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2025年1月の『東京オートサロン2025』、4月の『モーターファンフェスタ』そしてSUBARU STAR SQUARE スバル恵比寿ショールームと、S210のプロトタイプモデルは度々展示されてきているのでその目で見ている人も多いことかと思うが、改めてそのディティールや開発コンセプト見ていこう。

誰がどこで乗っても意のままに操れるクルマ
そもそもSTiコンプリートカーとはスバルの量産ラインで生産したベース車をSTIが専用の工場で架装を施して完成させる特別なクルマ。グレードとしての「STI Sport」はあくまで量産ラインモデルであり、足まわりと車体を強化してハンドリング性能を高めた「STI Sport♯」以上がSTIコンプリートカーとなる。

こと「S」シリーズともなると足まわりやボディだけでなく、エンジンまわりも強化してパフォーマンスアップが図られることになる。
「STI Sport♯」にせよ「S」シリーズにせよ、その根底にあるのは「意のままになる走り」。「STI Sport♯」が意のままになるハンドリングなら、「S」シリーズは走る・曲がる・止まる全ての性能が意のままになるチューニングが施されるのだ。

スバルは「安心と愉しさ」のクルマ作りを掲げており、誰がどこで乗っても意のままに操れることが「安心と愉しさ」につながると考えている。そして、STIコンプリートカーの開発テーマも「誰がどこで乗っても意のままに操れる」クルマであり、その究極の姿がニュルブルクリンク24時間耐久レース参戦車両なのだ。

4名のドライバーが交代でドライブし、1周約25kmで場所によってはコンディションが全く異なり、荒れた路面のハードサーキットを24時間走り続ける……これこそまさに「誰がどこで乗っても意のままに操れる」クルマというわけだ。

そして、S210はついに「S」シリーズ初となる2ペダルとなった。トランスミッションはスバルパフォーマンストランスミッションと称するチェーン式のCVTである。国内仕様のWRXには未だMTが導入されず、ついに「S」シリーズまでCVTとなったことはファンだけに留まらず物議を醸した。

しかし、STIコンプリートカーの開発コンセプトが「誰がどこで乗っても意のままに操れる」ということを考えれば、あらゆるユーザーがハイパフォーマンスとスポーツ走行を楽しめる選択肢こそCVT=スバルパフォーマンストランスミッションだったという帰結も納得できるのではないだろうか。

WRX S4に搭載されるFA24型2.4L水平対向4気筒DOHCインタークーラーターボエンジンとスバルパフォーマンストランスミッションのポテンシャルが元々高いレベルにあることから、これをファインチューニングするとともにシャシーチューニングにより操舵応答性と安定性を兼ね備えたハイパフォーマンスな走りを誰でも楽しめるクルマに仕上がったという。

なお、「S」シリーズ初となるアイサイトX搭載となり、ハイパフォーマンスなスポーツモデルといえど愉しさだけでなく安全も担保されることになった。

機能性に基づくエクステリアパーツ
ニュルブルクリンク24時間耐久レース挑戦車の直系であることを表すエアロパーツは、ハイパフォーマンスカーを感じさせるデザインだけでなく、その効果もレース譲りの空力性能を備えている。

WRX S4のデザイン上の特徴であるホイールハウスのクラッディングは、STIスポーツガーニッシュとしてホイールアーチまわりに突起を付け片側+10mm拡幅したフレア形状を採用。これはニュルブルクリンク参戦車で実戦投入されたノウハウで、フェンダー横を流れる空気がタイヤハウス内の空気を吸い出し、後側のエアアウトレットとセットでタイヤハウス内の圧力を抜いてリフト荷重を低減=ダウンフォースを発生させるというもの。リフト低減効果はフロントで20%、リヤで30%にもなるそうだ。

他にもフロントアンダースポイラー、サイドアンダースポイラー、リヤアンダーディフューザーとSTI製のエアロパーツをトータルでコーディネイト。ドライカーボン製のスワンネックリヤスポイラーと合わせてレーシーな雰囲気を演出している。




ドライバーをその気にさせるスペシャルなインテリア
運転している最中はエクステリアは見ることができない。一方でコックピットまわりは乗車中は常に目に入るし、直接触れるインターフェイスの存在感はある意味エクステリア以上に大きい。


何より目立つのはレカロ製のカーボンバックレストフロントシート。高剛性のカーボン素材とパッド硬度を使い分けることで、よりインフォメーションのフィードバックを確かにし、正確なドライビングをサポートする。

パッドの硬さを部位によって調整することでホールド性とステアリング操作性を両立。8way電動調整機能にシートヒートも装備されており、レーシーな見た目とは裏腹にラグジュアリーな一面も備える。


ブラック基調のインテリアはレーシングカー的な機能美と上質さを表現しており、運転に集中しやすい空間づくりとなっている。
表皮巻+ブラックデザインステッチのインパネミッドトリムにはS210専用刺繍が施されるほか、ドアトリムも表皮巻+ブラックデザインステッチ。インパネはピアノブラックとしてセンターリング加飾を追加。センタートレイにもダークキャストメタリック、ブラック表皮巻+ブラックステッチ。フロアコンソールリッド&ドアアームレストはブランノーブ表皮巻+ブラックステッチ。前後ドアハンドルをピアノブラック調とするなど、各所に加飾を追加している。



数値に表れないパフォーマンスパーツ
実はS210のスペックは最高出力300ps/5700rpm・最大トルク375Nm/2000-5600rpmと最高出力こそWRX S4 STI Sport-Rの275psから25psアップしているものの、最大トルクには変更がない。しかも、ベースモデルはもとよりS210でもハイパフォーマンスモデルの2.4Lターボのスペックとしては物足りない印象の数字だ。

