アメリカ市場での成功例を国内ビジネスに持ち込んで
なぜマツダがいま国内ビジネスの説明会をと唐突に思ったが、出席したら今回の発表は、日本市場で販売20万台の早期実現をめざす決意表明であった。
特に業績不振が叫ばれているわけでもなく、会社の規模なりの台数をきちんと売ってのけていると思っていたマツダだったが、マツダの説明によると、2008年以降は、2015年の6.1%をピークに、国内シェアは落ち込んでいたという。
マツダ提供の次のグラフを見ると、2008年以降、既存客、業者販売・法人のパーセンテージは維持しているものの、新規顧客の取り込みは2015年の47%をピークとして、以降2024年に至るまで、おおかた大き目の落ち込み幅で低下していたことがわかる(そうはいっても、既存客や法人の落ち込みは維持あるいは増加させている。これはこれで大したものだと思う)。

従来マツダは2011年あたりまで、シェアを意識するあまり、値引きしてでも、1台でも多く売るスタンスでいたが、その結果、「マツダ=値引き」のイメージが浸透してしまい、マツダ車の残価落ち込みおよび顧客のマツダ車の資産価値を棄損する事態を招いたしまったという反省があり、ブランド価値と高い商品力で勝負する方針に切り替えている。
その第1弾が2012年の初代CX-5で、他社がハイブリッド頼みにし始めていた中で、スカイアクティブに代表されるパワートレーン技術で、唯一ディーゼルも含めたレシプロエンジンのコンセプト一新でマツダの技術力をアピールした。それまでのマツダ車から脱却するデザインも、マツダアピールに貢献したと思う。


このとき意識したのは、商品も去ることながら、営業領域(販社店舗)との結びつきで、この両輪で動いたことが販売台数を導いた。

筆者は、マツダ車は会社の規模なりの売り方ができていると思っていたし、それがいまにも至っていると思っていたのだが、マツダの認識は、その成長も2018年あたりまでで、途中コロナ禍があったにしても、当のマツダには現状が不満というか、成長には至っていないという認識があったらしい。
2019年以降を「ビジネス停滞期」と定め、「店舗への投資」「顧客対応の強化で代替率向上」といった要素で進展は見られたものの、「地域戦略の欠如」「新規顧客へのアプローチ」「店舗へのブランド浸透を図る取り組み不足」が要因でビジネス成長には至っていないと考えていたのだ。

そんなこんなの経緯から心機一転、マツダは国内市場の再構築を考えた。
つまりは仕切り直しである。
それが今回発表された「国内ビジネス構造改革」だ。
このブランド価値経営をめざす変革を、マツダはすでに2016年から北米市場で取り組んでいる。
「店舗再編」「ブランド強化」を軸に進めてきたところ、それまで30万台ほどだった販売台数が2019年あたりから効果が出始めて40万6000台ほどにまで向上し、以降、多少上がり下がりしながら2024年には59万8000台にまで上がっている。

アメリカでの成功例を日本市場にも導入しながら、「ブランド育成に向けた成長投資」「優先地域の特定」「徹底した現場支援」を念頭に入れたビジネスを行なっていくのだ。
具体的に行なうのは次の4点。
1.販売網再構築
2.マツダブランドにフォーカスしたマーケティング投資
3.店舗へのブランド価値浸透の仕組み/体制整備
4.バックヤード機能効率化を担う新会社設立
である。
1.販売網再構築
さきにアメリカでの好事例を書いたが、もうちょい踏み込んで書くと、これはマツダのブランド価値を理解してくれる顧客の多い北米のエリアを39に絞り、この39エリアに置いた重点店舗300店で店舗当たり年間1000台売り上げたというものだった。


