断トツの氷上性能120%を実現しつつ、効き持ち性能もアップ! 最新スタッドレスタイヤの実力に驚愕【ブリヂストン ブリザックVRX3】

「20年連続装着率ナンバー1」「北海道札幌市のタクシー装着率69.5%」などのデータが示すとおり、スタッドレスタイヤの王者と言えるのがブリヂストンのブリザックだ。2021年、その最新モデルとなる「VRX3」が登場した。今回の進化の目玉は氷上性能とライフ性能。北海道で、その驚くべきパフォーマンスを確かめてきた。

TEXT●山崎友貴(YAMAZAKI Tomotaka)

また一歩、スタッドレスタイヤの高みに近づいた最新ブリザック「VRX3」

もはやスタッドレスタイヤなしで、冬の交通インフラは語れない。大型車から小型車まで、あらゆるカテゴリーのクルマの雪道走行に欠かせないパーツと言える。世界で初めてスタッドレスタイヤを開発したのはミシュランだが、スタッドレスタイヤの著しい性能向上に尽力し、業界をリードしてきたのはブリヂストンと言っても過言ではない。

1988年に同社初のスタッドレスタイヤ、ブリザック PM-10、PM-20を発表。発砲ゴムという独自の技術を使ったブリザックは、トレッドパターンやサイプの配置、ゴム・コンパウンドの配合を進化させながら、32年間常にトップと言われた性能をユーザーに提供してきた。

その結果、「北東北主要5都市でのブリザック装着率20年ナンバー1」「北海道/北東北主要5都市一般ドライバー装着率46.2%」「北海道札幌市タクシー装着率69.5%」という勲章を得るに至った。実際、筆者が札幌でタクシーに乗った際に、運転手から「ブリヂストンのスタッドレスを採用していないタクシー会社は、事故を起こす可能性が高いということで求人で人気がない」という話も聞いたことがある。

もちろんライバル他社のスタッドレスタイヤも、年々性能向上を果たし、雪上・氷上の安全性という点では申し分ないレベルに達している。それでもユーザーのブリヂストン製スタッドレスタイヤ神話がいつまでも潰えないのは、それだけ性能が秀でている証しなっているのではないだろうか。

高い氷上性能の秘密は、水を吸い上げるフレキシブル発泡ゴム

初商品デビューから33年目の今冬、ブリヂストンがリリースしてきたのは「ブリザックVRX3」という商品だ。

ブリヂストン ブリザックVRX3
1988年に誕生したブリヂストンのスタッドレスタイヤ、ブリザック。VRX3は、2021年9月から発売が開始された最新モデルだ。

前作VRX2と比較すると“氷上性能120%”に達したと自社広告で謳っている。個人的に2モデル前のVRX(2013-2016年)をホンダN-BOXに装着していた経緯があるが、すでにその時点で十分な氷上性能を持っていたという記憶がある。そこから二世代のモデルチェンジを行い、しかも一世代前(VRX2)より2割アップの氷上性能を有しているというのだから、それだけ革新的な技術が投入されたのかと驚くばかりだ。同社が発表した性能チャートを見てみると、すべての性能面でアップしていることが分かるが、特に「ライフ」「アイス」「効き持ち」の点で向上著しい。

ブリヂストン ブリザックVRX3
VRX2に対して、VRX3は氷上ブレーキが20%、ライフ性能が17%向上し、なおかつ効き持ちも向上。それでいて、氷上性能と背反する雪上性能もしっかりとキープしているというから驚きだ。

では、VRX3に新たに採用されたニューテクノロジーを見てみよう。ブリザックの伝家の宝刀と言えば、やはり「発泡ゴム」だ。コンパウンドに使われる独自のテクノロジーで、その名の通り、ゴム内部に多数の気泡がある。この気泡の内部に、スリップの原因になる水膜の一部を取り込み、タイヤの表面が路面にしっかりと接地することを促す。

