スズキの考える「BEV軽トラック」太陽光パネル必須で普通充電非対応の理由とは?

スズキは『人とクルマのテクノロジー展 2025 YOKOHAMA』(5月21日〜23日、パシフィコ横浜)にBEV軽トラックを出展した。660ccのガソリンエンジンを搭載する軽トラックのキャリイをベースに製作したいわゆるコンバージョンEVで、農業を営むユーザーに一定期間貸し出し、BEV軽トラックの潜在需要や、BEVの電池を活用した太陽光発電エネルギーの“自産自消”について検証する。
TEXT & PHOTO:世良耕太(SERA Kota)

普通充電非対応のワケ

実証実験用に製作したBEV軽トラック ベースはスズキ・キャリイだ。

外観はベース車のキャリイとほとんど変わらない。変化点は、荷台左側に充給電ポートが付いていることくらいだ。CHAdeMO規格の急速充電(DC)にのみ対応しており、普通充電(AC)には対応していない。じゃあ、どうやって自宅で充電するかというと、今回の実証実験では、自宅や倉庫に太陽光パネルを設置していることが条件。スズキからV2Hスタンドを貸し出して設置し、太陽光パネルの発電エネルギーをV2Hスタンド経由でBEV軽トラックに充電する仕組み。BEV軽トラから住宅・倉庫への給電も可能で、稼動時間が短く、駐車時間が長い軽トラならではの使われ方を生かした「動く蓄電池」としての活用を想定している。

展示車両は、荷台の一部をくり抜き、バッテリーが見えるようになっていた

V2HスタンドとBEV軽トラックに搭載するリチウムイオンバッテリー、それに、始動用バッテリーはエリーパワー製。定置用大型リチウムイオンバッテリーの「HYバッテリーLシリーズ」(LFP)を駆動用バッテリーとして使う。人テク展での展示車両は、荷台の一部をくり抜き、バッテリーが見えるようになっていた。自然空冷のバッテリーパックを吊り下げるブラケットの厚み(約5mm)ぶんだけ荷台は高くなっているが、農家での使い勝手を考え、バッテリーパックを薄くするなどして高さを抑えた。。

定置用大型リチウムイオンバッテリーの「HYバッテリーLシリーズ」(LFP=リン酸鉄)を駆動用バッテリーとして使う。

バッテリーの容量や航続可能距離は非公表。スズキは過剰にバッテリーを搭載しない“エネルギーリーンな電動車”の実現にこだわっており、過不足のない必要最小限の容量で済ませようと考えている(そのほうが重量やコスト面で有利に働く)。今回製作したBEV軽トラックの容量で足りるのか、足りないかを検証するのも、実証実験の目的のひとつである。

CHAdeMO規格の急速充給電ポートは荷台左側にあることは前述したが、ここでいいのかどうかを確かめるのも、実証実験の目的のひとつ。ポートが低い位置にあるので使い勝手に不満が出るのではないか。アオリを下げるとポートが隠れてしまって不便ではないかという危惧はあるが、そのあたりも確かめることになる。

普通充電に非対応としたのは割り切り。現状、AC100Vのコンセントは設置していないが、設置の必要性は感じているとのこと。農家では電動工具を使うケースがあるし、農地での休憩時間に冷たい飲み物や温かい飲み物を飲むのに、100V電源があると便利だからだ。そのあたりも「今回の実証実験で確認していきたい」と担当者は話す。

eアクスルはトランスファーとつながり、駆動力はフロントとリヤに分配される。

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モーター、インバーター、減速機で構成されるeアクスルは、ベース車のトランスミッションと置き換える格好で荷台下に搭載。バッテリーパックと2階建て構造になっている。eアクスルはトランスファーとつながり、駆動力はフロントとリヤに分配される。つまり4WD。「農家での使われ方では、ぬかるみでの脱出性能が必要になる」と考え、4WDを選択した。モーターとインバーターの冷却用に電動ウォーターポンプを搭載。冷却水の熱交換を行なうラジエーターはエンジン車用をそのまま流用している。

写真撮影の機会が得られなかったので言葉だけでの説明になるが、データを収集するためのロガーや緊急停止ボタンが備わっているほかはベース車とほとんど変わっていない。バッテリー残量はセンターのディスプレイに表示される仕組み。シフトセレクターはAT車のそれを流用。Pレンジのみケーブルを使うが、前進、後退の切り替えはバイワイヤーだ。

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モーターの最高出力/最大トルクも未公表。「最高出力はNAのガソリンエンジン相当?」に対する答えは「イエス」。「トルクはもっとありますよね?」に対しても回答は「イエス」だった。「トルクは出そうと思えばもっと出ますが、あえて抑えています。使っていただくのは農家の方で、年齢層は高め。やさしい発進と力強い登坂性能が出せるよう、バランスをとって適合しています」とのことだ。

実証実験に用いるBEV軽トラックは6台が製造済みで、安全確認をしているところだという。実証実験に参加するユーザーは、スズキの本社がある三遠地方を中心に、静岡県浜松市、湖西市、愛知県豊川市、熊本県阿蘇郡から選択。2025年度中に実験を開始する予定だ。三ヶ日みかんや三方原のじゃがいも、それにお米の農家さんが含まれているそう。1年間じっくり使ってもらい、課題を洗い出すことになる。

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…