6月29日締切!価格は800万円以上!? 500台限定のスバルS210の抽選に応募する?しない? 8年ぶりのSシリーズにその価値はあるか……

スバルは2025年1月に開催された『東京オートサロン2025』にて、STIコンプリートカー「S210」を発表。限定500台となるこのモデルは抽選販売となり、5月下旬より応募受付を開始している。いよいよ6月29日の応募締切も迫りつつあるが、改めてこの8年ぶりの「S」シリーズを眺めてみよう。
PHOTO:OPTION/MotorFan.jp/SUBARU
2025年4月に富士スピードウェイで開催された『モーターファンフェスタ』ではNBRチャレンジ車とともにS210が展示され、同車がNBRチャレンジ車の直系であることがアピールされた。

2025年1月の『東京オートサロン2025』、4月の『モーターファンフェスタ』そしてSUBARU STAR SQUARE スバル恵比寿ショールームと、S210のプロトタイプモデルは度々展示されてきているのでその目で見ている人も多いことかと思うが、改めてそのディティールや開発コンセプト見ていこう。

STI高津益夫開発副本部長とS210プロトタイプ。

誰がどこで乗っても意のままに操れるクルマ

そもそもSTiコンプリートカーとはスバルの量産ラインで生産したベース車をSTIが専用の工場で架装を施して完成させる特別なクルマ。グレードとしての「STI Sport」はあくまで量産ラインモデルであり、足まわりと車体を強化してハンドリング性能を高めた「STI Sport♯」以上がSTIコンプリートカーとなる。

WRX S4 STI Sport R EX。STIの名を冠していても、こちらはあくまで量産ラインモデル。

こと「S」シリーズともなると足まわりやボディだけでなく、エンジンまわりも強化してパフォーマンスアップが図られることになる。
「STI Sport♯」にせよ「S」シリーズにせよ、その根底にあるのは「意のままになる走り」。「STI Sport♯」が意のままになるハンドリングなら、「S」シリーズは走る・曲がる・止まる全ての性能が意のままになるチューニングが施されるのだ。

S210。WRXやWRX S4ではなく、あくまでスバルS210というクルマ。スカイラインGT-Rではなく日産GT-Rのようなものか。

スバルは「安心と愉しさ」のクルマ作りを掲げており、誰がどこで乗っても意のままに操れることが「安心と愉しさ」につながると考えている。そして、STIコンプリートカーの開発テーマも「誰がどこで乗っても意のままに操れる」クルマであり、その究極の姿がニュルブルクリンク24時間耐久レース参戦車両なのだ。

2025年ニュルブルクリンク24時間耐久レースのスバル。

4名のドライバーが交代でドライブし、1周約25kmで場所によってはコンディションが全く異なり、荒れた路面のハードサーキットを24時間走り続ける……これこそまさに「誰がどこで乗っても意のままに操れる」クルマというわけだ。

S210をドライブする久保凜太郎選手。2025年も「STI NBR CHALLENGE」よりニュルブルクリンク24時間レースに参戦。佐々木孝太選手、ティム・シュリック選手、カルロ・ヴァンダム選手らと共にステアリングを握った。

そして、S210はついに「S」シリーズ初となる2ペダルとなった。トランスミッションはスバルパフォーマンストランスミッションと称するチェーン式のCVTである。国内仕様のWRXには未だMTが導入されず、ついに「S」シリーズまでCVTとなったことはファンだけに留まらず物議を醸した。

しかし、STIコンプリートカーの開発コンセプトが「誰がどこで乗っても意のままに操れる」ということを考えれば、あらゆるユーザーがハイパフォーマンスとスポーツ走行を楽しめる選択肢こそCVT=スバルパフォーマンストランスミッションだったという帰結も納得できるのではないだろうか。

佐々木孝太選手もS210のスバルパフォーマンストランスミッションにお墨付き。S210をドライブした久保・佐々木両選手ともにその仕上がり満足そうだった。

WRX S4に搭載されるFA24型2.4L水平対向4気筒DOHCインタークーラーターボエンジンとスバルパフォーマンストランスミッションのポテンシャルが元々高いレベルにあることから、これをファインチューニングするとともにシャシーチューニングにより操舵応答性と安定性を兼ね備えたハイパフォーマンスな走りを誰でも楽しめるクルマに仕上がったという。