ブリヂストン ブリザックVRX3
気温の高低差が大きいため、水が湧いたツルツルの凍結路面になりやすい日本の冬の道。氷上で滑る原因はタイヤと路面の間に水の膜ができることなので、まずは、いかに水の膜を素早く除去できるかが重要となる。そこで効果を発揮するのが、ブリヂストン独自の水を吸い込む発泡ゴムだ。30〜100ミクロンの小さな気泡がタイヤのトレッドゴムの中に配置されており、これがスポンジのように水の膜を吸収し、除水してくれるのだ。この気泡は深さ方向にも配置されているので、タイヤが減っても金太郎飴のように新しい気泡が出現するため、効きも長持ちする。

気泡と言えば当然ながら球体であり、タイヤ接地面を拡大して見ると、半球の形状になる。しかし、VRX3は気泡の形状を楕円にすることにより、吸い上げる水の量を増量。さらに毛細管現象により、効率よく水膜の除去ができるようになった。ブリヂストンでは、この気泡形状を「フレキシブル発泡ゴム」と名付けている。

ブリヂストン ブリザックVRX3
発泡ゴムは従来のブリザックでも採用されてきた技術だが、これまでは気泡の数を増やしたり大きくしたりと除水の体積を増やそうと進化してきた。VRX3で新しいのは、水路の断面の形状を丸から楕円に変更したこと。これにより、毛細管現象の効果で水を積極的に吸い上げることが可能となったのだ。

ミラーバーンやブラックバーンといった降雪地帯の厄介な路面において、スリップの主因は前述の通り水膜だ。水膜があるが故に、ミクロの世界でハイドロプレーニング現象のような事象が起こる。スタッドレスタイヤがいかに優れたグリップ性能を有していようとも、この水膜を除去してゴムを路面に接地させなければ、優秀なグリップ性能を発揮することができない。

新しいパターンが水をすばやく流して逆流を抑える

水膜を取り除くステップの第一段階がフレキシブル発泡ゴムだとすれば、第二段階ではその水を効率よくトレッドから取り除くというアクションになる。それを支えている新技術が、「L字ブロック」と「端止めサイプ」だ。L字ブロックはトレッドの溝へ、端止めサイプはサイプ内への水の逆流を防ぐもので、水の流れをコントロールすることで、効率よく水膜を除去するというものだ。

ブリヂストン ブリザックVRX3
これまでのブリザックのパターンのコンセプトは「水を除く」だったが、VRX3では「水を導く」に変更。L字ブロックや端止めサイプによって除水した水を外側に効率的に流し、逆流を抑えている。

これらの技術により、氷上性能が二世代分、約8年の進化を遂げたというから驚くばかりである。進化と言えば、トレッドパターンのデザインにも驚かされた。見た目はもはや、夏タイヤのトレッドパターンと大差がない。スタッドレスタイヤの特徴と言える、深い縦溝は極力廃され、非常にシンプルな顔付きになった。

ブリヂストン ブリザックVRX3
ブリザックVRX3のトレッドパターン。一見するとシンプルだが、ブロックサイズの均等化により接地圧を分散することで、タイヤと路面の滑りを低減している。また、ブロック形状や向きに応じてサイプの角度を適正に配置し、サイプのエッジ効果を増加させて氷雪上でのグリップを確保。ブロック剛性も向上しているという。

こんなパターンで雪道が走れるのかと思ってしまうが、ひっかき成分(エッヂ成分)、パタン剛性、接地面積、そして接地面圧の最適化によって、氷上性能のみならず、圧雪路での性能も十分に有していると言うから、にわかには信じがたい。

ブリヂストン ブリザックVRX3
VRX2ではパターン剛性を一気に向上させた反面、エッヂ成分が落ちていた。VRX3は氷上路面に効く接地面積を増やした(溝を減らした)一方で、スノー性能に効くエッヂ成分も向上させているのが驚き。これはトレッドパターンの進化によるところが大きい。

ただ、開発スタッフいわく「ブリザック史上最高の出来」だということだから、相当な自信を持っていることは分かる。

氷雪上でのトラクション、コントロールは申し分なし!

