流麗なスタイリングで一世風靡した日産「シルビア」、S13が走り屋から絶大な支持を受けたその魅力とは?【歴史に残るクルマと技術099】

日産S13「シルビア」
日産S13「シルビア」
日産自動車の歴代「シルビア」の中でも、最も高い人気を獲得したのは5代目(S13型)だ。ホンダ「アコード」やトヨタ「ソアラ」とともに当時流行った“デートカー”を代表するクルマであり、その流麗な美しいデザインとFRならではのダイナミックな走りは、今なお多くのファンを持つ。
TEXT:竹村 純(Jun TAKEMURA)/PHOTO:三栄・日産 新型シルビアのすべて、80年代日産車のすべて

5代目(S13型)誕生までの歴代シルビア

1960年代に入ると、いよいよ日本は純国産車ラッシュとなり、1966年は「サニー」と「カローラ」が登場して“マイカー元年“と呼ばれたように、一般市民にもクルマが普及し始めた。そのような中で、大衆車だけでなくスポーティなクルマへの需要も高まり、日産は高級クーペ「シルビア」を市場に投入した。

初代「シルビア」
1965年に誕生した初代「シルビア」。クリスプカットと呼ばれた流麗なボディが評判に

・初代シルビア(CSP311型/1965年~):走る宝石と称されたハンドメイドの華麗なフォルム
鋭角的に削ぎ落したクリスプカットと称するボディラインは、当時の国産車にはない美しさを放ったが、その美しいボディを成形するためにハンドメイドの部分が多く、価格が高額となったため販売台数は限定的だった。

2代目「シルビア」
1975年にデビューした2代目「シルビア」。アメ車風のスタイリングに変貌

・2代目(S10型/1975年~):人気のセリカの対抗馬として登場
曲線を多用した躍動感のあるアメ車風フォルムに変貌したが、コスト低減のため多くの部品が流用されため新鮮味に欠け、セリカの対抗馬にはならなかった。

3代目「シルビア」
1979年にデビューした3代目「シルビア」。四角4灯ライトで人気を獲得

・3代目(S110型/1979年~):角目4灯のシャープなスタイリングで人気を獲得
走りを重視したスペシャリティカーに相応しい直線基調のウエッジシェイプを採用。低いノーズと角目4灯のフロントマスク、傾斜したフロントウインドウ、リアのオペラウインドウが個性を放ち、人気を獲得した。

4代目「シルビア」
1983年にデビューした4代目「シルビア」

・4代目(S12型、1983年~):高性能化とハイテク化を追求
シルビア初のリトラクタブルヘッドライトを装備したウエッジシェイプとなり、クラス最強の190psを誇るターボモデルも追加されたが、ライバルが多い激戦区では期待したほど販売は振るわなかった。

絶品の美しさと走りで魅了した5代目S13シルビア

1988年5月に、シルビアは5代目(S13型)に生まれ変わった。注目はその美しいスタイリングだった。

日産S13「シルビア」
1988年にデビューした5代目(S13型)「シルビア」

“エレガント・ストリームライン”と称したボディラインは、従来の2ドアクーペにはなかったシンプルで張りのある面構成によって表現された。その秀逸なスタイリングは、日本のみならず世界でも高い評価を受け、1988年のグッドデザイン大賞を授与した。

日産S13「シルビア」
S13型シルビア(前期)に搭載されていたエンジン2種
日産S13「シルビア」
5代目(S13型)「シルビア」に搭載の1.8L直4 DOHCエンジン

パワートレインは、最大出力135ps/最大トルク16.2kgmを発揮する1.8L直4 DOHC(CA18型)、175ps/23.0kgmのインタークーラーターボの2種エンジンと、5速MTおよび4速ATの組み合わせ。駆動方式は、FFレイアウトが普及する中で、当時としては珍しいFRが踏襲された(その後、1991年のマイナーチェンジで2.0LのNAとターボのSR20型エンジンに移行した)。

日産S13「シルビア」
5代目(S13型)「シルビア」のコクピット

また、新世代FRに相応しいリアサスペンションとしてマルチ・リンクシステムを採用。さらにオプションだが、コーナリング中にステアリングの切れ角に応じて操舵する4WSのHICAS-IIも設定。高性能なエンジンによって実現される高いレベルの走行性能とシャープなハンドリング性能が、スポーツ派のユーザーを夢中にさせた。

日産S13「シルビア」
1988年にデビューした5代目(S13型)「シルビア」

シルビアは、女性が好むデートをお洒落に演出するデートカーの代表的なモデルとして、ライバルのホンダ「プレリュード」やトヨタ「ソアラ」を凌ぐ人気を獲得した。

日産S13「シルビア」
5代目(S13型)「シルビア」のリアビュー

それぞれ個性が異なるデートカー

シルビアは、トヨタ「ソアラ」とホンダ「プレリュード」とともに1980年代に流行したデートカーを代表するモデルだが、それぞれ異なる個性を発揮していた。以下に3台のデーカーの特徴を較べてみた。

