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東京オートサロン2025で発表された最新ゴルフRは333馬力と過激

2025年1月の東京オートサロンにて日本初公開されたフォルクスワーゲン・ゴルフR、ゴルフRヴァリアントの優れたパフォーマンスを体感する機会に恵まれた。
用意されたステージはポルシェ・エクスペリエンスセンター東京、ニュルブルクリンクやラグナセカといった世界的に有名なサーキットのエッセンスを味わえるコースで、ゴルフRのアクセルを全開にすることが許されたのだ。

最新のゴルフRを味わった感想をお伝えする前に、ゴルフRという存在について整理しておこう。
2002年に登場した初代ゴルフRこと「GOLF R32(ゴルフ アールサーティトゥー)」は、フォルクスワーゲンが開発した画期的な挟角V6エンジンを搭載したゴルフのスペシャルバージョンといえるモデルで、3.2Lの排気量が生み出す最高出力は241PSで、最大トルクは320Nm。そのパワーを受け止めるべく、マルチリンクのリヤサスペンション、4MOTIONと名付けられたフルタイム4輪駆動システムを与えられた。まさにスーパースペシャルなゴルフとして市場からは特別なモデルとして認識された。

その後も、ハイパワーエンジン+4MOTIONのパワートレインを与えられたゴルフRシリーズはフルモデルチェンジを重ねていく。実用性や快適性とハイパフォーマンスを同時に成り立たせたゴルフRは、ゴルフのフラッグシップとして認識されていくようになった。2003年に発売されたゴルフR32から2020年に登場したモデルまで、5世代のゴルフRは日本での累計1万1800台に迫る販売台数を誇っている。
2024年に世界中で売れたゴルフRは約3万台というが、そのうち1014台は日本での販売実績という。ドイツの約8000台、アメリカの約4200台、カナダでの約4000台といったセールスには届かないが、じつは『世界で6番目にゴルフRが売れている国は日本』なのだ。
最新のゴルフRは2.0Lターボ。史上最強333馬力を発生
そして冒頭でも記した通り、2025年1月に最新のゴルフRが日本へ上陸した。バリエーションは、ハッチバックのゴルフRと、ステーションワゴンのゴルフRヴァリアント。それぞれに、上級仕様の「アドバンス」が設定される。

ハッチバックのゴルフRが704万9000円、ゴルフRアドバンスが749万9000円。ステーションワゴンのゴルフRヴァリアントは712万9000円、同アドバンスは757万9000円と高価なモデルとなっているが、好調にオーダーを集めているというのは、20年以上にわたるゴルフRの歴史において積み重ねてきたブランド力、信頼感によるものだろう。
「アドバンス」の差別化ポイントは、R専用ナパレザーシート(運転席パワーシート)、アダプティブシャシーコントロール「DCC」、19インチアルミホイールなど。とくに新作の19インチ鍛造ホイール「Warmenau(ヴァルメナウ)」は1本あたり8kgと大径ホイールとしては軽量なのがセールスポイントだ。ちなみに、ゴルフGTi用の19インチホイールは1本あたり10kgとなっているので約20%の軽量化を実現しているという。

ゴルフRたらしめるハイパフォーマンスエンジンは、2.0L直列4気筒インタークーラーターボ。フォルクスワーゲンのファンならお馴染みの「EA888」型エンジンとして最強となる最高出力333PS(245kW)、最大トルク420Nmというスペックとなっている。この数値は2.0Lターボとしてもトップクラスといえるが、ピークパワー重視のセッティングではないのも特徴だろう。

スモールアンチラグシステムによりターボチャージャーにプリロードをかけ、オーバーラン時のスロットルバルブ開放機構を備えるといった設計は、アクセルレスポンスを向上させることが狙い。言うまでもなくトランスミッションは、フォルクスワーゲン独自の7速DSG(デュアルクラッチトランスミッション)となり、マニュアルトランスミッションには不可能なレベルでの高速シフトが可能。結果的に0-100km/h加速性能は、ゴルフRで4.6秒、ゴルフRヴァリアントで4.8秒という俊足となっている。


