5つのユニット一体化&小型化で、第3世代e-POWERが次期エルグランドで出番待ち! 日産&ジヤトコの「5-in-1 e-POWER」 【人とくるまのテクノロジー展2025】

何かと盛んに報道される日産自動車だが、会社の起死回生への決定打(?)となる新世代e-POWERが、「人とくるまのテクノロジー展2025」の、日産自動車とジヤトコのブースで説明展示されていたのでお伝えする。

TEXT/PHOTO:山口尚志(YAMAGUCHI Hisashi)

社運がかかる、「5-in-1」の第3世代e-POWER!

今年の人とくるまのテクノロジー展で、日産とジヤトコはそれぞれのブースで「X-in-1」と銘打つ新世代電動技術を大きく展示していた。

日産自動車ブース。
第3世代e-POWERの開発・生産を担うジヤトコのブース。

「X」は核とするユニットの数。それを「1」つにまとめて一体化したことを「X-in-1」で示している。
ユニットとは、まず「インバーター」「減速機」「モーター」で、この3つを一体化したのが「3-in-1」。
これは次期リーフに搭載されるEVユニットだ。

この3つを共用し、さらに「増速機」「発電機」を加えた5つを一体化したのが「5-in-1」で、これこそが日本では次期エルグランドでデビューするとされる「第3世代e-POWER」だ。

ここでは第3世代e-POWERを採り上げる。

第3世代e-POWERユニット。

日産とジヤトコがアピールするのは、もっぱら主要ユニットのEV用と新e-POWER用での共有化と、「X-in-1」に表現されるユニット一体化だ。

インバーター、減速機、モーター、3つのユニットのEVユニットとの共有化のねらいは、お察しのとおり、少しでも多く造ることで得られる部品コスト、生産コストの低減だ。
主要ユニットをひとつの筐体に収めるのは、ユニット全体の小型化をもたらす。

ユニット一体化を大きくアピールする、ジヤトコブースでの「X-in-1」説明パネル。
「X-in-1」のアピールや、次世代EVと第3世代e-POWERの主要ユニット共通化の説明は、日産ブースの方が詳しかった。

小型化ばかりじゃない、リブ追加による高剛性化など、ケース自体の形状を工夫することで音や振動の抑制が図りやすくなる。
これまでもユニット個々でオトシン(音振)低減の工夫はしていたろうが、ケース内への一体化は、ユニット個々もさることながら「ケース」というオトシン低減の工夫の余地がひとつ生みだしたといっていい。
一体化がなければ相変わらず個々で低減策を施さなければならない。

日産のブースでは、「e-POWERの進化」と銘打ち、第1世代、第2世代のe-POWERユニットを展示していたが、モーターや発電機、インバーターなどの主要ユニットはこれまでそれぞれ別個のユニットをただ結合させたレイアウトだったことがわかるし、過去e-POWERを見た後に、第3世代e-POWERを見直すと、第3世代は確かにコンパクトになっていることを実感する。
実感するだけでなく、このコンパクトなユニットを見ていると、いま使っている自分のクルマが、たとえ日産車じゃなかろうと、トランスミッションを外してエンジンにこのユニットをくっつけたら、そのまま第3世代e-POWER車になるんじゃないかと思ってしまうほどだ。

第1世代e-POWERユニット本体。こちらはエンジンも含めての展示だった。
第1世代e-POWERの説明パネル。
こちらは第2世代e-POWERユニット展示。
第2世代e-POWER説明パネル。
第1世代、第2世代e-POWER(のエンジンを除く部分)を見た後に第3世代e-POWERを見ると、一体化のメリットやコンパクトさが手に取るようにわかる。

それにしても、これらをひとつのケース内に収めるならユニット個々だって小型化しなければならないわけで、効率や静粛性を向上させながら一体化させる設計作業は容易じゃなかったろう。

エンジンは熱効率向上

エンジンは引きつづき発電専用設計で、いまと同じ直列3気筒・可変圧縮比にしてターボ付き。
効率向上のすべてを電動ユニットに一任せず、エンジン側も効率向上が図られており、シリンダ内に流入する空気をタンブル(樽型)流にして安定した燃料を実現し、熱効率をさらに向上させたという(STARCコンセプト:Strong Tumble & Apporopriately Stretched Robust ignition Channel)。
流入空気の形にはこれまでもタンブル状のほかに、層状、タテ渦、ヨコ渦などがあったが、エンジンはエンジンでまだまだやることがあるのである。

これまでのe-POWERの進化ぶりもアピール!