日産S13「シルビア」
1988年にデビューした5代目(S13型)「シルビア」

■シルビア(1988年5月~)
シンプルながら流麗な玄人好みの秀逸なデザインととともに、FRらしい爽快な走りが特徴。人気のデートカーだったが、一方で走り自慢の若者が好んだことからややワイルドなイメージがあった。
・エンジン:1.8L直4 DOHC(135ps/16.2kgm)、1.8L直4 DOHCインタークーラーターボ(175ps/23.0kgm)
・価格:166.5万円、176.5万円、214万円(ターボ)

1987年にデビューしたホンダの3代目プレリュード
1987年にデビューしたホンダの3代目プレリュード

■3代目プレリュード(1987年4月~)
ワイド&ローのボディに流行のリトラクタブルヘッドライトを装備したお洒落感抜群のFFクーペ。スペック的にはやや劣るが、若い女性からは人気が高かった。まさにバブルが生んだデートカーの代名詞的なモデルである。
・エンジン:2.0L直4 DOHC(145ps/17.8kgm)、2.0L直4 SOHC CVデュアルキャブ(110ps/15.5kgm)
・価格:148.5万、165.0万円、182.0万円、214.5万円(Si)

1987年にデビューしたトヨタの2代目「ソアラ」
1987年にデビューしたトヨタの2代目「ソアラ」

■2代目ソアラ(1986年1月~)
高性能エンジンと時代を先取りしたデジタルメーターなどを装備した高級クーペ。3.0Lエンジンを搭載するなど車格としては他の2台よりワンランク上で、その分価格は高い。やや年齢層が高く金銭的に余裕がないと入手できないデートカーだった。
・エンジン:2.0L直6 DOHC(140ps/16.5kgm)、2.0L直6 DOHCインタークーラーターボ(185ps/24.5kgm)、3.0L直6 DOHCインタークーラーターボ(230ps/33.0kgm)
・価格:2.0GT 292.2万円、2.0GT-Turbo 320.6万円、3.0GT-LIMITED 447.9万円

発売終了後はデートカーから走り屋御用達のFRスポーツに

S13型シルビアは、1993年に6代目(S14型)にバトンタッチしたが、その後も人気は衰えることがなかった。5年間で約30万台が販売されたが、その後中古車市場でも大人気となり、走り自慢の若者がこぞって入手した。

S14型シルビアが登場したのは1993年
S14型シルビアが登場したのは1993年

特にトップグレードのターボモデルは、多彩なチューニングパーツが市場に出回ったこともあり、公道からサーキット走行、あるいはFRならではのドリフト走行を楽しむ走り屋から絶大な支持を得たのだ。

S13型シルビアは、お洒落なデートカーと走り屋から支持されるワイルドなFRスポーツカーという2つの顔を持つクルマだった。現在も日本のみならず海外でも人気が高く、次期シルビアを多くのファンが熱望し、復活の噂が飛び交っている。

5代目(S13型)シルビアが誕生した1988年は、どんな年

日産S13「シルビア」
1988年にデビューした5代目(S13型)「シルビア」

1988年には、S13型シルビアの他に、日産「シーマ」やホンダ「コンチェルト」、スズキ「エスクード」などが登場した。

日産「シーマ」
1988年に誕生した日産「シーマ」。シーマ現象を巻き起こして大ヒット
ホンダ「コンチェルト」
1988年にデビューしたホンダ「コンチェルト」。ローバー社と共同開発車
スズキ「エスクード」
1988年に誕生したコンパクトSUV、スズキ「エスクード」

シーマは、高級車ながら爆発的なヒットで“シーマ現象”という社会現象を生み出したハイソカーの代表車。コンチェルトは、当時ホンダと提携関係にあったローバー社と共同開発したセダンで、落ち着いた欧州風のスタイリングが特徴。エスクードは、本格4WDのオフローダーながら街乗りにも対応した現在人気のコンパクトSUVの先駆け的なモデルである。

日産S13「シルビア」
1988年にデビューした5代目(S13型)「シルビア」

この年のF1では、アイルトン・セナとアラン・プロストを擁するマクラーレン・ホンダが16戦中15勝を飾るという快挙を成し遂げた。

自動車以外では、青函トンネルと瀬戸大橋が開通、東京ドームが完成(日本初の屋根付き球場)、TVアニメ「それいけ!アンパンマン」の放送が始まった。また、ガソリン122円/L、ビール大瓶316円、コーヒー一杯308円、ラーメン422円、カレー560円、アンパン96円の時代だった。

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シンプルだが流麗な美しいスタイリングとFRならでは豪快かつ楽しい走りを実現した5代目「シルビア(S13型)」。美しさと走りを両立させたスタイリッシュクーペ、日本の歴史に残るクルマであることに、間違いない。

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著者プロフィール

竹村 純 近影

竹村 純

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までを…