“ニッポンの庶民の足”を支えるクルマなら選んで間違いナシ!! 2021-2022 MF編集者が推す3台

2021-2022 MF編集者が推す ”ニッポンの庶民の足の3台” N-BOX/アルト /ハイゼット トラック

マイナーチェンジされたダイハツ ハイゼット トラック。
Motor-Fan.jpのMotor-Fan/Motor-Fan TECH./Motor-Fan Bikes/Web Option/SW DressUp Navi/GENROQ webの各チャンネルを担当する編集者たちが、「個人的な想い」で推す、いまお勧めのクルマ3台をお届けする。今回はMF編集者 高橋のおすすめの3台です。

多分に頭の中身も硬くなり、開発技術者諸氏からの最新情報や詳細情報、あるいはメーカーさんの新車発表や試乗といった話からも長いこと置き去り状態。自動車メディアのエディターとは言っても大方の皆さん同様に、メーカーさんのプレスリリースと公式サイトの記述だけが頼りの超情報弱者の役立たず高齢者ゆえ、いささか夢がなく(?)、信ぴょう性も疑問符付きのお話になりますがご容赦を。

さて、“オススメのクルマ”というお題になると、実際のところ軽自動車しか思い浮かびません。“ニッポンの庶民の足”として認知されている軽自動車ですが、ちょっと2021年を振り返って、そのなかから3台をピックアップしてみたいと思います。

1:Honda N-BOX 乗用“軽”のベンチマーク

N-BOX Custom STYLE+ BLACK(2021年12月16日発売)

2021年の軽自動車売り上げナンバーワンはN-BOX。7年連続売り上げトップのまさに横綱相撲です。これがまた登録車を含めたうえでの記録ですから「乗用軽自動車ならとりあえずコレ買っとけ」という1台でしょう。MotorFan.jpの『ユーザー本音レビュー』を見ても、広い室内や内装の質感の高さ、走行性能や燃費性能、視界の広さなど平均的にユーザーから高評価を得ています。2代目となる現行のJF3/4型に対しては、この2月にNA車にCVT関係の、11月に灯火関係のリコールが出ていますが心配ご無用。もちろんこれらは対策済みになっています。

現行2代目は私の健康面の都合によりスタッフへの直接取材ができなかったので、開発の話を偉そうに書くのは大変申し訳ないのですが、初代モデルを取材させていただいた際、開発スタッフのほとんどがHonda F1プロジェクト経験者というお話を伺って驚かされました。実は「軽自動車作りはF1マシン作りと同じ」というのが私の持論だからです。

私が知る限り、世界広しと言えど、クルマ作りにここまで多くの制約があるのは、日本の軽自動車とレーシングカーぐらいです。強いて言えば一部の軍用車両――たとえば戦車など――も含まれるかもしれません。誤解を恐れずに書けば、クルマを作るにあたって「〇〇してはいけない」という制約は、登録車の場合は社内の取り決めレベルです。然るべき理由で「どうしても必要」ならば、登録車ならサイズ変更さえ許されます。

しかし軽自動車は、エンジン排気量660cc以下、長さ3400mm以下×幅1480mm以下×高さ2000mm以下の三輪および四輪車と“日本の法律で”決められています。排気量やサイズがこれ以上、わずか0.1ccでも0.1mmでも超えてしまえば、それはもはや軽自動車ではないのです。この意味で、細かな車両製造規則が存在し、それに違反したクルマはレースに参加できない――あるいは中途からでもレースから排除される――レーシングカーと軽自動車とでは、クルマ作りの根は一緒です。

ですから初代N-BOX開発スタッフのほとんど全員がF1プロジェクト経験者と伺ったとき、常軌を逸した(?)薄さのS07型DOHCエンジンのみならず、シャシーとの一体開発姿勢など「さもありなん」と思った次第。実はNSXのようなスポーツカー以上に、軽自動車の“制約だらけのクルマ作り”にこそ、他社にはないHondaの強み、F1プロジェクトの経験値が生かされているのではないかと思うのです。

今般、新たに装備されたオートブレーキホールド付電子制御パーキングブレーキ。

ちなみにこの話を開発者の方にしたときに「軽自動車はF1と違って誰にでも買えないといけませんから、F1マシンみたいにどんな材料を使っても良いわけじゃないので、さらに難しいかもしれませんよ」と仰っておられたことを思い出します。

幸いにして(?)現行2代目は、Honda車にありがちの「先代全否定」ではなく、初代の成功と経験値をもとに、安全技術や安全装備を上乗せしてきているように思いますので、乗用軽自動車としては依然として万人にオススメできる1台でしょう。この12月16日に電子制御パーキングブレーキ、オートブレーキホールド、渋滞追従機能付ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)などを搭載した一部改良モデルが発売され、さらに商品価値を高めています。