同じやり方を日本ででもというわけだが、その区分けの基準がちと情けない。
といっても、情けないのはマツダじゃなく、日本政府。
長年に渡って少子化政策を怠ってきた日本政府の無策の結果だ。
すなわち、アメリカではマツダブランドの理解度でエリア分けしたが、日本では人口の多い少ないで区分けするというのだ。
クルマ需要は都市圏で安定需要が見込まれるいっぽう、その他地域は人口減少が想定され、2極化が進むと予測されているからだ(国立社会保障・人口問題研究所)。

というわけで、マツダは今後、都市圏での販売網再編に集中し、新世代店舗の構築に投資するという。
すなわち人口が多いと目され、需要が見込まれる地域・・・東名大福(東京、名古屋(愛知)、大阪、福岡)を中心に、北海道や静岡、兵庫、千葉、神奈川、兵庫に重点店舗を置くエリアに定めて重点店舗を300店設置し、店舗当たりの販売はアメリカでは年間1000台だったが、日本では400台をめざしていく。
だからといって、その他の県からマツダ販社が1軒もなくなるというわけではなく、店舗数減少や統合はあるにしても、マツダ車を買うのに、あるいは点検に出すのに県境を越えるということにはならないという。


2.マツダブランドにフォーカスしたマーケティング投資
マツダはここでもアメリカの事例を採り入れる。
マツダはブランド浸透として、個別商品の機能や技術の優位性のPRを卒業し、2018年から2024年まで“Feel Alive”ブランドキャンペーンを、2024年からは“Move and be Moved”ブランドキャンペーンを打ち出し、マツダブランドそのものを周知する手法を採り、成果を得られたという。

この様式を日本国内でも採り入れ、既存顧客やマツダファンのみならず、マツダのブランド価値を受け入れてくれそうな日本の潜在顧客にアピールすることにも投資する。
2025年の予定も決まっているそうで、上期はSUV意向層向けコミュニケーションの強化、下期は新たなブランドキャンペーンを開始するそうな。
上期は7月からSUVシリーズマーケティングキャンペーン「技術って、愛だ。」を、先だって6月13日の新聞広告を展開。マツダSUVの充実したラインナップを知ってもらおうという目論見だ。

もうひとつ、筆者は知らなかったことの不勉強を恥じるべきだが、マツダ車購入予備軍へのブランドアピールの一環として、マツダは今年2025年2月、東京・青山に、ブランド発信拠点「MAZDA TRANS AOYAMA」をオープンしている。
月平均で1万0700人が来場、マツダユーザーが46%、それ以外が54%。性別では女性のほうが男性の43%より多い57%である点が印象に残る。
来場数は、当初7500人想定だったというから、「MAZDA TRANS AOYAMA」設置の成果は大きいと見るべきだろう。


3.店舗へのブランド価値浸透の仕組み/体制整備
3つ目は、顧客に満足してもらうための店舗への投資だ。
店舗業務はセールス(販売)とサービス(整備)に2分されるが、それぞれについて、「マツダらしいブランド体験」のあり方を「ブランドスタンダード」として明確に定め、平素の店舗業務に落とし込む。

ただ落とし込むだけでなく、この定めを確実に店舗に浸透させるため、教育・認定制度をも刷新し、マツダが広島にあっても現場とともに実践を支援する体制を整えていくのだ。
新たな教育体系である「ブランドアカデミー」、店舗での実践を支援する「スーパーバイザー制度」・・・ほかに「評価・称賛制度」もある。

4.バックヤード機能効率化を担う新会社設立
この「新会社設立」というところが、マツダの国内ビジネスの仕切り直しが本気であることをうかがわせる。
「バックヤード・backyard」は英語だが、辞書によると「店舗での、売り場の裏側」「倉庫や事務室など」の意味があり、このふたつは日本での用法だ。本来の英語での意味は「裏庭」だ。
自動車メーカーが顧客にクルマを売っているわけではない。売るのは店舗だ。メーカー本社にあるのは店舗とつながりのある営業部門だ。
クルマが顧客の手に渡るまでの、本社の営業部門、販社本部をはさんで各店舗までのうち、販社本部と店舗の管理サポート業務を、今年4月に新設、稼動済みの「マツダビジネスパートナー社」に集約。この効率化により、販売現場がカスタマーケアに集中できる環境を作る。
また、マツダグループ全体の固定費削減にも叶うという。

