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ヨーロッパ車で一番人気だった空冷VWベースのCal Look
2025年5月11日(日)、お台場の青海駐車場にて『MOONEYES Street Car Nationals®』(以下、SCN)が行われた。日本最大規模のカスタムカーショーとして知られるこのイベントには、さまざまなジャンルや生産国のマシンが集まってくる。

その中でも1980~1990年代にかけて、アメリカ車と並ぶほどの人気を集めていたのが、フォルクスワーゲン(以下VW)タイプI(ビートル)に代表する空冷VWで、1987年3月に大井競馬場で開催された第1回SCNではエントリーの過半数以上をCal Look(キャルルック)の空冷VWが占めるほどだった。

Cal Lookとは、西海岸のチカーノ(メキシコ系)の若者から発祥した空冷VWのカスタム手法で、車体を黄色やオレンジ、ターコイズ、イエロー、ピンクなどの明るいカラーでリペイントを施し、ローダウンした足回りにEMPI製5本スポークまたは8本スポーク、BRM製スピードウェル、マーレ製ガスバーナーなどの社外ホイール、あるいはポルシェ911の純正アロイホイールを組み込み、バンパーやサイドトリムを交換または取り外し、メッキパーツを多用しつつ、スッキリしたルックスに仕上げるのが人気のスタイルだった。

しかし、カスタムスタイルが定番化したことと、一部の先鋭的なファンと一部の専門店が神学論争(メキシコ製ビートルオーナーに対するイジメや、新人オーナーのパーツ選びやカスタムに対する過干渉など)を繰り返したこと、さらに中古車価格の高騰も加わり新規ファンを遠ざけた。残ったオーナーも高齢化が進んで徐々に空冷VWは台数を減らしていった。

現在では往時のブームに比べるとエントリー台数は少なくなったが、世界的に見れば日本の空冷VWのカスタムカーはレベルが高く、現在でも一定の人気を保っている。また、中古車価格の高騰は空冷VWに限らず旧車全般の話であり、その中で車種や年式に細かい注文をつけなければタイプIなどは、探せばまだまだ安価な車両も見つけられる。

パーツは豊富で価格もリーズナブルだし、うるさがたのマニアもだいぶ少なくなっているので、そうしたところが再評価されれば、あるいは今後人気が復活するかもしれない。







SCNでフランス車のアワードは前代未聞? シトロエンBXがMOON ZOOMを受賞!
これまでヨーロッパ車のカスタムの中では一強だった空冷VWの人気の低下に伴って、2000年代から他のメーカー車も徐々に存在感を示してきた。その中でも今回もっとも注目を集めたのが、MOON ZOOMのアワードを受賞した1991年型シトロエンBXだった。長い歴史を誇るSCNの中でもフランス車がアワードを受賞したのは初めてのことではないだろうか?

番狂わせ感のあるBXの受賞だが、考えてみればシトロエンは工場出荷時の段階でハイドロニューマチック・サスペンションを標準で備えており、車高調整レバーを目一杯下げれば、グランドタッチとなる。マルチェロ・ガンディーニが手掛けたスタイリングは美しく、スムージングなど少しのボディメイクでCOOLなマシンに仕上がることは今回のアワードで証明された。

フランスで開催されるカスタムカーショーでは、彼の地のDOMESTICとして、ハイドロ・シトロエンをベースにしたLOW RIDER(ローライダー)やKUSTOM(いわゆるK-カスタム。ジョージ・バリスが提唱した概念で「独自のスタイルを自分らしく自由に表現したカスタムのこと」)が散見されるという。

もっとも、彼の地でもっとも多いDOMESTICで人気があるのは、国民車として長年フランスの大衆に親しまれた2CVをベースにしたHOTROD(BMW製オートバイの水平対向2気筒エンジンに換装し、ボディワークを施すことでCOOLなマシンに仕上げるのがメジャーなカスタムだという)のようだが、それでもハイドロ・シトロエンのカスタムカーもけっして珍しい存在ではないようだ。

翻ってみると、わが国では旧車高騰の煽りを受けて、アメリカン・カスタムと相性の良いシトロエンDSや2CVの中古車相場は、前者は500万円以上、後者は200万円以上と、ひと頃に比べてかなり高くなっている。しかし、決して手が出せない価格帯ではなく、ましてや1970~1990年代のCXやBX、XM、エグザンティアなどは、タマ数は激減したが探すと安価に購入できる車両もまだあるようだ。

問題があるとすれば整備に独自のノウハウが必要なことと、パーツの欠品がかなり進んでいることだが、それでも定番からのハズシとしてシトロエンのようなフランス車ベースのカスタムは可能性が大いにあるし、面白いと思う。フレンチ・カスタムは今後要注目である。

スタンス系あり、ノーマル車ありと、さまざまなヨーロッパ車がエントリー

自由で縛りの少ないSCNには、ほかにもさまざまなユーロカスタムがエントリーしていた。とくに2010年代からブームとなったスタンス系は、アメリカ車、ヨーロッパ車、日本車とベース車を選ばないこともあって、カスタムカルチャーの敷居をさらに引き下げた感がある。

実際、ブームの到来以前ではSCNの会場ではほとんど見かけることがなかったBMWが、今回スタンス系としてまとまった台数が参加していたことは注目に値するだろう。

また、SCNはイベントとしての間口の広さからほぼノーマルのヨーロッパ車の参加も数台あった。その中でも筆者が関心を寄せたのが、鮮やかなフレンチブルーでペイントされたルノー・サンクターボだ。

「『フレンチブルーミーティング』や『さいたまイタフラミーティング』の会場ならいざ知らず、なぜアメリカン・カスタムカルチャーの祭典に1980年代のラリーウェポンがエントリーしているのか?」という疑問は最後まで解消されることはなかったが、コンディションは新車のように良好で、何よりも普段なかなか見ることのできない希少なフレンチ・ミッドシップの姿に思わず見入ってしまった。