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2:スズキ アルト 新たなる“営業車の星”

9代目 HA37S型 新型アルト(ボディ色:ダスクブルーメタリック)

“ニッポンの庶民の足”は、家庭の乗用車だけではありません。生活に密着した商用車も重要です。そこで思い出されるのが、「さわやかアルト、47万円」のフレーズで商用軽バンとしてデビューした初代が爆発的ヒットとなったスズキ・アルトです。この12月10日に9代目が発表――発売は12月24日から――されました。

先代の8代目で商用軽バン仕様が廃止となり5ナンバー乗用車に一本化されましたが、さすがに今のご時世では商用軽バン仕様があったとしても47万円は無理な相談。それでも車両価格を94.3万円(消費税込み)におさえてきているのは、スズキが、いや、アルト開発の陣頭指揮に立った当時の鈴木修社長(現・相談役)がかかげた「万人の移動の自由」を厳守しようとしているからでしょう。いわゆるマイルドハイブリッド方式とは言えハイブリッド車をラインアップし、最低車両価格109.7万円(消費税込み)におさえてきたのも立派だと言えます。

感動を誘うほどシンプルで潔い室内。

乗用軽自動車の人気が自社のワゴンRで先鞭をつけた背高スタイルのハイト系ワゴン(ハイト系と言うだけなら、先鞭をつけたのはホンダのシティでしょうか?)に占められている現在、昔ながらの低いスタイリングで車室が比較的狭く、装備や装飾も最低限のアルトの販売状況は厳しいのは事実。

しかしアルトに商用軽バン仕様がなくなっても、依然として営業車に対してコストパフォーマンスを第一に求める法人需要は高いものがあります。この営業車需要の分野では、価格面だけなら最低価格86.02万円(消費税込み)でダイハツのミラ イースが立ちはだかっていますが、装備との兼ね合いを勘案し、現状では新型アルトをオススメしておきましょう。

スズキとしては今回のアルトは女性層のユーザー喚起を狙っているのですが、やはりアルトには便利な下駄、営業車の星を目指していただきたいと思う次第。

過不足なく使いやすいレイアウトのインパネまわり。視界も良好。
オプションでHUD(ヘッドアップディスプレイ)も用意される商品構成の周到さ。

スズキ アルト

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3:ダイハツ ハイゼット トラック “ほぼ完成形”の域に達した軽トラ

ハイゼット トラック エクストラ 4WD CVT(ボディ色:アイスグリーン)

さて、“ニッポンの庶民の足”の花形とも言えるのが商用軽バンと軽トラックです。この12月20日、17年ぶりに11代目を数えるダイハツの新型ハイゼットが発表されましたが、軽トラックは改良新型にとどまりました。商用軽バンはまだしも、“ニッポンの庶民の足”の花形ながら、実は今、軽トラックは危機に瀕しています。

なぜなら現状、軽トラックはホンダの生産撤退表明とスバルの自社開発中止により、ダイハツのハイゼットとスズキのキャリイの2車種だけになってしまったからです(もちろんOEM車は除きます)。この背景には「軽トラックが売れない」ということがありますが、なぜ売れないのかと言えば、「壊れないから」に他なりません。なまじ頑丈に作ってしまったため、軽トラックはなかなか壊れず、買い替え需要が生じにくいのです。

今般の新型ハイゼット/アトレーの開発責任者も取材に対し、「軽トラックについては、シャシーは現状でほぼ完成形だと思いますのでマイナーチェンジにとどめました。軽トラックのお客様には壊れない、錆びないという耐久性が重要なのです」と述べておられます。

あまりにも完成度を高めすぎたために、軽トラックは自分で自分の首を絞めてしまった…と言えるかもしれません。そんななかでも開発を続けなくては、軽トラックの技術、いや、軽トラックそのものが失われかねません。仮にそうなったら、軽トラックを必要とする産業そのものも危機に瀕するわけです。

これ以上望むべくもないインパネまわり。
シンプルなデザインだが、実は昨今の軽トラはシートの調整幅が狭いためにドラポジなどを熟慮して設計されており、下手な登録車よりも快適だったりする。(ハイゼット トラック エクストラ 4WD CVT)

5~6年ほど前、高床4WDの小型トラックが販売されなくなってしまったため、日本の小規模林業が危機に瀕してしまい、トラック各社があわてて現行2トン・トラックの特殊仕様を開発するという事がありましたが、そんな事態が軽トラックに生じた場合にはシャレになりません。かと言って買い替え需要を促進するべく、わざと壊れやすい軽トラックを開発するなど本末転倒、技術への背信行為です。

先述のように、軽トラックはメーカーを問わず技術的にほぼ完成の域にあります。そんな中でも軽トラックを少しでも前進させようという今般のダイハツに敬意を表し、今般の改良新型ハイゼットをオススメさせていただきたいと思います。

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番外:もしも軽トラックがなくなったら…?