しかし、S210はアクセルの応答性に徹底的にこだわっており、コンプリートカーとはいえ驚きのレスポンスを、低圧損エアクリーナーエレメント、エアクリーナーダクトケース、低圧損エアインテークブーツ、専用エアインテークダクトといった吸気系パーツで実現している。


加えて排気系も新設計の低背圧エキゾーストシステムにより、低速トルクと高回転の伸びを両立。より鋭い加速レスポンスが与えられている。
これらを専用のエンジンコントロールユニットで最適化。点火時期はもちろんデュアルAVCS、電動ウェイストゲートの過給圧制御など、FA24エンジンのポテンシャルを最大限引き出している。
そして何より出色なのがS210専用セッティングとなったスバルパフォーマンスミッション。S210はSシリーズ初のCVTモデルということが多くのスバルファンの間で物議を醸した。しかし、S210は変速制御とAWD制御をエンジンに合わせて専用プログラムとしたことで大幅なパフォーマンスアップを実現している。

特にAWD「Sport」モードはフロント側への駆動配分を減らして、フロントタイヤのグリップを横方向に使えるようにして回頭性を高めている。これも、スバルが30年にわたって磨き続けるVTD-AWDシステムの力と言えるだろう。

CVTというととかくスポーティさとは無縁であるというイメージが未だに付き纏っているが、S210のスバルパフォーマンストランスミッションはそのイメージを完全に払拭している。WRX S4でもかなりのレベルに仕上がっているが、S210のそれは完全に別モノとも思える出来映えだ。

クルマの応答性にこだわった足まわりセッティング
走る・曲がる・止まるがどんなドライバーでも意のままになることがS210のコンセプト。それだけに足まわりのセッティングも応答性にこだわったものになっている。
ブレーキはブレンボ製フロント18インチベンチレーテッドディスクブレーキの電動ブレーキブースターのアシスト特性を専用にチューニング。ストロークではなく踏力によるリニアな減速度コントロール性を重視した効き味とすることで、思い通りのスピードコントロールを可能にした。


サスペンションは専用のZF製電子制御ダンパーに専用コイルスプリングとコントロールユニットを組み合わせる。電子制御ダンパーはSシリーズ初採用で、微小舵応答性を高めるとともに、「Normal」「Sport」「Comfort」の各ドライブモードで差別化が図られている。

加えて、専用のリヤスタビライザーブッシュは新開発のミラブルウレタンゴムを採用したことで、サスペンションの動き始めからスタビライザーが効率よく動くようにな理、乗り心地はもちろん操縦安定性を高い次元で両立している。これに加え、STI製のラテラルリンクセットや前後にフレキシブルロードスティフナーも装着される。

S210は遅れを小さくする=ゲインを上げるというセッティングではないのがポイントになっている。STIのセオリーとしては減衰力は縮み側が低め、伸び側を高めにしているという。これで内輪の設置荷重を効率的に使えるようになるのだそうだ。

ホイールはSTI製の19インチ×9.0J鍛造マットブラック塗装のフレキシブルパフォーマンスホイールを装着。ホイールサイズに加え、タイヤもWRX S4の245/40R18からより幅広で扁平となる255/35R19サイズに拡大。ミシュラン・パイロットスポーツ4Sを組み合わせる。

しかもフレキシブルパフォーマンスホイールは、S210ではフロントからの反力を担うリヤタイヤのたわみを最適化するリヤ専用形状が新たに開発されたという。

価格は800万円を超えるが……
これだけ装備や中身に手を入れたS210だけに、その価格は800万円を超えることになる。とはいえ、ベースとなるWRX S4も現状の最高額グレードである「STI Sport R-Black Limited」が530万2000円という価格であると考えると、この内容に+300万円をどう考えるか……といったところ。

素晴らしい出来であることは間違いなく、絶対的な価格に目を瞑ったとして、希少性も含め満足度は間違いなく高いだろう。あまり良い考え方では無いが、大事に乗れば手放すことになってもそれなりの価格になるのことは間違いない。

応募締切は6月29日。そもそも当選するかもわからないし、気になるようであれば”清水の舞台”の気持ちで応募だけはしてみるというのもアリかもしれない。S210はそんな気にさせるクルマだ。
車名 | S210 |
ボディタイプ | セダン |
全長 | 4690mm |
全幅 | 1845mm |
全高 | 1465mm |
室内長 | 1925mm |
室内幅 | 1515mm |
室内高 | 1205mm |
ホイールベース | 2675mm |
最小回転半径 | 5.6m |
トレッド(参考値) | F:1575mm R:1585mm |
最低地上高 | 135mm |
乗車定員 | 5名 |
重量(参考値) | 1630kg |
エンジン | FA24型 水平対向4気筒DOHC16バルブインタークーラーターボ |
排気量 | 2387cc |
最高出力 | 300ps/5700rpm |
最大トルク | 375Nm/ 2000-5600rpm |
燃料/タンク容量 | ハイオク/63L |
サスペンション | F:ストラット R:ダブルウィッシュボーン |
ブレーキ | F・R:ベンチレーテッドディスク |
ホイールサイズ | 19インチ×9.0J |
タイヤサイズ | 255/35R19 |
駆動方式 | フルタイム4WD(VTD) |
トランスミッション | CVT(スバルパフォーマンストランスミッション) |