日産のエスピノーサ新社長が語る。「日産にとってモータースポーツは“ハート”。フェアレディZのようなハートビートモデルもやめない」

今年で2回目の開催となったフォーミュラE東京大会「2025 TOKYO E-PRIX」。東京ビッグサイト周辺に設けられた特設コースで5月17、18日の両日にそれぞれ予選・決勝が行なわれる。TOKYO E-PRIXの前戦までの結果では日産はマニュファクチャラーランキングで首位と好調だ。ここに日産自動車の新社長イヴァン・エスピノーサさんが現れた。

陽のオーラを持ったカーガイが日産をどう変えるか?

PHOTO:NISSAN

我々の前に現れたエスピノーサ社長は、日産のフォーミュラEマシンのカラーリングを採り入れたチームをウエアに身を着けていた。自身の“ハートビートモデル”について問われると、「フェアレディZ」だと笑顔で答えるエスピノーサ社長は、見るからにカーガイで、快活。低迷する日産の雰囲気を変えてくれそうなオーラを持った人物だった。まずは、フォーミュラEについて語ってくれた。

イヴァン・エスピーノサ氏。2025年4月から日産自動車代表執行役社長兼最高経営責任者

エスピノーサ社長:本日は私どもにとってとっても大事な日です。TOKYO E-PRIXは私たちのホームレースにあたりますので。今の会社の状況を受けまして、やはりいい成績を出すことで私たちのファンや従業員が、喜んでくださると思っているんです。ご存知のように、日産にとってモータースポーツは、ハート、心、心臓の部分なのです。モータースポーツのいいところは、チームスピリットを発揮する、証明するということです。チームとして勝利するか、チームとして敗北するか、どちらかです。私といたしましては、今の会社の状況を考えますと、まずは会社を一致団結させてワンチームにしようとしています。そして、ワンチームとして勝つ。これが私の目標、今、掲げている目標です。今日は、私にとっては感動的な一日なんですよ。皆様に日産の力を証明できます。まさにレーストラックで。そうすれば、従業員も一致団結してやるぞっていう気になります。そう思っています。

—決算会見では台数や工場閉鎖、人員削減などのビジネスの話が多かったです。今日、お聞きしたいのは、イヴァンさんはこれからどんな日産にしていきたいか、どんなクルマでどんな幸せをユーザーにもたらしたいのかについて、です。
エスピノーサ社長:決算会見では経済界、いわゆる(株式)市場にメッセージを発信する必要がありました。ですから、ちょっと冷静で、いわゆる財務値思考の内容にしました。ご存知のように私は前の仕事でも、プログラムマネージメントという商品企画の担当だったので、ふたつの脳を持っています。ひとつはファイナンシャルの脳、もうひとつは情緒・エモーショナルな脳です。会見では、いわゆる財務の脳で話していたということです。ただ、今は将来に向けて色々積極的に取り組みを進めています。今考えていることを申し上げると、日産は元々のオリジン、原点に戻るということです。どういうことか。日産自動車は、まずはお客様を深く理解することが強みです。だからこそ、数多くの日産固有の日産ならではのクルマがあるのです。それぞれクルマは違います。それぞれの味付けがあるんです。お客様を深堀りし理解をして、お客様との心とのつながりが深いのです。スポーツカーだけじゃないですよ。もちろん、どのクルマも存在意義もあります。情緒に訴えるようなクルマなんです。そこに改めて火を着けたい。決算発表の場で、いわゆるハートビートモデルの話をしました。ハートビートというのはスポーツカーだけじゃないんです。本当に自分の心に近くなる、心に刺さるクルマってことなんです。例えば日産リーフ。日産リーフも新型を今後導入してまいります。日産の開発能力と日産の精神を組み合わせてお客様の心に近づける、これがゴールなんです。

ー日産は、HEVやPHEVなどの過渡的なモデルが弱いと言われています。これをどう強化しますか?
エスピノーサ社長:色々拡充しています。決算発表でも申し上げましたように、開発期間を短縮し、開発・デザイナーや企画担当者や生産担当がもっと効率的にプロセスを回せるようにしました。最初の成果はハイブリッドです。それを特にアメリカ中心に出していきます。国内については、e-POWERでカバーできていると思います。それをアメリカにも出していきます。今おっしゃったように、そこが抜けているんですね。第三世代e-POWERを搭載したローグは、すごくいいクルマです。燃費が大幅に改善しています。高速道路の燃費がよくないという意見がありましたが、第三世代のe-POWERの燃費はトップレベルです。コストも低減できている。これは、大谷選手レベルの打球をセンターに打ち返せる技術、クルマです。

ー日本の日産のモデルラインアップが市場のニーズと合っていないのはないか?日産は海外に魅力的なモデルがありますが?
エスピノーサ社長:日本のカバレッジを拡充しようと思っています。パトロールはどうして売っていないのか? ディーラーでよく聞かれます。ほかにも興味深いモデルがグローバルラインアップにありますので、それを国内に持って来られる余地があると思っています。アイデアとしては検討しています。カバレッジを拡充して、日本国内が技術のベースであり続けることが大事。日本からまずスタートするのが大事です。日産は日本の企業です。ここが、ホームカントリーですから。そういった話は今年後半にしていきます。

