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e-4ORCEは、日常シーンでも効果あり

日産セレナのラインアップに電動駆動4輪制御技術のe-4ORCE(イーフォース)が追加されたのは、2024年10月のことだった。エンジンを発電専用とし、発電した電気でフロントに搭載するモーターを駆動するe-POWER(イーパワー)をベースに、リヤモーターを追加した構成。フロントモーターの最高出力は125kW、最大トルクは315Nm、リヤモーターの最高出力は60kW、最大トルクは195Nmである。

e-4ORCEは従来の四輪駆動(4WD)のように雪道など滑りやすい路面を走るときなど、限定的なシーンで効果を発揮する技術ではない。滑りやすい路面や悪路で効果を発揮するのはもちろんのこと、乾燥した舗装路(あるいは雨で濡れた道路)を走る日常的なシーンでも効果が得られる(得られるべく、日産自動車は開発に取り組んでいる)。
エンジンをフロントに横置き搭載するレイアウトで話を進めると、従来の4WDはエンジンが発生する動力をトランスファーで前後に配分し、プロペラシャフトを通じて従動輪であるリヤに伝える構成だ。エンジンの場合はモーターほど高い応答で出力を制御することはできない。加えて、機械的に動力を伝達する都合上、どうしても伝達の遅れが生じてしまうし、高精度な制御も難しい。

動力源をエンジンのみに頼った4WDの場合は、エンジンが仕事をしてくれない限りは従動輪に駆動力は伝わらない。一方、フロントとリヤにモーターを搭載する電動4WDの場合は、前後の駆動力を独立して制御することが可能になる。しかも、エンジンに比べて高い応答、高い精度で制御することが可能だ。

フロントとリヤにそれぞれ個別に制御可能なモーターがあると、「走る」ことだけでなく、「止まる」や「曲がる」といった、クルマの基本的な運動性能を広く制御することが可能になる。例えば、モーターが回生(発電)時に発生する抵抗力を利用すると、アクセルペダルの戻し側の動きで減速力を制御することが可能になる(「e-Pedal」のスイッチを押すと機能する)。このとき、フロントよりもリヤの制動力を強めに制御すると、前のめりになるピッチングを制御することが可能。前後の駆動力を適切に配分すると、加速時のピッチング(頭が後ろに振られる)を抑えることも可能だ。
また、コーナーに進入し、立ち上がる際は、走行状態に応じて変化する輪荷重に応じて前後の駆動力配分を制御することが可能。駆動力をかけながら旋回していると、狙いどおりに曲がってくれず、外にふくらむ動きが出ることがある。いわゆるアンダーステアというやつだ。このときは加速することにタイヤの能力を取られてしまっているので、曲がる力が弱くなり、進路が外側にずれていくのである。


こうなった場合、ドライバーはステアリングを切り足すか、速度を落として対処することになる。しかし、フロントとリヤにモーターを搭載したe-4ORCEなら、走行状態の検知をもとにフロントの駆動力を弱め、そのぶんをタイヤの能力に余力のあるリヤに配分することで、外にふくらんでいく動きを出さず、ドライバーが狙ったとおりのラインをトレースするように走らせることができる。駆動力の前後配分は自動的に行なうので、ドライバーは制御の介入を意識することなく、ただ思い通りに走る(ので気持ちいい)と感じるばかりだ。
さらに、旋回立ち上がりでは後輪の駆動力を弱めてそのぶんを前輪に配分することで、ヨーを収束させて旋回内側に巻き込む動きを抑え、安定した姿勢で加速態勢に移行させることができる。これも、自動的に行なう(制御は黒子に徹する)ので、ドライバーはただ「意のままに動く」と感じるのみである。e-4ORCEの場合は各輪のブレーキ制御も前後モーターの配分制御と統合して行なうため、より応答高く、より精度高く制御することができる。

形式:直列3気筒DOHCターボ
型式:HR14DDe
排気量:1433cc
ボア×ストローク:78.0mm×100.0 mm
圧縮比:13.0
最高出力:98ps(72kW)/5600pm
最大トルク:123Nm/25600rpm
燃料供給:DI
燃料:レギュラー
燃料タンク:52L

