えっ、四駆じゃないの!? 後輪駆動のEVは雪道でも大丈夫なのか、走って試してみたら…【ボルボEX30】

リヤモーターのボルボEX30で新潟県・上越市を目指す。途中、野尻湖のナウマンゾウ像に立ち寄った。(写真は合成です)
日本有数の豪雪地帯に、電気自動車、それも四駆ではない後輪駆動で訪れる。そんな話を聞いたとき、「大丈夫なのか!?」と不安が頭をよぎったのは言うまでもない。ところが、真冬の妙高高原の雪道をボルボEX30はなんなく走破してみせたのだから、恐れ入りました!

新潟・妙高高原へ。銀世界の中、後輪駆動のEX30で普通に走れちゃいました

バッテリー電気自動車(BEV)のボルボEX30で雪道の走行性を確かめるドライブに出かけた。出発地は東京・青山のVolvo Studio Tokyo(が入居しているビルの地下駐車場)。外苑で首都高速に乗り、4号線高井戸でいったん下道に降りて環状8号線〜笹目通りを北上。練馬ICから関越道に乗り、上信越自動車道を進んでJR上越妙高駅前が目的地である。寄り道せずに向かえば約300kmの行程だ。

2023年11月から日本での販売が始まったボルボのコンパクトEV、EX30。ボディは全長×全幅×全高:4235mm×1835mm×1550mmで、街中でも気兼ねなく扱えるサイズとなっている。WLTC航続距離は560km以上と、小さい体躯の割にはなかなかなもの。

スタートは朝9時過ぎ。69kWhのバッテリー容量を持つボルボEX30のセンターディスプレイは、バッテリー残量が98%、航続可能距離は412kmであることを示していた。計算上は道中で電気エネルギーを補充することなく、目的地に到着できる。19インチのホイールには、245/45R19サイズのミシュランX-ICE SNOWが装着されていた。

センターディスプレイでサイドミラーの角度調整やパイロットアシスト使用時のレーンチェンジアシスト(システムをオフにすると解除されるので、システムオンのたびにチェックが必要)をオンにし、パイロットアシスト使用時の車間距離は「普通」にして、ワンペダルドライブをオンに調整した。

アダプティブクルーズコントロール(ACC)とレーンキープアシストが組み合わされたパイロット・アシストを使いながら関越道を走行。制御の精度も高く、長距離走行時の疲労を格段に低減してくれる。

乗り込んで約30分、都内走行時の外気温は15℃を示していたが、シートヒーターとステアリングヒーターをオンにした。直近では、フォルクスワーゲン・ゴルフ8.5がステアリングヒーターを3段階に調節できて驚いたが、ボルボEX30もレアケースの3段階である。

ミニマリズムが感じられる整然としたインパネ。シートヒーターやステアリングヒーターの操作は、センターディスプレイで行なう。
内装色は、北欧の自然をイメージした2種類が揃う。試乗車はブリーズ(ライトブルー)で、もう1種類はミスト(ベージュ)。

横川SA(群馬県安中市)で休憩し、ドライバーチェンジした。ここまでの走行距離は141.7kmで、区間電費は20.1kWh/100kmである。kmあたりに換算すると約5.0km/kWhということになる。夏の終わりにEX30で400km超を走った際は6.5km/kWhだった。横川SAまでずっと上り勾配だったこと、転がり抵抗の小さな夏タイヤではなく、スタッドレスタイヤを履いていること。エアコンだけでなくシートヒーターとステアリングヒーターを使っていることが、電費の違いになって現れたか。

道中、パイロットアシスト(アダプティブクルーズコントロール=ACC+車線維持支援)を試した。過去の試乗で体験済みだが、確認の意味で使ってみた。ステアリング上のボタンで操作するのではなく、ステアリングの右側にあるギヤセレクターを押し下げることで機能がオンになる。前方をから視線を移さずに操作できるので便利だ。

ギヤセレクターはステアリングコラムの右側に備わる。ステアリングから手を離さずに指先だけで操作できるのが便利。

車線変更をサポートするレーンチェンジアシストが実行可能な状態になると、センターディスプレイに表示される自車マークの左右どちらかの車線、もしくは両方に緑の枠が表示される。方向指示器のレバー(左側)を車線変更したい方向に動かすと、システムが車線変更をサポートしてくれる。その間、ドライバーはステアリングにしっかり手を添えている必要がある。うっかり手を緩めるとキャンセルされてしまう。感覚をつかむには、慣れが必要だ。うまくいくと、なぜかうれしい。ゲーム感覚である。「なんのためにやっているんだっけ?」と、我に返ったりもするが。

