誕生以来、4WDオフローダーの王者として君臨するトヨタ「ランドクルーザー」、その名前の由来と歴史を振り返る【歴史に残るクルマと技術091】

トヨタ・ランドクルーザー
トヨタ・ランドクルーザー
現在も4WDオフローダーの王道を歩む「ランドクルーザー」は、1951年に警察予備隊用制式車両の入札のために誕生した。以降70年余り、ランドクルーザーはヘビーデューティ、ライトデューティ、ステーションワゴンと派生しながら進化を続け、今も世界中で愛され続けている。
TEXT:竹村 純(Jun TAKEMURA)/PHOTO:三栄・トヨタ 歴代ランドクルーザーのすべて

ランドローバーに対抗してネーミングされたランドクルーザー

ランクルのルーツは、1951年に自衛隊の前身である警察予備隊が使う制式車両の入札のために試作した小型4輪駆動車まで遡る。採用されたのは、米国カイザー・ウィリス社と技術提携していた中日本重工業(現在の三菱重工のルーツのひとつ)の「三菱ジープ」だった。

トヨタジープ BJ型
1951年に誕生したランドクルーザーの元祖「トヨタジープ BJ型」

その入札時に競合したのが、トヨタ「トヨタジープBJ」と日産「4W60ジープ」だったが、その後“ジープ”の名がウィリスオーバーランド社の商標であることから、日産は「パトロール」、トヨタは1954年から「ランドクルーザー」と名乗ることになった。ここから、正式にランドクルーザーの歴史が始まったのだ。

三菱ジープJ3
1953年に登場した「三菱ジープJ3」

ちなみに 、当時世界市場で頭角を現していた英国ローバー社の「ランドローバー(陸の海賊船)」に対抗し、それを駆逐するという意気込みを込めて、ランドクルーザー(陸の巡洋艦)」とネーミングされたという。

初代のランドクルーザー(BJ型)は、小型トラックSB型用のシャシーを4WD用に改造し、これに最高出力82psを発揮する3.4L直6 OHVガソリンエンジンを搭載して、1953年から国家警察に採用されて量産を開始した。

米国進出の先鋒となった20系、世界市場で人気を不動にした40系

ランクルは、その後北米を中心とした本格的な海外進出を見据えて、1955年にランクル20系に進化。20系は、武骨なジープスタイルから洗練されたスタイルに変貌した。1955年には、本格的な純国産乗用車「トヨペット・クラウン」がデビューし、国内での好評を受けて米国進出を図ったが、高速性能が不十分ですぐに撤退。しかし、ランクルは、信頼性と性能が高く評価され、トヨタの北米進出の基盤づくりに大きく貢献した。その後、30系がパワフルな3.9L直6エンジンを追加して、警察用、消防用、診療用など多彩な用途に採用された。

ランドクルーザー40系
1960年にデビューした「ランドクルーザー40系」

さらに1960年に登場した40系は、米国のみならず世界中でその信頼性の高さが認められ、本格4WDオフローダーとしての地位を確立。1974年には、ランクル初のディーゼルエンジンを搭載し、ランクルの中核モデルとなり、24年間にわたり生産されたロングセラーモデルとなった。

ランドクルーザー50系
1967年にデビューした「ランドクルーザー50系」

1967年には、海外で4WD車がRVとして人気を獲得するようになったため、40系と棲み分けするかたちで55系が登場。4ドアの本格ワゴン(商用車扱い)としての個性を明確にして、実用性とともに快適性が向上した。

乗用車テイストのラグジュアリー路線を目指した60系

55系の後継として1980年に登場したのが60系であり、ラグジュアリーな乗用車テイストの新たな路線を開拓。当初は商用車カテゴリーだったが、モデル末期には正真正銘の乗用車カテゴリーのモデルも登場した。

1980年にデビューした「ランドクルーザー60系」
1980年にデビューした「ランドクルーザー60系」

エンジンは、55系から引き継いだ140psの4.2L直4 OHVガソリンに、新たに96psの3.4L直4 OHVディーゼルを追加。さらに、1982年には115psの4.0L直6 OHVディーゼルと、後期モデルには135psのディーゼルターボやEFI(電子制御噴射弁)ガソリンエンジン、本格オフローダー初のATが追加されるなど、豊富なバリエーションを誇った。

60系は、従来のベンチシートからファブリックのセパレートシートに変更し、その他にもエアコン、パワーステアリング、電動シートやサンルーフといった豪華かつ快適装備を一部モデルに採用し、幅広いユーザーの獲得に成功した。