さて今回、ブリヂストンの好意により、北海道千歳市でブリザックVRX3に試乗する機会を得た。今シーズンは12月中旬まで暖冬気味で、試乗当日も北海道ながら気温5度、路面は無積雪という状態だった。そのため、サーキットに人工雪を運び、それでコースを作るというテスト状況になった。

周知の通り、人工雪は結晶が大きく、いわゆるザラメ雪。コースは全体的にザラメで、一部がアイスバーンという路面だった。これに加えて、若干ウェット気味の舗装路を走るというのが今回の試乗コースである。

ブリヂストン ブリザックVRX3
テスト当日はあいにく(?)の好天候。そのため人工雪によるテストコースが設定された。試乗車両はメルセデス・ベンツE200、スバル・レヴォーグ、トヨタ・プリウス、ホンダ・フィット、日産デイズの5車種。

積雪コースの試乗車は、もっとも大きな車両がメルセデス・ベンツE200、最小は日産デイズ。一部の車両にはトラクションコントロールや4WDが付いていたが、それを差し引いたとしてもトラクション性能、グリップ性能、コントロール性能のおいて、非常に安心できるスタッドレスタイヤに仕上がっていた。惜しむらくは、圧雪路と下りのアイスバーンを経験したかったが、おそらくそのシーンも難なくこなすにちがいない。

ブリヂストン ブリザックVRX3
メルセデス・ベンツE200 × ブリザックVRX3
ブリヂストン ブリザックVRX3
日産デイズ × ブリザックVRX3

印象的だったのは急ブレーキ時のフィーリングで、ひと昔前にあったブロックが柔らかくタワミながら車両を止めるという感覚がないことだ。あのトレッドパターンから想像する通り、接地面の剛性をしっかりと保ちながら、まるで夏タイヤのようなフィーリングでグッと止まってくれる。

それは幅広のサイズでも、幅の狭いタイヤでも同じフィーリングであり、特に軽自動車やコンパクトカーではドライバーに絶大な安心感を与えくれる。これは旋回時でも同じことが言える。サイズが小さく、ホイールベースの短い車両では、コーナーリング時にラフなハンドル操作を行ってしまうと、路面次第ではたちまちコントールを失ってスピンしてしまうことも雪道ドライブでは少なくない。

ブリヂストン ブリザックVRX3
こちらは軽自動車サイズのトレッドパターン。大きなサイズのパターンをそのまま縮小してしまうと、溝が細くなり、深雪性能や登坂性能が低下しがち。そこでブリヂストンでは手彫りで少しずつ溝を広げたりしながら北海道のテストコースで評価を重ねることで、小さなサイズでも十分な性能を発揮できる最適な溝を実現した。

ザラメ雪は抵抗が大きいのでアイスバーンや圧雪路ほど滑らないが、それでもハンドルやアクセル、ブレーキ操作次第ではそれなりスリップする。そういったシーンでも、VRX3はコントローラブルで、トレッドからは想像が付かないほど横方向のスリップを俊敏に収束させる。

ブリヂストン ブリザックVRX3
スバル・レヴォーグ × ブリザックVRX3

アイスバーンや深雪からの発進も良好で、しっかりとトラクションを発揮した。これに車両の電子デバイスが加われば、まさに鬼に金棒、ドライバーの安心感はさらなるものになるはずだ。

ブリヂストン ブリザックVRX3
ホンダ・フィット × ブリザックVRX3

重量級のヴェルファイアでも安心して舗装路を走れる懐の深さ

さて、スタッドレスタイヤに求められるものは雪上・氷上性能であることは間違いないが、それだけでは優れたタイヤとは言えない。なぜなら、スタッドレスタイヤが走行するシーンにおいて、雪道はごく一部に過ぎないからだ。都市部のユーザーであれば9割近く、降雪地のユーザーでも半分は舗装路を走ることになるだろう。

