日本勢は中国で巻き返せるか? 新技術開発にも貪欲な中国勢と戦うトヨタ、ホンダ、日産、マツダ

世界最大の自動車市場の世界最大のモーターショー、それがAUTO SHANGHAI 2025(上海車展)だ。主役は中国OEM。BEVだけでなく、新開発エンジンを搭載するPHEVや人型ロボット、空飛ぶクルマまでを展示。勢いを感じさせた。対する日本勢はどうだったか?【上海モーターショー2025レポート 後編】
PHOTO:Motor-Fan/長野達郎(NAGANO Tatsuo)

新たなエンジン開発競争

中国OEMで日本人エンジニアから興味深い話を聞いた。「巻」という中国語がある。元の言葉は「内巻」というのだそうで、「激しく不毛な競争」を指す中国の流行語だという。中国OEMの働き方はこの「巻」なのだそう。エンジニアやデザイナーは、休日なく残業続きで働く。とにかく「巻」かないと競争に勝ち抜けないのだ。話を聞いていると、1970~90年代の日本企業の働き方そのもののようだった。現在の”働き方改革中”の日本企業の生産性が多少上がったとしても、「巻」いている中国OEMに勢いがあるのは明らか。逃げる者より追い上げる者に利があるのが常だ。

その中国OEMが、今回上海に持ち込んだ新型車については、ここでは触れない。その代わり、展示ブースの後ろに展示されていた技術についてレポートする。

中国のモーターショーは、ジャパンモビリティショーとは比較にならないほど技術展示が多い。今回目立ったのがエンジン、パワートレーンだ。PHEVにしてもREEVにしても、エンジンが不可欠。発電に特化したエンジンを展示していた中国OEMは、競争に勝ち残っていけそう。逆にBEVのみでラインアップを形成する新興・スタートアップ系ブランドは、今後数年間の淘汰の波を乗り越えていくにはかなりの困難が立ちはだかりそうだ。

BYD 発電専用水平対向4気筒エンジン

BYDの上級ブランド「仰望(YangWang)」は、発電用の水平対向エンジンを展示した。排気量は2.0Lの4気筒エンジンだ。BEVばかりと思われがちだが、新エネルギー車でもっとも伸び率が高いのはPHEV。発電用エンジンの開発も盛んだ。
注目の2.0L水平対向4気筒エンジンは発電専用として仰望U7に搭載される。U7の中国での価格は約1300万円。
水平対向の採用理由のひとつはパワートレーンの全高を抑えるため。そのためにオイル供給はドライサンプとしている。