以降、ステーションワゴン系の60系は、80系、100系、200系、現行の300系へと繋がっていった。

ヘビーデューティ系バンと乗用ワゴン系に枝分かれした70系

一方で、40系の流れからヘビーデューティ系として、1984年に走破性能や耐久性を追求した70系バンが登場。70系は、最強の本格オフローダーとして現在も熱狂的なファンが多い長寿モデルとなっている。

1984年にデビューした「ランドクルーザー70系バン」
1984年にデビューした「ランドクルーザー70系バン」

また70系には、派生として乗用ユースを考慮した70系ワゴンが用意された。70系ワゴンは、70系バンをベースにコンパクト化したショートボディに、コイル式リジットサスペンションを採用して乗り心地を向上し、室内は十分な乗員スペースを確保するなど、乗用車のような快適性が追求された。

1985年にデビューした「ランドクルーザー70系ワゴン」

パワートレインは、2.4L直4 SOHCディーゼルターボと5速MTの組み合わせで、パワフルなディーゼルターボの特性を生かしたランクルらしいオフロード走行も当然ながら楽しめたが、期待したほど人気は得られなかった。

しかし、1990年に後継として登場した「ランクル・プラド」は大ヒットした。

70系から誕生したラグジュアリーなオフロードSUVプラド

1990年にデビューした「ランドクルーザー・プラド」
1990年にデビューした「ランドクルーザー・プラド」

ランクル・プラド(70系)は、3ドア5人乗りのショートボディと、5ドア8人乗りのロングボディを設定。パワートレインは、最高出力97psの2.4L直4ディーゼルターボと5速MTおよび4速ATの組み合わせだったが、1993年に130psの3.0L直4ディーゼルターボに換装された。また駆動方式は、当初は副変速機付パートタイム4WDだったが、フルタイム4WDに変更された。

プラドは、オフロード性能を生かしながらもランクルよりも小振りで誰でも扱える身近なライト感覚のオフロードSUVとして人気を獲得。しかし、プラドの後継モデルに相当するランクル250系が2024年に登場したことで、プラドは生産を終了した。ただ250系は、これまでのプラドよりひと回り大きく、オフローダー性能も強化して本家のランクル300系に近いオフローダーとなった。

2021年デビューの新型「ランドクルーザー300系」
2021年デビューの新型「ランドクルーザー300系」
2023年にデビューした新型「ランドクルーザー70系」
2023年にデビューした新型「ランドクルーザー70系」
2024年にデビューした「ランドクルーザー250系」
2024年にデビューした「ランドクルーザー250系」

ランドクルーザーが誕生(名称変更)した1954年は、どんな年

トヨタジープBJがランドクルーザーを名乗った1954年には、トヨタの「トヨペットスーパーRHK型」、新三菱重工の「みずしまTM4E」が誕生した。

トヨペット スーパー RHN型
トヨペット スーパー RHN型
1954年式 みずしま TM4E(日本自動車博物館より)
1954年式 みずしま TM4E(日本自動車博物館より)

トヨペットスーパーRHK型は、タクシー業界からの要望で製作されたトラックベースの乗用車。みずしまTM4Eは空冷式単筒エンジン搭載の小型3輪自動車である。この年、日比谷公園で第1回全日本自動車ショー(東京モーターショーの前身)が開催され、大盛況だった。

トヨタ・ランドクルーザーの足跡1
トヨタ・ランドクルーザーの足跡1
トヨタ・ランドクルーザーの足跡2
トヨタ・ランドクルーザーの足跡2

自動車以外では、6月9日に自衛隊法に基づき、陸上自衛隊、海上自衛隊、航空自衛隊が発足。1954年に日本で公開された映画「ローマの休日」が大ヒット、女優のオードリー・ヘプバーンが世界的な大スターへの道を歩み始めた。また、当時人気だった米女優のマリリン・モンローが来日して日本に大旋風を巻き起こした。
また、ガソリン34円/L、ビール大瓶126円、コーヒー一杯46円、カレー96円、ラーメン36円、アンパン10円の時代だった。

トヨタ・250系ランドクルーザー
トヨタ・250系ランドクルーザー

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誕生以来、本格オフローダーとしての揺るぎない地位を確立しているトヨタ「ランドクルーザー」。世界中のどんな過酷な道路環境にも臆することなく走破する、日本の歴史に残るクルマであることに、間違いない。

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著者プロフィール

竹村 純 近影

竹村 純

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までを…