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トヨタがレーシングカーを開発する理由

GRカートは、モータースポーツの裾野を拡げていくためのレーシングカートで、”最速・最強”を目指しているわけではない。そもそも大手自動車メーカーが、レーシングカートを開発するという例がないのに、なぜトヨタがこの分野に挑戦、トライしたかといえば、モータースポーツの未来を考えてのことだという。
トヨタは、将来のクルマ好きを増やしていくため、運転免許取得前の子どもたちに対しての”種まき”が必要だと考えた。日本のレーシングカートの競技人口は、1995年前後がピークで、現在はピークの半分程度だという。そういえば、筆者も90年代半ばはJAFのカートライセンスを持っていたし、友人たちと共同でカートを持っていて、週末のレジャーとして走行やレースを楽しんでいた。
競技人口の減少とともに、国産カートがなくなり(エンジンはヤマハが供給)、レーシングカートの価格は相対的に高くなってしまった(そして、私もカート場から足が遠のいた)。
現在、遊園地でレンタルカートを体験した子どもが「これは楽しい! カートをやりたい!」と思っても、まず初年度に250万円ほど(車両代/チューニング部品/消耗部品/タイヤ代など)かかり、2年目以降も年間100万円ほどかかるという。これでは気楽に始められない。裕福な家庭の子どもしかレーシングカートの世界に踏み込めない。モータースポーツの入門カテゴリーのレーシングカートの盛り上がらないと、その先のモータースポーツに入ってくる人が増えていかない。
トヨタは、モータースポーツを将来にわたって持続可能にするためにこのGRカートを開発しているのだ。
GRカートは現在開発中で、市販時期、展開方法などは未定だが、E-Motorsportと既存のカートレース(JAF、SLクラス)の間に位置づけたいようだ。
これはリアルなモータースポーツだ

富士24時間レースの週末土曜日に報道陣向けの試乗会が開催された。
既存のレーシングカートの1/4の価格を実現するために、さまざまな工夫が凝らされていた。フレームに使うパイプは、欧州の高級クロモリ製と違って安価な鋼管を使う。構造や溶接はトヨタ技術陣が開発したもの。

プロトタイプが搭載するエンジンは排気量215ccの空冷4ストロークのOHV。連続定格出力は5.0psだ。燃料はカーボンニュートラル燃料に対応していて、この試乗会で使っていたのもCN燃料だ。
手軽に手入れが可能なように、チェーンドライブではなくベルトドライブ。タンクは、カートをガレージ立てかけても燃料が漏れない構造になっている。もちろん、セルで一発始動だ。
数々の改善点
そういえば、90年代のレーシングカートは入門クラスでも2ストエンジンだったから、乗る前にまずガソリンとオイルを混合して燃料を作らなければならなかったし、始動は押し掛け。走行が終わったらチェーンをクリーナーで掃除してハイエースに積み込まなければならなかった。
GRカートは、そこにもカイゼンの手を入れている。


ノア/ヴォクシーにも載せられるようにしている。そのためのアタッチメントも開発中で、慣れればひとりでもカートの積み下ろしができる。
このGRカートを担当するトヨタ自動車 GR車両開発部 主査 伊東直昭氏(水素カローラの開発も担当)は、報道陣に対して「トヨタがカート事業に参入という捉え方はしてほしくない」と語った。あくまでも「カートに触れてモータースポーツを経験した子どもたちを将来のクルマ好き、自動車業界の人材に繋げていくため、だと強調していた。
安価なレーシングカートを供給しさえすれば、その想いが実現できる、とはおそらくトヨタも考えていないだろう。どんなシリーズを作り、どこでGRカートを購入・メインテナンスするのか、既存のカート場、カートショップとどう連携していくのか。そこにもきっと新しいアイデアがあるのだろう。非常に楽しみだ。



数周だが、GRカートを試乗させてもらった。まずはレンタルカートでコースを3周、そのあとGRカートに乗り換えた。コンセプト通り、ものすごく速いわけではない。が、体重の軽い子どもたちが乗ったらそれなりに速いだろうし、間違いなく「スポーツ」できるカートに上がっていた。
運動不足の大人が30分ドライブしたら、おそらく翌日には筋肉痛になると思う。子どもと一緒に親も楽しめる、GRカートにはそんな狙いもあるという。楽しみなプロジェクトが生まれる。注目だ。
