拝啓、新型ムーヴのご先祖様・・・ずーっと4年サイクルでモデルチェンジしてきた、過去6世代のムーヴをずら~り並べてみました! ~総覧・ムーヴ30年のヒストリー~

6月5日に発表された新型ムーヴは7世代目に当たる。
1995年の登場からはや30年。
姿形を変えながら走り続けてきた6世代の過去ムーヴをたどってみよう。

TEXT:山口尚志(YAMAGUCHI Hisashi)
PHOTO:ダイハツ工業/本田技研工業/モーターファン・アーカイブ/長野達郎(NAGANO Tatsuo)

新たに築いたトール型軽市場を、ワゴンRとともに30年・・・

先代ムーヴから10年6か月・・・7代目となる新しいムーヴが発売された。
考えてみたら、初代の発表・発売が1995年8月だから、もうすぐきっかり30年経つ。

新型ムーヴ。
新型ムーヴカスタム。

新型の発売は、2年前の2023年7月発売が予定されていたが、その年の春に発覚した不正認証問題を受けて、発売は余儀なく無期限延期となっていた。
本当は8年7か月ぶりのモデルチェンジでなければならなかったのだが、7代めは結果的にきっかり30年(本当は3か月弱ほど早いのだが)を迎えるわけで、記念的モデルといっていいかも知れない。

本記事では、新型ムーヴのご先祖様6世代を眺めていく。

初代(1995年8月~)

1995年8月25日、初代ムーヴが発売された。
1994年9月の4代目ミラの機械部分を用いて仕上げたトールボーイ型軽乗用車。

初代ムーヴ(1995年)。
初代ムーヴのベースとなった4代目ミラ(1994年)。

全長×全幅は当時の軽自動車規格に則った3295×1395mmだが、全高はミラの1440mmに180mmプラスした1620mmにし、頭上空間を大きく広げている。ホイールベース2300mmも共通だ。

古くは3輪トラックの「ミゼット」、4輪なら「ハイゼット」・・・さらに遡ればダイハツはまだいくつかの3輪、4輪を造っているのだが、「ダイハツ」どころか、その由来である前社名「大阪発動機製造株式会社」時代からいまに至るも、開発陣代々の中で、初代ムーヴの設計スタッフほど、開発中に悔しい思いをしたひとたちはいなかったろう。

この約2年前の1993年9月に、まったく同じ思想でスズキから初代ワゴンRが発売されていたからだ。
ベースは当時のセルボモード・・・ということはアルトがベース。
あちらワゴンRは、着座位置の高いシート配置に考慮してアルトのフロアの80mm上にもう1枚フロアをボルト締めで重ねて二重底にし、サイドシルを相対的にアルトより低くして乗降性に配慮した。

初代ムーヴ企画~開発段階で現れ出た初代ワゴンR(1993年)。

ムーヴはそこまでの改造はしていないようだが、それにしても思いがけないライバル出現に、ワゴンRを研究して使用性向上に努めている。

そもそもムーヴの登場タイミングからして、ダイハツが相手を見てからムーヴに着手したはずはなし。
いくらベースのミラがあったとて、たかだか2年でイチからデザイン&プレスマザー他の準備ができるわけがない。

調べると、ムーヴの発案自体は1991年の秋から年末頃にはあったらしい。
だが、この頃は軽自動車の売れ行きが減少傾向にあり、新コンセプトの提案に難色を示すひとがいたり、上層部の承認が得られなかったりで、非公認の水面下で細々とデザイン検討が進められ、原寸大モデルも造っていたものの、プロジェクトの本格スタートには至らなかった。
一度は1994年春の発売を目標にされ、ある程度開発は進んでいたが、その後のバブル崩壊も重なって会社の経営状況が変わったり、4代目ミラのプロジェクトを優先させたり、ムーヴ(の名はまだなかったろうが)の計画そのものが頓挫したりの紆余曲折があり、結局は発売が1995年8月になった。

どこを起点にするかで変わってくるので開発スタートをいつとは定めにくいが、とにかくムーヴ発売を1995年8月に仕切り直した時点で21ヶ月を開発期間にすることに決定。
ということは、逆算すれば、開発の本格開始は1993年11月で、ワゴンRの3か月後だ。
「2年で造れるはずはない」と書いたが、これで1995年8月に発売できたのも、水面下時代の先行開発があったからこそだ。
逆にもし91年時点で開発が本格スタートし、順調に進んでいれば1993年のワゴンRと同時期か、わずかなずれでの発表・発売にこぎつけていただろう。

