目次
ライトクロカンの元祖は、30年を経て今やSUVのメインストリームに
若い読者諸兄には馴染みがないと思うが、1990年代の日本には「ライトクロカン」というカテゴリーがあった。80年代から爆発的に国内でヒットしたクロスカントリー4WD、いわゆる「クロカン四駆」に対しての新カテゴリーだった。
クロカン四駆はラダーフレーム構造に前後リジッドアクスル式サスペンション、そしてパートタイム4WDというメカニズムが伝統的なものだったが、これは前時代の道路インフラを前提に考案されたものだった。さらにこれが軍用となって、現在も続くクロカン四駆のDNAとして受け継がれているわけだ。だが、すでに20世紀には成熟していた日本の道路インフラでは、完全にオーバースペックだったのである。
クロカン四駆にとっての弱点は、構造部品の多さだ。これが重量増となり、結果的に燃費悪化、車両の高価格化へと繋がる。90年代初頭は燃料代が高騰した頃であり、同時に環境問題が取り沙汰されるようになった。これに悪質なカスタムの問題も加わり、「日本でクロカン四駆はオーバースペックでは?」というように潮目が変わっていったのである。
それでもアウトドアブームは続いていたため、もっと手軽に買えて、日常生活へのマッチング度も高い「ライトクロカン」が登場した。ライトクロカンは、モノコックボディとインディペンデントサスペンションで軽量化を図り、さらに小排気量のガソリンエンジンを積むことで低価格化を実現。この市場を開拓したのが、トヨタ「RAV4」だった。

初代が登場したのは1994年のことで、デビュー時は5ナンバー枠ショートボディ+2.0L直4ガソリンエンジンのみというシンプルなグレード構成だった。また、見た目はクロカン四駆のような腰高なフォルムだったが、フルタイム4WDという駆動方式はダートや雪道しか走らないユーザーにアピール。CMキャラクターも当時フレッシュだった木村拓哉を起用し、軽快で新しいジャンルのクルマということを強調したのである。
デビュー翌年には5ドア版が追加され、さらに2年後には3ナンバー枠グレードも登場。ライバルであるホンダ「CR-V」と共に、後にSUVカテゴリーとなっていく市場を確実に形成していくことになる。RAV4は現在までに世界で1500万台も販売されて180もの国を走り回っている、まさにトヨタの世界戦略車なったのである。
新型RAV4のここがスゴい:初代の面影を残しつつ、新時代を感じさせるデザイン
さて、なぜわざわざ初代の話をしたのかというと、そもそものRAV4の生い立ちは「リーズナブルな4WD車」。ところが、2025年5月21日にローンチとなった6代目モデルは、かつて口の悪い四駆乗りに偽ヨンクと陰口を叩かれた頃の面影は微塵もなかった。
ただ、新型RAV4発表のニュースをメディアで見た時、詳細が発表されていないがために、魅力の要点がよくわからなかった人もいると思う。一目瞭然だったのは、そのエクステリアデザインだけだった。
そのデザインは素晴らしい。新型は、都市生活者を意識した「CORE」、アウトドア派向けの「アドベンチャー」、そしてよりスポーティな走りと形を創造している「GR SPORT」という三つ巴のグレード構成となっている。



個人的には「CORE」のデザインに執心で、これを見ると初代からの進化を改めて実感しつつも、どこか初代の香りがすることに好感が持てる。全体的には「bZ4X」のデザインプロトコルと共通しているように見え、また「カローラクロス」のようなドットデザインのグリルに魅力を感じる人は多いのではないか。
詳細なスペックは未発表だが、ボディサイズはほぼ変わっておらず、グレードによっては若干ワイドトレッド化された。現行型デビューから7年が経過しているので、進化、変化は当然だが、ヘッドライト周りの造形には、新時代の香りが嫌というほど漂っている。

新型RAV4のここがスゴい:モーターだけで150km走れる最新プラグインハイブリッド
さて、新型の新時代への対応という点では、ふたつの進化のトピックがある。ひとつ目はハイブリッドシステムである。特に新型においては、BEVへの過渡期にふさわしくPHEVシステムを発展させている。というか、ついにガソリンエンジン搭載車(ICE)がグレードから消え、PHEVとHEVのみのラインナップになったことがまさに未来的である。
さて目玉となるPHEVの航続距離だが、モーターのみの走行の場合は満充電で最長150km。例えば東名高速道を使った場合に、東京から足柄SAまで安心して走れるようになった。ガソリンエンジン併用の場合は、1350kmの走行可能距離を実現している。


加えて、DC急速充電が新たに採用されたことで、満充電量の80%まで約30分でチャージできるようになった。現行型クラウンなどに搭載されているPHEVシステムで同様のチャージをした場合は、約38分かかることを考えればかなり短縮された。「わずか8分でしょ」という向きもあろうが、100km/hで8分間走ると約13.33kmも進んでいるわけだから、意外と時短になる。
ちなみに、よくカタログなどに「満充電量の80%」までの充電時間が記されているが、これはバッテリーの特性で残り20%の充電時間が大幅にかかってしまうためだ。
話を戻すが、当然ながら出力の向上も図っている。現行モデルのPHEVは最高出力が306PSだが、新型のGRスポーツのシステム最高出力は320PSに達している。GR86が235PSであることを考えれば、かなりのスペックであることが分かるだろう。

