トヨタが新型RAV4で初採用「アリーン」何ができる? 最も簡単なユーザーメリットは?

トヨタは6代目となる新型RAV4の開発において、ソフトウェアものづくりプラットフォーム「Arene(アリーン)」を初採用したことをアピールしている。この新しいソフトウェア開発ツールを使うことは、どんなユーザーメリットにつながるのだろうか。開発エンジニア氏に、一例を聞いてきたので情報共有したいと思う。

REPORT:山本晋也(YAMAMOTO Shinya) PHOTO:山本晋也(YAMAMOTO Shinya)/ TOYOTA

Arene(アリーン)とはSDV化を実現するソフトウェア開発プラットフォーム

ミリ波レーダーと単眼カメラを用いるセンサー構成

新型モデルの発表となれば、パワートレーンの進化やスタイリングの変化、ナビやオーディオなど快適装備の充実などに注目したくなるものだが、新型RAV4における最重要トピックスは見えない部分にあるといえる。

ソフトウェア開発において、従来とはまったく異なる、新しい次元にステップアップしているのだ。その部分について、トヨタの発表を引用しよう。

新型RAV4には、ウーブン・バイ・トヨタ株式会社で開発を進めているソフトウェアづくりプラットフォーム「Arene」をトヨタで初めて採用しました。Areneの採用を皮切りに、SDV(Software-Defined Vehicle)の開発を本格化していきます。

https://global.toyota/jp/newsroom/toyota/42758102.html

ソフトウェアづくりプラットフォーム「Arene(アリーン)」をシンプルに解説するのは難しいが、自動車用ソフトウェアの開発・検証・データ収集の関する機能の総称と捉えることができる。そして、アリーンの目的はSDVを実現することにあると理解すればいいだろう。

ご存知のように、SDV(ソフトウェア定義車両)とは、ソフトウェアによって進化することを前提に開発された自動車を意味していると整理できる。

従来では機能ごとに個別のソフトウェアで制御していたが、将来的にセントラルアーキテクチャとしてアリーンを活用する流れだ。

より具体的にいえば、SDVとは将来的なソフトウェアの進化に対応できるハードウェアを前提とした設計とされ、時代の要請や走行データからのフィードバックなどによってソフトウェアをアップデートすることで機能を進化させられるクルマのことだ。

新型RAV4に搭載されるADAS「トヨタセーフティセンス」が用いる前方検知センサーについても、広角カメラとミリ波レーダーという組み合わせは従来同様だが、センサー自体を進化させているという。ソフトウェアの進化により、予防安全機能がレベルアップすることを考慮したハードウェアになっているともいえそうだ。

「Arene」をSDV化を実現するための技術集合体とすれば、新型RAV4はトヨタ初のSDVとして開発されるモデルといえる。

それでは、SDVとなることで”具体的に”ユーザーはどのようなメリットを感じることができるのだろうか。

センターディスプレイは12.9インチ、メーターは12.3インチの大画面

RAV4プロトタイプ・室内

SDVとセットで語られることの多いOTA(Over The Air:無線通信によるソフトウェアアップデート)を活用することにより、常にクルマの機能が最新状態となることが最大のベネフィットとされる。

新型RAV4では、センターディスプレイが12.9インチ、メインメーターが12.3インチの大型液晶タイプとなっているが、ここに表示される内容を、ユーザーフィードバックによって最適化することもSDVであれば可能だ。

具体的には、どんなことができるのだろうか?

大きなセンターディスプレイの画面下エリアにはシートヒーターやエアコンの操作情報が表示されているが、ユーザーから「シートヒーターのアイコンをもっと大きくしてほしい」というリクエストが多ければ、ソフトウェアアップデートによってアイコンサイズや位置を変え、使い勝手を向上させることも可能になるという。

また、新型RAV4では音声コントロールの大幅なスピードアップを図っているが、その使いやすさにおいてもSDV化によるアップデートは有効だという。

RAV4 GR SPORTプロトタイプ

こちらも一例を挙げてみよう。

暑い日に「シートベンチレーションをオンにして」という指示を出せば、車両側で音声コントロールの意図を理解してシートのファンが動き出す。しかし、「シートクーラーを入れて」や「シートを涼しくして」といった曖昧な指示についてはクラウド上のAIが指示の内容を理解して、シートベンチレーションをオンにするため、通信状態が悪いときには機能しないこともある。

そして、前述した走行データ収集によって「シートクーラーをオンにして」という指示が多いとなれば、シートベンチレーションを機能させる指示候補のひとつとして車両側のプログラムに追加することができる。ユーザーの音声コントロールに対する反応も素早くなるし、クラウドのAIを利用できない環境でも指示通りに機能を作動させることが可能になるというわけだ。

一般論でいえば、音声コントロールの充実は、ドライバーの目線移動を抑えて、快適機能を作動させることで、交通事故の抑制につながるというメリットがある。

トヨタにおけるSDVは『交通事故ゼロ社会の実現』につながる技術としてのプライオリティが高い。安全につながる機能においてユーザーベネフィットにつながる活用や進化が期待できるといえそうだ。

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著者プロフィール

山本 晋也 近影

山本 晋也

1969年生まれ。編集者を経て、過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰することをモットーに自動車コ…