モタついている間にワゴンRが出現したときの、ムーヴ開発陣の歯ぎしりが聞こえてきそうである。

結果的に後追いすることになったわけだが、出現したワゴンRに受けた影響は、当初予定だった12インチタイヤを13インチに格上げしたのと、ルーフレールを追加したことくらい。
だからルーフレール装着車は、全高が先述の1620mmから1695mmになる。

同じ思想と書いたが、クルマの仕上がりはまったく異なっている。

まず外形デザイン。
ワゴンRはフロアやシートの高さ関係をそれぞれ見直しながらキャビン全体を上方拡大した形をしているのに対し、ムーヴは従来軽キャビンの頭上まわりだけ上に引き伸ばした感がある。

初代ムーヴ、サイド。ウエストラインはワゴンRより低く、ドアガラスの天地は高い。

全高は、ルーフレールなし車同士の比較で、ムーヴが1620mmのワゴンRが1640mm。
その20mm差以上にワゴンRが高く見えるのは、ワゴンRのほうがウエストラインが高いからだろう。
ムーヴはミラとワゴンRの間くらいでドアガラスの天地が大きく、こちらのほうが視界も解放感も大きそうだ。
同じ理由でフロントガラスの下端もミラのちょい上くらいだから、ワゴンRほどフードの傾きは大きくない。
ムーヴの着座位置もワゴンRほど高くなく、ワゴンRの630mmに対してムーヴは600mmと30mm低い。

ワゴンRの内外装が質実剛健のイメージなら、ムーヴはミラとは異なる新しい軽乗用車像を追及した、ヤングファミリーユース志向。洒落た感覚もある。

デザインは当初、イタリアのデザイン事務所・IDEA(イデア)に依頼。
ただ、ダイハツ側が思い描いた意図がIDEAのスケッチに反映されず、ダイハツ自前で描いたスケッチとIDEAスケッチがスケールモデルに移行した後、結局ダイハツ案に決定した経緯がある。

初代ムーヴのスケッチ。

採用デザインのおおもとは、当時ダイハツの第1デザイン室長だった石崎弘文さんのもので、ホンダにも在籍したことのある方だ。

初代ムーヴの外観特徴は、通常ならノーズ上面にあるフェンダーとフードの分割線を、フードをクラムシェル型にすることで、フェンダーとの分割線をフロントピラーにつないだ点にある。
これが石崎案の大きなテーマ。

クラムシェル型フードとフェンダーパネルの境界線が、フロントピラーからの延長上にあるのが初代ムーヴの外観特徴。

このクルマの提案自体は1991年秋ごろからあり、発想の原点(のひとつ)は「ミラーウォークスルーバン」。
初代から3代目、それぞれの世代のミラのキャビンを、ハンドルとシートを載せたコンテナにしたみたいなクルマだったが、石崎さんは、誰もが「余儀なき不格好な部分」として目にも留めないキャビンとノーズの接合部分を逆手にとってデザイン化、ムーヴの特徴点に発展させた。

ミラウォークスルーバン。このクルマは初代から3代目までのミラにラインアップされていたが、写真は初代で1984年のもの。
ミラウォークスルーバンのサイド。バックしてコンテナに突っ込んだミラの事故現場写真ではない。

初代ムーヴはワゴンRの「2匹目のどじょう」と揶揄され、そのワゴンRは「昔のステップバン」に似ていると指摘された。

そのステップバンのフードとフェンダーは一般的な並びだが、フェンダーパネルに、フロントピラーから連なる斜めのプレスラインがある点に注目したい。
年齢とステップバンの登場時期からして、ステップバンのデザインに石崎さんがかかわったはずはないが、石崎さんがホンダ時代、社内のどこかで目にしたステップバンのこのラインが、数十年後のムーヴでご本人が無意識のうちに別の姿に蘇らせのだとしたらおもしろい。

ホンダライフ ステップバン(1972年)。このアングルではわかりにくいのだが、その後の初代ムーヴに似る斜めラインが前フェンダー上にある。
ステップバンのスケッチ。斜め線が明確に描かれている。
いい具合に真横の写真があったのでお見せしよう。黄色〇内の斜め線がわかるだろうか。