—同じように、やっぱり世界でクルマを融通していくことは今後もっと増えていくんでしょうか。中国から中東、メキシコから日本へというように。
エスピノーサ社長:
今は、地政学的に不安定な状況ですので、創意工夫をしてバランス取らなければいけません。想像していただけるとわかると思うんですが、例えば、メキシコからアメリカへの関税がそのままだった場合、何らかの形でまずはメキシコの能力を使って他の仕向地に出すことを考えなければなりません。これがひとつです。為替変動のヘッジングもできますよね。確かに融通し合うのはいろんな選択肢があります。いろんなメリットがあるんです。日産の良いところは、非常に幅広い世界をカバーしているということなんですよね。また、もっと日本のモデルを他の仕向地に出すという余地もあります。日本の量販モデルを輸出できるようにするということです。例えばノートです。現在、ノートは国内だけなんです。そうなると、なかなか競争力のあるコストにするのが難しいですし、為替変動の影響が大きい。輸出すればリスクをヘッジングできますし台数も伸ばせます。そういった戦略を考えています。

「ジャパンモビリティショーではびっくりさせます! 期待してください」

ー今年はジャパンモビリティショーが開催されます。日産の取り組みについて教えてください。
エスピノーサ社長:とてもいいポイントですね。下期は日産のブランドをどこの方向性に持っていくかという話をもっとします。私として、日産を将来どんな会社にするのか、そういう話をJMSではしたいと思っています。STAY TUNE。ちょっと待っていてください。びっくりさせますので、期待していてください。大丈夫です。

ーイヴァンさんのハートビートモデルは、Zだということですが、Zは販売など色々考えるとなかなか難しいところもあると思います。今後の日産の再建を考えて、こういうモデルをどうしていくのでしょうか?
エスピノーサ社長:日産ならではモデルは、それを守っていかなきゃいけない。特にこのアイコニックなモデルは、単に財務面からだけで判断してはいけません。もちろん赤字が大きすぎて困りますよ。でも、これらのクルマがもたらす価値というのは、販売台数や採算性を超えたところにあります。これらのクルマの大きな価値がどれだけ多くの人たちの心に火を着けるのか、従業員の誇りになっているのか。しかも、会社のアイデンティティを強化するものです。そういったクルマはちょっと数値化するのが難しいんです。ただ、フェアレディZには存在意義があるということは確かです。ですから、ある意味、自分自身へのチャレンジですね。何らかのカタチでこういったクルマを存続させなければならない。今申し上げた理由から、大きな財務的な問題がないようにしなければなりません。ただし、Zは財務的にもいいんですよ。実は台数は大きくないんですが、経済的には堅実なんです。うまくいっているんです。

モータースポーツからの撤退は否定

PHOTO:NISSAN
PHOTO:NISSAN

—モータースポーツについてお聞きしたい。今日はここに日産のモータースポーツファンがたくさん集まっています。今の日産の状況を考えて、もしかしたら日産がモータースポーツをやめてしまうのではないかと心配しているファンがたくさんいると思います。フォーミュラEやスーパーGTの活動はどうなりますか?
エスピノーサ社長:撤退するという意図も計画もございません。だから私は、今日こちらに来ているんです。まさにモータースポーツは日産のコアなのですから、引き続きモータースポーツの活動は推進してまいります。多くのファンがいらっしゃるし、日産のスピリットを発揮できていますよね。競争の精神、ワンチームの精神、そして勝つために戦うという精神、これは維持していかなければなりませんから。

ー現在、フォーミュラEには日本人ドライバーがいません。社長が決めることではないですが、日本人を乗せたいという気持ちはありますか?
エスピノーサ社長:ぜひそうしたいですよね。フォーミュラEって、ドライビングのスキルが違うんですよね。エネルギー管理もしなきゃいけない。ブレーキポイントも違う。コーナリングでは、エネルギーをうまく管理しなければならない。しかも、超接近戦です。ですから、いいドライバーを育成したいと思っています。日本との繋がりが素晴らしいものになるし、日本人ドライバーがいれば、ストーリーができると思います。

1 / 6

「日産のエスピノーサ新社長が語る。「日産にとってモータースポーツは“ハート”。フェアレディZのようなハートビートモデルもやめない」」の1枚めの画像

2 / 6

「日産のエスピノーサ新社長が語る。「日産にとってモータースポーツは“ハート”。フェアレディZのようなハートビートモデルもやめない」」の2枚めの画像

3 / 6

「日産のエスピノーサ新社長が語る。「日産にとってモータースポーツは“ハート”。フェアレディZのようなハートビートモデルもやめない」」の3枚めの画像

4 / 6

「日産のエスピノーサ新社長が語る。「日産にとってモータースポーツは“ハート”。フェアレディZのようなハートビートモデルもやめない」」の4枚めの画像

5 / 6

「日産のエスピノーサ新社長が語る。「日産にとってモータースポーツは“ハート”。フェアレディZのようなハートビートモデルもやめない」」の5枚めの画像

6 / 6

「日産のエスピノーサ新社長が語る。「日産にとってモータースポーツは“ハート”。フェアレディZのようなハートビートモデルもやめない」」の6枚めの画像
17 NATO Norman (fra), Nissan Formula E Team, Nissan e-4ORCE 05, action, pitboost


キーワードで検索する

著者プロフィール

鈴木慎一 近影

鈴木慎一

Motor-Fan.jp 統括編集長神奈川県横須賀市出身 早稲田大学法学部卒業後、出版社に入社。…