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教皇暗殺未遂事件が生んだ防弾車両、ポープモービルの進化の裏側

現代のような高度な防御機能を持つポープモービルが誕生したのは、悲劇的な事件がきっかけだった。1981年5月13日、ローマのサンピエトロ広場で当時の教皇ヨハネ・パウロ2世が銃撃を受け、重傷を負う事件が発生したのだ。当時、教皇は完全にオープンな車両で群衆の中を進んでいた。この事件を機に、教皇の安全対策は根本から見直されることになった。
事件直後、メルセデス・ベンツは教皇専用の防弾車両の開発に着手。1980年代前半に完成した新型ポープモービルは、透明な防弾ガラスで囲まれたキャビンを備え、教皇が立ったまま信者に姿を見せられる設計となった。これにより、防御と可視性という相反する要素を両立させたのだ。
メルセデス・ベンツ Gクラスをベースにした初期の近代的ポープモービルは、その後のモデルの基本設計となった。銃弾から教皇を守りながらも、信者とのつながりを保つという難しい課題への回答が、この独特のデザインに結実したのである。
教皇車両は“動く要塞”だった、ポープモービルが持つ驚異の防護性能

一見すると、ガラスキャビンが目立つポップモービルだが、その防御性能は軍用装甲車に匹敵する。現在主に使用されているメルセデス・ベンツ Mクラスをベースとした車両には、最新の防弾・防爆技術が惜しみなく投入されている。
車体の外装には、ライフル弾も防ぐ特殊鋼板が使用され、透明なキャビン部分は厚さ数センチの多層防弾ガラスで構成されている。さらに、タイヤはパンクしても走行可能なランフラットタイヤを採用。化学攻撃に備えた独立空調システムや、緊急時の酸素供給装置も備えている。
過去に導入されたモデルは、爆発物による攻撃にも耐えられるよう設計されており、車体下部には爆風を分散させる特殊構造が組み込まれている。これら装備の詳細は機密事項として公表されていないが、その重量は通常の車両の2倍以上に達するといわれている。外観の荘厳さの裏に隠された、最先端の防御技術の結晶なのだ。
環境対応と安全性の両立を目指し、進化するポープモービルの将来像
現在のバチカン市国は環境問題にも積極的に取り組んでおり、その姿勢はポープモービルにも反映されつつある。
2020年にはトヨタ MIRAIという燃料電池自動車(FCEV)をベースにしたポープモービルが贈呈され、水素エネルギーを活用した環境負荷の少ない移動手段として注目を集めた。また2022年には、日産自動車が電気自動車(EV)をベースとした新型ポープモービルの開発構想を発表。電動化と高度な防御機能の両立という技術的課題に挑戦している。環境への配慮を示しながらも、依然として最優先されるのは教皇の安全確保だ。
バチカン市国は2050年までにカーボンニュートラルを達成する目標を掲げており、その象徴としてのポープモービルの役割はますます重要になっている。教皇の安全と環境保護、そして信者との交流という複数の要素を高い次元で調和させるポープモービルは、これからも時代と共に進化を続けるだろう。
質素さを選んだフランシスコ教皇の亡き後を継ぐ次期教皇が選ぶ車両は?

特に注目を集めたのは、2015年9月の米国訪問で使用された「フィアット 500L」だった。当時約2万ドル(当時の約240万円)の大衆車を選んだことは、「貧しい人々のための教会」を掲げる教皇の姿勢を象徴する出来事として世界中のメディアで報じられた。ただし、大規模な公開行事では依然として防弾機能を備えた本格的なポープモービルが使用されている。
そんなフランシスコ教皇だが、2025年4月21日(現地時間)に88歳で逝去した。ケビン・ファレル枢機卿がバチカンのテレビチャンネルを通じて同日発表したところによると、教皇は脳卒中と心停止により亡くなったとされている。
フランシスコ教皇は逝去の前日であるイースター(復活祭)の日曜日に最後の公の姿を見せ、聖ペトロ広場で祝福を与えていた。その後、翌朝(イースターマンデー)に容態が急変したという。教皇の葬儀は2025年4月26日に行われ、その後、フランシスコ教皇の遺言に従い、サンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂に埋葬された。バチカン当局は新教皇を選ぶコンクラーベを同年5月7日から開始すると発表している。
世界各国から集まる枢機卿たちによって選出される次期教皇は、約130名の枢機卿による投票で決定される。次期教皇がどのような専用車を選ぶかも、その人柄や教会の方向性を示す一つの象徴となるだろう。
フランシスコ教皇が重視した「質素」と「庶民との近さ」という姿勢が引き継がれるのか、それとも新たな路線が示されるのか、注目が集まっている。