話を元に戻して、リヤはランプをバンパー内に配したワゴンRと対照的で、縦長テールランプもムーヴの後ろ姿を印象付けている。

後ろのランプ配置は縦長ランプで個性的に。

ワゴンRが右1枚、左2枚の非対称ドアを用いたのに対し、ムーヴが乗用車然とした4枚ドアに仕立てた点も大きな相違点。

バックドアも違う。
ワゴンRはコンベンショナルな上ヒンジのタテ開きなら、ムーヴは右ヒンジの横開き。
後ろにクルマが迫って駐車しているようなせまい場所でもちょっと開けばすむ・・・が目的ではなく、小さい子どもでも開閉できることを狙ってのことだ。
子どもにとってタテ開きは閉めるのに重いし、それ以前に、開いたバックドアに子どもの手は届かない。

ムーヴは4枚ドアの6ライトガラスデザイン。バックドアは横開き。
こちらワゴンRは左に2枚、右に1枚のドアを設け、バックドアは縦開き。
ついでにといっちゃあ何ですが、ステップバンも。リヤゲートは上下開きだ。

子どもといえば、ムーヴは多分に子どものことを意識しているのもワゴンRと違うといってよさそうだ。
リヤシートは、ワゴンRは荷室が完全フラットになる分割可倒式だが、ムーヴはワゴンRと同じフラット分割に加え、スライド機構とリクライニング付きとした。
スライドは、ムーヴの後席は主に子どもが座ると想定し、前席のパパママとの距離を小さくすることに配慮したのである。

筆者はときに新型車の開発者に、「後席の足元を広くするための後席スライドではなく、前席からふり返って、後席に置いた荷物を手に取れるよう、前席背もたれスレスレまで前進する、前席乗員のためのスライドを」と要望しているが、初代ムーヴはそれに近いことをしていたわけだ。

初代ムーヴインテリア。
後席スライドもワゴンRにはないものだった。

ドア直付けの収容式カップホルダーもムーヴだけだ。

他にワゴンRにはないものでは、フロントに限られるが、ドアトリムにつけた格納式カップホルダー。
これは初代ムーヴ以降の多くのダイハツ車に採用されている。
後席背もたれのフックや、横開きを活かしたバックドアのポケットもムーヴにしかない・・・やはりファミリーユース志向のムーヴだ。
もっとも、いまのスズキ車にも続く、あのアイデア物の助手席下のバケツ型もの入れは初代ワゴンRが最初でムーヴにはない。

ムーヴの計器盤はメーターフードからセンター吹出口まで大きな弧を描きながら下に続く逆L字型。
残念ながら新規設計品ではなく、ミラからの流用品だ。
ミラとムーヴとではフロントガラス下端のカーブが異なるため、その相違はガラスとパネル前端の間に追加した別パーツで吸収している。

計器盤は、先に掲げた4代目ミラから持ってきたもの。上面前方の別パネルで、ミラと異なるカーブに対応している。

ところで先行したワゴンRに追従したムーヴ、この2台がえらいのは、競合しながらもお互いに台数を伸ばし続けていったことだ。
似たような時期に似たようなクルマが出ると、たいていはどちらかがどちらかに食われてしまうものだ。
自動車史を見ても、このような例はちょっと思い当たらない。

となると、ムーヴを「2匹目のどじょう」とからかうのは不適切で、「もう1匹のどじょう」だと思う。
ムーヴとワゴンRは似て非なる、1匹と1匹のどじょうなのだ。
ムーヴが「もう1匹のどじょう」である証拠として、エンジンバリエーションの違いも挙げられよう。
ワゴンRはアルト用の直列3気筒のSOHC 660cc1本、5MTと3ATでスタートしたのに対し、ムーヴは当初から直3のDOHC 660cc、直4のDOHCターボの2本立てだったのが大きな違いだ。
トランスミッションに至っては、NAが5MTと3ATなのはワゴンRと同じながら、ターボ車は5MTと4AT。
アルトに4ATもあったがワゴンRにはない。
これも後発ゆえの悔しさで、パワートレーン面でもワゴンRに対する大きな強みにしようとした意気込みがうかがえる。

自然吸気EG-EFエンジン。
ターボ付きEG-JBエンジン。
ターボエンジンを載せたSR。写真は1997年型のもの。ワゴンRもその後にいろいろなエンジンを追加している。
SRの計器盤。

