フォード・シエラ&エスコートにポルシェ911やBMW M3が走る『ラリー・コスタ・ブラーヴァ』は往年の名車が勢揃い!

世代は異なるラリー車が一堂に会することも『FIAヨーロピアンヒストリックラリーチャンピオンシップ』の魅力のひとつ。
現代のラリーに参戦する車種はホモロゲーションの関係もあり、かなり限られた車種となっているのが現状だ。しかし、かつては様々なメーカー、車種が参戦していて『FIAヨーロピアンヒストリックラリーチャンピオンシップ』、略して『FIA EHRC』にはそんな古き良き時代の様々な車種が参戦している。前回、前々回とフランス車と日本車を紹介したのだけど、今回はそれ以外のドイツやイタリア、イギリスなどの車種を紹介したい。
クラシックラリーのシリーズ戦『FIA EHRC』の2025年第1戦『ラリー・コスタ・ブラーヴァ』には往年のラリーシーンを彩った名車がズラリと並ぶ。

ヒストリックイベントの定番!ポルシェ911ではラリーでも活躍

ポルシェ911はラリーに限らずヨーロッパのヒストリックイベントでは必ず目にする車種。スペインで開催されたEHRC開幕戦『Rally Costa Brava(ラリー・コスタ・ブラーヴァ)』にも様々な911がエントリーしていた。その多くは911 SCだけど、中にはRSRなどの競技に特化した車種も参戦。

ル・マンウィナーもあるロマン・デュマ。フランス人ドライバーはレースとラリーの二刀流が多い。

ポルシェ使いとしてレースはもちろんダカールやヒルクライムでも活躍するロマン・デュマはマシュー・タイラン組んでカレラRS3.0で参戦。クラスは違うものの、空冷ポルシェでラトバラ/フッシ組のグループAセリカGT-FOUR(ST185型)と好勝負を見せ、ギャラリーはもちろん関係者も驚かせていた。

総合2位となったロマン・デュマ/シュー・タイロン組のポルシェ911。

数少ないグループA時代のFR優勝車・BMW M3とフォード・シエラ・コスワース

雨上がりの峠をサイドウェイで駆け上がるE30 M3。

最近のヒストリックラリーの世界でシェアを増やしているのはE30型BMW M3だろう。『ラリー・コスタ・ブラーヴァ』には大挙としてエントリーしていて、存在感を示していた。

BASTOSやFINAカラーのBMW M3。現役当時のカラーを忠実に再現することもEHRCの特徴。
E30 M3のサービスの様子。ウマの掛け方が特徴的。

現役時代には既に不利とされていた後輪駆動でありながら、ターマックラリーでは軽量さを活かし4WDターボ勢に肉薄することもあり、1987年のWRC第5戦『ツール・ド・コルス』でロスマンズカラーのE30型M3を駆るベルナール・ベガン/ジャン・ジャック・レネ組がランチア・デルタを退けて総合優勝したことは有名な話だ。

1987年WRC第5戦で優勝したベルナール・ベガン/ジャン・ジャック・レネ組のBMW M3。マシンの開発とチームの運営はプロドライブによるもの。(PHOTO:PRODRIVE)

ベルナール・ベガンはこの後1989年までE30 M3で主にフランス選手権を中心に活躍し、1990年からはフォード・シエラRSコスワースで参戦を開始。

1980~1990年代に活躍したFRマシン、フォード・シエラRSコスワース。

BASTOSカラーを纏ったシエラは1991年から3年連続でフランスチャンピオンを獲得することになる。『ラリー・コスタ・ブラーヴァ』でもFINAやBASTOSカラーのシエラが参戦していて、ギャラリーの注目を浴びていた。

当時多くの車種を彩ったFINAカラー。FINAはベルギーのオイルメーカーだ。写真はフォード・シエラRSコスワースの4WDマシン、シエラRSコスワース4×4。
日本ではあまり馴染みがないけれど、この時代を代表するBASTOSカラーを模したフォード・シエラRSコスワース4×4。BASTOSはスペインのタバコブランド。
サービスカーもフルカラーリングで雰囲気を盛り上げる。

ラリーといえば歴代フォード・エスコート

ヒストリックラリーの常連といえば歴代のフォード・エスコート。数は減った印象があるものの、まだまだ一大勢力と言える。

少なくなったとはいえまだまだ多く見られるフォード・エスコートMk.I。
古い街並みを背景にリエゾンを移動するフォード・エスコートMk.II。

EHRCに参戦可能になったグループAやグループNのエスコートRSコスワースも少ないながら参戦。特徴的なサイド出しエキゾーストから派手に火を吹くシーンにギャラリーも大喝采だ。