S210に搭載されるFA24型2.4L水平対向4気筒DOHCインタークーラーターボエンジン。S208(2017年)のEJ20型はもちろん、日本未発売のS209(2019年)のEJ25型から、ついに「S」シリーズがEJ型エンジンと決別することになった。

なお、「S」シリーズ初となるアイサイトX搭載となり、ハイパフォーマンスなスポーツモデルといえど愉しさだけでなく安全も担保されることになった。

フロントウインドウ上部にアイサイトのステレオカメラが見える。アイサイトX搭載もCVTだから可能になったこと。

機能性に基づくエクステリアパーツ

ニュルブルクリンク24時間耐久レース挑戦車の直系であることを表すエアロパーツは、ハイパフォーマンスカーを感じさせるデザインだけでなく、その効果もレース譲りの空力性能を備えている。

フロントグリルにはSTIモデルではお馴染みのチェリーレッドストライプに加え、S210オーナメントを配置。フルLEDハイ&ロービームランプははブラックベゼルで、ブラックアウトされたフロントアンダースポイラー、リヤアンダースポイラーと合わせて精悍なイメージ。

WRX S4のデザイン上の特徴であるホイールハウスのクラッディングは、STIスポーツガーニッシュとしてホイールアーチまわりに突起を付け片側+10mm拡幅したフレア形状を採用。これはニュルブルクリンク参戦車で実戦投入されたノウハウで、フェンダー横を流れる空気がタイヤハウス内の空気を吸い出し、後側のエアアウトレットとセットでタイヤハウス内の圧力を抜いてリフト荷重を低減=ダウンフォースを発生させるというもの。リフト低減効果はフロントで20%、リヤで30%にもなるそうだ。

S210専用のスポーツサイドガーニッシュは空力性能はもちろん、S210のオーナメントを配して特別感を演出。

他にもフロントアンダースポイラー、サイドアンダースポイラー、リヤアンダーディフューザーとSTI製のエアロパーツをトータルでコーディネイト。ドライカーボン製のスワンネックリヤスポイラーと合わせてレーシーな雰囲気を演出している。

トランクリッド右側にもS210オーナメント。ドアミラーやシャークフィンタイプのルーフアンテナもブラック塗装となる。
ドライカーボンリヤスポイラーはスワンネックと呼ばれるレーシングカーではお馴染みの吊り下げ式。
ルームミラーから見たリヤウイング。ウイングやステーが細いため、あまり後方視界を妨げていない。
リヤアンダーディフューザーは一般車ではまず見ることはない空力パーツだ。

ドライバーをその気にさせるスペシャルなインテリア

運転している最中はエクステリアは見ることができない。一方でコックピットまわりは乗車中は常に目に入るし、直接触れるインターフェイスの存在感はある意味エクステリア以上に大きい。

S210のコックピット。専用品ではないがSTIパーツとしてはおなじみのプッシュエンジンスイッチ(レッドタイプ)が装着される。
ダークレッドステッチの高触感革使用本革巻ステアリングホイールは、ピアノブラック調加飾パネルにシリアルナンバープレートを装着。

何より目立つのはレカロ製のカーボンバックレストフロントシート。高剛性のカーボン素材とパッド硬度を使い分けることで、よりインフォメーションのフィードバックを確かにし、正確なドライビングをサポートする。

シートバックのデザインはRSS系のように見え(レカロRSSはフルバケットタイプ)、カーボン製フレームにパッドを貼り付けたような形状だ。ショルダー部のパッドはチェリーレッドの差し色が入る。

パッドの硬さを部位によって調整することでホールド性とステアリング操作性を両立。8way電動調整機能にシートヒートも装備されており、レーシーな見た目とは裏腹にラグジュアリーな一面も備える。

上部にはハーネスを通す穴が用意される。流石に最上部を使うことはないだろうが、体格に合わせて選択できるのはありがたい。また、腰部にもハーネスを通す穴が開いており、腰ベルトをシート内側に通せる。
シートバッククッションにはレカロとSTIの型押しロゴが入る。
シートバックはカーボン剥き出しで、かなり薄いのがわかる。
STIとレカロのダブルネームが入ったプレート。
リヤシートは本革を採用。左右席はフロント同様にレッドタイプのシートベルトを採用する(中央のみグレー)。

