日産「ノート」に搭載の「e-POWER」、トヨタTHSやホンダe:HEVとは違う、独自のシリーズハイブリッドとは?【歴史に残るクルマと技術085】

ノート e-POWER
ノート e-POWER
すでに一般的な技術となったハイブリッド、その多くはトヨタ「プリウス」に搭載されているようなシリーズ・パラレル(スプリット)方式とマイルドハイブリッドとして採用されているパラレル方式だが、日産自動車は独自の「e-POWER」と名付けたシリーズ方式のハイブリッドを2016年にコンパクトカー、2代目「ノート」に搭載した。
TEXT:竹村 純(Jun TAKEMURA)/PHOTO:三栄・日産 ノートe-POWERのすべて、他すべてシリーズ

世界戦略車のコンパクトMPVとして誕生したノート

ノート e-POWER
ノート e-POWER

日産自動車は2005年1月、世界戦略車としてコンパクトな新世代MPV(マルチパーパスビークル)のノートを発売した。

日産初代ノート
2005年にデビューした日産初代ノート。広い室内空間と爽快な走りでヒット

ノートは、欧州市場を意識した5ドアハッチバックで、大型ヘッドライトや厚みのあるフェンダーライン、ルーフまで回りこんだリアコンビランプなど、新鮮なデザインを採用。コンパクトながらロングホイールベースを生かした余裕の室内空間と軽快な走りが評価され、2012年までに世界中で約94万台を販売するグローバルヒットになった。

日産2代目ノート
日産2代目ノート

2012年には、モデルチェンジによって2代目に移行。キープコンセプトながらダイナミックなスタイリングに変貌し、同時にボディ構造の見直しによってさらなる広い室内空間を実現した。

注目は、スーパーチャージャー付1.2L直3 DOHC直噴ミラーサイクルエンジンを採用したこと。ダウンサイジング過給コンセプトによって、全域でレスポンスの良い走りとクラストップの燃費25.2km/L(JC08モード)を達成したのだ。

HR12DDRミラーサイクルエンジン
2代目ノートに搭載されたHR12DDRミラーサイクルエンジン
HR12DDRミラーサイクルエンジン
HR12DDRミラーサイクルエンジン
HR12DDRミラーサイクルエンジン
HR12DDRミラーサイクルエンジン

そして、2016年のマイナーチェンジで「e-POWER」搭載のハイブリッドモデルが登場した。

エンジンで発電した電力でモーター走行するシリーズハイブリッド

ハイブリッドシステムは、エンジン出力とモーター出力の合成方法によって、シリーズ方式、パラレル方式、シリーズ・パラレル方式の3方式に分類される。

3種のハイブリッドのシステム構成
3種のハイブリッドのシステム構成

・シリーズ方式
エンジンは、バッテリーの発電専用、充電したバッテリーの電力でモーター走行。エンジンを効率の良い条件で定点運転できるが、EVと同様高速域で効率が低下する。
採用例:日産「e-POWER」、ダイハツ「e-SMART」など

・パラレル方式
エンジンとモーターを駆動力として使い分けるが、エンジンが主役でモーターは補助的な役割。シンプルな構成で比較的低コストなので、主としてマイルドHEVとして採用される。
採用例:ホンダ「IMA」、スズキ「S-エネチャージ」など

・シリーズ・パラレル(スプリット)方式
シリーズ方式とパラレル方式の良いとこ取りのシステム。エンジンの出力を発電用と駆動用に使い分け、エンジンとモーターの出力を合成して走行する。効率は高いが、システムが複雑で高コストとなる。
採用例:トヨタ「THS-II」、ホンダ「e:HEV」など

シリーズ方式は、3つのハイブリッドシステムの中で最もモーターを活用する、EVに近いシステムである。EVのような走行フィールが楽しめるが、比較的大きなモーターとバッテリーが必要となる。

効率の良い運転領域でエンジンを使って発電する「e-POWER」

ノート e-POWER
ノート e-POWER

ノートに搭載された「e-POWER」は、1.2Lエンジンとモーター、発電機、インバーター、リチウムイオン電池などで構成される。発電用のエンジンは、直接の動力源として使わず、増速機を介して発電機を回し、電池を充電するだけの役目。その電気を使ってモーターを回し、駆動力としてタイヤに伝えてモーター走行するのだ。

