「戦車が砲をぶっ放す」だけではない!? 今年の総合火力演習が示した、将来の戦い方とは

10式戦車による行進間射撃。なんと、この車両は遠く九州を拠点とする西部方面戦車隊の車両だ(写真/筆者)
先週日曜日8日に、国内最大規模の実弾演習である富士総合火力演習(総火演)が実施された。今年で67回目となる総火演、長く“定番”の演目が続いてきたが近年は年ごとに、さまざまな変化を見せている。今年の総火演は何が違ったのか?【自衛隊新戦力図鑑】
TEXT:綾部剛之(AYABE Takayuki)

「見せる」イベントに戻った総火演

モーターファンWebでは先週8日にも、速報的に初公開された新装備4両について紹介したが、今回は演習全体を見ていきたい。さて、昨年の総火演は「見せる」イベントから、実際の訓練に近い内容となり、現場の取材陣すら戸惑うほどだったが、今年は一転して丁寧な解説アナウンスに沿って進められる、従来型の総火演に戻った。

昨年の総火演は起倒式のポップアップ標的などが使われ、実際の訓練さながらの内容だったが、今年は以前からの総火演に戻り、見た目にも派手な内容となった印象。総火演は広報宣伝効果も大きいため、「見せる」内容に回帰したのかもしれない(写真/筆者)

しかし、その構成には大きな変化があった。演習全体を「前段」と「後段」に分けている点は同じだが、これまで後段で行なわれてきたシナリオ型式の展示が、前段から開始されるようになった。これまで前段で披露されてきた個々の装備品の射撃は、対戦車火器(対戦車ミサイルやロケット)と各種火砲・迫撃砲のみとなっている。

シナリオ型式の展示では、戦場の後方にいる火砲・迫撃砲の出番がない…ということもあるだろうが、今回はアナウンスにおいてウクライナ戦争に触れて「特科火力は火力戦闘の中心的存在であり、勝敗を決する決定的要素としてその重要性が高まっています」との解説がなさたことが印象的だった。実際、シナリオ型式の展示でも防御・反撃・攻撃の各場面で、火砲により敵を制圧する状況が描かれている。

会場に並んだ火砲・迫撃砲。ウクライナ戦争ではドローンのような目新しい兵器が注目されがちだが、死傷者の大半は火砲によるものであり、改めて火砲の重要性が確認された戦いでもある。また、下の映像は着弾地点のライブ動画だが、これは初めての試みではないだろうか?(どちらもYouTube配信動画より切り抜き)

ウクライナ戦争からの影響

203mm砲弾を転用したIEDとその起爆の様子。IEDはアフガニスタンやイラクの戦争においてテロリストがアメリカ軍を相手に使用したことで知られている。もともとが大口径火砲だけに、爆発の規模もかなりのものだった(写真左/富士教導団X、写真右/筆者)

後段では、敵上陸部隊と守備部隊が対峙しているなかで反撃部隊が上陸し、敵を撃破するところまで展示された。後段でも新たな要素が追加されている。塹壕への突入だ。こちらもウクライナ戦争の教訓に基づくもので「ウクライナ軍はロシアによる大砲やロケット攻撃に対して、塹壕を掘ることにより人的被害を最小限にとどめています。塹壕線が見直されつつあるとともに、敵の塹壕陣地に対応する必要が生起しています」とアナウンスされている。

塹壕のなかを進む隊員たち。塹壕というと古い戦い方のイメージがあるが、ウクライナ戦争で火砲が見直されるなかで同様にその重要性が再確認された。今年の総火演では、そうした戦争の様相の変化を盛り込んでいる(YouTube配信動画より切り抜き)

最終的に3個の戦車小隊が攻撃ヘリの掩護のもとで会場を前進するという、迫力ある戦果拡張のシーンで演習は終了となった。大筋の流れこそ、従来どおりではあるが、ウクライナ戦争の影響がところどころに感じられる点が印象的だった。先週の記事で紹介した新装備とあわせて、「これからどう戦っていくのか」を示した総火演となったのではないだろうか。

敵の機動打撃を撃破した陸上自衛隊は、予備戦力の戦車部隊も投入して、一気に勝負を決めた。多くの戦車や各種車両、そして攻撃ヘリなどがステージ前の広場を埋め尽くす、派手な攻撃前進で今年の総火演は幕を閉じた(写真/筆者)

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綾部 剛之

軍事関連をメインとした雑誌/書籍の編集者。専門は銃器や地上兵器。『自衛隊新戦力図鑑』編集長を務めて…