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「えっ、四駆じゃないの!? 後輪駆動のEVは雪道でも大丈夫なのか、走って試してみたら…【ボルボEX30】」の1枚めの画像
車線変更が可能な場合は、隣の車線に緑枠が現れる。

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「えっ、四駆じゃないの!? 後輪駆動のEVは雪道でも大丈夫なのか、走って試してみたら…【ボルボEX30】」の2枚めの画像
ウインカーを操作すると、レーンチェンジアシストが作動。

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「えっ、四駆じゃないの!? 後輪駆動のEVは雪道でも大丈夫なのか、走って試してみたら…【ボルボEX30】」の3枚めの画像
自動でステアリング操作が行なわれ、隣の車線にスムーズに移動。慣れると便利。

急速充電を試してみようと、車載ナビ(Google)でルート沿いの充電スタンドを検索してみた。ルートからやや外れた位置に180kWの出力を持つ充電スタンドがあることが判明したため、信濃町ICで降りる。ついさっきまで外気温7〜8℃で推移していたのに、信濃町ICを降りる頃には2℃に下がり、周囲はすっかり雪景色。当座の目的地に到着してみると、大人の遊戯施設の駐車場に設置されていた急速充電器は稼働していなかった……。

車載ナビで見つけた充電スタンドは、まだ稼働前だった模様。まさかの光景に、しばし呆然…。

スマホのアプリなどで急速充電器の稼働状況や満空情報を確認しておいたほうが、旅のプランや心理への影響を抑えることができるだろう。

この時点で航続可能距離は94km、バッテリー残量は21%だった。計算上は目的地までたどり着ける数字が残っていたが、撮影のために寄り道することを考え、近くの道の駅(道の駅しなの「ふるさと天望館」)で充電することにした。最大出力は20kWだが、昼食をとる間に最大で10kWは注ぎ足しができる……算段だったのだが、先客がいた。「こういうことがあるんだよねぇ」というのが、行き当たりばったりのBEVの旅である。

「道の駅しなの」内の食堂で昼食タイム。名物の「霧下そば」…ではなく、ソースカツ丼をオーダーした世良耕太さん。ガッツリ食べたい気分だったのですね。

ランチ後、野尻湖(長野県・信濃町)周辺で雪道ドライブを堪能し、雪まみれのナウマンゾウ親子像を横目に野尻湖ナウマンゾウ化石博物館のショップを冷やかし(なぜか火山灰分析関連の本を買い)、上信越道に戻って妙高SAの急速充電器(50kW)を利用した。さすが豪雪地域の設備なだけあり、充電器だけでなく充電スペースも屋根で覆われており、充電ケーブルを扱う際に雪まみれにならず助かった(それに、先客はいなかった!)。

国道18号線「野尻湖」交差点付近に設置されたナウマンゾウの像は、撮影スポットとして有名。化石から想定される実物大なのだとか。本当は子どもの像も隣にいるのだが、積雪に埋もれてしまっていた。
「野尻湖ナウマンゾウ博物館」前にて。1948年に湖底でナウマンゾウの歯の化石が見つかったのが発掘のきっかけ。
妙高SAで急速充電(50kW)を実施。30分の充電で、バッテリー残量は14%→47%、航続距離は73km→201kmまで回復して一安心。この頃から降雪が激しくなり、路面にはみるみる雪が積もっていった。
EX30の充電ポートはリヤフェンダーの左側付近に配置される。

この時点で航続可能距離は73km、バッテリー残量は14%だった。BEVユーザー的には「まだ73kmも走れる」という感覚だし、目的地までの距離を考えれば充分なのだが、乾電池を模したアイコンは空白が大部分を占め、地の部分が白から赤に変わって緊急度の高さを知らせてきており、心理的には落ち着かない気分になる。

充電している間にソフトクリームとコーヒーを楽しんだ(一体どっちが目的だったんだか)。充電後は航続可能距離が201km、バッテリー残量は47%に回復した。さあ、思う存分走れるぞ、というわけで、中郷ICで降り、妙高スキー場方面に針路をとった。

日本有数の積雪地帯である妙高高原に到着。さらなる雪を求めて、妙高スキー場方面へノーズを向ける。

このころ、「雨ならゲリラ豪雨だね」、と表現したくなるくらい雪の降りはすさまじく、バケツをひっくり返したような雪(?)であったことは、写真からも感じとっていただけると思う。道路も真っ白だった。ボルボEX30は最高出力200kW、最大トルク343Nmのモーターをリヤに搭載する。つまり、後輪駆動車だ。