日産「ノート e-POWER」のハイブリッドシステム
日産「ノート e-POWER」のハイブリッドシステム

エンジンは、運転条件や電池残量に応じて起動させ、車速とは無関係に極力エンジンの効率が高い2200~2500rpmの領域を使う。ただし、急加速のような大電力が必要な場合は、エンジン回転は4000rpmくらいまで上昇させ、発電機からの発電エネルギーを直接モーターの駆動力として付加する。

日産2代目「ノート e-POWER」のインパネメーター
日産2代目「ノート e-POWER」のインパネメーター

すべての運転はモーター走行なので、瞬時に最大トルクを発生し、変速に頼らないリニアな力強い発進と加速が実現される。また、外部充電機能の代わりにエンジンで発電するので、燃料さえあれば電池切れになることはなく、EVのような航続距離に対する不安がないことも魅力である。外部充電の手間を省いたある種のEVと言えるかもしれない。

参考に、同時期のトヨタ「ヴィッツ」ハイブリッドとスペックを比較したのが下記である。

・日産・ノート「e-POWER」:シリーズHEV、JC08燃費 37.2km/L
搭載エンジン 1.2L 直3、モーター 80kW、リチウムイオン電池 1.5kWh、電池電圧 292V

・トヨタ・ヴィッツ「THS-II」:シリーズ・パラレルHEV、JC08燃費 34.4km/L
搭載エンジン 1.5L 直4、モーター 45kW、ニッケル水素電池 0.94kWh、電池電圧 144V

ユニークなワンペダルも採用

「e-POWER」では、さらなる燃費向上のため、積極的に回生ブレーキを使う「ワンペダル操作」を採用していることも注目された。

日産2代目ノート
日産2代目ノート

ワンペダルは、通常のブレーキペダルによるブレーキ操作を行なわずに、加速・減速・停止および停止保持をアクセルペダルだけで行なう方式で、効率よく活用すれば燃費や電費を向上させることが可能。アクセルを速く戻せば強い減速、ゆっくり戻せば緩い減速と調整ができ、もちろん通常のフットブレーキも作動するので、緊急時などでは従来通りフットブレーキで対応可能である。

ただし、ワンペダルは慣れれば操作が簡単で運転負担が軽減できるという意見もあるが、逆に扱いにくいという意見もあり、賛否があるようだ。

「ノート e-POWER」が登場した2016年は、どんな年

日産5代目「セレナ」
2016年に登場したプロパイロットを搭載した日産5代目「セレナ」

2016年には日産「ノートe-POWER」の他にも、日産「5代目セレナ」に“プロパイロット”搭載モデルが登場。スズキのコンパクトクロスオーバーSUV「イグニス」、ダイハツから女性をメインターゲットにした「ムーヴキャンバス」と「トール」、ホンダの燃料電池車でFCXの進化版「クラリティフューエルセル」、トヨタからコンパクトSUV「C-HR」がデビューした。

スズキのコンパクトクロスオーバーSUV「イグニス」
2016年にデビューしたスズキのコンパクトクロスオーバーSUV「イグニス」
ダイハツ「ムーヴキャンパス」
2016年にデビューしたダイハツ「ムーヴキャンパス」。女性をターゲットにした軽ハイトワゴン

この年の8月にダイハツがトヨタの完全子会社となり、10月にはスズキがトヨタと先進技術で業務提携を検討することを発表した。さらに、10月に日産自動車が三菱自動車の筆頭株主となり、三菱は日産傘下に収まった。

ホンダ「クラリティフューエルセル」
2016年にデビューしたホンダ「クラリティフューエルセル」。「FCXクラリティ」の進化版
トヨタ「C-HR」
2016年にデビューしたトヨタ「C-HR」

その他、4月に熊本地震が発生し、大きな被害をもたらした。東京都知事選で小池百合子氏が圧勝、米国ではトランプ氏が大統領選に勝利した。大隅義典氏がノーベル生理学・医学賞を受賞。ポケモンGOが大ヒットし、スマホ片手にポケモンを探す人々が街角に出現、そしてSMAPが解散した。
また、ガソリン135円/L、缶ビール190円、コーヒー一杯438円、ラーメン568、カレー734円、アンパン174円の時代だった。

ノート e-POWER
ノート e-POWER

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エンジンで発電機を回して、その電力でモーター走行する2代目ノートに搭載された「e-POWER」。一般的なパラレル方式やシリーズ・パラレル方式でない新たなハイブリッドシステムを提案、日本の歴史に残るクルマであることに間違いない。

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著者プロフィール

竹村 純 近影

竹村 純

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までを…