ワールドプレミアにおいては、オフロード性能も向上していることが匂わされた。電動による「E-Four」の走破性を言っているのだろう。おそらく現行型でアドベンチャーに搭載されている「ダイナミックトルクベクタリングAWD」より細かい制御の元で悪路走破性、旋回性能の向上が図られていると思われるが、さらにランドクルーザーで培った電子制御システムの一部が移植されている可能性も否めない。PHEVのモーター出力が12%も向上しているのも、トピックスだ。
ちなみに、初代に採用された4WDシステムは単なるスタンバイ方式ではなく、べべルギア式センターデフを採用するという先進性(当時としては)を持っていた。しかし当時の四駆はパートタイム式が圧倒的に主流であり、フルタイム4WDの走破性はそこまで評価されなかった。


新型RAV4のここがスゴい:急速充電ポートを新設。モーターだけで150km走れる最新プラグインハイブリッド
新型RAV4がユーザーにもらたしてくれるものは、クルマとしての魅力だけではない。新型より「V2H(ヴィークル・トゥ・ホーム)」の活用が可能になっている。通常、家庭用のEV充電施設は、家庭用電源からEVへの充電は可能でも、EVの電力を住宅設備で使うことができない。V2Hは相互間での電力使用を可能にしたシステムだ。

つまり、災害時などにインフラがダウンした場合、家の電気設備、電化製品をクルマからの電力で使うことができるのである。それだけでなく、一般的に家庭用蓄電池は大きなものでも10kWh強であるが、電動車は20〜70kWhもの蓄電量を持つとされている。
さらに災害対応のみならず、電気代節約も新型RAV4によって可能になる。クルマへの充電は安い深夜電力を使用し、電気代が上がる昼間はクルマの電力を活用するという手法だ。またソーラー充電設備を持つ住宅なら、太陽発電が使えない夜間、雨、曇りの日にクルマの電力を使うこともできるのである。
新型RAV4のここがスゴい:新しいソフトウェア開発基盤「アリーン」をトヨタで初採用
さて、新型RAV4のトピックスになっているのが、トヨタが独自開発しているソフトウェアづくりのプラットフォーム「Arene(アリーン)」の搭載だ。市販車として新型RAV4に初めて採用されているという。このアリーンというのが、正直何を提供してくれるのか分かりづらい。技術的な解説については山本晋也氏が当サイトで行っているので、そちらを参照していただき、ざっくりとした説明をしたい。
昨今のクルマは、車載コンピュータによって各部が電子制御されているのは周知のとおりだが、実はPCやスマホのOSのような共通化、合理化が進んでいなかった。メーカーに部品供給をしているステークホルダーにも、オープンソース化されていなかったわけだ。
加えて、いったんユーザーの手にわたった車両の状態は、ディーラーにある判断機によってデータの吸い上げ、アップデートをする必要があったわけだ。しかも、データの不具合はアップグレードで改善できても、クルマの機能がPCのようにアップグレードすることはない。
これはクルマ自体がスタンドアローンな存在であり、車載コンピュータがネットワークに繋がっていないことが主な要因だ。そこで昨今、自動車メーカーは「SDV(ソフトウェア・ディファインド・ビークル)」という概念を掲げている。

SDVは、ソフトウェアによってクルマの機能がアップデートされることを前提に設計・開発されたクルマのことで、購入後もOTA(無線)でのアップデートをすることで、いつも新機能やサービスが使えるという定義だ。アリーンはこのSDVを実現するためのソフトウェアプラットフォームなのである。
メリットはいろいろとあるようだが、まずメーカーとステークホルダー間での開発プロセスを単純化でき、開発時の検証が仮想空間でできるので、開発スパンが大幅に短縮できるという。加えてユーザーの使用状況データ、つまりビッグデータを常時吸い上げることができ、ここで不具合や不便が生じるようであればスピーディに修正し、アップデートしたデータを車両に戻すことができる。
アリーンはクラウド上にあるAIの支援も受けることができ、ユーザーによってそれぞれ違う使い方やクセなども車両の機能にフィードバック。さらにこれまでは不可能だった、購入後の機能のアップグレードもできるのだという。
私見だが、これは来る自動運転・先進運転支援システムとの連動を想定したものだと思われる。ユーザーにしてみれば、「いまクルマを購入して、将来自動運転化した場合はまたクルマを買い替えなければならない」というネガティブな発想になるわけだが、アリーンが搭載されているクルマは、現在持っているメカニズムを活用しながら(一部改装が必要だとしても)、来る自動運転時代に対応できるのではないだろうか。
クルマは経年で車両状態、機能のすべてが古くなってしまっていた。今後はPCやデジタルガジェットのごとく、ある程度の世代であればOS(PCでいうところの)を入れ替えれば、新世代マシンに匹敵する機能と安全性が得られるようになるのではないだろうか。また、トヨタが提供するドライバー向けアプリケーションも使える未来が待っていそうだ。
つまり新型RAV4は、ドライブするというこれまでのクルマの価値のみならず、付加価値をいろいろと持って登場する第一世代モデルということになる。クルマとして魅力を十分に備えつつ、将来性も持ったすごいクルマなのである。