ヤマハ“三位一体”で臨むフォーミュラEへの挑戦! エネルギーマネジメント開発の最前線に迫る

FIAフォーミュラE世界選手権に今季からパワートレーンサプライヤーとして参戦したヤマハ発動機にとって、東京大会は初の“ホームレース”となった。ローラ・カーズ、アプトと組んだ新体制の下、GEN3 EVO規格に準拠する電動パワートレーンを開発。第5戦マイアミでは早くも表彰台を獲得し、東京ではメディアラウンドテーブルを通じて次期GEN4への継続参戦や、開発の舞台裏について明かされた。挑戦はすでに次のフェーズへと進み始めている。

TEXT :世良耕太(SERA Kota) PHOTO:Formula E/Motor-Fan.jp編集部

創立70周年で挑む次世代レース「チャレンジのDNAは変わらない」

FIAフォーミュラE世界選手権のTOKYO E-Prixは、今シーズンからパワートレーンサプライヤーとしてフォーミュラEに参戦するヤマハ発動機にとって、初めてのホームレースとなった。ヤマハは老舗レーシングカー開発会社のローラ・カーズとテクニカルパートナーシップを組み、最新のGEN3 EVO(ジェンスリー・エボ)規格に準拠した電動パワートレーン(モーター、インバーター、ギヤボックス)を開発。これをチャンピオン獲得実績のあるアプトに供給している。チーム名は、ローラ・ヤマハ・アプト・フォーミュラEチームだ。

同チームはダブルヘッダーで行われた東京大会(シーズン11の第8戦、第9戦)の1日目、5月17日にラウンドテーブルを開き、これまでの開発や戦いぶりを振り返ると同時にメディアの質問に答えた。

記者会見を行った、ローラ・ヤマハ・アプト・フォーミュラEチームの首脳陣。左から、マーク・プレストン氏、丸山平二氏、ティル・ベヒトルスハイマー氏、青田元氏、トーマス・ビアマイヤー氏。

フォーミュラEシリーズ初の“ホーム戦”に挑むヤマハ発動機

──ヤマハにとって初めてのホームレースを迎える気分はいかがでしょうか。

丸山平二(ヤマハ発動機 取締役 常務執行役員) 東京はヤマハにとっても特別な場所だと考えています。我々はここ数ヵ月、非常に努力しながら開発を続けてきました。(2位初表彰台を獲得した第5戦)マイアミでは、その成果の一端が出たと思っています。今後は東京だけでなく、ベルリン(第13戦、第14戦)やロンドン(第15戦、最終戦)など、他の会場でもいい成績を残したいと考えています。

ヤマハ発動機 取締役 常務執行役員 丸山平二氏

──ローラ、ヤマハ、アプトの三者によるパートナーシップは技術開発にどのような関わりを持つのでしょうか。

マーク・プレストン(ローラカーズ モータースポーツディレクター) ヤマハとはもう2年以上も一緒に開発に取り組んでいます。(東京大会までに)7レースを終えましたが、その努力が報われていると感じています。

ティル・ベヒトルスハイマー(ローラカーズ会長) 1年前にここ東京で「一緒にやっていく」と発表しました。以来、ワクワクしっぱなしです。スピード感を持ちながら三者で取り組むことができたと思っています。まだレースは続くので、これからも三者で連携していきたいと思います。

トーマス・ビアマイヤー(アプト CEO兼チーム代表) 文化が異なる三者が一緒になるのは容易ではありませんでした。でも、一緒になって数週間やったところで、お互いにマッチしていると感じました。ヤマハのような大きな会社とローラのような歴史的なブランドと一緒に仕事ができてうれしく思っています。これが大事なことで、まさにワンチームとして活動しています。

──第5戦マイアミで表彰台に上がりましたが、この成績をどう評価していますか?

フォーミュラE世界選手権第5戦マイアミE-Prixでは、ルーカス・ディ・グラッシ選手が2位を獲得した。

丸山 開発側で苦労しているのを知っていたので、正直、驚きました。こんなに早く表彰台に上がれるんだと。上位3台が(ペナルティを受けてレース後に)降格になった結果だというのもありますが、その下のポジションにいたのが大事なポイントだと思っています。大事なのは、トップ争いができるポジションに安定的にいられるかどうか。ヤマハとしてはエネルギーマネジメントなどで縁の下の力持ち的にしっかり支えながら、チームの戦いに貢献していきたいと考えています。

青田元(ヤマハ発動機 執行役員 経営戦略本部長(CSO)) 毎レース、戦略についてレース後にメンバーから共有されます。赤旗が出たときにどうするか、どこかのチームがクラッシュしたときにどう動くかなど、思っている以上にいろいろなことを考えて作戦を立てています。チームとドライバーがどういう会話をしてその結果になったのかなど、戦略の視点で考えることがすごくたくさんあります。表彰台に上がれたのはうれしかったですが、そこに向けて準備できたことがもっとうれしかった。今後も勝てるレースばかりではないと思いますが、毎レース、自分たちの調子を見ながら準備し、レース後に共有することが学びにつながると思っています。