1 / 13

「日本勢は中国で巻き返せるか? 新技術開発にも貪欲な中国勢と戦うトヨタ、ホンダ、日産、マツダ」の1枚めの画像

2 / 13

「日本勢は中国で巻き返せるか? 新技術開発にも貪欲な中国勢と戦うトヨタ、ホンダ、日産、マツダ」の2枚めの画像

3 / 13

「日本勢は中国で巻き返せるか? 新技術開発にも貪欲な中国勢と戦うトヨタ、ホンダ、日産、マツダ」の3枚めの画像

4 / 13

「日本勢は中国で巻き返せるか? 新技術開発にも貪欲な中国勢と戦うトヨタ、ホンダ、日産、マツダ」の4枚めの画像

5 / 13

「日本勢は中国で巻き返せるか? 新技術開発にも貪欲な中国勢と戦うトヨタ、ホンダ、日産、マツダ」の5枚めの画像

6 / 13

「日本勢は中国で巻き返せるか? 新技術開発にも貪欲な中国勢と戦うトヨタ、ホンダ、日産、マツダ」の6枚めの画像

7 / 13

「日本勢は中国で巻き返せるか? 新技術開発にも貪欲な中国勢と戦うトヨタ、ホンダ、日産、マツダ」の7枚めの画像

8 / 13

「日本勢は中国で巻き返せるか? 新技術開発にも貪欲な中国勢と戦うトヨタ、ホンダ、日産、マツダ」の8枚めの画像

9 / 13

「日本勢は中国で巻き返せるか? 新技術開発にも貪欲な中国勢と戦うトヨタ、ホンダ、日産、マツダ」の9枚めの画像

10 / 13

「日本勢は中国で巻き返せるか? 新技術開発にも貪欲な中国勢と戦うトヨタ、ホンダ、日産、マツダ」の10枚めの画像

11 / 13

「日本勢は中国で巻き返せるか? 新技術開発にも貪欲な中国勢と戦うトヨタ、ホンダ、日産、マツダ」の11枚めの画像

12 / 13

「日本勢は中国で巻き返せるか? 新技術開発にも貪欲な中国勢と戦うトヨタ、ホンダ、日産、マツダ」の12枚めの画像

13 / 13

「日本勢は中国で巻き返せるか? 新技術開発にも貪欲な中国勢と戦うトヨタ、ホンダ、日産、マツダ」の13枚めの画像

HORSE 発電専用水平対向2気筒エンジン

ルノーと中国の浙江吉利控股集団(吉利グループ)の共同出資によるパワートレーン技術会社のHORSE Powertrainは2024年5月に設立。両グループから知的財産を譲渡されエンジン、トランスミッション、ハイブリッドシステムなどを設計、開発、販売する。今回目を惹いたのは、1.0L水平対向2気筒エンジン。もちろん発電専用だ。
自然吸気、高圧縮比、アトキンソンサイクルで窒化ガリウム(GaN)を使った次世代パワー半導体を採用している模様。

長安汽車 熱効率43.31%の発電用エンジン

長安汽車は、長安ブランドのほかに、Deepal(ディーパル)、AVATR(アバター)などを展開。フォードやマツダとも合弁企業を作っている。「New BlueCore」と名付けられた技術シリーズでも注目は新開発の発電用エンジンだった。
Dual-Motor Hybrid用エンジンは、熱効率43.31%、圧縮比16.0:1、ストローク/ボア比1.45だという。

江准汽車(JAC) 1.5L発電専用エンジン

江准汽車(JAC)は安徽省合肥市に本拠を置くグループ。VWと合弁と組むほか、瑞風(Refine)シリーズやiEVシリーズを展開する。上海モーターショーでは、「DEFINE」シリーズの最新モデル「DEFINE-X」を発表した。これはPHEVシステムを搭載している。そのJACのDHE145エンジン。1.5Lの直4エンジンでボア72mm×ストローク92mmで比は1.28。圧縮比は15。重量は114kgのスペックだ。

発電専用エンジンは、ある一点の狭い運転領域の効率のみを考えて開発されているようだ。熱効率40%台半ば、高圧縮比、高S/B比のスペックが誇らしげに示されていた。ここにCATLをはじめとした電池メーカー、電池技術があるのだから、NEV分野での中国の優位は、しばらくは動かないだろう。

エンジンの次に目立ったのが空飛ぶクルマ(Flying Car)である。少し前までは「夢物語チック」なモックアップが多かったが、今回はどれもちゃんと飛ぶどころか、使い方の提案、果ては商用運用の見込まで発表するところも出てきた。「クルマ」の部分と「人乗りドローン」の部分を分離・合体できるものもいくつかあって、どれも見ていて楽しい提案だった。

BYD Super e-Platform

上海で数々のニューモデルをお披露目したBYD。注目したいのは、「Super e-Platform(超級平台)」だ。800Vアーキテクチャーを超えて、ついに最大1000Vの高電圧システムを採用。わずか5分の充電で400km走行できるという。バッテリーは、BYD得意のブレードバッテリー。10Cの充電レート(バッテリーの定格容量の10倍の電流を供給)と1000Aの大電流に対応する。技術展示の説明には「全球量産最高/最大(World Highest in Mass Produced)」の文字が躍る。発電用水平対向エンジンを開発しつつBEVの欠点、充電時間の長さを克服するための技術開発も怠りなく行なっていることを誇示していた。電池技術を持っている強みもある。

人型ロボットも、会場を歩いているとかなりの数を見かけることになる。AI技術と合わせてロボットも商品化(それもクルマ程度の価格で)が間もなく、という印象だ。生産現場でもたとえばZEEKRの工場ではすでに人型ロボットが稼働しているという。

日系メーカーは中国戦略練り直し

LEXUS 新型ESを中国で発表

レクサスは上海で上級セダンの新型ESを発表した。発表にあたり、「レクサスは中国で20周年を迎えた」ことをアピール。歴代LSをずらりと並べ、中国の新興ブランドにはない「歴史」を強調した。トヨタは上海市金山区に独資でBEV・電池の開発・生産会社を設立する。生産開始は2027年以降。新型ESで展示されたのはBEV版だが、HEV版の用意する。
プラットフォームは、専用開発を施したTNGA「GA-K」を使う。インフォメインメントシステムも中国市場を強く意識したものを開発。
画像が登録されていません

さて、日系OEMだ。中国市場ではチャレンジャーという立場になったのは日系だけでなく欧米勢も同じ。BEV、知能化といった部分では中国勢が先行している。日系OEMは、それを受け入れて中国市場の中国の人たちに向けての開発が実を結びつつあるように感じられた。トヨタはBYD、広州汽車、第一汽車、日産は東風汽車、ホンダは広州汽車と東風汽車、マツダは長安汽車のリソーセスをそれぞれうまく活かしてコストを抑えつつ中国に合った商品を開発してきている。車内インフォテインメントのアイデアや技術は中国の方が上。逆にそこさえきちんと取り込めればまだ勝機はある。日系ブランドに対する信頼度やブランド力はまだまだある。これが消えてしまう前に、NEVで存在感を示せれば……どの日系OEMもそう考えているだろう。