スペイン+エスコートRSコスワースといえばレプソルカラー。

エスコートに限らず、1980~1990年代のグループAやグループN車両は今後さらに増えてくることが予想されるので、さながら1990年代のWRCのような光景が見られるかもしれない。

地元スペインの英雄カルロス・サインツのエスコートを再現。

グループAラリーカーといえばやはりランチア・デルタ

ランチア・デルタ・インテグラーレも1980~1990年代を代表する車種だ。マルティニカラーのデルタはギャラリーからの人気も抜群で、どこに行っても常に人だかりができていた。

オリオール車を再現したランチア・デルタ。クルーもマルティニレーシングのスーツに身を包む。

アバルトとの関係も深いミラノレーシングから参戦したデルタは、どこからどう見ても当時のグループAワークスカーの佇まいで、ランチアのお膝元であるトリノナンバーを付けた1台はギャラリーからも注目の的だった。

ヒストリックだけでなく、様々なラリーに参戦するミラノレーシング。
マルティニカラーのデルタにトリノナンバーは完璧なレプリカ。

イタリア国内のヒストリックラリーにも積極的に参戦している”ラッキー”/ファブリツィア・ポンス組は真っ黒のデルタ16Vで参戦。ラッキーことルイージ・バティストッリ選手は若かりし頃はフェラーリ308やインプレッサWRCで主にイタリアのグラベル選手権を主戦場にしてきた大ベテランだ。

大ベテランのラッキー/ファブリツィア・ポンス組は今回も完走を果たした。

長年コンビを組むコドライバーのファブリツィア・ポンス選手も言わずと知れた大ベテラン。ミシェル・ムートンとのコンビはあまりにも有名で、その後もアリ・バタネンやピエロ・リアッティとのコンビでWRCで大活躍した選手だ。このコンビの特徴は完走率の高さ。それでいて年齢を感じさせない速さも見せ、常に驚かされる。

ランチア・デルタにO.Zラリーレーシングのホイールは筆者世代にはグサグサ刺さる組み合わせ。

オペルやセアト……日本ではあまり知られていないマシンも多数エントリー

日本ではまずお目にかかれない車種が多く参戦しているのも欧州のヒストリックラリーの特徴。オペル・カデットのラリー車自体は珍しいものではないのだけど、カデットのキットカーは筆者も初めて撮影した。

珍車とも言えるオペル・カデットのキットカー。

オペルからは他にもコルサAとも呼ばれる初代コルサGSiやアスコナ、マンタなど往年のラリー車が参戦。ステランティスグループの一員となったオペル。最近ではコルサRally4で各国の国内選手権に参戦中だ。

欧州のラリーでもすっかり見なくなったオペル・コルサGSi。
日本ではニュルブルクリンク24時間レースの印象が強いオペル・マンタ。ラリーではグループ4末期からグループB初期に活躍した。

かつてはWRCにワークス参戦していた地元スペインのセアトからは、見た目も中身もフィアット・パンダと同じマルベーラが参戦。レギュラリティクラスにはイビーザや124の姿も。

フィアット・パンダのセアト版マルベーラ。
セアトはかつてのF2キットカー時代にイビーザキットカーで参戦。こちらはベース車のイビーザ。
フィアット124と共通のセアト124。

モンテカルロ・ヒストリークなどのイベントにも積極的に参戦するセアト。このラリーでも存在感を見せ、セアト初の生産車であるセアト1400をはじめ、貴重なヒストリックマシンを参戦させていた。

往年の選手が当時のマシンでエントリーしているのはオールドファンには感涙モノ

レースカーはよく知られているけれど、実はグループBラリー車両も存在したBMW M1。

開催国やイベントによって特徴的な車種構成となることが多いヒストリックラリー。最近のEHRCは1980~1990年代のいわゆるヤングタイマー世代の車種が多くなってきた。世界的なヤングタイマー人気の影響もあるだろうけど、選手たちの過去の戦歴を遡るとそれらヤングタイマー世代の車種が現役時代にラリーに参戦していたことに気がついた。

意外と少なかったアウディ。こちらはグループB車両のアウディ・クワトロA2。

選手も車も一線からは退いたものの、かつての愛機で再びラリーに参戦するという素敵なストーリーが見えてきて、このシリーズの新たな魅力に気づいた思いだった。

タルボ・サンビーム・ロータスは1981年にWRCマニュファクチャラーチャンピオンを獲得している。
レギュラリティ部門にはアウトビアンキA112アバルトのような小型車が多く見られる。
当時のグループ2で活躍したフィアット127。
クラシック・ミニの台数が少なかったのは意外だった。

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著者プロフィール

山本佳吾 近影

山本佳吾

1975年大阪生まれの撮り鉄で阪神ファン。格安航空券を見つけては海外のラリー取材に出かける生活。好物はW…