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■インドで人気のコンパクトカー「バレーノ」を日本で輸入販売

2016(平成28)年5月13日、スズキは前年にインドで生産・発売されたグローバルコンパクトカー「バレーノ」の1.0Lターボ車の日本での輸入販売を始めた。インドでは人気を獲得していたバレーノだったが、コンパクトカー激戦区の日本では苦しい販売を強いられ、2020年に短命で販売を終えた。

スズキのインド市場開拓の歴史

1978年に社長に就任した鈴木修氏は、インドの将来性に着目して1983年にインド政府との合弁会社マルチ・ウドヨグ社を設立した。当時インド政府は、「国民車構想」を打ち出し、それを実現するために海外パートナーを募集しており、海外進出を目指していたスズキと思惑が一致したのだ。

マルチ・ウドヨグ社が1983年に最初にインド市場に投入したのは、当時日本で爆発的に売れていた「アルト」を改良した「マルチ800」。アルトと同じ3気筒エンジンの排気量を660ccから800ccに拡大したモデルだった。

低燃費と低価格のマルチ800は、すぐさまインド市場を席巻し、大旋風を巻き起こした。その後、セダン「マルチ1000」も発売してシェアを伸ばし、1990年代にはスズキのインドでの乗用車シェアは、80%を上回るまで急成長した。2000年を迎える頃には、韓国メーカーなど他社の参入によってシェアを奪われたが、それでも現在も40~50%の圧倒的なシェアを誇っている。
2002年には、スズキが出資比率を54%に引き上げて子会社化し、2007年に社名を現在の「マルチ・スズキ・インディア社(マルチ・スズキ社)」へ改めた。
インドで人気モデルのバレーノを日本投入

マルチ・スズキ社は、2015年2月にハッチバックのコンパクトカー「バレーノ」を発売した。インドから全世界に展開するグローバルカーであり、インドでは発売以来、主に都市部の若者層を中心に人気を獲得していた。

日本へは、翌2016年3月にまず1.2L直4 DOHCデュアルジェット(1気筒あたり2本のインジェクター)NAエンジン搭載モデル(XG)が輸入販売され、そして5月のこの日に1.0L直3 DOHC直噴ターボエンジン搭載車(XT)が発売されたのだ。

バレーノは、「スイフト」より若干大きいワイド&ローの流麗でダイナミックなフォルムで、幅広のフロントグリルと縦型ヘッドランプが特徴。またコンパクトながら、余裕の居住空間と十分な荷室スペースを備えたパッケージングがアピールポイントのひとつだった。

パワートレインは、1.2L NAエンジンにはCVTが、1.0Lターボエンジンには6速ATが組み合わされた。NA車については優れた燃費性能、ターボ車については1.6L車並みの力強い走りが楽しめた。
さらに、衝突被害軽減システムや先行車との車間距離を保ちながら自動的に加速、減速し追従走行するアダプティブクルーズコントロール(ACC)などを標準装備し、先進の安全機能が装備された。

車両価格は、XGが141.48万円、XTが161.784万円に設定。ただ、日本のコンパクトカー激戦区では、上手くアピールできず、厳しい販売を強いられて2020年にわずか4年で販売を終えた。一方、インドでは2022年に2代目が登場して、ヒットを続けている。
トヨタは、バレーノのOEM車、グランザをインドへ投入
スズキとトヨタは、2016年10月に「両社が業務提携に向けた検討開始する」ことを発表し、2017年には包括的な業務提携に向けた覚書を締結。さらに2019年3月、新たな協業について具体的な検討に着手することで合意した。

新たな協業の具体的内容の中には、スズキがインドで生産する小型車をトヨタにOEM供給することが含まれていた。この提携に基づいて、トヨタは2019年6月にインドでバレーノのOEMモデルである新型ハッチバック「グランザ」を発表した。

グランザは、フロントグリルはトヨタの専用デザインに変更され、インテリアには最新のコネクティビリティが組み込まれた。また搭載エンジンは、1.2L直4 DOHCデュアルジェットNAエンジンのみだが、一部グレードにはISG(モーター機能付発電機)とリチウムイオンバッテリーを搭載したマイルドハイブリッドが追加されていた。
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トヨタは、さらに2020年9月にインドで小型SUV「アーバンクルーザー」を発売。これは、スズキがインドで発売している「ビターラブレッツァ」のOEMモデルである。スズキとトヨタのインドでの協業は、着々と成果を上げているようだ。
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