4WDは雪道を走るときに役立つ駆動方式であり、雪が滅多に振らない非降雪地域で使うなら無用であるとか、雪道は走らないから必要ないと考え、見送られるケースが多かった。だが、e-4ORCEは違う。雪道のような滑りやすい路面での走行性は応答と精度がともに高いモーターを使用することにより従来の機械式AWDより高い。
それだけでなく、乾燥舗装路で行なう日常のドライブでは意のままに走る楽しさが味わえ(意のままなのでストレスの軽減にもつながる)、制動時に前のめりになったり、加速時にのけぞったりする動きが抑えられ、カーブを曲がるときは体が横に倒れるような動きが抑えられる効果が得られる(ので、酔いにくくもなる)。
つまり、ドライバーだけでなく、助手席や後席も含め、すべての乗員が恩恵を受けられる技術がe-4ORCEというわけ。筆者は今年の2月、雪道で安心感の高い走りを確認した。以来、乾燥舗装路での実力はどんなものか気になって仕方なく、日を改めて機会をいただいた次第である。
乾燥舗装路でのe-4ORCEに価値はある?



刷り込みが多分にあることは否定しないが、日産セレナe-4ORCE、ミニバンにしてはと言っては失礼だが、確かに意のままである。カーブに突っ込み過ぎておっとっと、というような状況になりづらく、曲がりくねっているだけでなく、勾配もついている道をスイスイと駆け抜ける。グラグラと大げさに揺れるようなことはないし、制動時も加速時も揺れが少ないように感じる。
気持ち良さ、心地良さの要因はe-4ORCEによるものだけでなく、EVらしい、静かで、ショックがなく滑らかで、ドライバー操作に遅れなく反応するよう仕立てられたe-POWERの恩恵も大きい。「いつかのために」が従来の4WDなら、e-4ORCEは「いつものために」だと日産は説明するが、その考えは筆者が改めて説明するまでもなく充分ユーザーに浸透しているとみえる。

2025年3月の新車販売台数のデータを見ると、セレナは9497台を販売して全体の10位だった(軽自動車を除くと7位)。ミニバンでは、トヨタ・ノア(13位)、ヴォクシー(21位)、ステップワゴン(25位)を抑えてカテゴリートップである。聞けば、e-4ORCEは「非常に好評」だそう。ユーザーはとっくにe-4ORCEの価値に気づいているのだ。
日産セレナe-4ORCEハイウェイスターV(4WD)
全長×全幅×全高:4765mm×1715mm×1885mm
ホイールベース:2870mm
車重:1930kg
サスペンション:Fストラット式/Rトーションビーム式
駆動方式:AWD
エンジン
形式:直列3気筒DOHCターボ
型式:HR14DDe
排気量:1433cc
ボア×ストローク:78.0mm×100.0 mm
圧縮比:13.0
最高出力:98ps(72kW)/5600pm
最大トルク:123Nm/25600rpm
燃料供給:DI
燃料:レギュラー
燃料タンク:52L
フロントモーター
EM57型交流同期モーター
最高出力:120kW(163ps)
最大トルク:315Nm
リヤモーター
MM48型交流同期モーター
最高出力:60kW(82ps)
最大トルク:195Nm
乗車定員:7名
燃費:WLTCモード 16.1km/L
市街地モード15.4km/L
郊外モード:17.4km/L
高速道路:15.6km/L
車両本体価格:413万2700円
メーカーオプション68万8600円
100V AC電源(1500W) 5万5000円、利休/スーパーブラック2トーン2トーン特別塗装色 8万2500円、ホットプラスパッケージ9万9000円、アダプティブLEDヘッドライトシステム+インテリジェントアラウンドビューモニター+インテリジェントルームミラー+アドバンスドドライブアシストディスプレイ+ワイヤレス充電+6スピーカー+NissanConnectナビシステム+車載通信ユニット+ETC2.0ユニット+ドライブレコーダー(前後)+プロパイロット 55万1100円。