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オープンコクピットの宿命、忍耐で走る?
東京ビックサイトで開催中のフォーミュラE東京大会。土曜のレースは予選が中止になるほどの雨に見舞われた。雨のフォーミュラレースは、見ている側にとってはスリリングでドラマチックな展開を生むが、コクピットに座るドライバーにとっては過酷な試練となる。というのも、フォーミュラカーは構造上「雨に濡れる」ことが避けられないからだ。
では実際、どの程度濡れるのか。ドライバーはどうやってその状況に対応しているのか。フォーミュラカーの構造と装備、そして雨天時の実態に迫ってみたい。

軽量優先の車体構造、防水機能は軽視されがち

フォーミュラカーは「オープンホイール・オープンコクピット」が特徴のカテゴリーだ。前後のタイヤが車体から独立してむき出しになっており、ドライバーの乗るコクピットも屋根も窓もない完全な開放状態にある。すなわち、雨が降ればドライバーの身体にも直接雨が降り注ぐ構造だ。
これはフォーミュラEだけでなく、F1、スーパーフォーミュラ、インディカーなど、いずれのシリーズでも共通しており、いわば「フォーミュラの宿命」ともいえる。

ドライバーが着用するレーシングスーツ自体も、耐火性能が優先されており、防水仕様ではない。表面はある程度の撥水加工がされているものの、連続的に雨が降る状況下では内部に水分が浸透するのは避けられない。しかしながら、ヘルメットのバイザーは撥水加工されており、視界確保のために「ティアオフ(tear-off)、捨てバイザー」と呼ばれる透明フィルムが複数枚貼られている。雨粒や泥が付着して視界が悪くなったら、走行中でも一枚ずつはがすことでクリアな視界を維持できるようになっている。
フォーミュラカーは1グラムでも軽く仕上げることが重視される。したがって、車体には防水処理といった快適性向上のための装備はほとんど存在しない。電子機器の防水はなされているが、ドライバー周辺に雨が入ることは想定されたうえで、「濡れながらでも走れる」ことに重点が置かれている。とくに長時間のレースやセーフティカー導入中など、速度が上がらない状況ではコクピットに雨がたまりやすく、臀部や足元が濡れることも多い。バケットシートのくぼみに水が溜まり、レース後には「お尻がずぶ濡れだった」というコメントが飛び出すこともあるほどだ。
ハロやエアロスクリーンは「雨除け」ではない
近年、フォーミュラEや、F1、スーパーフォーミュラでは「ハロ(Halo)」と呼ばれる頭部保護装置が、インディカーでは「エアロスクリーン」と呼ばれるフルフェイスのガードが導入されている。どちらもドライバー保護という観点では大きな進歩だが、雨を防ぐという意味では限定的である。

特にエアロスクリーンでは、視界が全面ガラスで覆われることで、雨粒がまとわりついて視認性が下がるという副作用も報告されている。F1のハロについても、中央の支柱部分に雨が伝ってバイザーの視界を遮ることがあるため、必ずしも快適とはいえない。
フォーミュラカーのドライバーは、雨の日には間違いなく濡れる。屋根もカバーもない構造上、それは避けられない。だが、それを承知の上でレースに挑み、適応し、勝利を目指す。それがフォーミュラという競技である。