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■トヨタ初のE100対応車のカローラをブラジルで発売
2007(平成19)年5月25日、トヨタはエタノール100%燃料(呼称:E100)に対応した「カローラFlex/カローラフィールダーFlex」をブラジルで発売した。トヨタのクルマはすべてE10(ガソリンに対してエタノール10%混合燃料)に対応できる仕様だが、E100燃料に対応したクルマは初である。


バイオエタノール燃料先進国ブラジルにE100カローラ投入
今回ブラジルで発売されたバイオエタノール燃料対応の「カローラFlex/カローラフィールダーFlex」は、1.8L直4 DOHCガソリン車の7代目「カローラ」と初代「カローラフィールダー」がベースである。

バイオエタノール車は、ガソリンとバイオエタノール燃料の性状の違いから、燃料系とエンジン本体部品に特殊部品を採用するなど仕様を変更し、またエンジン制御も変更することで対応。なお、動力性能はベース車と同等以上とのことだ。車両価格は、カローラFlex:R$56565(343万円)~、カローラフィールダーFlex:R$83712(507万円)~に設定。円換算は、2007年のブラジルレアル為替レート60.6円/R$で算出した。

現在、日本のほとんどの自動車メーカーで生産されているガソリンエンジン車は、概ねバイオエタノール10%の燃料でも問題なく使用できるようになっているが、100%バイオエタノール燃料車の販売はトヨタでは初めてである。
なお車名についているFlexは、Flexible燃料(フレックス燃料またはフレキシブル燃料)で、ガソリンにエタノールなどを混合した燃料を指す。エタノールが10%混合された燃料をE10、エタノール100%燃料をE100と表し、フレックス燃料で走るクルマをFFV(Flexible Fuel Vehicle)と呼ぶ。
バイオエタノールは将来有望なカーボンニュートラル燃料
自動車用燃料として使われるバイオエタノールは、原料としてトウモロコシやサトウキビ、小麦などの穀物を使い、これらに含まれる糖分を微生物によって酸化・発酵・蒸留して製造される。

このような植物資源を原料とするバイオエタノールを燃焼させた場合も、当然エンジンからCO₂は排出される。ただし、バイオ燃料の原料となる植物が、その成長過程で光合成によって大気中のCO₂を吸収するため、この場合のCO₂は排出量としてカウントしない、すなわちカーボンニュートラル燃料とされるのだ。

ブラジルのエタノール事業は1970 年代の石油危機を機に、ブラジル政府が輸入に依存していた石油に代わるバイオエタノールを世界に先駆け代替燃料と位置付けた。そのため、農家にサトウキビの栽培を奨励する「プロアルコール」計画を国策として推進。その結果、ブラジルの年間バイオエタノール生産能力は、世界生産量の半分以上を占め、ブラジルはバイオエタノール先進国となった。
2025年現在ブラジルでは、市場の燃料はE27.5を義務付けられており、E85やE100燃料も市場で普及している。ちなみに、ブラジルのバイオエタノールは、ガソリンより2~3割ほど安価だそうだ。日本では2025年現在、E1~E3レベルのバイオエタノール燃料が一般のガソリンスタンドで販売されており、大阪の一部のガソリンスタンドでは試験的にE10が導入されている。
バイオエタノール燃料対応のエンジン
バイオエタノールは、ガソリンとは性状が大きく異なるので、エンジンには特別な対策が必要だ。
アルコールは親水性のある含酸素燃料なので、金属に対する腐食作用やゴムなどの樹脂系材料に対する膨潤・劣化が発生する。金属の腐食作用については、鉄材料の場合はSUS系、アルミの場合は硬質アルマイト処理材の採用、ゴム部品の膨潤・劣化についてはフッ素系を用いるのが一般的である。
またバイオエタノールは、ガソリンに対して高オクタン価(ノックし難い)で発熱量が小さい(燃費が悪い)、蒸気圧が低い(蒸発しにくい)という特性を持つ。ノックし難いので圧縮比は上げられるが、発熱量が小さいので同じ燃料量の走行距離が短くなり、また蒸気圧が低いので低温始動性が悪化し、未燃燃料(HC)が増加するという課題がある。

さらに、含酸素燃料なので空燃比(吸入空気量/燃料量)が希薄化して理論空燃比がズレて三元触媒の浄化効率が低下するため、燃料制御も変更する必要がある。
エタノール含有量が増加するほどバイオエタノールのCO₂低減効果は高まるが、一方で上記のようなエタノール燃料特有の現象が強まるので、エンジン仕様を適正化しなければならないのだ。
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2025年現在、日本車のほとんどはE10に対応できる。これは、欧州の多くの国がE5およびE10を、米国でもE10が標準的に使われているからだ。日本では、最近合成燃料(e-Fuel)や水素といったカーボンニュートラル燃料がクローズアップされているが、バイオ燃料に関しては世界に後れを取っているようだ。
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