海上自衛隊の新型艦種「哨戒艦」の建造がスタート。小さな船体ながら拡張性は充分!?

活発化する中国の海洋進出に対して広い日本周辺海域をカバーして警戒監視にあたるため「哨戒艦」は建造される(画像/防衛省資料より)
海上自衛隊の新たな艦艇の建造が開始されたことが明らかになった。「哨戒艦」と呼ばれる小型の艦だ。文字通り、平時からの日本周辺における警戒監視のために建造されるもので、固定武装こそ乏しいが、武装の追加や無人機運用などが考慮されており、多機能な艦となる可能性を秘めている。【自衛隊新戦力図鑑】
TEXT:綾部剛之(AYABE Takayuki)

警戒監視の専従艦として生まれる

海上自衛隊はその主な戦力を「海上交通路(シーレーン)の安全確保」に振り向けており、意外に日本周辺海域の防衛・警戒監視が専門と言える艦艇は少ない。現在で言えば、「はやぶさ」型ミサイル艇6隻が該当するくらいで、これまで平時の警戒監視任務は地方配備の護衛艦や掃海艇を含めて実施されてきた。しかし、近年の中国の活発な海洋活動を背景に、充分な数を揃えた専門の哨戒艦艇の整備が求められるようになったことから、この「哨戒艦」が生まれた。

排水量は1900トンと、とても小型の船体。固定武装は30mm機関砲のみだが、多目的クレーンや多目的甲板と格納庫、艦尾揚収装置など、多用途に使える設備を持つ(画像/防衛装備庁資料より)

全長95m、基準排水量1900トンと小型の船ながら、常続的な警戒監視活動のため長期間の滞洋性を備えるとされ、機関には燃費のよいCODLAD(ディーゼル-エレクトリック&ディーゼル複合推進)方式を採用している。本型はまた、必要な隻数を揃えるための建造費の抑制や運用コストの低減、慢性的な隊員不足と将来の少子化を見据えた自動化・省人化に配慮されている点が特徴である。乗員はわずか30名になるという。

建造費の抑制や省人化のためか、固定武装は30mm機関砲のみと、警戒監視任務に割り切ったものとなっているが、追加武装として「コンテナ式SSM(艦対艦/艦対地ミサイル)発射装置」なる装備が検討されているようだ。アメリカでは、「Mk70ペイロード・デリバリー・システム」と呼ばれるコンテナ式ミサイル垂直発射装置を、ミサイル発射装置を持たない艦艇に搭載するテストを行なっており、こうした装備が想定されていると思われる。

ロッキード・マーチン「Mk.70ペイロード・デリバリー・システム」。40フィートコンテナに4本のランチャーを備える。対艦・対地・対空ミサイルや対潜ロケットまで幅広く発射可能だ(画像/ロッキード・マーチン)

空中・水上・水中の無人機を運用か?

本型のイメージ画像では多目的クレーンや多目的甲板、多目的格納庫など汎用性を考えた設備が描かれている。前述した追加武装の搭載はもちろん、無人機の運用も考慮されていると思われる。実際、警戒監視能力の強化のため「V-BAT」と呼ばれる無人航空機の搭載が予定されている。V-BATについては今年1月の記事でも紹介したが、十字架型の特異な外見をしており垂直離着陸能力により、少ないスペースで運用できる。また、上に掲載したイメージ画像では艦尾に揚収装置(小型艇などを出し入れする装置)を設けることが示されており、無人水上艇/無人水中艇の運用も考えられているのかもしれない。

シールドAI「V-BAT」。哨戒艦への搭載が予定されている無人航空機で、おおよそ4m四方のスペースがあれば垂直離着陸でき、最大10時間の滞空性能を持つ。これにより広い範囲を警戒監視することが可能となる(写真/アメリカ海兵隊)
「もがみ」型護衛艦の艦尾揚収装置。艦尾が開き、小型艇を発進・収容することができる。同様の装置が哨戒艦にも搭載されるようだ(写真/海上自衛隊 護衛艦隊X)

令和5年度(2023年度)予算で4隻の建造費(357億円)が盛り込まれており、今年2月に起工し、2027年3月に就役の予定だという。さらに来年、令和8年度(2026年度)予算で2隻の建造費を盛り込む計画であり、最終的には12隻の建造が構想されている。

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綾部 剛之

軍事関連をメインとした雑誌/書籍の編集者。専門は銃器や地上兵器。『自衛隊新戦力図鑑』編集長を務めて…