目次
セリカキャビンの、地味~なものから現代的なものまで一挙にご紹介!
前回は運転席に座って、運転に必要不可欠な操作類・視認類を大きく採り上げた。
今回は、乗員全体の居住感に関するものにレンズを向けていく。
このセリカが先取りした、いまではあたり前のものも出てくるぞ。
★マークは、当時のカタログや資料などでの呼称です。
【ドア内張り】
この頃のクルマの室内は、フロントピラーやドア内張り上部など、どこかしら鉄板まる出しで、トリムといっても薄いスポンジ(?)をビニール表皮で覆うだけのものだった。
だがこのセリカはドアは上から下までトリム材で覆われたフルトリム(内側上部が覆われていないものを「セミトリム」といった)だし、下1/3はカーペット張りときている。
当時のこの値段のクルマとしては豪華な仕立てだったのではないだろうか。


1.★ドア・インサイド・ハンドル & ドア・ロッキング・レバー
ドアアッパー部に置かれた上げ下げ式が一般的だったロックノブを、ドア開のためのインナーハンドルと併設しているのが、この時代としては特徴的だ。
セリカが何の狙いでこの形にしたのかはわからないが、いまは外から操作しにくいよう、防犯の策としてこのようになっている。

2.★ウインドゥ・レギュレーター・ハンドル
いまは軽自動車すらパワーウインドウがあたり前で、こう書くのに念のため調べたら、いまの軽トラックの大御所・スズキのキャリイなんざあ電動窓が全機種初めっからついていたのにはぶったまげた。昔はよほどの高級車以外はこのぐるぐる回しのハンドル窓開けが普通だった。
子どもの頃の真夏の猛暑日、車内の熱気逃がしに「ちょっと行ってこい」と父ちゃんからキーを預かって窓をちょい開けに行ったひと、いるんじゃないだろうか?

3.★パワーウインドゥ
たったいま「よほどの高級車以外は・・・」と書いたばかりなのだが、セリカのフラッグシップ・1600GTにはパワーウインドウが標準装備となる。
後述するが、セリカは後席窓も開閉でき、GTの場合はその後席分も含めた4つぶんの開閉スイッチがドアに設置される。
スイッチはギンギラギンの銀めっき仕上げで、4つのスイッチがドア面にズラリと並べられる。
窓位置とスイッチ配列を呼応させていないので、どのスイッチがどの窓のものなのか、即座にわからないところがたまらない。
開け間違いをしたひとはさぞ多かっただろう。

4.アームレスト
アームレストはドア閉時に握るグリップと一体になっている。腕置き部分は幅が細いが、造りはいいと思った。

5.★ドア・カーテシ・ランプ
カスタム内装車と1600GTにつくカーテシーランプは、夜間に足元を照らすと同時に、後続車にドア開を知らせる役目がある。したがって色は目立つ赤。
「カーテシ」とは「courtesy」で、「礼儀、一般常識」「礼儀正しく」の意味がある。
「カーテシーランプ」の呼び名は、後ろのクルマに自車存在を正しく知らせ、足元を照らして礼儀正しい所作で安心して降りるの意味を込めてのことだろう。
別名に「ステップランプ」があるが、こちらのほうがわかりがいい。

【シート】
●前席シート
ヘッドレストが背もたれと一体のハイバックシートがどのセリカにもつく。
ヘッドレストを座高に応じて調整できないわ、後席のひとには圧迫感を与えるわ、このタイプのメリットが私にはよくわからないのだが、この時代に多かったタイプだ。
調べたら、プロボックスやAD、ハイエースやキャラバンなどの営業車に多く存在し、乗用車ではいまやアルトやミライースに限られていた。
ところで私は、倒れた状態で故障したら厄介なことを承知の上で、パワーシートがうらやましいと思っている。
通常の段付きリクライニングで、ときに「こことここの間がいいのに」といいたくなる角度になる椅子のクルマがあるからだ。
段付きとダイヤルによる無段調整の併用であればなおいいし、そんなのが過去のパルサーにあったような気がする。
で、このセリカで恐れ入るのは、仕様の安い高いでリクライニング機能にまで差をつけていることだ。
通常シートが13段階なのに対し、ベーシック内装用は何とたったの4段階ときた!
「こことここ」の開きがかなり大きそうで、いちど見てみたいものだ。