TOYOTA bZ7でテコ入れを図る

bZ7は現地開発モデルとして、広州汽車集団有限公司(GAC)、広汽トヨタ自動車有限会社(GTMC)、トヨタ知能電動車研究開発センター(中国)有限会社(IEM by TOYOTA)が共同開発したBEV。bZシリーズのフラッグシップセダンだ。
画像が登録されていません

Honda 烨(イエ)シリーズ第2弾「Honda GT」

ホンダは「烨(yè:イエ)」シリーズの第2弾となる「広汽Honda GT・東風Honda GT」を世界初公開した。バッテリーはCATLと共同開発したLFPを使う。イエシリーズは、Momentaと先進運転支援技術、DeepSeekのAI技術も使う。
Honda GTの前にはF1マシンが展示して、スポーティなイメージを演出。イエシリーズの成功はホンダにとって重要だ。
画像が登録されていません

NISSAN フロンティアPHEVを投入

日産が掲げる「中国で、中国のために、そして世界へ」という戦略のもと、PHEVのピックアップトラック、Frontier Pro PHEVが発表された。鄭州日産との共同開発によるグローバルモデルだ。フレーム構造のフロントには1.5L直4ターボを搭載。EV走行で最大135km走れる。中国市場で2025年後半に発売予定。将来的には中国からの輸出も想定している。
BEVセダンのN7はモーターショー後に価格が発表。最廉価版で約12万元(240万円)、最上級で約15万元(約300万円)。

1 / 9

「日本勢は中国で巻き返せるか? 新技術開発にも貪欲な中国勢と戦うトヨタ、ホンダ、日産、マツダ」の1枚めの画像

2 / 9

「日本勢は中国で巻き返せるか? 新技術開発にも貪欲な中国勢と戦うトヨタ、ホンダ、日産、マツダ」の2枚めの画像

3 / 9

「日本勢は中国で巻き返せるか? 新技術開発にも貪欲な中国勢と戦うトヨタ、ホンダ、日産、マツダ」の3枚めの画像

4 / 9

「日本勢は中国で巻き返せるか? 新技術開発にも貪欲な中国勢と戦うトヨタ、ホンダ、日産、マツダ」の4枚めの画像

5 / 9

「日本勢は中国で巻き返せるか? 新技術開発にも貪欲な中国勢と戦うトヨタ、ホンダ、日産、マツダ」の5枚めの画像

6 / 9

「日本勢は中国で巻き返せるか? 新技術開発にも貪欲な中国勢と戦うトヨタ、ホンダ、日産、マツダ」の6枚めの画像

7 / 9

「日本勢は中国で巻き返せるか? 新技術開発にも貪欲な中国勢と戦うトヨタ、ホンダ、日産、マツダ」の7枚めの画像

8 / 9

「日本勢は中国で巻き返せるか? 新技術開発にも貪欲な中国勢と戦うトヨタ、ホンダ、日産、マツダ」の8枚めの画像

9 / 9

「日本勢は中国で巻き返せるか? 新技術開発にも貪欲な中国勢と戦うトヨタ、ホンダ、日産、マツダ」の9枚めの画像
BEVセダンのN7はモーターショー後に価格が発表。最廉価版で約12万元(240万円)、最上級で約15万元(約300万円)。

MAZDA EZ-60で勝負

マツダが上海モーターショーで発表した「MAZDA EZ-60」は、長安汽車とマツダの合弁会社、長安マツダ(长安马自达汽车有限公司)が開発した電動クロスオーバーSUVだ。ベースとなるプラットフォームは長安汽車のEPA1だ。

もうひとつは、市場としての中国だけでなく輸出拠点としての中国という戦略だ。北米市場はともかく、ASEAN、あるいは中東、日本へBEVやPHEV輸出するための中国開発・生産車という位置づけだ。

現在の中国市場で絶対的なブランド性を確立できている日系ブランドはおそらくレクサスだけ。他は中国ブランドより上のポジションを確保しないと今後苦しくなる。

いずれにせよ、日系OEM、サプライヤーはいまが巻き返すチャンスだ。中国の力を取り込みながらいかに「巻」くか。勝負は今後数年で決まる……ような気がした。

前編はこちらから。

キーワードで検索する

著者プロフィール

鈴木慎一 近影

鈴木慎一

Motor-Fan.jp 統括編集長神奈川県横須賀市出身 早稲田大学法学部卒業後、出版社に入社。…