ムーヴとワゴンRの初代同士、その後競い合うようにバリエーションを追加していく。
よくあることだが、どちらも由緒正しき、お行儀のよいクルマとしてスタートしたのに、だんだんワルの様相を濃くしたモデルも加えていくのだ。

途中、ちょこまかちょこまか改良や機種追加をしていくが、割と大き目な節目は登場から1年9か月後の1997年5月に、「アメリカンテイストあふれる外観」にしたという「カスタム」路線の新設だ。
ここから長らく、ムーヴは標準ムーヴとカスタムシリーズの2本立て体制で進んでいく。

アメリカンテイストというわけで、フロントフェイスは大幅に整形手術され、フード部分は完全に造り替えられた。
ヘッドライトは正方形に近い異形に改められ、ターンシグナルも含めたライト、グリル周囲をメッキ枠で囲んでいる。
いちばん大きな違いはフロントピラーに連なるフェンダーのラインが消えたことで、フードもフェンダーもオーソドックスになった。
アメリカンテイストではあるが、標準ムーヴの持つ個性的な顔からほど遠い。

目つき(ライト)を変えることでフードもフェンダーも変わり、ムーヴで特徴のフェンダー斜めラインはなくなった。

ただ、ムーヴにはないワルそうな雰囲気は好き者にはたまらなかったようで、若者の購買欲を喚起したのか、街で見かけるようになるまでそう時間はかからなかったし、ムーヴ全体の販売量を押し上げた。

メーカーが決めた通称名は「裏ムーヴ」。
怪しい、実に怪しい。
「裏」というところに怪しいワルさ加減が凝縮しているではないか。
クルマそのものばかりか、この「裏ムーヴ」という言葉も愛称として親しまれ、「カスタム」シリーズの代名詞として浸透していった。

2代目ムーヴ(1998年10月~)

初のモデルチェンジでムーヴが2代目に。
ムーヴも6月5日の新型で7代目となるが、この2代目は歴代史上早くも大きな変革を迎えたといっていい。

2代目ムーヴ(1998年)。

登場は1998年10月5日。
1998年10月に発効した軽自動車新規格(つまり現行規格)対応車一斉発売のひとつとして、新型ミラおよび新ブランド「テリオスキッド」とともに発売された。
逆にいうと、ダイハツ車の中で、既存ブランド含めてみても、旧規格時代最後の軽乗用車が初代ムーヴだったことになる。
1996年のミゼットIIはトラックだ。

初代はデザインをIDEAに依頼しながら社内でもスケッチが描かれた。
最終的にダイハツ案が採用されたわけだが、2代目はイタルデザイン・・・ジウジアーロに依頼した。
このムーヴの少し後に出るアトレー/ハイゼットもジウジアーロがかかわっている。

2代目ムーヴスケッチ。

新規格のサイズ枠は、従来の全長×全幅×全高=3300×1400×2000mmに対して、全高2000mmはそのままに、全長は100mm、全幅は80mmの拡大が許された。
すなわち全長×全幅×全高=3400×1480×2000mm。
ただしエンジン排気量660ccは据え置きとされた。

というわけで、2代目は外形サイズが大きくなり、全長×全幅×全高=3395×1475×1695(ルーフレール付車)。

全体のシルエットを初代から踏襲。
後ろのランプもタテ型を引き継いでいるが、初代では上下寸をバックドアと合わせていたのを、2代目では下端を下に延長し、タテ長をより強調している。

新規格対応で、全長が100mm、幅は80mm拡大された。
2代目ムーヴカスタム

実はドアは初代と同じものらしいが、よく見れば初代の3本ラインが2代目では消えている・・・たぶんいままで使っていた金型の3本ライン部分だけ消す型改修で進めたのだろう。
2代目ムーヴを真後ろから見たときの様子は、80mmの拡幅が効いてより安定して見えるようになった。
親指と人差し指の間隔で作った80mmなんて大したことないが、クルマの拡幅80mmは大きく、見た目にも走行安定性にも効いてくる。

2代目はデザインはジウジアーロに託された。ドアも共通だが、初代に遭ったドア裾の3本ラインは消された。

いっぽう、初代項で何度も触れたフロント顔は、クラムシェルフードがなくなればフロントピラーからの延長線もなくなり、よくいえばオーソドックス、悪くいえば、初代を知る目には没個性的になった。

初代の企画時は異色に映る背高ボディで、当初「そうは売れまい」と、企画台数は3500台で想定していた。
ところがふたを開けりゃあ月1万5000台も売れ、主力はミラからムーヴに移行したようなものだった。
ならば誰にでも親しまれる形をということで、初代ほどの個性化は見送られた。

