航路の安全を確保せよ! 機雷の捜索から破壊まで、水中ドローンが活躍するハイテク掃海艦「のうみ」の装備・能力とは

江田島湾に浮かぶ掃海艦「のうみ」。3月12日に就役したばかりの艦だ。背景の島は名前の由来となった能美島(写真/筆者)
今年3月に就役したばかりの最新の掃海艦「のうみ」。この艦への乗船取材の機会を得た。掃海艦艇は、ミサイルや大砲を積んだ護衛艦に比べて、あまり注目されることのないが、その特殊な任務のために特徴ある装備・機材を搭載している。今回は、それら装備を紹介し、掃海艦の能力について解説しよう。【自衛隊新戦力図鑑】
TEXT:綾部剛之(AYABE Takayuki)

名前の由来となった土地でのお披露目

4月1-2日の2日間、瀬戸内海の能美島(東能美島・西能美島)と江田島に囲まれた江田島湾に「のうみ」が入り、公募で集められた希望者に向けた乗船イベントが開催された。能美島は「のうみ」の艦名の由来ともなった島であり、まさに“地元”でのお披露目となったかたちだ。小型の艦艇ということもあり、地元の住民などをごく少数のみの参加となったが、縁あって筆者も参加することができた。

「のうみ」は湾内に停泊しているため、見学者たちは江田島から海上自衛隊 第1術科学校の交通艇で艦に向かった。交通艇に乗る機会は、なかなかないので、これも貴重な体験だった(写真/筆者)

「のうみ」は、2017年より海上自衛隊に配備が開始された「あわじ」型掃海艦の4番艦となる。その任務は、海に設置され、通航する艦船に大きなダメージを与える機雷を処理すること。海上自衛隊は掃海用の艦艇として、大型で深深度の機雷にも対処できる「掃海艦」と、小型で浅深度の機雷に対処する「掃海艇」の2種類を有している。具体的には基準排水量1000トン以上を、これまで「掃海艦」としてきたが、最新の「あわじ」型は軽量なFRP(繊維強化プラスチック)を船体に用いたことで、先代掃海艦「やえやま」型(基準排水量1000トン)と、ほぼ同サイズながら、基準排水量は690トンとなっている。

機雷の処理方法には、ワイヤーで曳航した専用器具で広い範囲の機雷を処理する「掃海」と、機雷を捜索してピンポイントで破壊する「掃討」の2つの方法がある。今回は主に「掃討」に用いる装備について解説していきたい。

「のうみ」を艦尾側より見る。機雷には鉄製船体が帯びている磁気に反応するものがあるため、掃海艦艇は船体に鉄を用いない。以前は木製だったが、近年はFRP製となっている。「あわじ」型掃海艦もFRP製だ(写真/筆者)

海底の泥に隠れた機雷も探知できる海中ドローン

「のうみ」型は機雷捜索のため、「OZZ-4」と呼ばれる無人機を装備している。これは事前に指定した航路や海域を、自動で捜索する海中ドローンだ。GPSなどをもとに自らの位置を把握しつつ、前方や下方に搭載されたソナーで、海底地形や障害物を探知して自律的に航行することができる。OZZ-4は、「あわじ」型1番艦から搭載されているが、3番艦「えたじま」と4番艦「のうみ」には改良型が搭載された。改良されたのは機雷捜索能力である。

機雷捜索用無人機「OZZ-4」。アメリカ製の「リーマス600」というモデルを海上自衛隊が導入したものだ。写真は柵に入っており、全体像がわかりにくいが、下のCGのように魚雷のような細長い形状をしており、「のうみ」搭載の改良型は、側面に捜索用の合成開口ソナーを装備している(写真/筆者、CG/Hydroid)

OZZ-4は両側面にソナーを備え、機雷を捜索する。このソナーが改良型から「合成開口ソナー」となった。合成開口ソナーとは…? ざっくり説明すると、移動しながら受信した音波をコンピューター上で合成して、擬似的に「大きなソナー」を作り出すもの。これにより緻密で精度の高い探索が可能となった。また、音波の透過性も増し、海中の泥のなかに隠れた機雷まで探知できるようになったという。

OZZ-4が探知した機雷を処理する方法のひとつが、「自走式機雷処分用弾薬(EMD)」だ。こちらは船からの遠隔操作によって用いられる一種の自爆ドローンと言える。搭載されたソナーやカメラによって機雷まで接近し、前部に搭載された指向性のある爆薬で機雷を爆破処分する。

自走式機雷処分用弾薬(EMD)。遠隔操作によって機雷に接近し、自爆により破壊する。なお、写真に写っているイエローのものは訓練用で炸薬などは搭載されていない。実弾は黒色だそうだ(写真/筆者)

海底や海中に設置された機雷は、その攻撃力だけでなく、存在の可能性があるだけでも船舶の航行を妨害できる厄介な兵器だ。島国である日本にとって大きな脅威であることは間違いない。また、機雷そのものの高性能化も進んでおり、それらに対処すべく最新の装備を搭載して誕生したのが「あわじ」型掃海艦であり、「のうみ」なのである。

艦尾側の大きなドラムリールは、掃海用のケーブル(感応掃海具)を巻いておくためのものだが、就役間もない「あわじ」は、まだケーブルを搭載していなかった。なお、このドラムリールは取り外しが可能で、災害派遣などの際にはこのスペースに物資を積み込むことが想定されているそうだ(写真/筆者)

なお、今回のイベントの募集は、海上自衛隊 第1術科学校のインスタグラムにて行われた。イベントを含めた各種の情報発信を積極的に行っている。

[第1術科学校 インスタグラム:https://www.instagram.com/jmsdf_1mss]

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著者プロフィール

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綾部 剛之

軍事関連をメインとした雑誌/書籍の編集者。専門は銃器や地上兵器。『自衛隊新戦力図鑑』編集長を務めて…