ブラック基調のインテリアはレーシングカー的な機能美と上質さを表現しており、運転に集中しやすい空間づくりとなっている。
表皮巻+ブラックデザインステッチのインパネミッドトリムにはS210専用刺繍が施されるほか、ドアトリムも表皮巻+ブラックデザインステッチ。インパネはピアノブラックとしてセンターリング加飾を追加。センタートレイにもダークキャストメタリック、ブラック表皮巻+ブラックステッチ。フロアコンソールリッド&ドアアームレストはブランノーブ表皮巻+ブラックステッチ。前後ドアハンドルをピアノブラック調とするなど、各所に加飾を追加している。

表皮巻+ブラックデザインステッチのインパネミッドトリムに施されたS210専用刺繍ロゴ。
ブランノーブ表皮巻+ブラックステッチのドアアームレスト。ドアハンドル周辺はピアノブラック調に。
ハーマンカードンサウンドシステムは専用の10スピーカー(フロント6+リヤ4)。

数値に表れないパフォーマンスパーツ

実はS210のスペックは最高出力300ps/5700rpm・最大トルク375Nm/2000-5600rpmと最高出力こそWRX S4 STI Sport-Rの275psから25psアップしているものの、最大トルクには変更がない。しかも、ベースモデルはもとよりS210でもハイパフォーマンスモデルの2.4Lターボのスペックとしては物足りない印象の数字だ。

FA24型2.4L水平対向4気筒DOHC16バルブインタークーラーターボエンジンは最高出力300ps/5700rpm・最大トルク375Nm/2000-5600rpmというスペック。エンジン本体はノーマルだ。

しかし、S210はアクセルの応答性に徹底的にこだわっており、コンプリートカーとはいえ驚きのレスポンスを、低圧損エアクリーナーエレメント、エアクリーナーダクトケース、低圧損エアインテークブーツ、専用エアインテークダクトといった吸気系パーツで実現している。

専用のエアインテークダクトはS210のエンジンレスポンスを実現する重要なパーツ。ボンネットを開けて目につきやすい位置と大きさだけに、STIシリアルナンバープレートを設置して所有満足度を高める。写真はプロトタイプのためナンバー「0」。
エンジンルームで目につくのはやはりコーポレートカラーのチェリーレッドをあしらったS210専用のSTIフレキシブルロータワーバー。ピロボール支持とプリロードの付加で車体の動きを抑制して微小舵時の応答性を追求している。

加えて排気系も新設計の低背圧エキゾーストシステムにより、低速トルクと高回転の伸びを両立。より鋭い加速レスポンスが与えられている。
これらを専用のエンジンコントロールユニットで最適化。点火時期はもちろんデュアルAVCS、電動ウェイストゲートの過給圧制御など、FA24エンジンのポテンシャルを最大限引き出している。

4本出しのS21専用低背圧パフォーマンスマフラー。
同じく専用の低背圧エキゾーストパイプ。

そして何より出色なのがS210専用セッティングとなったスバルパフォーマンスミッション。S210はSシリーズ初のCVTモデルということが多くのスバルファンの間で物議を醸した。しかし、S210は変速制御とAWD制御をエンジンに合わせて専用プログラムとしたことで大幅なパフォーマンスアップを実現している。

「i」「S」「S♯」というドライブモードは同じだが、いずれも専用プログラムとなっている。シフトレバーは本革巻に手縫いダークレッドステッチ入り。

特にAWD「Sport」モードはフロント側への駆動配分を減らして、フロントタイヤのグリップを横方向に使えるようにして回頭性を高めている。これも、スバルが30年にわたって磨き続けるVTD-AWDシステムの力と言えるだろう。

S210のスバルパフォーマンストランスミッションはハードな走行も想定してミッションフルードクーラーを増設している。

CVTというととかくスポーティさとは無縁であるというイメージが未だに付き纏っているが、S210のスバルパフォーマンストランスミッションはそのイメージを完全に払拭している。WRX S4でもかなりのレベルに仕上がっているが、S210のそれは完全に別モノとも思える出来映えだ。

クルマの応答性にこだわった足まわりセッティング

走る・曲がる・止まるがどんなドライバーでも意のままになることがS210のコンセプト。それだけに足まわりのセッティングも応答性にこだわったものになっている。

ブレーキはブレンボ製フロント18インチベンチレーテッドディスクブレーキの電動ブレーキブースターのアシスト特性を専用にチューニング。ストロークではなく踏力によるリニアな減速度コントロール性を重視した効き味とすることで、思い通りのスピードコントロールを可能にした。