もっとも、初代で追加されるや、もうひとつの柱として大きく成長したカスタムは、2代目でより存在感を増し、フロントは丸目4灯式に・・・むしろダイハツはこちらの方こそをムーヴの主力にしたかったのではないかと思うほど力が入っている。

2代目ムーヴカスタム。デザインはジウジアーロデザインが固まった頃に着手された。
同じく2代目ムーヴカスタム。

イタルデザインの標準ムーヴが固まったところで、カスタムのデザイン検討開始。
計画段階から2本立てで行くことは当然のように決めていただろうし、デザインも当初から顔違いも造ること前提で進めていたろうが、それにしても、途中参戦の割には不自然な部分は感じられない・・・やはりカスタムをムーヴの主力にしたかったに違いない。

初代は、ワゴンRもそうだが、既存のメカのみならず、使えるものは他機種から何でも流用し、開発コストを極力抑えながら別のクルマを造ることでヒットした。
やはり儲かったのだろう、たった1世代でダイハツ主力車種に成長したこともある。

初代ではミラから持ってきたインストルパネルも、さすがに新規格ムーヴでは専用に起こされた。

ムーヴカスタム計器盤。

3代目ムーヴ(2002年10月~)

3代目以降はかけ足気味で。

2代目ムーヴからきっかり4年経過した2002年10月15日、3代目が発表された。
スタイリングは2代目までを忘れ、同時期のミラと共通する、硬質な面とくっきりした線で見せる構成に変わった。

3代目ムーヴ(2002年)。
リヤランプは下方に延長された。

見た目の品質向上にも力を入れたのだろう、外観はパネルとパネル、あるいはパネルとバンパーorライトなどとのすき間が詰められている。
これは簡単なようでなかなか難しく、設計と生産技術が綿密な打ち合わせをしないと遂げられないことだ。

標準ムーヴは顔を2段構えにし、ライトとフード折れ面を面一化。
細いメッキバーで区切った下段を、細いランプとグリルでワイド感いっぱいのターンシグナル&グリルを据えている。

カスタムは2代目の丸目4灯を発展させ、片側2灯をひとつの筐体にし、丸目の下半分は丸いままバンパーに食い込ませている。
この辺のチリ合わせもばっちりだ。

こちらはムーヴカスタム。
カスタムはナンバープレートがバックドア側にある。

ターンシグナルやフォグランプはバンパーに移動。
これはコストがかかる=工場での組付け工数がかかる手法だが、それを譲歩してでもカスタムを大きくアピールしたかったのだろう。

リヤランプのタテ長はもはやスプリンターカリブ並みの伝統といってよく、今回はさらに伸びて、バンパーにまで到達した。
この次は地面に突き刺さるのではないか。

バックドアは横開きだが、このモデルではメーカーオプションとして通常のはね上げ式も用意した。
同じ車体構造でありながら2タイプのバックドアを実現したのは確か世界初だったと思う。

もっとも2タイプといっていいのはメーカーと購入検討中の顧客だけ。
買うときに2種から選べるだけのことで、買った後は1種類・・・当時筆者が思ったのは、どうせなら同じクルマでありながら、そのときの気分で横にも上にも開けられるようなバックドアにするのが本当じゃないのということだった。
このときの筆者の感想は、先代ステップワゴンがモノにしてくれた(わくわくゲート)。

開口角90度のドアと横開きバックドアを示す上面視。
タテ開きのバックドアもメーカーオプションで用意された。
タテ開きのバックドアは当然カスタムでも選ぶことができた。

バックドアが上開きか横開きか。
これには一長一短あって、上開きは雨天下で雨除けになる代わり、車両後ろにスペースが要る。
横開きはその逆で、省スペースでもわずかに開ければ荷室に手が入る反面、雨やどりはできない相談・・・ひとつにまとめることはできなかったが、3代目ムーヴはその両方に応えたかったのだろう。

見た目品質の向上は室内にもおよび、計器盤も同じく樹脂パーツとパーツ間がピシッとし、収まりよくなっている。

3代目ムーヴ計器盤。各パーツの合わせ目がピッチリ詰められるようになった
3代目ムーヴ内装。

この頃のダイハツが熱心だったのは、機種は限られるものの、夜間の使用性向上だ。
そこいらの上級車だって手を抜いていることが多い、パワーウインドウや電動ミラー、カップホルダーを示すシンボルに夜間照明を設けたほか、高級車並みに前席や後席にパーソナルランプを設置・・・軽自動車を超える軽自動車になっていた。

