い! ベテラン勢が全日本ラリーで頑張っているのを見ると、凄いイイ感じですよ!

清水:アハハッ! 2024年まで『JN-6クラス=駆動方式を問わず1.8L以下のAE車両』が、2025年からは『環境対応クラス JN-X』と名称が変わり、2024年まで排気量が1.8Lのハイブリッドだったのが、2025年からは2.5L以下までOKになったので、RAV4プラグインハイブリッド、エクリプス、そういうのが出てこられる。後ろのオープンクラスじゃなくてね。だからRAV4 PHEV VS. ヤリスHEVみたいな。RAV4 PHEVは圧倒的にバッテリー容量があるから、バッテリーがあるうちはRAV4のほうが速いんだよね。でも、あのデカさだから、それが日本の山道でどうなるか?っていうのは楽しみなところ。オレは引き続きヤリスHEVだけどね。
※AE車両=電気モーター、または電気モーターとエンジンを併用して動力とする車両で、保安基準に適合し、かつメーカーラインオフ時の諸元が変更されていないもの。
高平:やりづらい…ですね。
清水:バッテリーリッチにしたいから、そうするとプラグインハイブリッドにする。そうすると、エンジンの排気量がどうしても大きめになりSUVになっていっちゃう。だから2025年のハイブリッドクラス=JN-Xは面白いと思うよ。デカいPHEV、ちっちゃいヤリスみたいなHEV。そこにホンダのCR-Zとか。
高平:ほ~、なるほど。
清水:マツダのロードスターに“チョロ”でもいいからマイルドハイブリッドを出してくれたら、JN-Xクラスで走れちゃうんだよね。ロードスター/2.0Lにマイルドハイブリッドなんか付けたら速いんじゃないかなと思うんだけど。
高平:いい感じですけど、ハイブリッドであればなんでもあり?
清水:なんでもあり。CR-ZもOKだし、マニュアルだってOK。
高平:昔のパリダカみたいになって面白いけど…。
清水:何でもありのほうが面白いよね。
高平: 2025年は勝つ見込みは十分、手応えはあるでしょ?
清水:天野智之さん(←2023年&2024年JN-6クラスシリーズチャンピオン/和夫さん最大のライバル!)が2025年も同じ車両(アクアGR SPORT)だったらオレとの差が詰まっていたからいい感じかな♪っていうのはあるんだけど、2025年の天野さんは車両をRAV4 PHEVに変えちゃうから。それが丁と出るか半と出るか。でもね、RAV4 PHEVはオレも富士スピードウェイの北ショートコースを走ると、バッテリーがあるうちは速い。0-100km/h=5秒台だからね。
高平:タイヤは大丈夫なんですか?
清水:そこなんだよ! タイヤメーカーも適応するのに1年かかるから、2025年はタイヤに関してはちょっと我慢するのかな。でも2026年は、こっちもプリウスPHEVで行くか!?とか。
高平:全日本ラリー選手権も、これだけトヨタがいろいろな“草の根ラリー”とかサポートしてプッシュしてってなると、東京から豊田市に行くと、あそこだけラリー熱がものすごく燃えています。
清水:WRCもやっているしね。
…さて、ふたりの止まらないクロストークは後編へ続く!