筆者は、第2世代e-POWERを搭載する現行エクストレイルを約440km(一般道120km、高速道260km、山間道60km)ばかり走らせたことがあるが、このときの燃費は、カタログ燃費18.4km/L(WLTC総合)に対して12.6km/Lだった。
車両重量が1880kgで軽いとはいえないから初めから期待はしていなかったのだが、それにしても燃費は「思ったほどじゃないな」と思ったものだ。
高速路での80~100km/h巡行時は、空ッ欠スレスレの電気を大急ぎで発電しなきゃ間に合わないとばかり、クルマなのに自転車操業でエンジンがまわりっぱなし・・・発電した電気はバッテリーを通過してそのままモーターに直行しているイメージだった。

もともとハイブリッドは、高速では発電しなければ追いつかないため、高速走行ではメリットが薄いとされてきた。
実際、筆者はほぼ同じ重量の1500ccガソリン車と1500ccパラレルハイブリッド、同じ給油機で燃料満タンにし、同時出発で高速道路だけを走って燃費を調べたら、両者(両車)まったく同じ数値だったことがある。
となると、いまの報道はe-POWERだけを悪者にしすぎていると思うのだが、宣伝文句ほどいまのe-POWERが優れた燃費性能とはいえないのも事実だと思う。

新しい第3世代e-POWERは、第2世代との比で、高速燃費は15%、静粛性は5.6db抑えているというから、その差は決して小さくない。
これが果たして本当なのか、早く実車で確認したいものだ(できればe-POWERユニットだけ第3世代にした同じエクストレイルで)。

高速燃費は15%、定常燃費は9%低減され、静粛性は5.6db下がったことをPR。

第1世代、第2世代がどうだったのか、聞き漏らしたので知らず、新しい第3世代e-POWERはジヤトコ製になるという。
搭載は、国内第1弾が次期エルグランドなのは報道のとおり。海外では次期キャシュカイ。
いずれも2025年度中に市場に投入予定としている。

日産ならターボ技術やアテーサ、4輪マルチリンクサスペンション・・・自動車は、走りの技術がそのまま商品力となる時代が長かったが、とっくにそうではなくなっている。
技術とはもともと何かのメリットを得るための手段にすぎず、トータルの商品力で勝負するのが本当で、商品力向上、商品魅力で顧客を惹きつけることを長きに渡って怠っていたことが、いまの日産の凋落を招いた要因だ。
これは何もゴーン時代に始まったことではなく、1970年代、80年代からずっと前からいわれていたことで、これがいつまで経ってもトヨタにトップシェアを許すことになっていた。

4WD技術「アテーサ」を掲げて登場した、8代目ブルーバード(1987年)。
901活動の筆頭、4輪マルチリンクサスペンションや、16年ぶりのGT-R復活が話題だったR31スカイライン(1989年)。

いくら第3世代e-POWERが優れ、次期エルグランド、あるいは開発中とされる次期スカイラインに搭載されたとしても、値段が張るから多く売れるとは思えない。
急務は、シエンタやフリードに相当する5ナンバーサイズの3列シート車投入や、ノートへのガソリン車設定など、普遍的モデルのラインナップ拡充だ。

電動化への流れがあるにしても、多くのひとが望む使いやすいサイズと機能を与えた普遍的モデルを、ガソリン車と新e-POWER車両方で、求めやすい価格で提供する・・・この当たり前のことができなければ、顧客が戻ってくることはないだろう。

そうはいっても、e-POWERのみならず、安全支援関連その他の技術だって他社に劣らず優れているのだ、もう「技術の日産」は過去のフレーズとしてきれいさっぱり忘れることにし、ちゃんと顧客の顔を思い浮かべてクルマを造る自動車メーカーになってほしいと、かつての日産車ユーザーとして思う。

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