カスタムの計器盤。両脇の空調吹出口下にあるカップホルダーのシンボルに夜間照明が与えられているのがわかるだろうか。
後席のパーソナルランプ。

4代目ムーヴ(2006年10月~)

この頃になるとどのメーカーもモデルチェンジ周期を4年から6年にシフトし始めていたが、ムーヴはなんとまあ3代目からまたまたきっかり4年でフルチェンジ。
正確には3代目が2002年10月15日、この4代目が2006年10月5日発表だから、4年を10日切っている。

3代目も2代目までと大きく変えたスタイリングだったが、その3代目ともまるで異なるスタイリングになった4代目である。
過去のボクシースタイルと訣別し、大げさにいえば初代エスティマにも似た、中にエンジンがあるとは思えないほど傾斜&コンパクトなフードとフロントガラスをつなげ、ワンモーションフォルムに大転身。
このデザインを実現するため、ライトまわりの取付構造を見直すなど、設計者はだいぶ苦労したようだ。

4代目ムーヴ(2006年)。
4代目ムーヴリヤ。

もちろん標準ムーヴとカスタムシリーズの2路線展開で、カスタムはおなじみ4灯ランプ。
そろそろカスタムもワルさから離れ、やさしいムーヴに対する精悍なカスタムと、初代~2代目時代のギラギラ感は薄れている。

4代目ムーヴカスタム。
4代目ムーヴカスタムリヤ。

カスタムRSにはクラス初、何と16インチのアルミホイールが装着されるように・・・もう軽自動車の域を超えちゃった!

軽自動車のくせに(!)16インチのアルミホイール。

インストルメントは、この代からセンターメーターに変わった。
海外は知らず、少なくとも日本ではなかなか定着しないセンターメーターだが、実際好き嫌いが分かれ、否定派はハンドルの前が真っ暗になるのがイヤだという。
センターメーター車をいったん買って後から「しまった!」と思っても取っ替えが効かないから、保守層が初めから敬遠するのはわかるが、筆者はセンターメーター賛成派。
ドライバーから遠方にあるぶん、運転視界からの目の移動量は意外と少なくて済むし、外を見るときと大きく変わらない焦点でメーター内容が把握できるから、老眼でなくたって見やすいのがメリット。
というより、そのようなメリットがあるからこそのセンターメーターなのだ。

センターメーターになった4代目ムーヴ計器盤。

内装の造りは引きつづき緻密で、インパネやドアトリムの合わせ目のキマリ様は相変わらずだ。

4代目ムーヴ内装。
4代目ムーヴカスタム計器盤。
4代目ムーヴカスタム内装。

それまで安全ボディにエアバッグ、ABSがついてさえいればよかった安全デバイスも、この頃には次のステージに入り、4代目では軽自動車初でプリクラッシュセーフティや車線逸脱警報を搭載。
ただし、カスタムRSの2WDへの、「インテリジェントドライビングアシストパック」としてのメーカーオプションにとどまっており、上級機種1車への対応というのが時代を感じさせる。
この時点で、いまではおなじみ「スマートアシスト」「スマアシ」のネーミングはまだない。

4代目では上級機種に限り、プリクラッシュセーフティがオプションで用意された。
前方監視カメラ。
レーザーレーダー。
安全デバイス関連ユニットの配置図。

5代めムーヴ(2010年12月~)

どうした、ダイハツ!?
モデルチェンジサイクルが多くは6年が定着したのに、またも4年でフルチェンジ!
カネ持ちになっていたのかなあ。

この頃になると、各メーカー、モデルチェンジしても目新しさが感じられず、新旧どっちがどっちなのか、わからないクルマが増えてきた。
筆者にはそれがこの頃のダイハツ車に顕著に感じられ、特にムーヴとタントが象徴的に映る。
これはあくまでも私自身の見解だが、ムーヴも4~6代目あたりの写真をシャッフルして歴史解説してもそのまま成り立ちそう・・・つまり、それだけどこのメーカーも、時間が経っても古く見えない、時の経過に耐えるデザインができるようになったのである。