ヤマハ発動機 執行役員 経営戦略本部長(CSO)青田元 氏

GEN4に向けた継続参戦の理由とは

──ローラとヤマハは技術提携の延長を発表し、(2026/27年のシーズン13から導入される)GEN4向けパワートレーンの開発も行なうと発表しました。なぜ、参戦を続けるのでしょうか。

ベヒトルスハイマー この2年間GEN3 EVOで開発を続けてきましたが、最終的にチャンピオンを獲得するには、GEN4の開発まで続けることが大事だと考えたからです。

青田 ヤマハは内燃機関から出発し、いろいろな分野に領域を広げています。今回のプロジェクトでは電気自動車に集中しています。なかでも、エネルギーマネジメント(レース中に使用が認められるエネルギーをどう効率良く使って速さに結びつけるか)はコア技術だと思っています。これを追求するのがこのプロジェクトの目的のひとつです。どうやってエネルギーマネジメントの技術力を上げていくのか。1年で終えるのではなく、長期的に続ける必要があると思っています。

ローラ・ヤマハ・アプト・フォーミュラEチーム

三者一体で挑むパワートレーン開発、テスト走行は年間12日のみ

──フォーミュラEのパワートレーン開発ではどのようなところで苦労しましたか?

丸山 ポイントは2つあります。1つは高度なエネルギーマネジメントの世界です。ある程度予想はしていましたが、非常に高度で、我々の予想以上に難しさが見えてきました。開発に携わっているエンジニアの努力でだいぶキャッチアップできていますが、非常に深い世界です。もう1つは、デジタルツイン(現実に起こりうることをデジタルの仮想環境で再現する技術)の本格的な導入です。フォーミュラEは年間12日間しかテスト走行が認められていません。そのため、デジタルの中で開発する必要があります。いかにその技術を取り入れて開発するかが難しさだと感じています。

──エネルギーマネジメントの技術をどのように商品に反映させていくのでしょうか。

丸山 エネルギーマネジメントの技術はこれからの商品の価値を決める大きな柱のひとつだと考えています。バッテリーのコストは高止まりしていますので、限られたエネルギーで非常に長い距離を走らせる。あるいは、パフォーマンスを発揮させるエネルギーマネジメントは非常に大事で、応用が利くと考えています。速い流れで世の中が変化していくなかで、我々としてはいかに早く商品価値を問うていくかの面で、大きな力を発揮すると考えています。

ローラ・ヤマハ・アプト・フォーミュラEチーム

──ヤマハのパワートレーンをどのように評価していますか?

ビアマイヤー まず申し上げたいのは、とてもいい関係を構築しているということです。私たちは(開幕から)たった4ヵ月で表彰台に上がりました。これは、ヤマハが我々に提供したハードとソフトの効率の高さを示しています。また、ローラとアプトのオペレーション能力の高さも示しています。チームが一丸となり、毎日楽しく仕事をしています。私たちはワールドチャンピオンになったことがあるため、シャンパンの味を知っています。再びそれを味わえる日が来るのではないかと考えています。そのために、三者が一所懸命努力を重ね、毎週ソフトウェアのアップデートを行なっています。

──電気自動車の普及に減速感が漂っていますが……。

丸山 みなさんが思っているほど伸びていないので減速しているように感じるかもしれませんが、EV(電気自動車)が伸びているのは間違いありません。伸びるスピードが思ったより速くないということだと思っています。カーボンニュートラルを達成するためには、EVは大きな選択のひとつだと我々は考えています。ですので、フォーミュラEのパワートレーン開発で培った技術をいろいろなパワートレーンに応用してマルチパスウェイで商品化していき、みなさまに楽しんでいただきながらカーボンニュートラルにつなげていきたいと考えています。

MOTO GPからフォーミュラEへ、ブランドの根幹を支える挑戦の系譜

フォーミュラE東京大会での記者会見の後、記者の質問を受ける丸山氏。

──ヤマハのフォーミュラE参戦活動をどのようにプロモーションしていこうとお考えですか?

青田 参戦1年目ですので、まずは雰囲気に慣れるころが大事だと考えていました。ようやく勘どころが見えてきた感じです。私も丸山も、フォーミュラEの何がおもしろいのか、ようやく肌で実感できたところです。例えば、車両がどうやって回生して、全体の電力量をマネージしながらゴールするのか。ドライバーは速く走りたいんだけど、ゆっくり走らないと電池がもたないなど、現場にいるからこそわかる楽しさがある。そこをうまくコミュニケーションのメッセージに載せていくことが大事だと思っています。

──ヤマハ発動機は今年70周年を迎えます。この節目の年はどのような意味を持っていますか?

丸山 70周年の年にサステナブルなレースのホーム戦が戦えるのは、我々にとって非常にチャレンジングだと感じています。会社が創立されてから、ヤマハは数々のレースに参戦しています。現在も二輪の最高峰であるMOTO GPに参戦していることが示すように、大きなチャレンジングスピリットを持って活動しています。これは、ヤマハのブランドとヤマハ発動機にとって大きな資産であり、ルーツであると考えています。フォーミュラEのようなサステナブルな領域のレースシーンに70周年のステップを踏みながらチャレンジすることで、ファンの皆さまに新しい領域で楽しんでいただきたいと考えています。

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…