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7代目の新型ムーヴ、そのターゲットは50代~60代の新人類!

2025年6月5日、ダイハツが新型ムーヴを発表した。事前のスクープ、ティザーサイトの展開などで周知されていたとおり、7代目となる新型ムーヴは、後席スライドドアのボディに生まれ変わった。これまでムーヴには標準系とカスタム系というふたつの顔が用意されていたが、今回はスタンダード一本に絞ったスタイリングとなったことも話題を集めている。
とはいえ、ムーヴといえば軽ハイトワゴンの代表的モデルである。スライドドアを採用しても、2WDグレードで全高1655mmというハイトワゴンらしいシルエットは守っている。
ここで気になるのはダイハツは「ムーヴキャンバス」という、同じく軽ハイトワゴンの後席スライドドアのモデルをラインナップしていること。じつはムーヴキャンバスの全高も1655mm(2WD)となっている。全長・全幅は軽自動車規格で同寸であるから、そこに差別化要素はあるのだろうか。はたして、新型ムーヴとムーヴキャンバスは同門での食い合いになってしまわないのか。

そうした疑問を、新型ムーヴの開発陣や商品企画など複数の担当者に伺った回答をまとめると、「新型ムーヴはムーヴキャンバスとメインターゲットが異なりますから(食い合いにはならないでしょう)」となる。
あえて複雑なマーケティングを単純化すると、ムーヴキャンバスのターゲットとなるのは30代以下の女性となっている。一方、新型ムーヴのユーザー層は50代~60代の男女を想定している。
1950年代~1960年代に生まれ、成長期が高度経済成長期からバブル経済という、いわゆる新人類世代がメインターゲットだという。
この情報を知ると、新型ムーヴのCMソングが、山下達郎さん書き下ろしの『MOVE ON』で、映像の世界が永井博さんのイラストによって構成されているのも納得だ。
新人類世代であれば、ご存知だろう。永井博さんといえば、あの大瀧詠一さんの名盤(レコードアルバム)であり、1980年代の社会現象にも数えられる「A LONG VACATION」のジャケットを描いたイラストレーターである。まさに新人類世代を狙い打ちにしたコンビネーションといえる。
筆者としては、山下達郎さん、永井博さんというコンビネーションには、このところ世界的なムーブメントになっている日本のシティポップを連想してしまう。その意味では、若いユーザーも含めた新旧“シティポップ世代”に、新型ムーヴの世界観が刺さるかもしれない。

新型ムーヴはムーヴキャンバスを買わなかった人向け?
このようにマーケティング上でのメインターゲット層が異なるとはいえ、ハードウェアの特徴として新型ムーヴとムーヴキャンバスが、かなり近いことは事実である。エンジンやプラットフォームといったアーキテクチャーも共通であるし、それぞれ最上級グレードにはターボエンジンを搭載していることから大きく走りの性能が変わるはずもない。

はたして、新型ムーヴの登場によってムーヴキャンバスの売上に影響が出ることにはならないのだろうか。
こうした点について、新型ムーヴのチーフエンジニア(CE)を務める戸倉宏征(とくら ひろゆき)さんに聞いてみたら、納得の答えが返ってきた。
『ムーヴキャンバスは指名買いのお客様が多いのです。逆に、ハイトワゴンのシルエットでスライドドアの利便性を求めるお客様の中には”可愛い過ぎるからなあ”といった理由でムーヴキャンバスの購入をためらうケースがあったりします。さらに軽ハイトワゴンをお求めになるお客様は、後席がヒンジドアなのかスライドドアなのかということよりも、タントのようなスーパーハイトワゴンより廉価であることを重視しています。ですから、ムーヴキャンバスとは異なるテイストのデザインで、従来通りの安価な価格とすればお客様に評価されると考えています』。
たしかに新型ムーヴの最廉価グレードでは装備を絞ることで135万8500円という後席スライドドアとは思えない価格となっている(ムーヴキャンバスの最廉価グレードは157万3000円)。
戸倉CEは、新型ムーヴには、保有が長期化している軽ハイトワゴン市場へ刺激を与えることも期待しているといった内容の話もされていたが、ムーヴキャンバスをキュートなルックスにより敬遠していた新人類世代に、軽ハイトワゴンの新しいスタイルとして認識されることは十分に考えられる。
そうなれば、新型ムーヴは従来モデル実績の2倍となる月販6000台という目標を軽々と超えていき、軽自動車のトレンドを変えるヒットモデルとなるやもしれない。