最新ゴルフRの注目は大進化した4輪駆動システム

メカニズム面での進化ポイントとして注目したいのは、「R-Performanceトルクベクタリング」だ。
具体的には後輪左右のトルクベクタリングが行える電子制御デファレンシャルであり、左右それぞれに多板クラッチを用いた設計を新採用することで0~100%までのトルク移動が可能になっている(従来型はクラッチが一組で50:50のトルク移動だった)。
加速時に後輪左右のトルク配分を自在にコントロールすることは、コーナリングの気持ちよさにつながることが想像できる。旋回中にリヤ外輪の駆動トルクを増やすことで駆動によって曲がるといったリヤ駆動のような感覚が味わえることが期待できるからだ。
こうしたリヤの駆動制御に加え、電子制御デファレンシャルロック「XDS」、Advanceグレードに標準装備される「DCC」による可変減衰機能などを統合制御する「ビークル・ダイナミクス・マネージャー」を搭載することで、旋回性能を高めているのも最新ゴルフRのチャームポイントといえる。
今回の試乗では、333PSの強心臓を味わうと同時に、そうしたハンドリング性能も要チェックポイントとなりそうだ。

FFのGTIと4WDのゴルフRで違いを比べた

試乗の重要テーマを「トルクベクタリングが生むハンドリング」と定めたからには、そうした機能を持たないFFとの違いを知ることがもっともわかりやすい。そこで、新型ゴルフRアドバンスで数周の完熟走行をしてコースに慣れたところで、ゴルフシリーズにおけるFFホットモデル「GTI」にも試乗してみることにした。

最高出力265PS(195kW)、最大トルク370Nmを生み出す2.0Lインタークーラーターボを搭載するGTIは、やはりゴルフの伝統的なスポーティグレードであり、まさしくゴルフが目指すスポーツドライビングのベンチマークとなるはずだ。
ポルシェ・エクスペリエンスセンターのコースを走り出しても、いきなりアクセル全開加速ができるほど信頼感がある。一方、ステアリングを切ったときの動きにはキビキビ感があり、1430kgという軽量ボディをフロントで引っ張っていくようなFFホットハッチらしい刺激も楽しめる。
8.5世代目と呼ばれる最新ゴルフのポテンシャルの高さを感じると同時に、「ここまで前輪駆動で楽しめるとしたらゴルフRの存在価値はあるんだろうか」と心配にもなった。なにしろゴルフGTIのメーカー希望小売価格は549万8000円、ゴルフRの上級グレードはそれより200万円も高価なのだから。

しかしながら、それは杞憂だった。
GTIを味わったのち、あらためてゴルフRに乗ってみると、「なるほど4MOTIONには200万以上の価値がある!」と実感できたのだ。
ラグナセカ・サーキットの名物コーナーであるコークスクリュー(下りのS字コーナー)を模したセクションの後半ではアクセルオンによって右後輪にトルクが移動、旋回を助けていることが実感できる。インフォメーションディスプレイによるトルクベクタリングのグラフィック表示を見ずとも、ドライバーには右足で旋回力をコントロールしている感覚があり、”4WDで曲がっている”ことが実感できる。当然ながら、こうしたフィーリングはFFにはないもので、4WDを選んだ価値といえる。

ポルシェ・エクスペリエンスセンター内に用意されるウェット状態を作れる定常円旋回路にて、可能な限り電子制御をオフにして、アクセルを踏み込んでみると、後輪の駆動力によって自然とリヤが流れる感覚を味わうこともできた。たしかに素性としてはFFベースの4WDなのだが、最新のゴルフRおいてはリヤ駆動ベースに近いイメージの”ファン”もあるのだ。

ドライブモードの違いも楽しんだ
せっかくクローズドコースでゴルフRの走りを確かめられる機会でもあり、もう一つの試乗テーマを設定した。それがドライビングプロファイル機能(いわゆるドライブモードセレクト)の違いを味わうことだ。
ゴルフRには、「エコ/コンフォート/スポーツ」そして”レース”というプリセットのドライブモードが備わっている。もうひとつステアリングやドライブトレーンなどの味付けを個別にセッティングできる「カスタム」モードも持つが、今回はコンフォート/スポーツ/レースを切り替えながらクローズドコースを走った際の印象にフォーカスしてお伝えしよう。