●低い着座姿勢とペダル配置
見てのとおり、クルマの性格からして着座位置は低い。
ガラにもなく考えさせられたのはペダル操作性のことで、いまのクルマは乗降のしやすさと視界向上のため、座面をフロアから高い位置に置いている。となるとペダル操作は着座が低い場合に比べ、上から踏みつける傾向に変わる。着座が低いと足を投げ出す格好になるから、ペダルを踏むというよりも正面から足で押す動きになる。
かかとを支点に足が回転する軌跡を思うと、ペダルの微調整がしやすいのは着座が低いほうだ・・・ということを思うと、投げ出しスタイルも見直されていいような気がする。
軽トラックなんか顕著で、軽量で上下揺れが大きいこと、乗員が前輪上にいることもあって、その揺れをもろに受けること、ペダルが車両前端にあることから、アクセルペダルを上から踏みつける踏む足もピッチングの影響をもろに受ける。

★フロント・セーフティ・ベルト
いま一般に「シートベルト」と呼ぶ帯は、取扱説明書ではこう呼んでいる。
3点式には違いないが、肩部と腰部は別体。腰用は巻取り機構があるが、ELR(エマージェンシー・ロッキング・リトラクター:緊急時固定巻取り式)機能はなく、全体的にはあっちをひっこめこっちを引っ張りという具合に調整する。
本気で締めたら、乗員の上半身は背もたれから背が浮かないほど縛り付けられ、ラジオにすら手が届きにくくなるのがこのタイプのシートベルトだった。
その不便を解消してくれるELR式の登場は、2代目セリカのときまで待たなければならなかった。

★バックル・ホルダー
パーキングブレーキレバーの後ろにあるのは、未使用時にベルトを固定する、バックル側のホルダーだ。
コンソール後部のホルダーに腰ベルトのバックル側を差し込んで固定する。
使っていないときの収容場所があるなんて、ベルト装用が義務付けられていない時代ならではのものだ。


●後席シート
カタログでは前席と後席両側を「バケット風」と謳うが、その度合いは後席両脇こそ強い。
カタログ上は3名掛けだが、両脇席はすっぽりお尻を埋め込むようにくぼんでおり、中央席は座面形状からもフロアトンネルの都合からも事実上座れない形になっている。
ヘンなのは頭上空間で、座りにくい中央席は頭上までルーフが覆ってくれる反面、きっちり座れる両脇席こそ頭の上はリヤガラスという奇妙なことに・・・これはルーフ後端およびそれに隣接するリヤガラス上端が左右に向かうにつれてラウンドしているからだ。

実はこのセリカに座ったときの、前後上下のタイト感がいまどきの何かに似ていると気づく。調べてみると・・・(次項に続く)
●故意か? 偶然か? 室内寸法の奇妙な一致
なーんていう見出しをつけておきながら、私は意図的なものと決めつけているのだが、次の表をごらんいただきたい。
これはこのセリカと先代86(2016年初期)、そして現行86=GR86の初期(2021年)といま販売中の最新86の室内寸法をまとめたものである。
よく見てほしい。
初代セリカと新旧86、車室幅はともかく、室内長、室内高ともども、ぴったり一致していることがわかる。新旧86の開発陣は、どう考えても室内寸法の決定を初代セリカに倣ったとしか思えないのだ。
この点に気づき、この頃の近似する車体サイズを持つギャランGTO、レオーネクーペなどを見てみたが、各部セリカより10mm単位で大きかったり小さかったり・・・かなり近いのはギャランGTOだが、それにしてもやはり86は初代セリカを参考にしたに違いないのである。だからどうしたといわれればそれまで。

★成型天井
セリカが試みた初の試み(「国産初」なのか「世界初」なのか調べきれなかったのはごめん。たぶん「国産初」だと思います。)が成型天井だ。
あらかじめルーフの形に添って成形しておいたトリム材をそのままはめ込むわけだから見た目の品質感は高いし、ヘッドクリアランスも増える道理で、1600GTにのみ与えられた。
当時のトヨタ資料によると、「安全性、豪華さ、およびヘッドクリアランスの向上に役立っている。」としている。
ただしヘッドクリアランス向上の効果は数値上、前席に表れているのみで、後席は変わりない。それを示したのが、前項表の「座面~天井高さ」の項だ。

前のソアラの回でも成型天井をお見せした。
あちらは時代が進んで表面が布張りだったが、こちらセリカは同じ成型天井でもビニール地だし、色も真っ黒けっけだ。
それでも吊り天井しか見たことのなかった当時のユーザーには新鮮だったろう。

表面素材の変遷を経て、いまでは軽自動車にすら用いられるが、「いいものを造りこんだ製品にしよう」よりも「より低コストで」が先に立つ現代の成型天井の表面はフェルト材で、軽自動車でなくても安っぽい。
●吊り天井
1600GT以外の天井は、このような吊り天井となる。
見覚えのあるひと、多いでしょ?
クルマの天井といえばこのようなビニール仕上げが普通だった。
指で押すと内部はスカスカで、電線から落ちてルーフを叩きつける雨水の音がけっこう車内に響き、幼い頃怖かったのを思い出す。