ブレンボ製フロントモノブロック対向6ポットブレーキキャリパーと18インチドリルドディスクローターの組み合わせ。ブレーキパッドも専用品をおごる。
一方でリヤはドリルドではあるものの、ローターのサイズは控えめ。レッド塗装ではあるもののキャリパーは片押し1ポットとなっている。

サスペンションは専用のZF製電子制御ダンパーに専用コイルスプリングとコントロールユニットを組み合わせる。電子制御ダンパーはSシリーズ初採用で、微小舵応答性を高めるとともに、「Normal」「Sport」「Comfort」の各ドライブモードで差別化が図られている。

右リヤサスペンションまわりを後方から見る。ダンパー下部に電子制御部が見える。STIのロゴが入っているのがラテラルリンク。ゴムブッシュをピロボール化してリヤサスペンションの動きを円滑にしている。ストロークの際のフリクション低減とキャンバー剛性向上によりハンドリングがよりシャープになる。

加えて、専用のリヤスタビライザーブッシュは新開発のミラブルウレタンゴムを採用したことで、サスペンションの動き始めからスタビライザーが効率よく動くようにな理、乗り心地はもちろん操縦安定性を高い次元で両立している。これに加え、STI製のラテラルリンクセットや前後にフレキシブルロードスティフナーも装着される。

S210は遅れを小さくする=ゲインを上げるというセッティングではないのがポイントになっている。STIのセオリーとしては減衰力は縮み側が低め、伸び側を高めにしているという。これで内輪の設置荷重を効率的に使えるようになるのだそうだ。

ホイールはSTI製の19インチ×9.0J鍛造マットブラック塗装のフレキシブルパフォーマンスホイールを装着。ホイールサイズに加え、タイヤもWRX S4の245/40R18からより幅広で扁平となる255/35R19サイズに拡大。ミシュラン・パイロットスポーツ4Sを組み合わせる。

微小舵応答性能を追求したSTI独自技術のフレキシブルパフォーマンスホイール。サスペンションの構造により生じる転舵時の旋回内輪の引き込みと荷重増加を活用。アウターリムを低く抑えることでタイヤ側面の変形が促され、接地面積が拡大する。

しかもフレキシブルパフォーマンスホイールは、S210ではフロントからの反力を担うリヤタイヤのたわみを最適化するリヤ専用形状が新たに開発されたという。

デザインやサイズはフロントと同じながら、設計は新たにリヤ専用となっている。

価格は800万円を超えるが……

これだけ装備や中身に手を入れたS210だけに、その価格は800万円を超えることになる。とはいえ、ベースとなるWRX S4も現状の最高額グレードである「STI Sport R-Black Limited」が530万2000円という価格であると考えると、この内容に+300万円をどう考えるか……といったところ。

素晴らしい出来であることは間違いなく、絶対的な価格に目を瞑ったとして、希少性も含め満足度は間違いなく高いだろう。あまり良い考え方では無いが、大事に乗れば手放すことになってもそれなりの価格になるのことは間違いない。

応募締切は6月29日。そもそも当選するかもわからないし、気になるようであれば”清水の舞台”の気持ちで応募だけはしてみるというのもアリかもしれない。S210はそんな気にさせるクルマだ。

車名S210
ボディタイプセダン
全長4690mm
全幅1845mm
全高1465mm
室内長1925mm
室内幅1515mm
室内高1205mm
ホイールベース2675mm
最小回転半径5.6m
トレッド(参考値)F:1575mm
R:1585mm
最低地上高135mm
乗車定員5名
重量(参考値)1630kg
エンジンFA24型
水平対向4気筒DOHC16バルブインタークーラーターボ
排気量2387cc
最高出力300ps/5700rpm
最大トルク375Nm/ 2000-5600rpm
燃料/タンク容量ハイオク/63L
サスペンションF:ストラット
R:ダブルウィッシュボーン
ブレーキF・R:ベンチレーテッドディスク
ホイールサイズ19インチ×9.0J
タイヤサイズ255/35R19
駆動方式フルタイム4WD(VTD)
トランスミッションCVT(スバルパフォーマンストランスミッション)
S210主要諸元(プロトタイプ)
試乗記やWRX S4との比較はこちら。

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