ベンツGLCの新グレード「Core」は“丁寧な引き算”で装備を厳選した新しい価値のかたち

2024年、メルセデス・ベンツで最も売れたのはGLCだった。輸入SUV市場でも首位を獲得し、その存在感は際立っている。そんなGLCに、装備を絞り込み価格を抑えた戦略グレード「Core」が新たに登場した。だが、乗ってみればわかる。このモデルに“安さの代償”は存在しない。

TEXT & PHOTO:世良耕太

売れてる輸入SUVに追加された新グレードとは?

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4725×1890×1640mm ホイールベース:2890mm

2024年に日本で最も売れたメルセデス・ベンツはミドルサイズSUVのGLCなのだそうだ。メルセデス・ベンツのなかで売れているだけでなく、外国メーカー車としても売れていて、国内での登録台数は第2位(日本自動車輸入組合のデータをもとにメルセデス・ベンツ日本調べ)、ミドルサイズSUVでは首位だそう。さらに言うと、2025年3月末時点で、メルセデス・ベンツは121ヵ月連続で純輸入車の登録台数首位を記録しており、GLCをはじめとするSUVモデルが好調を支えているという。2024年の年間販売台数に占めるSUVの割合は5割を超えている。

車重:1930kg 駆動方式:4WD

好調の波をさらに強化しようと、メルセデス・ベンツ日本はGLCのラインアップにテコ入れを行なった。エントリーモデル「Core(コア)」の追加である。GLCのコアバリュー(最も重要な価値)を維持しつつ装備をスリム化することで、戦略的な価格設定を実現したモデルだ。

Coreはベース仕様に対して57万円安い

ベースは2.0L直列4気筒ディーゼルエンジンを積む220dだ。9速ATを組み合わせる縦置きパワートレーンを搭載した4MATIC(メカ式4WD)であり、48Vマイルドハイブリッドシステムを組み合わせた仕様。ベースのGLC 220d 4MATIC(ISG)の車両本体価格は876万円、そのクーペ版は916万円なのに対し、GLC 220d 4MATIC Core(ISG)は819万円、クーペ版は866万円だ。Coreはベース仕様に対して57万円、クーペ版は50万円安い。

メルセデス・ベンツGLC220d 4MATIC Core

前述したようにGLCのコアバリューは維持しており、インフォテインメントシステムは最新。第3世代のMBUX(メルセデス・ベンツ・ユーザー・エクスペリエンス)となっており、12.3インチのコックピットディスプレイと11.9インチの縦型メディアディスプレイを搭載する。ナビゲーションシステムは、カメラで捉えた現実の映像に矢印などを重ねて表示するMBUX ARナビゲーションだ。また、「ハイ、メルセデス」の呼びかけで対話が始まる音声操作機能はJUST TALKに進化しており、呼びかけを行なわずに突然「音楽をかけて」のように話かけるだけで反応し、対話が始まるようになっている。

12.3インチのコックピットディスプレイと11.9インチの縦型メディアディスプレイを搭載

安全性については最上位モデルのSクラス譲りで、前走車との車間距離を自動で調整し、減速・加速を支援するディストロニックプラスや、衝突の危険を検知した場合に自動的にブレーキをかけるPRE-SAFEブレーキなどの機能をパッケージしたレーダーセーフティパッケージを標準装備。360度カメラシステムや、片側100万画素以上のプロジェクションモジュールを制御することが可能なデジタルライトを装備するなど、安全性に寄与する装備はそぎ落としていない。運転席だけでなく助手席もパワーシートだし、テールゲートは自動開閉機能付きだ。

テールゲートは自動開閉機能付き

装備の厳選によりコストを最適化

シート表皮はレザーARTICOと呼ぶ人工レザーだ。ベース仕様はレザーエクスクルーシブパッケージやAMGレザーエクスクルーシブパッケージを選択すると本革シートになるが、Coreでは設定をなくした。また、ボディカラーはホワイト、ブラック、シルバーの3色に絞った。オプションの選択肢はAMGラインパッケージとパノラミックスライディングルーフのみの設定。こうして仕様を絞り込むことによりコストを削減し、戦略的な価格設定を実現したというわけだ。

試乗車はオプションを何も装着していない、素のCoreだった。車両本体価格819万円の車両である。AMGラインパッケージ(75万9000円)を選択すると。20インチのAMGアルミホイールが装着されてスポーティさが際立つが(タイヤは前後255/45R20サイズ)、素のCoreは18インチアルミ(タイヤは前後235/60R18サイズ)である。2インチの違いは大きく、見た目はずいぶん大人しい。しかし、その大人しいルックスが逆にツウっぽく見える。Coreを選択したオーナーは、GLCのコアバリューを理解してスマートなクルマ選びをしている人に見える。そんな気がした。

車内を華やかに彩るアンビエントライト

インテリアは華やかさと落ち着きが同居している印象。華やかさをもたらしているのは鮮やかなグラフィックのメーター表示やディスプレイ、それにアンビエントライト。落ち着きのほうはブラックを基調としたトーンだ。人工レザーのARTICOは人工とは思えぬほど本革に似た質感で、安っぽさはまったく感じない。

コンパクトではなくミドルサイズのSUV(ボディサイズは全長4720×全幅1890×全高1640mm。ホイールベース2890mm)なので当然なのかもしれないが、後席の居住性は充分に確保されている。空調の吹き出し口はあるが、USBポートは見あたらない。荷室容量はたっぷり確保されている。

素のCoreが履く18インチアルミホイール(タイヤは前後235/60R18サイズ)

静粛性の高さとスムースな再始動に驚く

驚いたのは、静粛性の高さとアイドリングストップからの極めてスムースな再始動である。OM654系の2.0L直4ディーゼルは国内への導入が始まった2016年から断続的に触れているが、今回、GLC 220d 4MATIC Core(ISG)との組み合わせで走りを体感してみて、その熟成ぶりに感心した。燃焼制御と遮音・吸音の合わせ技なのだろうが、静粛性が増しており、エントリーモデルとはいえブレミアムなブランドにふさわしいノイズレベル(ボリュームの絶対値ではなく、聞こえ方として)に抑えている。

エンジンは、2.0L直列4気筒ディーゼルで、最高出力:145kW/3600rpm、最大トルク:440Nm/1800-2800rpm

最高出力は145kW/3600rpm、最大トルクは440Nm/1800-2800rpmを発生。2t弱の車両をストレスなく走らせるには充分なスペックだ。とくに、発進から巡航スピードに達するまでの力強さが頼もしく感じる。

車名に「ISG」と付いているのは、エンジンとトランスミッションの間にインテグレーテッド・スターター・ジェネレーター(ISG)を搭載しているという意味。このISGでエンジンの再始動を行なうのに加え、力行(エンジンの出力をアシスト)と減速時の回生(発電)を行なう。ISGの駆動は通常の電装品に用いる12Vではなく、専用の48Vバッテリーで行なう。

GLC 220d 4MATIC Core(ISG)の再始動はスムースさの点で際立っている。スターターモーターで行なう再始動はもちろんのこと、BSG(ベルト・スターター・ジェネレーター)で行なう再始動に比べても圧倒的にスムースで静かだ。いつエンジンが再始動したのかわからないほどである。エンジン回転計の針を見て「あれ? いつエンジンかかった?」と、短い試乗時間のなかで何度思ったことか。

GLC 220d 4MATIC Core(ISG)はGLCのエントリーモデルだからといって、一切手抜きはない。むしろ、GLCの真髄を味わうのにうってつけの1台といえる。

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…