試乗に用いたのはゴルフRアドバンス、電子制御サスペンションDCCもドライビングプロファイルに連動して切り替わることで多面的な走り味を披露してくれるはずだ。

まずは「コンフォート」で走り出す。名前の通り、乗り心地重視のセッティングでステアリングも軽めの味付けとなるが、19インチタイヤのグリップ感はしっかりと伝わり、けっしてフワフワとした印象ではない。それでもGTIがスパッと向きを変えたタイトコーナーで、ボディ後半が遅れて動くような重さはあったし、もう少しスピードが乗るコーナーではタイヤがスキール音を立てながら、ラインが外側にはらんでいくような感覚もあった。
そこから「スポーツ」に切り替えると、印象はガラリと変わった。
GTIのキビキビ感とは質の違う、もっと硬質な印象のハンドリングとなり、タイヤの状態も把握しやすい。「コンフォート」モードでは成り行きでスキール音が出ていたが、「スポーツ」モードではタイヤの性能を引き出すという意図に応じて、スキール音が発生するイメージといえば伝わるだろうか。
さらに「レース」モードにすると、圧倒的なダイレクト感に変わる。タイヤの走行ラインは完全に支配下にあるような感覚となり、ステアリングとアクセルの操作によってクルマをコントロールしている感覚が味わえる。

パイロンを使ったスラローム走行も試すことができたが、その際に「後輪でパイロンをかすめて動かす」という走りができるか試してみたところ、一発でパイロンとタイヤが触れることができた。それほど「レース」モードのコントロール性は高い。
ただし、このモードでサーキットのようなコースを走行していると、さすがにタイヤへの負担は大きいようだ。ゴルフRには、専用設計のブリヂストン・ポテンザS005が与えられているが、連続走行ではグリップが低下してくるような感触もあった。「レース」モードに限っていえば、いわゆるハイグリップなスポーツタイヤを履かせても面白いだろう。もちろん、燃費や静粛性といった面でのネガはあるだろうから、自己責任の話になるが…。
一方、驚いたのはブレーキのタフネス。一周のうち何度もフルブレーキを使うような走り連続的に走行しても、制動力が途中で変化してしまうようなことはない。ゴルフRについては片持ち式ブレーキキャリパーで、スペック的には劣っているように感じる人もいるかもしれないが、性能面ではまったく問題ないと感じた。

このあたり、マルチピースタイプのドリフトローターを使っていたり、冷却性能を考慮したデザインの19インチホイールを採用していたりといった配慮が効いているのだろう。
ゴルフRのテストドライバー氏にその効果を聞いたところ「ノルドシュライフェ(ニュルブルクリンク北コース・全長は約21km)の走行テストにおいて従来のホイールでは18ラップでブレーキの交換が必要でしたが、新しい19インチホイールにすると21ラップも使えるようになりました」という驚愕のエピソードを教えてくれた。

まとめると、ゴルフRを「R」たらしめる独自の電子制御やハードウェア、そして最大の差別化ポイントである4MOTIONには大きな価値がある。
ハイパワーを受け止め、ハンドリングのオリジナリティにも貢献する4WDシステムを味わうことにGTI比で200万円のエクストラコストを支払うというオーナーがいることはまったく不思議ではないと感じた。
なにしろ、これだけ走りが楽しめるスポーツモデルでありながら、5名乗車で実用的なラゲッジ(ゴルフRで341L、ゴルフRヴァリアントで611L)を持っているのだ。

冒頭でも記した『実用性と快適性とハイパフォーマンス』というテーマを、高次元で成立させたモデルであり、300馬力オーバーかつ後輪トルクベクタリングの生み出す走りの世界を味わうことができるのならば、700万円を超える車両価格はリーズナブルなプライス(適正価格)と感じる。
その意味で、ゴルフRはまさしくハイ・コストパフォーマンスな一台といえるかもしれない。



ゴルフR/ゴルフRヴァリアント主要スペック

GOLF R
全長×全幅×全高:4295mm×1790mm×1460mm
ホイールベース:2620mm
車重:1510kg
サスペンション:Fストラット式 Rマルチリンク式
駆動方式:4WD
エンジン
形式:2.0L直列4気筒DOHCターボ
排気量:1984cc
最高出力:333ps(245kW)/5600-6500pm
最大トルク:420Nm/2100-5500pm
燃料:プレミアム
トランスミッション:7速DSG
タイヤサイズ:225/40R18
車両本体価格:704万9000円
GOLF R Variant Advance
全長×全幅×全高:4650mm×1790mm×1465mm
ホイールベース:2670mm
車重:1590kg
サスペンション:Fストラット式 Rマルチリンク式
駆動方式:4WD
エンジン
形式:2.0L直列4気筒DOHCターボ
排気量:1984cc
最高出力:333ps(245kW)/5600-6500pm
最大トルク:420Nm/2100-5500pm
燃料:プレミアム
トランスミッション:7速DSG
タイヤサイズ:235/35R19
車両本体価格:757万9000円