●セリカの車窓から2
私が考えているピラーレスハードトップ=窓枠のないクルマのメリットを述べる。
いまのクルマは対衝突対応でサイズが肥大化している上に、柱が太い! 実に太い! このことによる視界の悪化に辟易している。それはサイド視界にもあてはまり、こうも外が見にくいクルマが多いと、いきおいピラーレスハードトップやサッシュレスドアのクルマに飛びつきたくなる。
ドア開口寸法が同じなら、窓枠がないほうがサイド視界が広がってすっきりするし、センターピラーがないとなお視界は広がる。
セリカのサイド視界を見よ! すっきりしたものである。


●ピラーレスハードトップボディのメリット
ほんとうはドアを開けた状態の写真を撮るべきだったが、この写真でご勘弁!
何度でも書くが、クルマのサイズが拡大するなら隣のクルマも大きくなっているわけで、駐車スペースは相対的に狭くなる。
ドア開口角も小さくなり、その小さい開口スペースで乗り降りしなければならない。
リモコンでガラスを上げ下げできることが前提だが、いまのクルマでサッシュレスドアを復活させ、外からリモコンでガラスを降ろしておけば、小さな開口角でもドア上半分が空白になるぶん、無理な姿勢をとらずに乗り降りできるようになるのではないか。
たまたまセリカは2ドアだが、これは4ドアでも同じ。いまの最新ボディ設計技術で、わずかな重量増(=補強)で対衝突要件にも耐える、ピラーレスハードトップボディを生み出すことはできないものだろうか。

●ピラーレスハードトップボディのメリット2
前席優先のクルマだから後席の居住空間は極小だ。まあそうとわかって買うクルマだし、買うひと=運転するひとなら、後席居住性など知ったこっちゃないだろう。
たまらないのはここに押し込められたひとだ。
小さい子や子犬、子猫、ワニ、うなぎならまだしも、大人が過ごすにはたとい短時間でも苦痛になるほど狭い空間だ。
いまの86なら柱は太いし、サイドガラスは小さいし開かないしで、後席に座るのは罰ゲームか拷問でしかないのだが、初代セリカはまだ救われる。
前席ベルトがあるにしても、柱がない分開放感はあるし、何よりもいまのクルマと違ってサイドガラスがレギュレーターハンドルでちゃんと降りる。1600GTなら後席だってパワーウインドウだ。



だーめだこりゃ。やっぱり数回じゃ終わらねえや。
セリカインテリア紹介、まだまだ続けることにしよう。
【撮影車スペック】
トヨタセリカ 1600 GT(TA22-MQ型・1970(昭和45)年型のレストア車・5段MT)
●全長×全幅×全高:4165×1600×1310mm ●ホイールベース:2425mm ●トレッド前/後:1280/1285mm ●最低地上高:175mm ●車両重量:940kg ●乗車定員:5名 ●最高速度:190km/h ●最小回転半径:4.8m ●タイヤサイズ:6.45H-13-4PR ●エンジン:2T-G型(水冷直列4気筒DOHC・縦置き) ●総排気量:1588cc ●ボア×ストローク:85.0×70.0mm ●圧縮比:9.8 ●最高出力:115ps/6400rpm ●最大トルク:14.5kgm/5200rpm ●燃料供給装置:ソレックス型ツインキャブレター ●燃料タンク容量:50L(プレミアム) ●サスペンション 前/後:マクファーソンストラット式コイルスプリング/4リンク・ラテラルロッド付コイルスプリング ●ブレーキ 前/後:ディスク/リーディングトレーリング ●車両本体価格:87万5000円(当時・東京店頭渡し価格)
トヨタセリカ 1600ツインキャブST(TA22-HZ型・1972(昭和47)年型・3段AT(トヨグライド)・カスタムSW内装)
●全長×全幅×全高:4165×1600×1310mm ●ホイールベース:2425mm ●トレッド前/後:1280/1285mm ●最低地上高:170mm ●車両重量:895kg ●乗車定員:5名 ●最高速度:165km/h ●最小回転半径:4.8m ●タイヤサイズ:6.45H-13-4PR ●エンジン:2T-B型(水冷直列4気筒OHV・縦置き) ●総排気量:1588cc ●ボア×ストローク:85.0×70.0mm ●圧縮比:9.4 ●最高出力:105ps/6000rpm ●最大トルク:14.0kgm/4200rpm ●燃料供給装置:2バレル式ツインキャブレター ●燃料タンク容量:50L(プレミアム) ●サスペンション 前/後:マクファーソンストラット式コイルスプリング/4リンク・ラテラルロッド付コイルスプリング ●ブレーキ 前/後:ディスク/リーディングトレーリング ●車両本体価格:69万5000円(当時・東京店頭渡し価格。STエクステリア・3万円、カスタム内装SW・8万5000円含まず。)