スタッドレスタイヤの泣き所が舗装路にあることは周知の通りだが、昨今はオールシーズンタイヤというライバルが出現している。オールシーズンは、季節だけでなく路面についても優れた汎用性能を持っており、高速道路や舗装山岳路などでもしっかりとした性能を有している。さらに、雪上・氷上性能もかなりのレベルにあると言っていい。

そんなライバルに対して、スタッドレスタイヤが冬季のアドバンテージをキープするとすれば、当然ながら舗装路性能の向上がマストになる。具体的に言えば、乾燥・ウェットの舗装路での基本性能に加えて、静粛性や寿命といった要素が大切になる。

ブリヂストン ブリザックVRX3
テストコースを飛び出して、一般道でのインプレッションも実施。ブリザックVRX3は舗装路でも高い実力を発揮してくれた。

今回は舗装路で、225/60R17サイズを履いたトヨタ・ヴェルファイア、185/65R15サイズのフォルクスワーゲン・ポロに試乗した。

まずヴェルファイアだが、重量級の車両ながらタイヤのブレイク感がなく、夏タイヤから履き替えても違和感なくドライブすることができると思う。その分、乗り心地は若干硬めだが、「スタッドレスタイヤは柔らかくて乗り心地がいい」という既成概念を取り除けば、決して硬くはない。

ブリヂストン ブリザックVRX3
トヨタ・ヴェルファイア × ブリザックVRX3

コーナリングにおいても腰砕けになるようなフィーリングはなく、接地面全体を使ってスムーズに曲がっていく。舗装路であえて急激なレーンチェンジを行ってもふらつきが少なく、シャープに回頭してくれる。直進安定性においても、高いスタビリティを発揮してくれた。

ちなみに、これは非対称サイド形状の採用によるところが大きいようだ。インとアウトのサイドウォールの形状を変えることで、良好な直進安定性や応答性を発揮するのだという。

ブリヂストン ブリザックVRX3
ブリザックVRX3のサイドウォールは左右非対称形状が採用されている。

ブレーキングにおいても、最後にズルッと前に出てしまう感じはなく、意図したエリアの中でしっかりと止まってくれた。ただ贅沢を言えば、このサイズでのロードノイズがもう少し低いとうれしい。うるさいと言うほどではないが、車両の静粛性が高ければ高いほど、タイヤが発生するある周波数の音が気になる。しかし、次に乗ったポロは接地面積が狭いからか、ヴェルファイヤほど音はきにならならなかったことを付け加えたい。

ブリヂストン ブリザックVRX3
フォルクスワーゲン・ポロ × ブリザックVRX3

ちなみに長持ちという点では、今モデルよりゴムにオイルを加えるだけでなく、ロングステイブルポリマーを配合することで、やわらかさを保持。さらに他社のスタッドレスタイヤよりも深めのサイプを設けることで、4年後も変わらない性能を維持することに成功している。ちなみに深めのサイプは十分な水の保持にも一役買っているという。

ブリヂストン ブリザックVRX3
ブリヂストン・ブリザックVRX3は135/80R12〜285/35R20まで全111サイズをラインナップ。価格はすべてオープン。

できるなら、もっと長時間、多様な路面で試乗してみたかったというのが本音だが、限られた条件の中でも、VRX3の進化を体感することができた。そして、このようなトレッドパターンの商品が登場したことはスタッドレスタイヤが新しい時代に突入したことへの号砲であり、ブリヂストンがスタッドレスタイヤ市場の盟主であることをさらに印象づけた気がする。

ブリヂストン ブリザックVRX3
今回、ブリザックVRX3のインプレッションを担当した自動車ジャーナリストの山崎友貴さん。

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著者プロフィール

山崎友貴 近影

山崎友貴

SUV生活研究家、フリーエディター。スキー専門誌、四輪駆動車誌編集部を経て独立し、多ジャンルの雑誌・書…