これら4つの施策による変革は、2027年までに完了する構えだ。
冒頭で、国内ビジネス増強の説明をなぜいま唐突にと書いたが、同じ思いをした人が他にもいたようで、質疑応答で「なぜこのタイミングで」と問う他メディアの方がいた。
筆者だって答えは予想ずみだったのだが、やはりトランプ政権の関税問題が背景にあるようだ。
そもそもマツダは日本メーカーの中で現地生産率が低いほうで、海外販売車の多くは日本からの輸出に依存している。
となると、今回のトランプ関税の影響をもろにかぶり、その打撃は他社にも増して大きい。
そこであらためて国内ビジネスの成長が急務と判断して今回の説明会に至ったらしい。
マツダに限らないが、いままで海外を大きく睨んだサイズのクルマを日本でも売っていながら、あっち(海外)が危ないとなったら急にこっち(日本)を大事にしだすというのはずいぶん勝手じゃないのと、文句のひとつもいいたくなるが、ならばこれを機に、もう少し日本の道路事情に適したサイズのクルマを適正な値段で売ってもらいたいと思った。
30年前のマツダユーザーがいまのマツダユーザーの中にどれほどいるか未知数だが、せめて、かつてファミリアやカペラを使っていたユーザーに向けてのクルマは、5ナンバーサイズでもういちど提供できないものか。
30年前から5ナンバーいっぱいだったルーチェや、3ナンバー域に踏み込んだセンティアを使っていたひとが、車幅1800mm近辺のクルマを使うのは抵抗ないと思う。
だが、ファミリアやカペラに乗ってひとには、その末裔であるマツダ3の1795mm、マツダ6の1840mmは手に余るのではないか(マツダ6はもう終了しているが)。
いまのマツダ車で幅が1700mm未満のクルマなんてマツダ2くらいのもので、最もエントリーなSUVのCX-3ですら1765mmあるのだ。
たかだか50mm、100mmだが、1700mmを基準に造られた幅の道を1700mm超えのクルマで走るドライバーの心理的な違いは決して小さくない。
そもそもクルマの運転がうまいドライバーばかりじゃないのだ。
整備の行き届いた幹線路からちょい外れれば、相変わらず幅狭な道は都市にも地方にもまだまだいっぱいあるし、車庫だってクルマを買い替えるたび工事して拡げるわけにはいかない。
ふたたび日本市場を大事にしようというなら、実際の使われ方をもういちど見直したクルマ造りをすることでシェア拡大につなげてほしいと思う。
たまたま買った中古のアクセラを機にマツダファンになり、その続きでいま中古のプレマシーに乗っている友人がいる。
次も同じようなタイプの3列シート車を考えているらしいのだが、この前、「新しいフリードはどうかな?」なんて聞いてきた。
たぶんいまのプレマシーから乗り換えるにふさわしい、適切な車両サイズの3列シート車が現状のマツダラインアップにないからフリードに目が行っているのだろう。
彼の家の車庫は狭くはないが、それでもフル5ナンバーサイズがいいところ。
その車庫に行くまでの道がめっぽうせまい。住宅が密集しているのだ。
そんな場所、都内にも地方にもいっぱいある。
あなたのお住いの地域はどうですか?
所得は増えず、物価は上がるばかり。
少子化でひとの数が少なくなれば需要も減り、需要と供給のバランスでおおかた決まるクルマの値段は高くなるいっぽうだ。
そのような中、顧客が財布のひもを緩める決め手は、求めるクルマのサイズが適正か、使いやすいスタイルであるか、払うお金に見合った価値があるかどうかだ。
このような時代であるにもかかわらず、安くないクルマを買ってくれるんだもの、日本の客のためを思うクルマの造り方、売り方であってほしい。