軽自動車は日本独自の規格ですが、もし仮に「買い替え需要不足による売れ行き不振」で日本の軽トラックが消滅してしまったら、別の手段を考える必要が出てくるはずです。世界に類似した規格を求めた場合、私が有力と考えるのは、日本の軽トラックに近い使い方をされ、特に北米地域で好んで使用されているSSV(=Side by Side Vehicle/サイド・バイ・サイド・ビークル)、あるいはUTV (=Utility Task Vehicle/ユティリティ・タスク・ビーキル)と呼ばれる2~4名乗りの多用途小型四輪車です。

これはいわゆるATV(=All Terrain Vehicle/全地形対応車)の一種で、主にオートバイメーカーが製造しており、もちろん日本メーカーでもHonda、ヤマハ、カワサキのほか、トラクターでおなじみのクボタも製造しています。これらの車両は主に600cc以上の大排気量オートバイ用エンジンを使用していますが、丸形ハンドルにペダル式のアクセルとブレーキと、操縦装置は四輪自動車と同じです。先述通り北米地域では燃費が良く、不整地走行も可能なため高い人気を誇っています。また、日本の4ナンバー軽自動車の最大積載量は350kg上限ですが、SSVは500kgほどに達しますから、軽トラックの代替に最適ではないかと思うのです。

アメリカ、ジョンディア社のSSV『ゲーター TE 4×2』。画像は純EV仕様。日本でもゴルフ場の管理車両として輸入販売されているが、公道走行は出来ない。万が一の市場消滅の場合、軽トラックの代替としてどうだろうか?
こちらは同じくジョンディア社のSSV『ゲーター TH 6×4』。画像はガソリン仕様。もちろん公道走行不可だが、日本でも実用性や利便性は高いと思う。実にもったいない。逆にこんな軽トラックがあれば、レジャー・ユースが訴求できそうだと思う。

しかしながらこのSSV、日本では基本的に公道走行が許可されていません。車両分類が無いことと、不整地走行に向いたサスペンションの設定が舗装路では横転しやすく危険ということが主な理由です。カワサキの『ミュール』の特別仕様車は『汎用軽機動車』として自衛隊に採用されて使用されていますし、アメリカ、ジョンディア社の『ゲーター』の軍用仕様も『M-ゲーター』として米軍に使用されるバトル・プルーフものの製品ですが、そのように公的機関が証明をしているに等しい車両でさえ、日本の法規では公道走行できません。日本では唯一、名古屋の『ホワイトハウス』という大手自動車ディーラーが代理店をつとめるポラリス・インダストリーズ社の『RANGER XP 900』や『MRZR4』などが「大型特殊」として公道走行可能としていますが、これは苦肉の策と言えるでしょう。運転に大型特殊免許が必要では「庶民の足」とは言い難くなります(無論、『ホワイトハウス』の努力を否定するものではないことを申し添えておきます)。

カワサキのSSV『ミュール プロMX EPS』。こちらはカモフラージュ仕様。ちなみに本車の特別仕様が自衛隊で使用されている。

少し前に50ccのATVが流行したことがありましたが、マイクロカー(ミニカー)規定に合致するというだけで、デフも備えていない玩具のような外国製ATVの公道走行は許可され、しっかりした自動車メーカーが製造するデフ付きATVが公道走行を許可されないのは本末転倒ではないかという議論が起こりました。50ccATVでは不整地向きサスペンションの転倒の危険性は問題にされていませんでした。その解決も見ないまま、ブームの終息とともに議論も忘れ去られてしまった感がありますが、「もし万が一にでも軽トラックがなくなってしまったら?」を想定して法整備を進めていただけたらと思わざるを得ません。現在、ジョンディア社の『ゲーター』にはBEV(純EV)仕様もありますから、そちらの方からアプローチするのも一手かもしれません。

まぁ、本音を言えば、こういうオフロード4WD的な軽トラックが個人的に欲しいんですよね。軽トラックは頑丈が身上のフレーム・シャシーですから、ジムニーのようにアウトドア・レジャー志向の一般ユーザーにもアピールできるんじゃないかと思うのですが…。

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著者プロフィール

高橋 昌也 近影

高橋 昌也

1961年、東京生まれ。早稲田大学卒。モデラー、ゲームデザイナー、企画者、作家、編集者。元・日本冒険小…