路面はぶ厚い雪に覆われていた。EX30は最低地上高が175mmあるのが、こういう場面では頼もしい。

後輪駆動車は雪道のような非常に滑りやすい路面ではグリップを失って横滑りを誘発し、スピンモードに陥りやすい。というのが一般的な理解だろう。雪道であるのをいいことに、舵を入れた状態でちょっと強めにアクセルペダルを踏むと、リヤタイヤはスリップし、クルマのお尻がふらつく素振りを見せる。そのまま放っておくと尻の振り出しは大きくなってスピンしてしまうかもしれない。

4WDではないということで身構えながら走行した雪道だが、制御のおかげもあり、安定した走行が可能。

だが、EX30はそうなる前に制御が介入し、クルマを安定方向に導いてくれる。どんな雑な操作をしても破綻することはない(といって、雑な操作はおすすめしないが)。急な登り勾配かつタイトなコーナーが連続する区間では、リヤタイヤがスリップとグリップを繰り返しつつもラインをトレースし、着実に前に進んでいく。滑ってどうしようもない、という困った状況には陥らない。

予想を裏切り(?)、深雪もものともしないEX30。油断は禁物だが、RWDでもここまで走れるのには驚かされた。

雪に覆われた山道や、(写真のような)深雪での走行性に問題は感じなかった。深雪での停止からの発進にも問題はなく、そうとわかってしまえば安心して運転できる。後輪駆動車に特有のお尻が振り勝手な挙動は出るが、モーター駆動車に特有の制御性の高さとアクセルコントロールのしやすさが安心・快適なドライブを約束してくれる。そんな印象だ。

速度調整に気を遣う場面では、ワンペダルドライブが活躍する。これも電気自動車であるEX30のアドバンテージだ。

写真のような過酷な状況で不安なく運転できるのだから、たまにうっすらと雪が積もる程度ならまったく問題はなさそう。後輪駆動車だからといってEX30を敬遠する理由は見あたらない。むしろ、雪道のような滑りやすい路面でのモーター駆動車ならではの運転のしやすさが際立ち、ありがたく感じた。

タイヤは245/45R19サイズのスタッドレスタイヤ「ミシュランX-ICE SNOW」を装着。

雪が降りしきる妙高スキー場付近は外気温が−1℃だった。ルーフや窓に付着した雪で車体が冷やされるうえに湿気が多い。そのせいか、前後のウインドウが曇ってくる。視界を確保するためフロントウインドウのデフロスターとリヤウインドウのデフォッガーを使った。となると電力の消費が気になってきて、「シートヒーターはやめておくか」という心理が働いてしまう。冷えるけど……。

気がつけば、グラスルーフにもうっすらと積雪が…。その影響もあるのか、冷え込む車内。EX30のエアコンはヒートポンプ式で、電気ヒーターよりも消費電力が少ないメリットがある…のだが、やっぱりバッテリーがもったいないので節約して走行(←貧乏性)。

最終目的地のJR上越妙高駅に到着。323.8kmを走り、電費は18.8kWh/100kmだった。kmあたりに換算すると約5.3km/kWhである。バッテリー残量は36%だった(途中で33%分補充)。充電できるときにしておくものである(安心感が違う)。

ボルボEX30ウルトラ シングル モーター エクステンデッド レンジ
ボディサイズ:全長×全幅×全高:4235mm×1835mm×1550mm
ホイールベース:2650mm
サスペンション形式:前マクファーソン式ストラット 後マルチリンク
車両重量:2065kg
モーター:交流同期モーター
モーター型式:TZ220XSA02
モーター最高出力:200kW(272ps)/6500-8000rpm
モーター最大トルク:343Nm(35.0kgm)/0-4500rpm
駆動方式:RWD
0-100km/h加速:5.3秒
最高速度:180km/h
バッテリー容量:69kWh
WLTC航続距離:560km以上
交流電力量消費率:143Wh/km
市街地モード141Wh/km
郊外モード131Wh/km
高速道路155Wh/km
ブレーキ:前後ディスク
タイヤサイズ:前後245/45R19
車両本体価格:559万円
ボルボは本国(スウェーデン)で2月にEX30クロスカントリーを発表。フロントにもモーターを搭載したAWDで、よりアクティブな佇まいも魅力的。こちらの日本導入にも期待したい!

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…