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新型フォレスターの開発を率いた只木克郎PGMに聞いてみた
新型フォレスターの販売が絶好調だ。4月3日から始まった先行予約では4月30日までに1万1466台を受注。この初月受注台数は歴代フォレスターの中で最多の台数であり、2代目・3代目レガシィに次ぐ実績だという。そして、5月末日までの累計受注台数は約1万5000台を達成。販売計画(月2400台)に対して、3倍以上という好ペースを刻んでいるわけだが、このスタートダッシュは期待どおりだったのだろうか。

「そうですね。実際に受注が始まる前から反響が届いていたので、期待はしていたのですが、受注台数はその期待を超えてくれた感じです」と笑顔を見せるのは、開発を率いた只木克郎プロジェクトゼネラルマネージャー(PGM)だ。

Q:新型のデザインが大きく変わったのはなぜ? その一方、サイズをほとんどキープした理由は?
新型フォレスターは6代目となる。先代(5代目)はキープコンセプトのデザインだったのに対して、今回はフロントフェイスを中心として、内外装のイメージが激変したのが印象的だ。そんな感想を只木GMにお伝えすると、「先代も、決してデザインを変えないようにしたわけではないんです。新しいフォレスターとしてリフレッシュしたつもりだったのですが、お客様がご覧になったとき『あまり変わり映えしないね』というご意見をいただいたのは事実です。そこで今回の新型フォレスターは、デザインから魅力を感じていただきたい、という思いがありました。やはり、デザインの力って強いんですよね。お客様が興味をもっていただく大きなきっかけのひとつなんです。先代のような変化幅では足りないだろうということで、デザインには力を入れました」
大きく変貌を遂げたデザインの一方で、サイズは先代からそれほど大きくなってはいない。先代が全長4640mm×全幅1815mmだったのに対して、新型は全長4655mm×全幅1830mmと、それぞれ15mmずつの拡大にとどまっている。
「このサイズはフォレスターの良さのひとつ。このカテゴリーにはさまざまな車種がありますが、その中でフォレスターは少しだけコンパクトなんです。その一方、室内の寸法は他銘柄と比べると同等か、ちょっと広い。これが現状ではベストパッケージだと思っていますし、お客様からもサイズに関しては変えて欲しいという要望は上がってきていなかったので、基本的な寸法は変えないという前提で開発を進めました」
ただ、フォレスターと言えばクロストレック、アウトバックと並んでアメリカでもスバルの屋台骨を支えている三本柱のひとつ。かつてレガシィがモデル途中からボディサイズを拡大していったのは、アメリカ市場からの声に応えるためだったわけだが…。
「そうですね、フォレスターもこれまでは少しずつボディを大きくしてきました。ただ、アメリカの場合も、このクラスのクルマは日常の足として使われるお客様が多いんです。日本における軽自動車の感覚でしょうか。オーナーも年配の女性の割合が多かったりします。そういった方々は、別に大きいクルマが欲しいわけではなくて、このパッケージで必要十分、とおっしゃるんです」
只木GMは、アメリカの研究開発拠点「スバル リサーチ アンド ディベロップメント インク」の駐在経験もある。約3年半ほどアメリカで生活を送り、彼の地でのクルマの使われ方や移動距離の感覚などを身をもって体験したことが、フォレスターの開発にも役立っているそうだ。
Q:ボンネットが高くなっても「視界の良さ」に影響はない?
サイズと同様、ユーザーから「変えてほしくない」と言う声が多かったのが「視界の良さ」だという。それは日本もアメリカも、どの地域でも共通する要望だという。
そこで気になったのは、新型フォレスターはSUVとしての力強さを表現するために、ボンネットフードを上げて厚みを出していること。運転席に座った際の前方視界という点では不利になるのでは…と危惧したのだが、新型では視界に関する考え方を見直したそうだ。
「新型ではポイントポイントで押さえるのではなく、もう少し広い範囲で押さえた方が実際にドライバーの感覚に近いという考え方を取り入れました。確かに真正面から見えるエリアは多少減ってはいるのですが、それを他のところで補いながら、他の目の前にある邪魔な要素をできるだけ取り除くことで、できるだけ意識が外に行くような視界の作り方をしています。
例えば、ワイパーは運転席からはほとんど見えなくなっていますし、ボンネットフードもすごくシンプルな形状としています。また、フロントドアには先代と同様に三角窓が付いていますが、その向こうにドアミラーの輪郭が見えると、それだけで気になってしまう。そうならないよう、三角窓から綺麗に背景が抜けて見えるようなドアミラーの形状としています」
Q:日本仕様のエンジンが「S:HEV」と「1.8Lターボ」なのはなぜ?
さて、新型フォレスターのトピックのひとつがストロングハイブリッドモデル(S:HEV)の追加だが、受注もS:HEVに集中している。4月の受注台数のうち、85%がS:HEVだったという。5月は1.8Lターボ車がやや盛り返したが、それでもS:HEVの比率は60%。4〜5月の累計でもS:HEVの割合は80%を占めている。
「正直なところ、最初は1.8LターボとS:HEVが半々くらいかな、と思っていました。もちろんS:HEVへの期待は感じてはいたのですが、その一方で、先代もモデル末期になればなるほど1.8Lターボがよく売れたんです。そんなこともあって、ターボならではの走りの楽しさが新型でもひとつの柱になると思っていました。ところが、蓋を開けてみるとこんな状態で…特に最初の4月はびっくりしました」
納車時期も1.8Lターボ(「SPORT」)が約3〜4ヵ月なのに対して、S:HEV(「Premiumと「X-BREAK」)は1年以上という状態だ。もちろん、スバルもこの状況に手をこまねいているわけではなく、S:HEVの増産体制を着々と整えているところだというが、とにもかくにも、それだけ多くのファンがフォレスターへのストロングハイブリッド搭載を心待ちにしていたということだろう。
今回、試乗会ではふたつのパワートレインを乗り比べることができたが、高回転での伸びの良い吹け上がりが気持ちいい1.8Lターボ、出足からとにかくスムーズで上質感が味わえるS:HEVと言った具合に、両者のキャラクターがはっきりと分かれていた。燃費性能はS:HEVに軍配が上がるのは間違いないが、走りの楽しさという点では、甲乙を付け難いというのが正直な感想だ。
ただ、海外に目をやると、アメリカには2.5L自然吸気エンジンもあるし、ヨーロッパでは先代の途中からラインナップに加わった2.0L+マイルドハイブリッドも存在するという。なぜ日本では、S:HEVと1.8Lターボの2本に絞ったのだろう? エントリーグレードとして、2.0L+マイルドハイブリッドを継続するというような選択肢はなかったのだろうか?
「今は発売直後で受注が好調ではあるのですが、そもそもフォレスターの日本市場のポテンシャルはだいたい2500〜3000台なんですね。そのくらいの台数となると、パワートレインはたくさん揃えられなくて、ふたつが精一杯なんです。そこで日本市場では、S:HEVと1.8Lターボがベストだと考えました。
S:HEVはクロストレックが初搭載にはなりましたが、フォレスターにも入れると決めてずっと開発していましたし、1.8Lターボはフォレスターの体格にちょうどいいバランスのエンジン。このふたつなら、お客様の選択肢の幅も広がるバリエーションになるというのが結論です」
「変えてほしくないもの」と「進化させるべきもの」。そのバランスを見極めながら、新型フォレスターは着実に期待を超える存在へと生まれ変わった。長年のファンにとっても、新たに出会う人にとっても、このクルマはきっと頼もしい相棒となってくれるはずだ。