で、5代めムーヴ。
別にモデルチェンジしなきゃならないほど4代目が陳腐化しているとは思えないのに5代めへ。

といってもスタイリングは、先代イメージを大きく受け継いだワンモーションフォルムである。
ムーヴシリーズは、フロントはランプの吊り目がより強調され、グリルはH型のメッキバーで飾られる。

5代めムーヴ(2010年)。
5代め計器盤。センターメーターが続投した。
ムーヴの内装。

いっぽうのカスタムは大開口のバンパーで迫力が増し、ムーヴよりもさらにメッキ面積を拡げたグリル処理で違いを見せる。
カスタムもこの頃になると仕上りがうまくなり、「これまでワル顔と呼んでいてすいませんでした」とお詫びしたくなるほどプレミアム感を持つようになっている。
ワルを敬遠したひとも、これなら思い直してカスタムを選んでみようか・・・そう思わせるスタイリングにまで成長したのである。

5代めムーヴカスタム。
5代めムーヴカスタムのリヤビュー。
ムーヴカスタムの計器盤。
ムーブカスタム内装。

5代めはスタイルばかりでなく、機能面でも地道な改良にひとつひとつ真面目に取り組んでいった印象がある。
フロントピラーは細くするにとどまらず、断面形状を工夫して前席乗員の目に触れる部分を極力減らして視界向上。
音の低減にも地道な努力があり、カーペット性能向上、ダッシュサイレンサー性能向上&カウル発音量低減など、枚挙にいとまがない。

断面積や断面係数を落とすことなく、運転視界のじゃまにならないよう、断面形状が工夫された。

この頃過熱気味だった低燃費競争はこの代のムーヴがトップを飾り、27.0km/Lが誇らしい。

6代目ムーヴ(2014年12月~)

結局ずっと4年サイクルでモデルチェンジを続け、いよいよつい先日まで売られていた6代目にシフト。
この6代目はムーヴ史上、異例なことに、2023年7月まで、いきなりこれまでの4年の倍以上となる9年弱もの間生産が続けられたことになる。

6代目ムーヴ(2014年)。
6代目ムーヴのリヤ。

モノフォルムに別れを告げたが、だからといって単に丸っこいとか角ばったといった単純な言葉で表せるようなものでもなく、軽自動車にありがちなペラペラ感とは無縁の、厚みの感じる面でできている。

ことカスタムのフロントフェイスは、軽自動車とは思えない、「プレミアムミニ」とでもいってあげたくなるような仕上がりで、軽自動車といえば「安っぽい」「がまん」が通り相場だった過去を忘れさせる。
その究極が、「ムーヴカスタム ハイパー」だ。

6代目ムーヴカスタム。
ムーブカスタムリヤ。
もう、軽のフラッグシップといってよさそうな、ムーヴカスタムハイパー。
ムーヴカスタムハイパーの後ろ姿。

ただ、軽市場も先々代、先代の頃よりさらにスーパーハイト化が進み、トール型の存在感はなお希薄になるように・・・そんな焦りへのプレミアム化だったのかも知れない。
実際、当時の資料が前面に押し出しているのは、もっぱらムーヴカスタムの方である。

中に目をやって計器盤は、5代めの後期からセンターメーターが廃止となってハンドル前配置に戻され、6代目もそのままハンドル前にレイアウト・・・やはりセンターメーターは受け入れられないのか。

ムーヴの計器盤。残念ながらセンターメーターは先代後期時点で廃止され、そのまま6代目に突入した。
ムーヴインテリア。
ムーヴカスタム計器盤。
ムーヴカスタム内装。

燃費は、ダイハツのe:Sテクノロジーにより、JC08モードで31.0km/Lを達成。

モデルチェンジ当初から「スマートアシスト」を謳ったのは6代目が初なのが意外な安全デバイスはさらに進化し、「後方誤発進抑制制御機能」は軽初だった。

6代目に搭載された後方誤発進抑制制御は、ムーヴ史上というよりも、軽自動車初のことだった。

ここまで初代と2代目に重きを置いて、過去6世代のムーヴを並べてみた。
6月5日に発売された新型7代めムーヴは、ムーヴ・キャンバスを母体にしてリヤドアがスライド式になった。
つまり、歴代ムーヴを並べたとき、6代目と新型7代目は大きく分断され、今後、新たな歴史を刻んでいくことを意味する。

シュリンク気味になったトール型がこの先どのように変化していくのか、7代めの売れ行きが決めていくことだろう。

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山口 尚志 近影

山口 尚志