新型潜水艦「らいげい」就役。新型エンジンの搭載で何が変わる?

「らいげい」の艦橋から突き出た潜望鏡(奥)と水上レーダー(手前)。以前の潜望鏡は艦橋を貫通する“一本の筒”であり、プリズムなどを介して艦内から外を眺めたが、「たいげい」型は非貫通式、つまりデジタル式であり、データとして映像情報が艦内に送られる(写真/ふにに)
3月6日、川崎重工神戸工場において新型潜水艦「らいげい」の海上自衛隊への引き渡し式が行なわれた。2022年より配備が開始された「たいげい」型潜水艦の4番艦にあたる「らいげい」だが、1~3番艦とは異なるエンジンを搭載し、さらなる能力向上を実現した。【自衛隊新戦力図鑑】
TEXT:綾部剛之(AYABE Takayuki)

リチウムイオン電池により潜航可能日数を延長

「たいげい」型潜水艦4番艦「らいげい」が海上自衛隊に引き渡され、自衛艦旗が掲げられた(写真/防衛装備庁Xより)

潜水艦には、原子力型と通常動力(ディーゼル・エレクトリック)型のふたつのタイプがあるが、海上自衛隊は通常動力潜水艦のみを保有している。半永久的に潜水航行を続けられる原子力潜水艦に対して、通常動力潜水艦はディーゼル機関を動かすため、定期的に浮上して空気を取り込む必要がある(ディーゼルで発電した電力を蓄電池に充電し、潜航中は電力を用いる)。そのため、隠密性を損なうおそれがあった。

海上自衛隊は、2009年就役の「そうりゅう」型潜水艦でAIP(非大気依存推進)機関を採用する。文字通り大気に頼らず動くエンジンで、潜航可能日数を延長できたが、こちらは出力が低いという問題があった。そのためか、「そうりゅう」型11番艦・12番艦ではAIP機関を廃止し、リチウムイオン電池を搭載する方式とした。従来の鉛電池に比べて、リチウムイオン電池は重量容積比で2倍の容量があり、これにより潜航可能日数を延ばしている。

「らいげい」型の前級である「そうりゅう」型。AIP機関により潜航可能日数の延伸を図った。「そうりゅう」型と「たいげい」型の外形は、ほぼ同じであり見分けるのは難しい。詳しい人は「たいげい型のほうが、艦橋が“ふっくら”している」と言うが…(写真/海上自衛隊)

「たいげい」型は、「そうりゅう」型に続く潜水艦であり、当初よりリチウムイオン電池搭載を前提として作られた艦だ。外観は「そうりゅう」型とそっくりで、ほとんど区別がつかないが、リチウムイオン電池の性能を引き出す機能・構造が盛り込まれている。とくに今回引き渡された4番艦「らいげい」では、新型ディーゼルエンジンを搭載したことが注目される。

リチウムイオン電池搭載艦の“完成形”

「そうりゅう」型と「たいげい」型3番艦までは、それ以前の潜水艦から使用されていた川崎重工製V型12気筒25/26型ディーゼルエンジンを小改良した25/26SB型が搭載されていたが、4番艦「らいげい」から新型の25/31型を搭載する。

リチウムイオン電池は鉛電池より大きな電流による充電が可能であり、このため短時間で充電することができる。「たいげい」型は、リチウムイオン電池に適した小型・高出力の新型「スノーケル(吸排気管)発電システム」を搭載しているが、これとあわせて開発されたのが25/31型エンジンであり、同エンジンを搭載した「らいげい」(および以降の艦)はリチウムイオン電池の性能を、より発揮できるようになったのである。

海を進む「らいげい」。同艦は第1潜水隊に配備され、母港となる呉(広島)に向かった(写真/ふにに)

高性能艦で中国の脅威に立ち向かう

「たいげい」型はリチウムイオン電池による潜航性能の向上のほかにも、新型の「18式魚雷」の装備や、静粛性の向上、高性能ソナーの搭載など、さまざまな面で「そうりゅう」型より性能を向上させている。

海上自衛隊は増大する中国海軍の脅威に対抗するため、2010年に従来の潜水艦16隻体制を改め、22隻体制の方針を決定し、2022年に達成している。「たいげい」型は年1隻ペースで建造が進み、「おやしお」型(1998年配備開始)に替わり順次配備が進んでいくものと思われ、今後の海上自衛隊潜水艦部隊の主力を担うことになる。

「らいげい」の艦橋から突き出た潜望鏡(奥)と水上レーダー(手前)。以前の潜望鏡は艦橋を貫通する“一本の筒”であり、プリズムなどを介して艦内から外を眺めたが、「たいげい」型は非貫通式、つまりデジタル式であり、データとして映像情報が艦内に送られる(写真/ふにに)

キーワードで検索する

著者プロフィール

綾部 剛之 近影

綾部 剛之

軍事関連をメインとした雑誌/書籍の編集者。専門は銃器や地上兵器。『自衛隊新戦力図鑑』編集長を務めて…