初代ヴェゼルは、2014年から2016年まで3年連続でSUV販売台数ナンバー1に輝くなど、ホンダを代表する売れ筋登録車だった。現行型の2代目は、SUVの選択肢が増える中、初代ほどの存在感を示せていない印象だったが、2024年上半期は、SUV販売台数1位を獲得。2024年3月に新たに加わったエントリーSUVのWR-Vとヴェゼルは、サイズが似通っていて迷う方もいるかもしれない。


ボディサイズが近いヴェゼルとWR-Vだが、走り味はかなり異なる
センタータンクレイアウトを採用するヴェゼルは、全長4340×全幅1790×全高1580〜1590mm、ホイールベースは2610mm。タイで開発され、シティをベースとするWR-Vは、全長4325×全幅1790×全高1650mm、ホイールベースは2650mm。


WR-Vは、センタータンクレイアウトではないものの、広大な後席の足元空間とラゲッジを確保。前席側の床面が少し高くなっていて、足置き性もいい。2024年4月にマイナーチェンジを受けたヴェゼルは、WR-Vには設定されていないハイブリッドの「e:HEV」の走りを磨きあげた。エネルギーマネジメントの変更で、バッテリーの使用範囲を約8%拡大し、EV度合いを高めている。エンジンの始動、停止の頻度が少なくなったことで、静かでスムーズな走りを手に入れた。1.5Lガソリン車、FFのみになるWR-Vとの差は、走りにも明確に現れている。とくに、荒れた路面での振る舞いは、ヴェゼルの方が1枚も2枚も上手だ。ヴェゼルも低速域では揺すぶられるような動きもある。両モデルともにホンダらしく引き締まっている足であっても、ヴェゼルの方が動きはより滑らかで、フロアからの微振動も抱かせない。減衰もヴェゼルの方が巧みだ。音の侵入もヴェゼルの方が小さく、上級モデルという位置づけにふさわしい上質感を備えている。


一方のWR-Vは、120kgほど軽いこともあり、軽快なフットワークが印象的。1.5Lガソリンエンジンは、少し回すと音・振動面ともに高めで、加速時にはCVTの泣き所であるラバーバンドフィールとも無縁ではない。WR-Vとヴェゼル(ガソリン車)のエンジンスペックは、最高出力87kW(118PS)/6600rpm、最大トルク142Nm/4300rpmと同一で、WR-Vとヴェゼルのガソリン車を乗り比べたら120kg軽いWR-Vの方が軽快な走りを披露するはず。


ヴェゼルの主力であるe:HEVは、78kW(106PS)/127Nmのエンジンに加えて、96kW(131PS)/253Nmのモーターアシストは、街中から流れの速い郊外路、ワインディングでも頼もしい。走行用と発電用の2モーターとエンジン直結クラッチを搭載するe:HEVは、高速巡航時にはエンジン走行になるが、エンジンが得意とする高効率域だけにもちろんモアパワーを抱かせることはほぼない。再加速時には、モーターの加勢により実用域であればもう一押しの加速も得られる。モーターアシストがあるため、街中ではWR-Vほどエンジンを回さずに済むため、モーター走行時だけでなくハイブリッド走行時も静かな走りが得られる。




このようにヴェゼルは、WR-Vよりも上質な走りを実現している一方で、後席の足元空間やラゲッジスペースは、「サイズの割に広大」と表現できるWR-Vには及ばない。ヴェゼルでも当然ながら大人4人でも十分に広いキャビンを備え、ラゲッジは初代よりも容量こそ小さくなったものの、大開口部を備えるなど、利便性に配慮されている。それにヴェゼルには、センタータンクレイアウトの恩恵でチップアップ&ダイブダウン付6対4分割可倒式後席も備わる。後席の座面を跳ね上げて固定させれば前席後方が積載スペースになるほか、子どもの着替えや靴の履き替えなども容易にできる。後席前倒し時は、WR-Vほどの段差はなく、大きな荷物の出し入れもしやすそう。また、インパネやシートなどの見た目や質感、触感などもヴェゼルの方が高い。


WR-Vは、足を組めるほど後席フットスペースに余裕があり、通常時でも十分なラゲッジスペースを確保する。ただし、後席前倒し時の段差は大きめで、実測で110mm程もある段差は最近のモデルでは珍しい。いい意味で、WR-Vの割り切りを感じさせる一例だが、装備も厳選している。電動パーキングブレーキは未設定で、サイドブレーキは手引き式。アダプティブクルーズコントロールはストップ&ゴーも付かず、前席シートヒーターやステアリングヒーターは未設定だ。ヴェゼルにはこれらの装備が設定されているほか、ワイヤレス充電やタイプCの後席用チャージャーなども設定。装備の充実度でもヴェゼルが際立っている。



FFのほか、4WDを設定するヴェゼルの価格帯は、264万8800円〜377万6300円。FFのみとなるWR-Vは、2025年3月に一部改良を受け、「Z」が239万8000円、特別仕様車の「Z BLACK STYLE」が248万3800円、「Z+BLACK STYLE」が258万600円。なお、WR-Vの「Z+」、「X」は、2025年夏頃の発売予定とアナウンスされている。WR-Vは、車両本体価格を抑えながらもキャビンとラゲッジの広さに我慢する必要はない。一方のヴェゼルは、4WDニーズや走りも含めた快適性も重視する層に応えてくれるSUVに仕上がっている。