目次
1866年、牛飼いの朝食からはじまった移動式キッチン
フードトラックの起源は意外にも古く、1866年にまで遡る。テキサス州に住む牧場主チャールズ・グッドナイト氏が、長距離を移動する牛飼いたちのために考案した「チャックワゴン」が世界初のフードトラックとされている。
チャックワゴンの名前の由来は、当時「チャック」と呼ばれていた食料に由来する。これは古い軍用貨物馬車を改造したもので、調理器具や食料を積み込み、移動しながら牛飼いたちに食事を提供した。
シンプルな木製の馬車だったが、調理スペース、食材保管場所、食器類など、現代のフードトラックの基本的な要素をすでに備えていた。朝食に豆やビスケットを提供し、牧場労働者たちの胃を満たす重要な役割を果たしたのだ。
1880年代から1890年代にかけて街へ進出した「ランチワゴン」

都市部におけるフードトラックの先駆けは、1872年にロードアイランド州プロビデンスで誕生した。これは、のちに登場する近代的な「ダイナー」の起源にもなっている。
ウォルター・スコット氏が、夜間労働者や新聞記者などの深夜勤務者に食事を提供するため、馬車を改造した「ランチワゴン」を考案したのだ。これは馬に引かれる小型の移動式食堂で、サンドイッチ、パイ、コーヒーなどの簡単な食事を提供していた。
1880年代から1890年代にかけて、ランチワゴンの人気は爆発的に広がり、多くの都市で見られるようになった。1891年には、マサチューセッツ州ウースターでチャールズ・パーマー氏が、より洗練されたランチワゴンの特許を最初に取得。これには調理スペースと座席が備わっており、現代のダイナーの原型となった。
現代のグルメフードトラック革命
20世紀に入り、自動車の普及とともにフードトラックも大きく変化した。1910年代には、馬車から自動車への移行が始まり、モーター付きのフードトラックが登場する。
第一次世界大戦中には、アメリカ軍が移動式キッチントラックを活用し、前線の兵士に温かい食事を届けるシステムを確立。第二次世界大戦後には、アイスクリームトラックが郊外の住宅街で人気を博し、移動販売の新たな形を生み出していった。
現代のようなフードトラック文化が本格的に開花したのは2008年の金融危機後のことだ。ロサンゼルスで韓国BBQタコスを提供する「Kogi BBQ」が、Twitterを活用して出店場所を告知する革新的な手法を取り入れ、大きな話題となった。
これを契機に、高品質な料理を提供する「グルメフードトラック」が全米で急増。従来のイメージを覆す、多様で創造的な料理と洗練されたデザインのフードトラックが、都市の食文化に新たな風を吹き込んだ。2014年の映画「シェフ」の大ヒットもあり、フードトラックはさらに人気と認知度を高めていった。
フードトラックの原型は日本が発祥?江戸の屋台文化が世界に与えた影響

フードトラックは1866年が起源とされているが、日本では遥か以前から屋台文化が栄えていた。屋台の起源は江戸時代中期の1716~1736年まで遡り、1781~1789年以後に本格的に盛んになったと言われている。
当時の屋台には、肩などに担いで移動しながら商う「蕎麦」に代表される「振り売り」形式と、仮設店舗を組立てて移動せずに商う「すし」に代表される「立ち売り」形式の二通りがあった。特に蕎麦の販売方法である、大きな担ぎ棒の両脇に引き出しのついた木箱を付けただけの非常にコンパクトな作りで、現代のフードトラックの原型を思わせる機能性を持っていた。
現代的な意味でのフードトラックが日本で普及し始めたのは2000年代後半からではあるが、世界的に見てもフードトラックの原型は日本にあったのだ。そして現代ではキッチンカーという呼び名に変わり、江戸時代から続く移動式飲食の文化を現代的な形で継承している。